先っちょだけ、先っちょだけだから
12章始まります。
初体験。
なにをするにしても初体験とは緊張するものである。
ナニをするにしても。
アイレド森林警備隊駐屯地、アイナの部屋。
「お、おい……や、優しくやれよ?」
「ん? 優しく入れろってこと?」
「そ、そ、そうだな。やっぱちょっと怖いし」
「でもまあ、初めてじゃないんだし」
「は、初めてみたいなもんなの!
一回目はなにがなんだかわかんない感じだったし……」
「う~ん。
とにかくやってみようよ。
先っちょだけ。ね?」
「さ、先っちょだけって……」
「正直、上手く入らない気がしてるんだよね。
俺も、初めての時は無我夢中だったけど、今は状況も違うし。
でも……頑張るよ、上手く出来るように頑張るから。
ね? ね?」
インベントは興奮を抑えきれず、グイグイと迫る。
アイナは観念し、髪を整え――
深呼吸し、呼吸も整える。
「ハア~~、わ、わかったわかった。
なにごともやってみないとな。
あ、目は瞑ったほうがいい?」
「そうだね」
「よ、よお~し、どーんとこい」
目を瞑るアイナ。
ちょこんとベッドに座っている。
鼻息荒くインベントはアイナに近寄る。
そして――
「――いくよ?」
アイナの肩に手をかけたインベント。
アイナは息を飲んで頷いた。
ゆっくりと――入っていく。
ゆっくりと、違和感が無いか確かめるように時間をかけて。
「――――ん、んん」
入っていく。
アイナ――――が入っていく。
アイナの頭の先っちょ――頭頂部が入り、額、眉と通過していく。
だが、アイナがブルブルと震えだす。
両手両足をジタバタさせて――
「や、やばいやばい!! 無理無理無理!!」
急いで引き抜いたアイナ。
アイナは鼻息荒くベッドを転げ回る。
「だ、大丈夫?
痛かった?」
「い、痛かねえ!
でも、ダイジョブじゃねえ! スマン! 無理かもしれん!!」
「ええ!? 諦めるの早いよ!! 頑張ろうよ!」
「だ、だって、すげえ気持ち悪い。
なんだこれ……アタシはこんな中にずっと入っていたのか?
オエエ~、思い出すだけでキモチワル~」
「気持ち……悪いの?」
「やっべえよ。マ~ジで気持ち悪い。
収納空間の中って、なんていうかな……全部がなんていうか止まってる感じなんだよ」
「う~ん。それはそうだろうね。
入れたモノは形も温度も全部変わらないし」
「それがマジで気持ち悪い。
収納空間に入ってない部分は……なんていうか血が通っている感じ。そりゃ当然か。
生きてるって感じなんだ。
だっけど、収納空間に入っちまった部分は時が凍りついたみたいなんだ。
その差が……生と死の分かれ目みたいな感じというか。
こりゃ〜キツイぜ…………」
唸るインベント。
「でもさあ……オセラシアの時はちゃんと入ってたじゃない」
「あのなあ〜、あん時とは全然違うだろうに!
アタシは死にかけで気を失っていたし、無理やり収納空間に押し込まれたんだろ!?
い、今は入っていく感覚がキモくて……怖い」
震えるアイナ。
インベントはポンと手を打った。
「だったら一気に入れちゃえばいいんじゃない?
うん、それがいいよ」
「ば、バカバカ! 早まるな!」
「ダイジョブダイジョブ。
案外強引にヤっちゃえば上手くいくって」
拒むアイナ。
だがインベントは迫ってくる。
もう我慢できないのだ。
ヤりたくてヤりたくて震える。
目がイってしまっている。
「ハァ、ハハァ、先っちょと言わず、ズブっと全部さ、入っちゃおうよ。
ねえ? いいでしょお」
「ちょ、ちょっと待て待て! 落ち着けー!」
強引なインベントに対しジタバタ抗うアイナ。
大の大人が、子犬がじゃれ合うように。
つまり――非常に騒々しい。
「ちょっとー! アイナさ~ん!?」
ドアが乱暴にノックされる。
アイナは、盛大に驚く。
小さい声で「や、やっばあ、レナだ」と慌てふためくアイナ。
インベントも「誰?」と尋ねる。
「と、隣の部屋の子だよ」
そう言ってベッドから飛び出し、ドアに向かう。
そ~っと少しだけドアを開けるアイナ。
「お、おう~レナ~」
「も~アイナさん、うるさいですよ~?
なにしてるんですか?」
「い、いやなに、そのお……ちょっとばっかし部屋の……そう部屋の模様替えだよ」
「模様替え? 駐屯地の部屋なのにですか?」
駐屯地の部屋は、森林警備隊から提供されている部屋。
必要最低限の手狭な部屋。
どこを模様替えするというのだろうか?
「あ……いやまあ……そのう……ちょっとだけな」
当然、訝しむレナ。
少しだけ開いたドアから中を覗き込む。
だがアイナは「な、なんもないぞ~」と頑なにドアを開けようとはしない。
これ以上開けば、インベントが見つかってしまうからだ。
「ふ~ん……ん~~?」
開かないドア。
そしてアイナの着用している服は乱れている。
誰かが中にいることは容易く想像できる。
そしてその誰かが男性であることも、想像できるわけだ。
「あ~、そういうことですね~、なるほどお~」
ニヤニヤするレナ。
「な、なんだよ」
「いや~アイナさんって硬派っぽいと思ってたんですけどね~、へえ~。
別に咎めたりしませんけどお~。
やるなら静かにしたほうがいいですよ~。アイナさん」
アイナは察し「ち、違う違う」と慌てるが、信じてもらえるわけも無く――
「ふふ~お幸せに」
そう言ってレナは去った。
完全に勘違いされてしまったアイナ。
――いや男を連れ込んでいるのは間違いないのだが。
怒りの矛先は――
「うおい! 勘違いされちまったじゃねえかあ!」
インベントに迫るアイナ。
インベントは無表情。更に目も合わせない。
「なんとか言えー! アンタが強引に迫ってくるからこんなことにい!」
いまだに微動だにしないインベント。
「おいおい! スカしてんじゃねえぞ! バカベント!
アンタのせいでアタシのクールなイメージが台無しでい!
ったく、モンブレ絡みになるとやる気満々に――――ん?」
インベントが人差し指を突き立てて、自らの唇に当てる。
(ア、アン? し、静かにしろってか?)
インベントは人差し指で壁を指す。
続けて「さっきの人、聞き耳立ててる」と囁いた。
アイナは壁を見る。どう見ても壁がそこにある。
当然レナは見ることはできない。
がーー
「……あ~、『幽結界』か」
インベントは頷く。
壁とインベントの距離は三メートル弱。
『幽結界』の有効範囲に入っていた。
「……ハア。
四メートルってのはなんとも微妙な距離だな。
八メートルぐらいあれば……それはそれで落ち着かないか。
まあいいけどさあ〜。
はぁーあ、さーて、どーする? やっぱり続けーー」
大きく頷くインベント。
「そうだよなぁ〜、まったくかったる〜い。
しゃーねーな。これからはめんどうだけど、駐屯地の外でやることにしますかねえ」
「は〜い」
夢戻し作戦は、始まったばかりだ。
ピコーン。
アイナは『肉食系女子』の称号を得た。
エロ&ハーレム展開で、ノクターン行きになるかもしれません……。
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