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分岐点へ④

 突如、集団の中から現れたルベリオ。

 アイナの髪を掴み、ファティマたちから離れていこうとする。


 だが、ひとりの男がルベリオの肩を掴む――

 いや掴もうとして躱された。


「おい、なんだお前は?」


 振り返るルベリオ。

 無機質な表情と瞳の冷たさに、ゾクリとする男。


 だがにこやかな笑みを浮かべ、ルベリオは彼方を指差した。

 男は指差した方向に目線を移すが――


 次の瞬間、強烈な痛みが後頭部に走り、男は大地に伏せた。

 四肢を痙攣させながらゆっくりと動かなくなっていく。


 騒めく一同。


「いきなりさあ、馴れ馴れしいよね。

 ボク、触られるのって大嫌いなんだよ。

 ウフフ、キミたちがさあ、怖い怖いって震えてた『隠し神』。

 ちょ~っと考えれば、ボクがその『隠し神』だってわかるよねえ?

 まったく。頭が悪いから、死ぬんだよ」


 急なカミングアウトに驚く一同。

 鼻で笑い、ルベリオはアイナを引き摺っていく。


「ああ、そうそう。

 キミの意識逸らし――クリティカルだっけ?

 クリティカルって便利だね。

 ボクはさ、キミみたいに小細工しなくても使えるけどさ。

 ハハ、幽壁が発動しないから、簡単に――殺せるねえ」


「そ、そりゃあ、よござんしたな」


 ルベリオは笑いながらアイナを突き飛ばした。


「さて、時間まで少しあるんだ。

 暇だからお喋りでもしようか?

 あ~めんどくさいから逃げたりしないでね?」


「……アンタから逃げるのは無理だろ」


 アイナは痛いほど理解している。

 ルベリオの恐ろしさを。


 通常、【マン】のルーンはモンスターの位置を把握できるルーンだが、ルベリオの【マン】は特別である。


 デタラメな探知距離。

 人間の位置の把握。


 加えて、対象との距離が近ければ微細な動きまで把握できる。


 ルベリオはアイナを見下し、笑う。

 次に集団を見る。笑顔の威嚇である。


 ざわついているが、誰も近寄ろうとはしない。

 いとも簡単に人を殺したルベリオに近づく者はいないのだ。


 そもそも集団のほとんどが後方支援部隊の人間。

 ルベリオの視線だけで戦意喪失である。


「そうそう。

 色々嗅ぎまわってたけどさ、犯人がボクだって気付かなかったの?」


「チッ。今考えれば、アンタなら人知れず殺すのもワケないか。

 考えてる余裕も無かった」


「いやいや、そんなに簡単じゃなかったさ。

 それにさあ、オセラシアの人たちを殺すのは心が痛んだよ」


「ハ? どの口が言ってやがる」


「フフフ、一応ボクはオセラシア出身だからねえ。

 と言ってもオセラシアに興味なんて無いけどさ。

 でもオセラシア兵ってバカだよねえ~。

 歩いて近づくとさあ、後方支援部隊だと勘違いしてさあ~。

 笑いを堪えながら、殺してあげたよ」


「最悪だな。

 てか、なんで野営地を襲ったんだよ。

 やっぱりエウラリアを救い出すためか?

 エウラリアは『星堕ほしおとし』の仲間だもんな」


 エウラリアが『星堕ほしおとし』の一員である確信は無い。

 鎌をかけたのだ。


 ルベリオは心底落胆した顔になる。


「いやはや、本当にバレちゃったんだねえ?

 信じられないね。本当に愚かだよ、あのオバサン。

 それになんだって? 救いだす~?

 なに言ってんのさ。エウラリアを始末したのはボクだよ?」


「……あ~。そうだったな。

 あれ? な、なんで殺したんだ?

 口封じ?」


 ルベリオは空を眺めながら、一呼吸。


「そうだねえ。

 エウラリアってさあ、便利だけど弱いんだよ。

 多分キミよりも弱いかな」


「便利?」


「フフフ、エウラリアのルーンは知っているかい?」


「【アンスール】――だろ」


 ルベリオは再度落胆する。


「本当にぜーんぶバレてるじゃないか、全く使えないねえ。

 なんであんなのを重宝してたんだろうね? 信じられないよね?

 ああ、そういえばキミも【アンスール】か。

 まあ、いいや。

 なんでもエウラリアには長距離の念話能力があるらしいよ」


「長距離??」


「マーキングした相手ならどれだけ距離が離れていようとも念話できるんだってさ。

 スパイにぴったりな能力だと思わない? 思うよね?」


「ハッ、そりゃまた便利な能力だ」


 アイナの卑屈な笑み。

 エウラリアの長距離念話に対し、アイナの念話は超近距離でしか使用できないからだ。


「フフ、でもバレちゃあどうしようもないよね。

 もう役立たずってわけだ」


「だから――殺したのか?」


 ルベリオは噴き出して笑う。


「ま、別に殺す必要は無かったけどね。

 とは言え逃がす義理も無いし、ついでなら助けてもいいけどさ。

 ついでに助けるのは無理だしね」


「無理? アンタの能力なら助けるのも簡単だろうに」


「――??

