表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

267/446

幕間 総隊長室にて

 バンカース総隊長の部屋――


 ドアがノックされ、入室を促すバンカース。


「失礼します!」


「おう、キャナルか。入れ入れ」


 敬礼し入室するキャナル。


 その表情は固い。

 ラホイル隊での緩い雰囲気が嘘のように。


「ま、座れよ」


 バンカースに促され着席するキャナル。

 部屋の中にはバンカースと、総隊長補佐のメイヤース含めて三人。


「それじゃ、定期報告頼むわ」


 キャナルは「はい! それでは――」と報告書を取り出し、ふたりに手渡すキャナル。


「ラホイル隊ですが特に異常はございません。

 アイナが体調不良にて二日ほど任務から外れましたが、特段の影響はございませんでした。

 任務中に何度かインベントとラホイルが揉めましたが、まあいつも通りと言えばいつも通りかと」


 バンカースは報告書に目を通し「そうか、しかし……相変わらずすげえ討伐数だな」と驚く。


「ラホイルの探知能力は非常に優秀です。

 【マン】の隊員のほうが正確ではありますが、探知距離の点では完全に勝っております」


「なるほどな」


 バンカースは茶を飲み、背もたれに身体を預けた。


「そういえば、ラホイル隊を組織して半年だな。

 なんか気になったこととか、言いたいことはないか?」


 キャナルは少し困った顔をし――


「任務ですので、特に……」


「ハッハッハ、お堅いな。

 雑談感覚で喋ってくれていいぞ。

 キャナルもペイジアも、無理言ってラホイル隊に入ってもらってんだしな」


 キャナルは口をモゴモゴさせた後――


「では……」


「おう、なんでも言ってくれ」


 キャナルはゆっくりと大きく息を吸った後――


「そもそもなんですが、なぜラホイルが隊長なのかは疑問に思っていました。

 彼は優秀ですが、あくまで探知要員としてです。

 やはり隊長にするのは……正直時期尚早だったのではないかと思っています」


 バンカースは頷いている。


 だが、バンカースの隣にいる総隊長補佐メイヤースの目は冷たい。

 まあ、メイヤースは怒っているわけではない。そういう顔なだけである。


 キャナルは取り繕うように――


「た、ただラホイル隊は成果も出していますし、さすが総隊長の御慧眼だなと思っております」


「ん? ああ、そう? ハハハ」


「ラホイルに関しては、まあ……。

 ですが……あの、やはりインベントの件はいまだによくわからないのですが……」


 沈黙――

 バンカースは最近白髪の増えてきた髪を、掻き上げた。


「ま、インベントのことはもう少し様子見してくれ」


「承りました……。ですが……」


 もごもごするキャナルに対し「なんでも言えよ」と促すバンカース。


「では。

 ――彼はなにか()()でもしているんでしょうか?」


 ずっこけるバンカース。


「は、犯罪だ? し、してねえよ」


「ではなぜ、インベントを監視させるのですか!?」


 バンカースは渋い顔で笑う。


「い、いや、監視っていうかだな……。

 なにか変わったことがないか、常に確認して欲しいってだけでなあ」


 隣にいたメイヤースは「総隊長、それを監視と言います」と的確に突っ込んだ。


「あ、まあそうか……。う、うん。

 あ、断じて犯罪しているわけじゃねえぞ」


「……私、この任務に就いてから色々インベントのことを調べたんです。

 彼……色々謎が多いですよね?

 三年前、『紅蓮星ぐれんせい』の時から、半年以上空白期間がありますよね?

 なにをしていたのか誰も知らないんです。どこいたのかさえ誰も知らないんですよ?」


 バンカースは苦笑い。


(いや……俺も知らねえんだよ……。

 陽剣のロメロとなんだか仲良くなって、いつの間にかアイレドから消えちまったんだよな)


「かと思いきや一年以上前、前触れもなく復帰。

 そして、色々な前線部隊を渡り歩いたみたいですが、あまり上手くいかなかったと」


 バンカースは「ははは、よく調べてんな」と感心する。

 だがメイヤースは低い声で「総隊長」とバンカースを窘めた。


 バンカースはパンパンと手を叩く。


「わかったわかった。ラホイル隊の今後は色々と考えてみる。

 すまんが、もう少しだけ頑張ってくれ」


 キャナルは渋々頷き――


「あの、色々吐き出してしまって申し訳ありません」


「ははは、言いたいことがあればいつでも言ってくれよな。

 一段落した後は、便宜を計ってやっからさ。

 報告お疲れさん、もう行っていいぞ」


「は! それでは失礼いたします」


****


 キャナルが去った後、バンカースは下唇を突き出し「ガハア~」と溜息。


「お疲れ様でした総隊長」


 メイヤースが言葉とは裏腹に睨みつけている。


「――なんだよ」


「いえ、僭越ながら私も、いつまでラホイル隊を続けるのかと思いまして」


 バンカースはメイヤースをちらと見た後、すぐに目線を外す。


「キャナルもペイジアも隊長でやっていける人材です」


「んなこたあ、わかってる。

 ラホイル隊に置いておくのはもったいねえってんだろ?

