真・ラホイル隊の日常
ラホイルから誰かが死んだことを伝えられたインベント。
胸が少し締め付けられる。
「だ、誰が死んだのさ?」
「それは――――ロゼや」
インベントは予想外の人物の名を聞き、首を傾げた。
「ロゼって? あのロゼ?」
「せや。やっぱり知らんかったんやな」
ラホイルはバンバンとインベントの肩を叩いた。
「急な話で驚いたやろ。
前線希望の同期やもんなあ、わかる。わかるで」
「いや……それ本当なの?」
「ああ、バンカース総隊長が言うとったからな。
なんでも任務中に殉職したらしいわ。
モンスターにやられたって話や」
「え……でも」
「わかる! わかるで! 信じられへんやろ?
でもあれやねん。『宵蛇』に入隊したけどロゼの噂って一度も聞かんかったやろ?
あんな目立ちたがり屋がおかしいと思わへん?
実はな~かな~り前に……もう死んでしもたらしい。
とはいえまあ、『宵蛇』としては隊員が死んだなんて公表したくなかったんちゃうかな。
俺の予想では、入隊そのものを無かったことにしたんやないかな~と睨んでんねん。
うん、多分そやで。
でもまあ、古巣のアイレド森林警備隊、バンカース総隊長には説明があったんやろ」
勝手に話し、勝手に納得するラホイル。
インベントは――
(ロゼはオセラシアにいるから、死んで無いと思うけどな。
ま、どっちでもいいか。説明するのも面倒だし)
「そっか」とだけ呟いた。
「ま、残念やけどな。
俺たちはロゼの意思を継いで頑張ろやないか!」
****
前線部隊は死と隣り合わせ――とまではいかないが危険はいつも付き纏う仕事である。
それゆえ、給金は良いし、休みも多い。
基本一日働けば、翌日は休暇日となる。
さて――
「インベントくぅ~ん? もう朝やでええ!!」
二日前と同じ展開が繰り広げられる。
寝坊助インベントを起こしに来るラホイル。
インベントは目覚め、支度し、待ち合わせの場所へ。
苛立ちながら待つラホイル。
のんびり待っているキャナルとペイジア。
そして――
「おはようございます。
キャナルさん、ペイジアさん。
――――アイナ」
二日前と違い、アイナ・プリッツがそこにいた。
「今日もお寝坊さんだね~インベント~」
「ふふ、今日も可愛いわ~」
いつも通りのキャナルとペイジア。
アイナは我関せず、欠伸している。
「もう! さっさとミーティング始めるでえ!」
ラホイルの号令で集まる隊員たち。
アイナ、ペイジア、キャナルと並び、キャナルの横に立つインベント。
「ほな始めまっせ。
さて、アイナさん」
「ん?」
「調子は大丈夫でっか?」
「ナハハ、すまんすまん。
ちょっと風邪っぽかったけど、も~う大丈夫」
アイナは力瘤をつくる。
「そりゃ良かった。体調管理には気をつけましょうな」
「にゃはは、アイナ先輩は一番お年寄りなんだから」
「ふふ、だねえ~。毎朝白湯でも飲んだほうがいいんじゃないかしらあ」
アイナは眉間をピクピクさせ――
「ちょっと待て待て。
まずアタシはキャナルとペイジアよりもひとつ歳下だろうに!
それに白湯なんて飲むかい! おばあちゃんかアタシは!」
アイナは21歳。キャナルとペイジアは22歳である。
「にゃは、でも、アイナ先輩って貫禄があるっていうか」
「そうそう~、ど~も年下には思えないのよねえ~。
それに私は朝晩に白湯を飲んでるわよ~?」
「なんだとお、そりゃ老けてるってことか!?
って、さ、白湯飲んでんの? 意識高すぎだろ!」
ラホイルがパンパンと手を鳴らす。
「はいはいー! 雑談はそれくらいにしまひょ。
ま、アイナ先輩がいると、部隊がまとまった感じがするんで助かりますな~。
インベント! 今日はしっかり役割こなすんやで~」
インベントは鼻で笑い「わかってるよ」――と。
「ま、今日も駐屯地西部を練り歩くとしましょうかね!