 無理だよ。ボクにはやることがあるからね」


 アイナは、会話が噛み合っていないことに気付く。

 アイナは、ルベリオがエウラリアを助けに来たのだと思っていた。


 それにしてはルベリオの行動も言動もおかしいのだ。


「――ちょっと待て」


「ん~?」


「アンタ……エウラリアを助けに来たわけじゃないのか?」


「さっきからそう言ってるじゃないか、頭悪いね。

 エウラリアなんてどうでも良かったんだよ。

 なんか拘束されてて驚いたけどね。

 まさかバレているなんて思いもしなかったし」


「はあ?

 お、おいおいおい」


「ん~?

 そろそろ、時間なんだけど」


「アンタがここに来たのは、エウラリアの長距離念話で呼ばれたんじゃないのか?」


「ハア~。話ちゃんと聞いてた?

 そんなこと一言も言ってないよね?

 それにマーキングした相手じゃないと念話はできないんだよ。

 ボクはマーキングなんてされていないし。

 あんなオバサンにマーキングされるなんて気持ち悪いよね?」


「じゃ、じゃあなんで来たんだよ!?

 よく考えたら、アンタがここに来た理由がわからねえ。

 兵隊さん殺して、後方支援部隊の人間まで殺して、隠し神気取り?

 何しに来たんだ!?」


 ルベリオは高らかに笑う。


「アハーアッハッハハハハハハッハハハ!」


 九官鳥が鳴くように高らかに笑うルベリオに、アイナはもちろんオセラシアの人たちも驚きを隠せない。


「ハッハッハ、あ~おっかし」


「な、なんだよ」


「全くキミは相変わらずバカだねえ。

 張本人がわかっていないなんてねえ」


「ちょ、張本人だ?」


「ボクがここに来た理由?

 そんなの――()()()()()に決まっているじゃないか」


「え?」


「インベントをさ、殺さないとって思ってね。

 だから来たんだよ」


「嘘だろ?」


「本当さ。

 エウラリアが『イング王国から来た空飛ぶ男に正体がバレたかもしれない』なんて連絡があった。

 だから、こうして出向いたわけさ。

 丁度、バケモノ――『雷獣王』だっけ?

 さすがにアレは倒せないだろうと思ったんだけどね~、倒しちゃったみたいだね。

 相変わらず、嫌になるほど凄いねえ」


 突然の『雷獣王』狩り成功報告に、アイナは「お、倒したんだ!?」と少しだけ安堵する。


「まったくさあ、倒せず終わると思ったのにね。

 予定では『雷獣王』とクラマはどこかに行くと思っていたんだけど、ちょっと計画が狂ったね。

 まあ……問題無さそうだけどさ。

 そうそう、インベントだよインベント」


「ああ?」


「イング王国の森でさ。もう二か月近く前か。

 どうしてボクはインベントに負けちゃったと思う?」


「負けた理由?

 そりゃあ……アイツ滅茶苦茶強くなっちまったから……」


「――――そうだよね」


 ルベリオは「強かったねえ」と呟きながら、上空を指差す。


「ホ~ラ、インベントが来たよ」


「え?」


 アイナは振り向き、インベントを探し、発見した。


(アイツ……ひとりか?)



 ――インベントがこの場所に到着するまで、後20秒。


 ルベリオはゆっくり。

 とてもゆっくりと歩き始めた。


「ボクが負けた理由はさ――」


「えあ?」


「ボクが選択を間違えたからなんだよ」


「選択?」


「フフフ、あの時、たった一つの選択がボクに敗北をもたらした」


 アイナには見当もつかない。

 アイナからすれば、ルベリオはインベントに完膚なきまでやられた。


 なにか一つの選択で状況が覆るとは思えないのだ。


「それはねえ――キミだよ」


「あ? アタシ??」


 インベントがこの場所に到着するまで、後10秒。


「あの日、インベントは豹変した。

 そのきっかけは、間違いなくキミだった。

 そう――猛獣使い(ビーストテイマー)――

 インベント使い(テイマー)のキミさ」


 アイナは否定する。


「い、いや、私じゃあねえよ!」


 振り返る。

 だが視界にルベリオはいない。


「――キミだよ」


 背後から聞こえるおぞましいほど冷たい声。


 そっと――

 ルベリオはアイナの腰に差さっているナイフを鞘から抜いた。

 ファティマのナイフである。



 ――インベントがこの場所に到着するまで、後五秒。


「だからねえ――

 ボクはもう間違えない――」







 凶刃がアイナの腹部を貫いた。

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[気になる点] まさかインベントの二重人格はアイナの能力なのか‼︎
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