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分岐点へ⑤ 別れ

 アイナの背後にいるルベリオ。


 アイナの腰からナイフを引き抜くルベリオ。


 アイナを刺すルベリオ。


 ゆっくりと倒れていくアイナ。



 コマ送りで再生される動画のように、シーンが流れていく。


 絶妙なタイミング。

 一歩遅ければ、インベントに邪魔されたかもしれない。

 逆に早ければ、インベントはルベリオの凶行をしっかり見ることはできない。


 ルベリオの演出である。

 インベントの到着タイミングを正確に把握していたからこその芸当だ。


 前回イング王国の森の中でも、劇的タイミングでのアイナ救出を演出をしていたルベリオ。

 ただ前回と違い、今回は悲劇だが。


 大地に立つ無表情のインベント。


 愉悦の笑みを浮かべるルベリオ。


 左腹部に激痛が走り、顔を歪めるアイナ。

 ナイフは左背面から左腹部に貫通していた。


 人生で一度も体験したことがない痛みに、顔を歪めるアイナ。


「うぎい……これはやばぁ」


 危険な状態のアイナ。

 だが――誰も近寄らない。


 インベントはルベリオを警戒して近づかない。

 オセラシアの人たちもルベリオを警戒して近づかない。


 そんな中――


「アイナさん!!」


 ファティマだけが駆け寄る。


 ファティマが悪いわけでは無いが、アイナに刺さっているナイフはファティマのものだ。

 ファティマがゼナムスの命を奪うために用意していたナイフを、偶然、アイナが預かっていたのだ。


「し、しっかりしてください!!

 誰か! 救護を!!」


 ファティマは通常、命令を出すタイプではないし、本人も意図して避けていた。

 それでも王族であることには変わりはない。


 そんなファティマからの命令だが、それでも誰も動けない。

 やはりルベリオが近くにいるからだ。


 怯える様を見て、ルベリオは笑いながらアイナから離れる。

 まるで介抱することを促すように。


 警戒しつつ数人がアイナを囲む。


 アイナは一刻を争う状況で間違いなかった。

 なにせ背面にナイフが突き刺さっているのである。


 だが――出血量は思いの外、少ない。


 ナイフが非常に綺麗に刺されていたからである。

 躊躇なく、真っすぐ刺されたため傷口は広がっておらず、また、心臓など即死に繋がる臓器は()()()避けられていた。


 事実は人体に精通しているルベリオが、意図的に行ったからなのだが。


 ただし綺麗に刺さりすぎてしまったため、ナイフを抜くわけにはいかない状態。

 抜けば大量に出血してしまうからだ。


「――布だ布! 綺麗な布持ってこい!」


 ルベリオを警戒しつつ、応急処置が行われる。

 ナイフを抜かず、傷口周辺を布で固定していく。


 出血は抑えられ、多少楽になるアイナ。

 だがそれも気休め程度。


(やっべえ、腹の中が熱い。

 なのに、なんか寒気がする。

 早く……早く……)


 施された応急処置は、応急処置としては素晴らしいレベル。


 ファティマは祈るようにアイナを見ている。

 どうにか助かって欲しいと願っている。


 だが……応急処置に当たっていた人たちの手が止まった。

 表情は暗く、顔を見合わせている。


「どうして手を止めるの!?

 早く――! 早く――!」


 ()()()()は終わったのだ。

 本来ならばここからは――――


「アハハハハハハ!」


 遠巻きで眺めていたルベリオが笑い出す。


「あれあれ~? どうしたのかな~?

 手をこまねいていると、死んじゃうよ~?」


 アイナを見ているルベリオだが、意識はインベントに向いている。

 ルベリオはあえてインベントにも聞こえるように大きな声で話す。


 ファティマは下唇を噛んだ。

 刺した本人が言うセリフでは無いと思いつつも、まさにその通りだからだ。


「早く……! 【ギルフェ】を!」


 その場にいる、ファティマとインベントが知らない事実。

 後方支援部隊の【ギルフェ】持ちは全滅している。


 ――そう、ルベリオが全員殺害し終えている。



 ゆっくりと死に向かうアイナ。

 今の今まではどうにか抗ってた。だが――


(……ああ、そういうことか)


 アイナは――――死を受け入れた。


 理解してしまったからだ。

 逃れようのない運命であることを。

 全ては、ルベリオの算段通りに事が進んでいることを。


 身体から力が抜け、刺された部分から大量の血液がどぷりと流れた。


(インベントを殺すために、ルベリオはやってきた。

 後方支援部隊――いや【ギルフェ】持ちを全部殺し――

 その上で私を刺したのも、全部……インベントを殺すためだ。

 ったく……回りくどい)



