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喋りたいオッサン②

「ゼナムスを嘔吐させる方法――というよりも仕組みと言った方が正しいか。

 説明するには、順を追って話す必要がある。

 まず初めに、ゼナムスは偏食だ」


「ヘンショク……っていうと好き嫌いが多いってこと?」


「その通り。

 大半の野菜は食べない。特に生野菜は絶望的に嫌う。

 酸っぱいものは好まない。故に柑橘系のフルーツはかなり厳選する必要がある。

 豆類は好みが激しい。知らずに提供したコックが即刻クビになったこともある。

 肉は好む。だが部位にはこだわりが強い。

 そして、()()()をとにかく嫌う」


「……めんどくさいガキね」


「仮に私の子ならば、家から放り出すだろう。

 だが、ゼナムスに厳しく言える人間などいない。

 クズでも王は王だからな。

 だからゼナムスが嫌いなものはテーブルに並ばない。

 ま、ここまではいいかな?」


「そうね。

 今のところ、ゼナムスとご飯を一緒に食べたくないことがわかったわ」


「そうだな、同感だ。

 ゼナムスは偏食で、特にキノコが嫌い。

 これはゼナムスのことを調べればすぐにわかる情報だ。

 さて、ここからが本題だが、オセラシア南部でアラミタケというキノコが採れる。

 中々美味いキノコだったが、今では流通していない。


 なぜならば、ゼナムスはアラミタケを食べると発疹が出る。

 そして……嘔吐する」


「ほほう」


「名産品だったアラミタケだがね、ゼナムスが食べれないようなキノコは、栽培すべきではないとして栽培が禁止されてしまった。

 ハハ、バカだろう? まあそれもいい」


 インベントは頭を捻る。


(キノコが原因……ってのは間違いなさそうね。

 でも――)


