ノルド隊(仮)② 新しいおもちゃ
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ノルドは危険区域を我が物顔で突き進むことができる。
これは探知能力の高い人間の特権である。
探知能力が無い人間が危険区域を突き進むことは自殺行為であり、森林警備隊の死傷者の大半がモンスターからの不意打ちである。
不意を突かれれば人間はあっけなく致命傷を負ってしまうのだ。
インベントを連れて森林に入ることが多くなったノルドであるが、基本的にはやることは変わらない。
モンスターを見つけ――殺す。
それに小さなモンスターであればインベントに任せることが加わっただけ。
シンプルである。
ただし一人で倒すのが困難なモンスターもいる。
危険な気配を感じた場合は、ルートを変更している。
さて――
ノルドがモンキータイプのモンスターを見つけ、先制攻撃を仕掛けた。
ラットタイプや小型のハウンドタイプはインベントに任されるが、モンキータイプは基本的にはノルドが受け持った。
猿をベースにしたモンスターは、サイズはゴリラ並みでありサイズに見合った攻撃力を誇る。
一撃で致命傷に至る可能性があるためインベントには任せない。
モンキータイプはサイズによっては戦闘を避けるが、今回はギリギリ倒せると判断しノルドは攻撃を仕掛けたのだ。
「む!?」
ノルドの攻撃にギリギリ反応したモンスターは、咄嗟に片腕で防御した。
ノルドの斬撃はモンスターの体毛に届く前にオーラのようなものに弾かれてしまった。
ノルドは距離を取らざるを得なかった。
「な、なんですかね!? あれ!」
「……イレギュラーか」
「い、イレギュラー?」
「特殊能力を持ってるタイプだ。お前も遭遇したんだろう?
光の矢を放つようなタイプだ」
「ああ! なるほど! ユニークタイプですね!」
インベントは初任務の際にケルバブを絶命させ、ラホイルの足を切断したウルフタイプを思い出した。
「あれは……恐らく【大盾】だな。幽壁で腕を強化してやがる。
幽壁は通常の武器攻撃は全部防がれちまうからな……幽力を削って……ちっ。
長期戦になっちまうな」
「ど、どうするんですか?」
威嚇してきているモンスターと睨みあいながらノルドは考える。
「普段なら……逃げるな」
「に、逃げる?」
「一対一で勝てる可能性は無くは無いがさすがに危険だ」
インベントは思う。
(こんな面白い相手を目の前にして……逃げる??)
物凄~く残念な顔をするインベントを見て、ノルドは頭を掻いた。
(まあ……思ってることは大体わかる……殺したいんだろ?
チッ……しゃあねえか)
ノルドは深く集中する。
「俺が……囮役だ」
「え?」
「俺がひきつけてやる。だからお前が……殺せ。できるな?」
インベントはゾクりとした。
ノルドと協力してモンスターを殺すのは初めてだからだ。
「もちろんです!」
「だったらさっさと隠れろ」
「はい!」
インベントは茂みに隠れた。
「さて…………やるか」
ノルドは上段に剣を構えた。
と、同時に駆けた。
「ハッ!!」
モンスターからすれば一瞬で間合いを詰められたかのように感じたであろう。
どうにか両手を交差し、剣戟を防いだ。
ノルドは押し斬ろうと試みるがすぐに諦めた。
(硬すぎる。無理だな。剣がもたん)
ノルドは大きく息を吸った。
(不殺。高速……鈍ら斬り)
ノルドは再度接近しつつ高速斬撃を叩き込む。
だが握りを甘くすることで剣はモンスターの防御を滑るように避ける。
(防御しなければ斬って落とす。防御すれば斬り流す。鈍ら斬り。
アイレドで俺以上の囮役はいないぜ……)
ノルドの高速斬撃にモンスターは対応できていない。
ただし絶対的な両腕の防御を破るには、ノルド一人ではかなり無理をしないといけない。
(そろそろだろう? 動かねえように足止めしてやってるんだからよ……)
ノルドはインベントがどこに行ったのかおおよそ把握している。
左からなら右に注意を引きつければいいし、逆もまた然り。
だが今回は……上からだ。
ロゼとの模擬戦同様、上空からの攻撃――
模擬戦の際はロゼが相手だったのでかなり加減した。
それも模擬戦とは違い槍での攻撃。
絶命させるには十分な攻撃――
「殺れい!!」
「はいいいい!!」
インベントの攻撃は……見事モンスターの左肩から入り胸部に貫通した。
そしてインベントはすぐにモンスターから距離をとった。
ヒットアンドアウェイは叩き込まれているのだ。
「ギアアアアアアァァアア!!!」
鮮血が舞う。確実に絶命するレベルの傷。
見事モンスターを倒した――かに思えた。
「ギアア! ギアア!!」
モンスターは槍を引き抜き、血飛沫が舞ったが傷口を押さえ悶えている。
だが倒れず、悶えているが顔から殺意は消えていない。
「……傷口が塞がりやがったな」
「え、ええ?」
「幽力で無理やり傷を塞いだってところか?」
「そ、そんなことできるんですか?」
「ーー知らねえよ。だがまあ……血が止まってやがる」
傷口は体毛で隠れているが血は止まっていた。
ノルドは判断を誤ったのではないかと思っていた。
(【大盾】による防御、そんでもって致命傷を防いじまう回復力。
こいつは確実にBランク以上だな……。逃げの一手だったか……クソ)
モンスターは大きさや特殊能力の有無でS~Dランクが分けられている。
Bランクのモンスターは複数部隊で討伐するのが基本となっている。
ノルドはどうにか討伐できるかと考えたが、逃げるのが正解だったと判断した。
「逃げるぞ」とインベントに言おうとした際、ノルドはインベントの顔を見た。
そして直感的に理解してしまった。
インベントが嬉々としていることに。
逃げる気なんて毛頭無いことに。
「それじゃあ――もう一回いきましょう」
「あ、おい!」
インベントはもう一度反発移動で飛んだ。
「あのバカ……ちい!」
インベントを止めそこなう。
そしてモンスターは怒りに任せノルドに迫ってきている。
「クソ……やるしかねえか!!」
怒りに任せ両腕を振り回してくるモンスター。
ノルドは回避しつつ攻撃するタイミングを窺う。
(インベントの空中から突き刺す技は、モンスターを足止めしないと使えねえ。
もう一回……切り刻んでやる!)
どうにか攻守交替したいと思い、剣を抜こうとしたときノルドは違和感を覚えた。
――何かしてくる。
野生の勘がノルドに危険信号を鳴らしていた。
「プッ!!」
モンスターは口に含んでいた何かを吐き出した。
「クッ!」
ノルドは咄嗟に避けるが、吐き出されたものは血液だった。
広範囲の血霧にノルドの判断が一手遅れた。
モンスター渾身の一撃。
ノルドはバックステップで後退しつつ、剣で攻撃を防いだ。
――パキン
簡単に剣が折れてしまった。
(クソ! ルーンで強化された攻撃は防げねえか!)
吹き飛ばされつつどうにか体勢を立て直すノルド。
ノルドは折れた愛剣を眺めつつ、本格的に逃げる算段を始めた。
ノルドは勿論、インベントも逃げる能力は高い。
何せ反発移動で空を飛べるからだ。
ノルドがインベントを探し、逃げることを伝えようとした時、ノルドは目を疑った。
「あは」
インベントが再度槍でモンスターの左肩を貫いていた。




