New Game?
第十一章 夢現 スタートです。
静かな朝。
小鳥のさえずりが心地よい。
そんな静けさをぶち壊す騒音がやってきた。
「インベントくぅ~ん? おる~?」
優しく扉が三度ほどノックされる。
その後は――
「ゴルアァ! インベント!
早く起きろや!!」
暴言と、乱暴に扉を叩く音に――
「――ああ、またか」
インベントは頭を抱えながら目を醒ます。
気怠さが詰まった身体をなんとか起こし、外を見る。
(空が青い。ああ、眠いな)
永遠に休んでいたいと思いつつも、ドアへ。
「おはよ~、ラホイル。
ラホイルも寝起き? 目が細いよ?」
ニコニコしているラホイルが立っている。
「せやね~ん、昨日は夜更かししてもうてなあ~。
眠~て、眠~て……。
ってんなわけあるかいボケエ! 目が細いのは生まれつきじゃ!」
インベントは欠伸を一つ。
「朝から元気いいね。ふあ~あ」
「さっさと支度せえ! この寝坊助ちゃん!」
「はいは~い」
****
アイレド森林警備隊――駐屯地。
アイレドの町の南西にあり、町の平和のために非常に重要な拠点である。
駐屯地のとある一角。
ラホイルと、女性二人が待っている。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった」
合流するインベント。
「お~そ~い~ね~ん!!
起こしに行ってから何分経っとんねん!
もおお~毎度毎度遅刻しおってからに!」
地団駄を踏み、怒るラホイル。
「にゃはは、相変わらずインベントくんは寝坊助さんだねえ」
栗毛のショートヘアーで、小柄な女性。
懐っこい笑顔だが、両手には非常に重厚な小手を装備している。
名はキャナル。
「ふふ、でもぉ、寝起きなインベントくんも可愛いわあ」
インベントに熱視線を送るのは、ペイジアである。
黒髪ロングで、表情に艶やかさがある女性だ。
短弓と呼ばれる最も小さい規格の弓と、矢筒を装備している。
矢筒は襷掛けされ、豊満な胸部を強調する。
目のやり場に困る。
困っているのはラホイルだけなのだけれど。
「おはようございます。
キャナルさん、ペイジアさん」
インベントは丁寧に挨拶する。
「インベントは真面目だにぃ~。
年も近いんだし、呼び捨てでいいのに」
「ふふ、そうよそうよ。『ペ~イ』って呼んでいいのよお?」
「え~? でも先輩ですからねえ」
「お堅いねえ。インベントくんはもっと破天荒な男の子だと思ってたよん」
「そうよねえ~、『紅蓮星』と同じチームになるって聞いた時は、どんなやんちゃな男の子かドキドキしたのにい」
『紅蓮星』。
かれこれ三年前。
紅蓮蜥蜴を討伐する際に、インベントは真赤な服を着用していた。
囮となるために目立つ服装を与えられたのである。
実は、紅蓮蜥蜴狩りの後、アイレド森林警備隊でインベントは時の人になっていた。
なにせ紅蓮蜥蜴狩りでインベントは大活躍だった。
更に服装は目立つし、なによりも空を飛べるインパクトは非常に大きい。
噂にならないわけがなかった。
結果、空を飛ぶことから『星天狗』の『星』――
紅蓮蜥蜴のような真赤な服から『紅蓮』――
『紅蓮星』と呼ばれるようになった。
まあ――
紅蓮蜥蜴狩りの後、インベントはロメロチャレンジに没頭し、そのままカイルーンの町に行ってしまう。
時の人となっても、本人がいなかったため次第に沈静化してしまったのだ。
インベントは両手を振って否定する。
「いやいや、その二つ名恥ずかしいんですよね。
それに俺、もう男の子って歳じゃないですよ。
18ですし」
「18なんて、まだまだやんちゃ盛りよね~?」
「そうよそうよ~、遊びたい盛りよ。
とっかえひっかえ色々な女の子とデートしたりするお年頃よお~。
ふふ、よかったら今日の夜にアイレドの町でゆっくりしない~?」
「あ、ずるいにゃ~! 私も一緒に行く~!」
「もお~、せっかくインベントくんとデートなんだから邪魔しないでよ~キャナル」
インベントは苦笑い。
緩~~く、甘~~ったるい時間を――
「ナーんの話しとんねん!!」
ぶち壊すラホイルの叫び。
「任務やで! 今から任務!