「――どうやって? だろう?」


「そうね。

 吐かせたい時にこっそり食べさせるなんて……現実的じゃない」


「ククク、そうだな。その通り。

 エウラリアはある方法を使い、好きなタイミングでゼナムスに嘔吐させる方法を考案したのだ。

 まったく、あの子は天才だよ」


 イスクーサは左手の指を二本立てた。


「ゼナムスがアラミタケを食事として食べた回数は二回だ。

 まあゼナムス本人は覚えていないだろうがね。


 一度目は幼少期。キノコ全般を嫌うゼナムスだが、クラマはゼナムスに厳しかった。

 嫌々ながら食べたゼナムスは、発疹と嘔吐。

 だがこの時は、誰もアラミタケが原因とはわかっていない。

 子どもなんてものは突然吐いたりするものだからな。


 そして二度目。

 数年後、あえてクラマと一緒に食事するタイミングでアラミタケを出させた。

 この時ゼナムスは知らない。アラミタケが身体に合わないことを。

 普段はキノコを食べないからなあ。

 クラマが同席しているので仕方なく食べ――発疹と嘔吐。

 エウラリアはアラミタケが身体に合わないかもしれないと進言した。

 クラマとゼナムスの仲は更に険悪になり、エウラリアとの絆は深くなるわけだ」


 ゼナムスは両手人差し指を突き立て――


「一度目と二度目の間。

 エウラリアはまず、ゼナムスの身体が拒否する食材を探し当てた。

 まあ、普段食べないアラミタケの可能性は非常に高かったからこれは簡単。

 アラミタケの粉末をこっそりと食事に混ぜ、嘔吐。もう確定だ。

 だがこの情報を知っているのはエウラリアただひとり。


 あとは食事に入れたり、飲み物に入れたりすればいい。

 ハハハ、毒殺を疑われ何度かコックが打ち首になったな」


「コック……とばっちりもいいところねえ」


「些細な事だ。目的のためには犠牲が必要なのだ。

 そのおかげでエウラリアは、嘔吐を誘発するための情報を得た。

 そして、ここからが重要なのだ。インベント君」


 インベントは腕組みしながらイスクーサの話に耳を傾ける。


「アラミタケの粉末で嘔吐を誘発できるようになったとはいえ、好きな時に誘発できるわけでは無い。

 エウラリアはゼナムスに定期的にアラミタケを与え続けた。

 そして発疹と嘔吐を繰り返す中――ゼナムスにある変化が訪れる」


「変化?」


「気味の悪い雑音が頭の中で流れ始めるようになった。

 誰にも聞こえない――ゼナムスにしか聞こえない気色悪い音の連なり。

 ゼナムスはこれを『呪曲』と名付けた」


「はは~ん」


「嘔吐が先か、『呪曲』が先か。ゼナムスはわからなくなる。

 なにせアラミタケが根本原因であることを知っているのはエウラリアだけなのだから」


 笑いを押し殺すイスクーサ。


「笑えるだろう?

 悶えるゼナムスを介抱するエウラリア。

 そのエウラリアが渡した白湯には――アラミタケの粉末が混ぜられているとは知らず。

 そして、そんなことを数年繰り返せば、ゼナムスは思うわけだ――」


「『呪曲』がゲロの原因だと」


「その通り。

 原因を捻じ曲げたんだよ。

 アラミタケから『呪曲』へ」


「『呪曲』か。

 なるほどなるほど。

 エウラリアは頭に『呪曲』を流す能力――ルーンなのか。

 頭の中に直接、音を流すルーン――」


 インベントは脳裏にアイナを思い浮かべる。


 エウラリアのルーン――それは――


「エウラリアのルーンは――――【アンスール】ね」


「ハハハ、ご名答。

 まあ、オセラシアの人間は誰も知らない。

 エウラリアは【フェオ】のルーンということにしている。

 【フェオ】ってのは愚民たちには理解不能なルーンだからな」


「カッハ~。

 一番の理解者が犯人ってわけね。

 あ~あ、そりゃあ歪むわ。

 そんでもって重要なタイミングで『呪曲』を流せば、ゲロ王――『愚王』様の出来上がりってわけね」


「完璧な計画だと思わないかい?

 そう――完璧だ。

 バレるわけがない……だが現実問題、君が来たことで全部狂っている。

 なぜだろう? ふふ、面白い」


「さあねえ、教えてやんねえ」


「別に君から答えを聞きたいわけでは無い。

 エウラリアを失うのは確かに痛いが仕方の無いことだ。

 む、そうか……こっちの問題もあるな。

 そうだ、インベント君。ついでに教えてあげようか。

 あのモンスター、『雷獣王ライジンガ』と呼称していたモンスターの秘密も」


「カカ、なんでも教えてくれるのねえ」


「実は、アレもエウラリアと深い関係がある」


「ほほ~う。確かにあのババアがなにかしてた気はしてたのよ。

 なんていうか……怒りゲージを弄っていた感じ」


 イスクーサは小さく手を叩く。


「全く素晴らしいな。恐ろしい観察眼。興味深い男だ、君は。

 怒りを弄るか。間違ってはいないな。

 アレには好きな音と嫌いな音を仕込んでいる。

 ゆっくりとやさしい単調なリズムは心を落ち着かせる。

 逆に激しい高音の連続は苛立たせ、闘争本能を刺激するようにね」


 インベントは『雷獣王』との戦いを思い返す。

 不可解なタイミングで、戦意を喪失したり、大きな黒猫状態になったりした『雷獣王』。


 インベントは感心し溜息を漏らす。


「……マ~ジでモンスターを飼いならしてんじゃん」


「そうでもないさ。問題は山積みだ。

 モンスターをコントロールできた事例はまだまだ少ないのだ。

 『雷獣王ライジンガ』は非常に希少だったんだ。

 全く……まあそれはいいか――」


 イスクーサは石に腰かけた。


「さて――インベント君」


「なによ?」


「私がこんなにペラペラと秘密を喋ったのは、どうしてだと思う?」


 インベントは「エフエフのコネルオかよ」と呟き――


「なにがなんだかわからなくなっちゃったから? なわけ無いか。

 なんでなのよ?」


 沈黙するイスクーサ。

 風が止んだ。


 インベントはイスクーサの目を見るが、なぜか目を逸らしてしまう。

 







「簡単な理由だ。

 まず一つ、エウラリアは死ぬからだ。

 そして――()()()()()()も死ぬからだ」

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