 ――わかってる」


 メイヤースは首を振る。


「ラホイル隊というよりは、インベント用の隊と言った方が正しいですかね」


 バンカースは表情で「もうやめろ」と表現するがメイヤースは止まらない。


「インベントは、別の隊でも問題を起こしてます」


「いやいや、別に問題ってほどじゃ――」


「無口……だけならまだいいですが、無表情にモンスターを殺すらしいですね。

 コミュニケーションもロクにとらず、毎度毎度気味悪がられてます。

 空を飛べる点は特筆すべき能力ですが、正直集団活動に向いているとは思えません。

 正直……除隊でも問題無いのでは?」


 バンカースは一際大きな溜息を吐いた後――「ダメだ」と強く言い切る。


「なぜでしょう?

 同期のラホイルを無理やり隊長にし、仲の良かったアイナを隊員に。

 キャナルとペイジアには『インベントと仲良くするように』と、まるでお子様向けのあり得ない指示も出してます。

 完全なる特別扱いですよ、これは」


 バンカースは拳を勢いよく振り上げたが、優しく机を叩いた。


「おかしいのは……わかってる。わかってるが……しゃーねえんだよ!」


 バンカースは立ち上がる。

 室内をゆっくりぐるぐると歩いた後――


 「誰にも言うなよ?」とメイヤースを指差す。


 メイヤースは頷いた。


「ラホイル隊を組織する前……この部屋にある人物が来た」


「ある人物??」


「……『星天狗』だ」


「……は?」


 バンカースは、少年のように笑い――


「へへ、あの『星天狗』がよ、俺を訪ねてきたんだぜ?

 すげえだろ?」 


 ちなみにバンカースは『星天狗』のファンである。

 バンカースが幼き頃、アイレドに現れた大型モンスターを退治して以来のファン。


 バンカースが『星天狗』のファンであることはメイヤースも知っている。


「『星天狗』は引退されたと聞いてますが……。

 え? でもなんで『星天狗』が総隊長を訪ねて?」


「…………インベントだよ」


「はい?」


「だから、インベントの件で訪ねてきたの!」


「……はい??」

 

「いやだから!」


 メイヤースは机を叩く。


「『だから』じゃなくて、なんで『星天狗』がインベントの件で訪ねてくるの!?

 そもそもインベントの件とはなんなのですか!?」


「い、いや、よくわかんねえんだよ。

 だけど……『インベントは元気か?』って」


 メイヤースは苛立ち「だから、なんで『星天狗』が?」と問う。


「それは……知らねえけど」


「なんで知らないの!?」


「しゃーねえだろ! 『インベントは元気か? 森林警備隊に復帰してるか?』って訪ねてきたんだ!

 だから……元気ですよって伝えて……」


「……それで?」


「いや、軽くインベントとアイナのことを話したよ。

 ほら、()()()を話した。

 えらい真剣に話を聞いてくれてなあ。

 俺はインベントが『星天狗』に迷惑かけたんじゃねえかと思ってさ。

 なにかご迷惑おかけしたんならすぐに呼び出しますよって話したんだ」


 バンカースは「そしたらよお」と顎を手で擦る。


「『インベントとアイナは恩人だ』って言うんだ」


「恩人??」


「ああ、そんで『良くしてやってくれ』ってな」


 メイヤースは頷きながら、目を閉じている。

 バンカースの話しを聞くことに集中している。


 だが、一向に続きを喋ろうとしないバンカース。


「え!? 終わり!?」


「ん? ああ」


「ハァ!?

 『星天狗』とインベントの関係は?」


「いや……聞いてない」


「『星天狗』が恩人って言ってるんですよ?

 その恩ってなんですか?」


「それも……聞いてない……デス」


 『星天狗』の来訪に舞い上がり、大事なことはな~んにも聞いていない総隊長バンカース。



 その後、メイヤースにバンカースはこっぴどく怒られましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