ノルド隊(仮)①
ロゼとの模擬戦を終え、翌日インベントはマクマ隊から外された。
晴れてノルド隊に所属することになるかと思いきや大きな問題が発生した。
「……ノルド隊は無い???」
「そうだ」
駐屯地の一角で、インベントとノルド、そして駐屯地司令官であるエンボスと今後の身の振りに関して協議が行われていた。
「無いんですか? ノルドさん」
「ん……あ~、そうだったか?」
エンボスは溜息を吐いた。
「昔はノルド隊があった。だがノルドが一人で毎日モンスター狩りをしているからな。
他の隊員が戸惑うから隊は解散したのだ。
そもそも一人では隊とは言えんだろう。
ノルドは今、隊長職だが隊が無い状態だ」
「なんか変な状態なんですね」
エンボスは更に大きな溜息を吐いた。
「本来は許すわけにはいかんのだが……いかんせん実績がある。
特例として認めている状態……というよりはもう放置しようというのが警備隊の方針だ。
ルールで縛り付けても……この男、どうせ勝手にモンスター狩りに出掛けるからな」
「あ~それは分かる気がします」
ノルドは「――フン」と鼻を鳴らした。
「よってインベント。お前は誰かの隊に編入する――」
「え?」
「と思ったのだが、跳ねっかえりのノルドと良いコンビみたいだしな。
このままの状況でも悪くないとは思っている」
「それじゃあ……」
「ただし! さすがに二人では隊として認められん。
少なくとも四人……いやまずは三人にしろ」
「え~~……」
ということでインベントはノルド隊(仮)に配属が決まったのだが、少なくとも一人勧誘しないといけなくなった。
**
「勧誘ってどうすればいいんでしょうかねえ……」
「知らん」
「いやいやノルド隊存続の一大事ですよ?」
「隊なんて無くても俺は構わん。また一人で殺るだけだ」
「もお~……」
ノルドは勧誘に興味が無い。
そんなわけで勧誘はインベント一人で行わないといけなくなった。
「でも誰を勧誘すればいいんでしょうかね?」
「……一般的には負傷者が出た部隊や新人だな」
「なるほど」
「とはいえ……新人は配属されたばかりだろうしな。まあ気長に探すことだ」
「う~ん、そうですね」
ノルドとインベントはいつも通りモンスター狩りに森へ出ている。
そろそろ危険区域が近くなったため、ノルドは精神を集中し始めた。
それを理解してかインベントもお喋りを止めた。
「――ちなみに」
「え?」
「こんな毎日モンスター狩りをしている狂った隊に入りたがる奴がいるとは思えんがな」
「うぇ?」
くつくつとノルドは笑い、そのまま急加速してラットタイプのモンスターを殺した。
「こりゃあ……結構大変だなあ……トホホ」
**
勧誘することも重要である一方、毎日モンスター狩りをしているインベントは着実に狩りのスキルが上がってきている。
ノルドは自分自身で狩ることが多いが、インベントに任せることも徐々に増えてきた。
「おい、もっとスマートにやれ」
「はい!」
今日もラットタイプのモンスターを殺すインベント。
「ラットタイプは危険性なんてほとんど無い。
もっと接近してから殺れ」
「は、はい!」
ノルドは始めは嫌々だったものの、徐々にモンスターの殺し方を教えるようになった。
ただし、ノルドとインベントでは戦い方が違う。
ノルドは野生の勘をフルに利用し、基本的には先制攻撃で倒す。
それに比べるとインベントはモンスターを事前に見つける能力が無い。
ノルドが教えても良いのだが、それではインベントの成長につながらないと思い、敢えてモンスターと遭遇させて戦わせている。
(縮地……! からの突き!!)
収納空間の反発力を利用した単距離高速移動である縮地を利用し、接近して突く。
インベントの基本戦術ながら弱いモンスターであれば簡単に絶命させることができる。
(本当なら切断を狙いたいところなんだけどなあ……)
インベントは握力と腕力共に低い。
よって重い武器を振り切ることができない。
本来ならば、突くのではなく斬りたいと思っているのだが……。
(縮地!! からの……斬り!!
あ……)
一匹のラットタイプを斬った。
だがそれと同時に剣に違和感を覚えたのだ。
「あ~……やっぱりダメかあ~」
軽量の刀を持ってきたのだが、一度使っただけで刀はボロボロになってしまった。
「モンスター……というよりも」
ノルドが絶命しているラットタイプの傷口を棒で開いて見せた。
「動物ってのは皮があり、骨がある。
細い刀で切ればすぐにダメになっちまう。
モンスターなら尚更だな。
だから武器は耐久度が最重要だ。
これは対人武器と対モンスター武器の決定的な違いだな」
「対人……かあ」
インベントは対人戦に興味が無い。
ただモンスターを狩りたいからだ。
「対人の場合は……まあ……それはいいか。
対人戦なんてお前がすることは無いだろうしな」
「模擬戦以外に対人戦なんてすることあるんですか?」
ノルドは鼻で笑った。
「……戦争でもあれば――な」
「戦争……」
「イング王国は……平和だ。
だが隣接する地域が平和かと言われればそうでもない」
「そうなんですか?」
周辺地域の国際情勢は、情報通でなければ知らない情報である。
「南部のオセラシア自治区はそうでもないがな。
西部のダエグ帝国は微妙だな。あそこは軍拡主義だ」
「軍拡主義??」
「ようは力で纏め上げた地域なんだ。
そのせいか侵略する意識は高い。
イング王国とも昔は小競り合いがあったしな」
「へえ……知らなかった……」
「ずっと昔の話だ。俺がガキの頃は『ダエグは危険』って教え込まれたもんだ。
まあ今は不可侵条約だかなんだかを結んでいるからな……大丈夫だろう」
**
インベントの収納空間の中には剣や刀を始めとして様々な武器が入っている。
その中で最近多用しているのは槍である。
何故なら突き攻撃を多用するからだ。
だが斬撃したい思いも捨てきれておらず、様々な武器を試している。
駐屯地の倉庫はインベントからすれば宝の山なのだ。
「うん、この武器はいいな!」
「――薙刀か」
「そうなんですよ~! 倉庫でホコリかぶってました!」
「あまり使うやつはいないからな」
薙刀は長柄武器であり、両手でしっかり持つことができる。
腕力のないインベントにとっては扱いやすい武器なのだ。
「さすがに収納空間から抜刀するのは、長いので難しいですけど縮地からの斬撃には使いやすいですね!」
「ふん……腕力が足りんがな」
「あはは~わかってますよ~。ちゃんと握力も鍛えてるんですから」
握力を鍛えるためにニギニギボールを使っているインベントを眺めながら、ノルドは不思議に思った。
(こいつ……武器の扱いは素人だと思ったが、慣れるのは異常に速い。
槍や薙刀もそうだが、ハンマーや斧のような一般的じゃない……というよりも、武器として使われていないような物もそれなりに使いこなしていた。
まるで誰かの戦い方を真似するように。
まあ、握力が女子供レベルだからどうしようもないんだが……)
ノルドはインベントと行動を共にするにつれ、インベントにある種の違和感を覚えていた。
それもそのはず、インベントの戦いのイメージはモンブレだからだ。
「ほんとはガンランスとかあると楽しいんですけどねえ!
あ~でも重すぎて無理か……。やっぱり薙刀! 薙刀だと連続攻撃したいなあ~」
モンブレの世界に関する話をしだすと饒舌になるインベント。
ノルドは半分以上、何を言っているのかわからないのだが――
(相変わらず不思議な奴だ……)
若者の戯言だと思いスルーするのであった。