なのにこ~んなユルッユルな空気じゃ、アカンで!
弛んでると、ケガしてまうで!」
ジト目のキャナルとペイジア。
溜息の追い打ち。
「わっかってないあ~、ラホイルは」
「そうねえ~、任務前からピリピリしてたら保たないわよ~。
張りきっちゃうのはわかるけどねえ、隊長」
わなわな震えるラホイル。
「それもこれも、インベントの寝坊癖が悪いんや!」
「あ、人のせいにした~」
「ダメよ~、誰かに責任押し付けるようになると、癖になっちゃうぞ」
ラホイルは顔を紅潮させる。
「うっさいうっさい! さっさと打ち合わせして出発するでえ!」
「はいはい」
「仕方ないわね~」
インベントは小さく笑った。
**
ラホイルは咳払い一つ。
「あ~それじゃあ、本日の作戦を共有するで。
駐屯地西部でラットタイプがかなり目撃されてる。
そんなわけでパーモス隊、ルアン隊――――」
ラホイルは再度咳払いし――
「そして我がラホイル隊の三隊で調査と討伐に向かうことになった。
まあ、合同ってわけじゃなく、連携するだけだから定期連絡を取り合う感じやな」
キャナルが「ん~」と言いながら背伸びする。
「それじゃいつも通りのフォーメーションでいいってことね」
「フォーメーションはまあ、せやな。いつも通りで。
でも! あんまりガンガン進んだらあきまへんで!
この前もキャナルさんが独断専行するから――」
「わかったわかった! わかってるってば」
ペイジアがキャナルの頬を優しく突く。
「いやよ~、隊長とキャナルが本気で走っちゃうと追いつけないんだから。
あ、でもまあ、その時はインベントくんが私のこと護ってねえ?」
インベントの袖を掴むペイジア。
笑って受け流すインベント。
「そこ! イチャつかない!
まったくもう……まあええわ。
あ……まあ、独断専行はダメなんやけど……ラホイル隊はですねえ……そのおぉ~」
ラホイルは「――討伐数が期待されとります」と小声で言う。
「んん? なんだそれ~」
「三隊で連携なのに、積極的に討伐するの~?
連携任務の場合、歩調を合わせるのが基本よね~?
あれ~? なんでなのかしら~隊長?」
ラホイルは目を逸らす。
「いや……まあそのお。き、期待されてるってことちゃいますか?
ま、まあ、よろしゅう頼んますよ。先輩方」
ヘコヘコするラホイル。
「こ~んな時だけ後輩面か~、ラホイルくぅ~ん」
「ずるいわねえ~、期待の隊長さんがそんなことでいいのかしらあ~?」
ラホイル。
御年18歳。
それに対しキャナルとペイジア、22歳。
ラホイルは隊長職だが、森林警備隊としてのキャリアは当然ふたりの方が長い。
更に、ふたりとも大物狩りのメンバーに選ばれているほど優秀である。
未熟な新米隊長を補佐するための人選であることは、ラホイル自身も理解している。
とは言えキャナルとペイジアはラホイルを見下しているわけではないし、ラホイルが隊長であることを不満に思っているわけでもない。
からかっているだけなのだ。
「ど~せラホイルが見栄でもはったんでしょ~。
『ワガハイが狩りまくったるでえ~い』とか言ってさ」
「ギクゥ~!
って、ワイは『ワガハイ』なんて言わへんし!」
「でも見栄は張ったのねえ~。
さすが『ケイショウのラホイル』は違うわね~」
インベントはクスクス笑う。
「あ、インベントまで笑うな!
それに、そのダッサイあだ名は止めてえな!
あ~~もう! 出発しまっせ!!」
和気藹々?
とにかくラホイル隊が出陣した。




