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隠し事

 キャナルがバンカースに報告をしている頃――


 コーヒータイム中に現れたペイジアが、インベントから去っていく。


(今日の()()はペイジアさんだけか。

 ああ、キャナルさんはアイレドの町に行くんだったっけな。

 毎日、ご苦労なことで)


 インベントは知っている。

 監視されていることをすでに知っているのだ。



 キャナルとペイジアは巧妙に監視役であることを隠せていると思っている。

 バレているとは微塵も思っていない。


 同じラホイル隊の隊員で、インベントに好意を寄せる女を演じる二人。


 任務中は常に行動を共にしているし、隊が同じである以上、休みも同じ日。

 偶然を装ってばったり出会ったり、話しかけることも自然である。


 インベントに疑念を持たれないように細心の注意を払っている。

 仮に怪しまれたとしても、すぐに気付く自信はあった。


 インベントは表情が読みにくく、感情の起伏も少ない。

 とはいえ、まだまだ18歳の若造。

 怪しまれれば必ずなにか変化があるはずだからである。


 ラホイル隊が組織されて半年間。


 ずっと監視してきたがインベントはいつも通り。

 いつも通り変わらずインベントはインベントらしく生きている。

 疑いの兆候は微塵も無い。



 だが――兆候など無くて当然なのだ。

 インベントはとうの昔からキャナルとペイジアが監視してることを知っているのだから。

 ()()()()()から、ラホイル隊が組織されて数日で監視されていることに気付いていた。




(さてと――――)


 周囲に誰もいないことを確認したインベントは、森に入っていく。

 散歩をするかの如く、真っすぐと進むインベント。


 キャナルもペイジアも知らない、休みの日のインベントの日課である。

 まさか単身森の中に入るという、自殺行為を繰り返しているとは想像だにしないだろう。


 人知れず森に入っていき――日が落ちたら帰ってくる。


 なにをしているのかは、誰も知らない。 



 ただ駐屯地では、あるウワサが少しだけ広がった。


 とある隊が、人間サイズでモンキータイプと思われる真っ黒なモンスターを目撃したのだ。

 発見した直後、すぐに逃げてしまったが、発見場所の近くで奇妙なモンスターの死体が発見された。


 その死体は、複数の箇所が凄まじい力で殴ったかのように陥没していたのだ。

 そしてその日以降、何度も似たようなモンスターの死体が発見される。


 凄まじいパンチ力のモンキータイプモンスターがいるのではとウワサになった。

 そしてその名は『黒猿(くろざる)』と呼ばれることになる。


 ただ、『黒猿(くろざる)』自体の目撃情報は一度だけなため、あまり大きなウワサにはなっていない。



 まさか、『インベント=黒猿(くろざる)』だと気付けるはずも無く――


****



 任務と休暇がワンセット。

 そんな日常に変化が訪れる。

 変化というよりはアクシデントに近い。


 急遽、ラホイルが森林警備隊本部に呼び出されたのだ。

 そして、ラホイルは数日間別任務に就くことになった。

 そのためラホイル隊は活動休止。


 インベントとアイナは待機命令。


 だが、キャナルとペイジアは他の部隊に借りだされることになる。

 キャナルとペイジアを遊ばせておくほど、森林警備隊は暇ではない。



 結果、監視レベルは下がり、活動休止なので自由時間が増えたインベント。


 インベントは毎日、ひとりで森に入っていく。

 やることはただ一つ。


 当然、モンスターを狩るのみ。

 狂った狩人、『狂人(くるいど)のノルド』の再来。

 だがインベントはノルドと違い探知能力が無い。


 本当の自殺行為。

 怪我はもちろん、人知れず死んでしまっても不思議ではない。


 なのにインベントは毎回無傷で帰ってくる。

 キャナルとペイジアでなくても、異常に気付けるわけが無いのだ。



****


 今日も今日とてインベントは森に繰り出す。


(そろそろ大丈夫かな?)


 インベントは駐屯地から近い場所では、かなり慎重に移動する。

 空も飛ばない。


 それはモンスターを警戒してではなく、人間を警戒してである。


(誰かに見つかるとめんどくさいからね。

 ま、こっちに今日は誰も……誰も)