 ルベリオにとってインベントに負けた経験は、衝撃的な事件だった。


 ルベリオは自身が最強だとは思っていない。

 例えばロメロが近寄ってくればすぐに逃げ出す。

 勝てない勝負はしないのだ。


 だが、勝てると判断した相手に負けることは一度も無かった。

 唯一の存在がインベントなのだ。


 そしてインベントの強さの鍵はアイナが握っていると確信している。

 アイナが猛獣使い的なポジションであり、アイナがインベントを操ることでインベントは異常な強さを発揮するのだと結論付けた。


 だから、アイナをまず刺した。

 大事な大事なご主人様(マスター)を再起不能にし、ゆっくりと抗えない死に向かっていく様を見せつけることで、精神的にも追い詰めるために。


「ウフフフフフ、ねえねえ?

 今どんな気持ちかな? インベント」


 インベントは無表情を貫く。


「キミの大切なアイナはさ、今すぐに治癒してあげないとまず助からない。

 でも、【ギルフェ】持ちは全員ボクが殺しておいたよ。

 キミがどれだけ早く町に向かってもさすがに間に合わないよねえ?

 ああ~歯がゆいかな? 悲しいのかな? ねえ? ねえ?」


 インベントはアイナを横目で見る。

 呼吸も浅くなり、顔面蒼白なアイナ。


 その場にいる誰もが――ファティマさえも諦めてしまった。

 そんな中――


「インベントさん!」


 ファティマが叫ぶ。

 その叫びには、『最期の時間ぐらい一緒にいてあげて』という思いが籠っていた。


 アイナとインベント。

 目と目が合う。


 意識が朦朧とする中、アイナは悟る。

 インベントの瞳に、動揺の色が全く無いことを。


 アイナの死さえ、インベントにとっては――――


 鼻で笑うインベント。


「たかが()()()が死ぬだけじゃない。

 カカカ、私の動揺を誘いたかったの~?

 相変わらず、狡いわねえ」


「フフ、強がりかい?」


「強がりに見えるのかしら~?

 色々手を尽くして再戦がお望み~? さっさとかかってきなさいよ。

 しょせんCPUの分際で」


 ルベリオはインベントに背を向けた。

 手招きしつつその場から去っていく。再戦のお誘いである。


 インベントは躊躇なく歩き出す。




 去り行くインベントの背中を見るアイナ。

 アイナは最後に呟いた。


「――お前……誰だよ」


 ――と。





****


 インベントが去った後、イスクーサは荒野にひとり。


 そこへ、ひらひらと舞う蝶。

 イスクーサの手に届く範囲にやってきた蝶を――


「ふらふらしてるから……大事なものを失うのだよ。

 インベント君」


 そう言い――力を溜めた指で蝶の命を散らした。



 イスクーサがインベントに対して見ていたのは、禍々しい紫色の風。

 それに絡まり合っていた黄色い風。


 だが黄色い風は突然消えてしまう。

 そして紫色の風も、ゆっくりと薄まっていき、消えていく。


「こちらもエウラリアを失ったが、まあいいだろう。

 これで異物は排除した」


 イスクーサは荒野に消えていく。



****


「――ダメだったようじゃのう」


 ルザネアの町、西部。

 廃村オルカリユ。


 猪たちとともに過ごすクリエ・ヘイゼン。

 数か月前にインベントを見た際、高確率でインベントと繋がりの深い誰かを失うこと予知していた。


 だが、未来は分岐する。

 高確率であったとしても絶対では無い。

 ロメロに伝えたような『絶対に殺される』という予言のほうが稀なのだ。


 しかしながら願い叶わず――

 インベントに寄り添う風が消失したことをクリエは感じていた。


 風が消えることは死を表現する。

 老衰のように自然死の場合は、風が薄くなりゆっくりと消失していくが、突然死や殺害された場合は突然風が消失するのだ。


「――グッグッグ」


 クリエに寄り添う、神猪カリュー。


「フフ、心配してくれるのか。

 ありがとうな」


 カリューを撫でるクリエ。

 笑みを浮かべつつも、ゆっくりと瞳がくらく濁っていく。


「こうならないで欲しいと願っておったのは事実。

 じゃが……こうなることを期待していた。

 ほんに、私は……悪い女よのう」




 様々な思いが交差する。

 そんな中――インベントは――――




 第十章 歪曲的分岐点 完

これにて第十章おしまいです。

……バッドエンド? 鬱展開? まさかの夢落ち?


続きが気になる方は、ブックマークや☆評価いただけると幸いです。

11章は明るくてハーレムな展開かもしれませんよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 早く元のインベントに戻ってほしいなぁ
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