今日も~がんばりましょ~! オー!」
拳を突き上げるラホイル。
仕方なく、まとまりなく、バラバラに「お~」と呼応する隊員たち。
今日も和気藹々??
**
ラホイル隊は、キャナル、ペイジア、インベントにアイナを加えた五人体制である。
「ほないきまっせ~」
ラホイルが指差した先――ハウンドタイプモンスター。
ペイジアが矢で牽制し、キャナルが突っ込む。
キャナルを追走し、アイナ、インベント、ラホイルと続く。
キャナルは身体は小さくとも、まるで弾丸のように躊躇なくモンスターと衝突する。
大きく体勢を崩すモンスター。
『アタシは右、インベントは左』
アイナの念話がペイジアを除く三名に。
射程距離が短いアイナの念話だが、皆、念話の射程距離を把握しているので問題無い。
アイナの斬撃が、モンスターの目へ。
だが幽壁が発動し、アイナの斬撃を拒絶する。
アイナは無理せず受け流す。
モンスターの意識はアイナに釘付けに。
次の瞬間、インベントは容赦なくモンスターの首を切断した。
危なげない戦い。
ラホイル隊は――強い。
現在のアイレド森林警備隊に数ある部隊の中で三本の指に入るぐらい強い。
タレントが揃い過ぎているのだ。
ラホイルは隊長としては未熟だが、探知要員としては非常に優秀。
モンスター探知といえば【人】のルーンなのだが、レアなルーン。
【人】のルーン以外で探知要員になれるだけでも価値がある。
更に戦闘向きではない【人】のルーンとは違い、【馬】は身体強化されるので戦闘向きのルーン。
戦える探知要員なのだ。
そんなラホイルを前後で強力にサポートするのがキャナルとペイジアだ。
ふたりとも超がつくほど優秀。
この三人だけで隊としてはほぼ成立してしまう。
あとのメンツは極端に言えば誰でもいい。
未熟なアタッカーを入隊させても部隊としては問題無く成立するだろう。
欠点――というよりも足りない部分をあえて挙げれば、回復役がいないことぐらいか。
とは言え、怪我をすることさえ稀なので欠点とも言えない。
恵まれすぎている部隊。それがラホイル隊なのだ。
**
「にゃはああ~! うんまあ~!」
「あはあぁ~ん、幸せえ~!」
森林地帯の中にある、小高い場所。
警戒がしやすく、ラホイル隊が任務中によく使う休憩スポット。
ただいまランチタイム。
折り畳みの机には、テーブルクロスが敷かれている。
そしてテーブルの上にはバスケット。その中には、ほのかに温かいパン。
更に熱々のトマトスープと、ジューシーさが一目でわかる揚げたチキン。
まるで町の中で食事をしているかのような料理が並ぶ。
本来、森林警備隊の昼食は携帯食で済ますことが大半だ。
いつモンスターが襲ってくるかわからない場所で、ゆっくりとランチなどできようはずがない。
だが――
「あ、砂糖菓子もあるよ」
「にゃあああー! インベントくん大好き!」
「私……インベントくんがいないと生きていけないわあ!」
森林警備隊でも稀有な存在、【器】のインベントがいる。
収納空間はモノを入れた時の状態をキープするため、できたての料理を食べることができるのだ。
ラホイル隊は食事事情まで恵まれている。
興奮しているふたりと違い、アイナは無表情でパンを齧っている。
そんな時――
「楽しんどるとこ悪いんやけど――
モンスター近寄ってきとるな」
水を差すラホイル。
キャナルとペイジアはラホイルを睨みつける。
「に、睨まれても困るんやけど」
がっくりしているキャナルとペイジア。
インベントは布巾をパンパンと伸ばし、畳みながら――
「ねえラホイル」
「なんや?」
「俺が倒してくるよ」
「へ? ちょ、ちょ待て!」
「慌ててない感じ、Dランクでしょ。
ひとりで大丈夫だよ」
ラホイルは「おいおい!」と引き留めようとするが――
「方向はあっちだよね?
さっき見てたもんね」
「いや……まあ、せやけど」
「みんなはランチを楽しんでてよ。
一狩りしてくる」