 誰もいるはずがない。

 もしもいたとしても、隠れればいい。


 だが、あまりにも予想外な出来事に、インベントは目を見開いた。

 森の中で、アイナが独りで座っていたからだ。



 駐屯地の周辺は比較的安全である。

 人間のテリトリーであり、モンスターが接近してくることも少ない。


 当然、駐屯地から離れれば離れるほど、危険度は増す。

 そして人間のテリトリーから完全に外れた地域を危険区域と呼称している。


 アイナがいる場所は、危険区域の一歩手前といったところ。

 いつモンスターが襲ってきてもおかしくない場所。


「なに……してるのさ」


 インベントはアイナを無視することはできなかった。


 茂みから現れたインベントにビクつくアイナ。


「おわ!? そっちから出てくるなんて予想外!」


 アイナが見ていたのは、駐屯地の方向である。

 獣道ならぬ、人道が続いている。


 インベントは人目を避けるため、人道は通らない。


「なんでこんなとこに?」


「ハハハ、そりゃ、アタシも聞きたいね。

 ひとりでこんなとこまでやってきて、な~にしてんだ?」


 インベントは口をつぐむ。


「へっ、どーせモンスター狩りだろ。

 相変わらずのモンスタージャンキーだなあ、こんちくしょー」

 

 インベントは渇いた声で小さく笑う。


「まあ……ね」


「いやはやわり~ね。楽しいモンスター狩りの邪魔しちゃってさ」


「まあそれは別に構わないけど……。

 でもどうしてこんなところにひとりで?

 危ないよ」


「おいおい、ひとりでモンスター狩りしてるやつのセリフじゃねえな。それ」


「俺は……別にいいんだよ」


 アイナは「ふ~ん」と言いながら立ち上がる。

 そしてインベントの目を見る。


「オマエ……インベントだなあ」


「ん? そりゃあそうだけど……」


 アイナはこめかみを掻いた。

 悩んでいる。


「まあ、会話はできそうだな。

 よくわかんねえけど」


 インベントは首を傾げる。


「まあいい。こっちの話。

 あ、どうしてここに来たかって話だったな」


「そうだね。

 そもそもどうして、ここに俺が来るってわかったのさ?」


 アイナは腕を組んで笑う。


「ふっふ~ん。

 ま、色々なことから推理した結果ってとこかな」


「推理?」


 アイナはニヤリと笑う。


「倉庫から色々持ち出してんだろ。

 盾とか短剣とか諸々な。任務中はほとんど使用してないのに」


「あ……なるほど」


「どこで使ってんだろって考えたら、なんとなく想像ついたぜ。

 アタシは元々倉庫番だったからな~、ナハハ」


 インベントはアイナと出会った頃を思い出し、少し微笑んだ。


「そんでもって休みの日は人気のないとこでコーヒーを嗜んでんだろ?

 いつからそんなダンディでこじゃれた趣味を持ったんだろうねえ。

 まあ色々繋ぎ合わせたら、ほぼ毎日森に入ってんだろうってな」


 インベントは「まいったな……」と呟く。


「ま、それでもここに来るかどうかは五分五分ってとこだった。

 だけどまあ、今日が一番絞りやすかったからな」


 そう言ってアイナは紙を一枚取り出した。

 紙には本日の各隊の配置図が書かれていた。


「毎日ひとりでモンスター狩りしてるのに、目撃情報が無いからな。

 ちゃんと下調べして、人員配置されていない手薄なエリアを狙ってんじゃねえかと思ったわけよ。

 ま、空飛ばれちゃ、どうしようもなかったけどな。シシシ」


 インベントは感心している。


「空は……駐屯地近くでは飛ばないよ。

 見つからないと思うけど、見つかった時気付けないかもしれないし」


「なるほどねえ。色々考えながらアブナイ遊びをしてたわけだ」


「ははは。

 でも……どうしてこんな危険を冒してまで?」


「どうして……か」


 アイナは大きく唸る。


「ま……聞きたいこと……を聞くべきかどうかを確認……」


「え?」


「いや、本題はあるんだが……う~む、説明するのは難しいな。

 ま、一つ一つ潰していくか!」


「え? え? え!? ええ~~ッ!?」


 アイナは予想外の行動に出る。

 インベントは「ちょ、ちょ!」と慌てている。


 アイナはなぜか装備を外し、上着を脱ぎだしたのだ。

 胸部は隠れているが、かなり大胆な恰好に。


 インベントは顔を背けながら「な、なにしてんのさ!」と顔を赤らめる。


「お~い、アタシのナイスバディに興奮するのはわかるが、こっち見ろ」


 インベントは「見ろ」と言われたので仕方なく見る。

 アイナは体を捻り、左背面の腹部を指差していた。


 そこには――塞がってはいるものの大きな傷痕が。

 インベントは息を飲む。




「なあ、アタシはなんで生きてんだ?

 まずは――――そこからだ」

実は、ゾンビだからです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1.実は故郷で作った像にアイナの記憶を入れたゴーレム 2.実は心臓動いてないゾンビ 3.インベントが門を開いて癒を覚醒 4.実は自分をアイナだと思い込んだ誰かさん
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