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ヤれるって思ったら、怖~いお兄さんが出てくる。世の中ってそういうもんだよ。子猫ちゃん。

「さあて、ゲームを始めましょうか」


 インベントは『雷獣王』の周りをゆっくりと歩き始めた。


「せっかくだから面白くしたいわよね。

 なので縛りプレーをするわよ」


 インベントが『雷獣王』に対し講義をするかのように話しかける。

 当然、『雷獣王』はインベントの言葉はわからない。


 だが『雷獣王』は視線で威嚇するにとどまり、インベントを襲ってこない。


 警戒しているのだ。

 当たったはずの攻撃を擦り抜けた、得体の知れないインベントを。


 攻撃してこない『雷獣王』に対し、首を傾げる。

 更に片足を浮かせ、全身を傾げさせるインベント。


「フフフ、警戒してるのね~?

 まったく恥ずかしい子ねえ。

 アンタってあのオバサンに操られたりするぐらいだから、ホントにバァカなのねえ。

 ちゃんとモンスターらしく野生ワイルドさとか異常攻撃性は捨てちゃダメでしょうに。

 プフフ、ワロスワロス」


 インベントは右手に剣を持ちながら、五歩、『雷獣王』から離れた。

 そして上空に発射する。

 発射した剣は、数秒後には『雷獣王』に到達する。


 剣が到達するまでの時間――


「そうそう縛りプレーの内容ね。

 空を飛ぶのは無しにしましょ。

 空中は無敵ゾーン過ぎてかわいそだし」


 そう言った後、まるでペンギンのように両手の先を外側にピンと張る。

 続け、収納空間を使用せず真上にジャンプするインベント。


 そして、『雷獣王』が剣を叩き落とそうとした前足を伸ばした瞬間――


 丸太を踏み、『雷獣王』目掛けて発射されるインベント。


「キイイ~~ン」


 迫るインベントと剣。


 二択を迫られた『雷獣王』。

 急に強いられた選択肢に『雷獣王』は一瞬戸惑う。


 とはいえ剣は雷の衣で弾かれるのだから放置すれば問題無い。

 振り上げた前足でインベントを叩き潰すことを選択した『雷獣王』。


 完璧なタイミング。

 点と点が重なり、インベントはトマトのように弾け――ない。


 またしても消えるインベント。


 『雷獣王』は探す。

 そしてまさかの場所にインベントを発見した。

 なんとインベントは『雷獣王』の腹の下で横たわっているのだ。


 仰天した『雷獣王』は前方に飛んだ。

 そして身体を反転させ、横たわるインベントを見る。


(????)


 二体のインベント。


 『雷獣王』は横たわるインベントと、更にその先に立っているインベントを発見した。

 そして横たわっているインベントは偽物――ただの人形だと知る。


 薄ら笑いを浮かべるインベント。


 インベントは『雷獣王』の攻撃に合わせて急加速し、腹の下を通過。

 通過する最中、インベントダミー人形を設置した。


 そして『雷獣王』の股間のトンネルを通過して『雷獣王』の背後に回ったのだ。


 雷の衣は健在。

 だが『雷獣王』の腹部は比較的安全であることは確認済み。


 とは言え危険極まりないのは事実。

 あえて危険を冒したのは、挑発だ。


 更に――


 インベントは浮遊しようと試みる。

 だが――


「う、うわああ~~!?」


 空中でバランスを崩し、倒れこむインベント。


「し、しまった~、ジェット燃料がもう無いわ!

 ああ~、どうしよう~もう走って逃げるしか無いわ~」


 頭を抱えるインベント。

 『雷獣王』は――そんなインベントを見て戸惑っていた。


 奇妙な道化師。

 インベント・リアルト。


 インベントは舌打ちする。

 「ああ~クソ」と悪態をつきながらダミー人形に接近し、回収。


 続け中指を立てて「ファッキュー! ぶち殺すぞ! メス猫!」と叫ぶ。


 更に片手に剣を、もう片手に槍を。


「演技とかダリぃのよ!

 さっさと――殺しに来いっての!

 丁度良い頃合いなんだよ!」


 両手の武器を皮きりに、連続で武器を発射するインベント。

 発射する際に小手と武器が擦れ、焦げた臭いを発生させる。


 高速で正確な攻撃が『雷獣王』の顔目掛けて飛んでいく。


(チッ、武器のストック無いんだからさっさと攻めてこい!)


 苛立つインベント。

 そして――やっと『雷獣王』の闘争心に火が付いた。


 獲物を狙う瞳。

 後ろ足に目一杯力を溜め込み、いつでも飛び出せる体勢。

 そして鬣の代わりに逆立つ、雷の衣。


「――あら? 煽り過ぎたかしら?

 暴走状態?」


 次の瞬間――

 荒野に迅雷が疾走する。


 大地を抉りながら飛来する『雷獣王』をインベントは間一髪で避けた。


「うっほお、ヤバイヤバイ!

 アハハ!」


 インベントは走りだす。

 収納空間の力を最大限に使用し、大地を飛ぶように走る。


 最後の――最期の追いかけっこが始まった。


****


 インベントが走る。

 走ると言っても進行方向は見ていない。

 常に『雷獣王』を視界に収めながらの背面走行。


 ここにきて新たなアクション『溜めダッシュ』を披露してきた『雷獣王』。

 インベントは回避するのがやっと。


 空中に逃げれば良いのだが、自ら定めたルールを遵守するインベント。


「いいわ、いいわね!

 でもまだまだ無駄が多いよん~」


 一歩間違えればあの世行きの回避を繰り返す。

 ギリギリの逃走劇を楽しむインベント。


 だがそれでもインベントの愉悦の笑みは止まらない。

 生温いゲームでは面白く無いからだ。


 それに――インベントにはまだ余裕があった。

 使うつもりは無いが奥の手もある。

 『雷獣王』の攻撃は熾烈ではあるものの、奥の手を使うほどではないのだ。


 だからこそインベントはスリリングなゲームを楽しんでいる。

 スリルを楽しむ心と保険。どちらもインベントは持っている。



 そしてゴールはもうすぐだ。


**


 クラマと別れてから15分後――


(そろそろ準備万端かしらねえ~?)


 インベントは『雷獣王』に追われながら、とある場所を目指していた。


 それは丘である。

 アイナとひと悶着あったあの丘。


 丘からは狼煙があがっていたため、遠くからでも確認することができた。

 まあ狼煙を用意したのはインベントなのだが。


「ふふ、よ~し見えた見えた」


 『雷獣王』に追われながらも、丘を視認したインベント。


「いいわね。ちゃ~んとイカした()してるじゃない」


 そして怒り狂っている『雷獣王』を凝視するインベント。


「怒りメーターはマックスだと思うけど、ダメ押ししとこっか」


 インベントは完全に『雷獣王』の動きを読み切っている。

 既存の動きに加え、『溜めダッシュ』という手札が増えたが、数度見てプロファイリングは完了した。


 逆に『溜めダッシュ』は予備動作が大きいので、ある意味オイシイ攻撃扱い。


「フフ、おいでおいで」


 『溜めダッシュ』攻撃が来る。

 インベントはその前に、左腕の手甲をすぐに外せる状態にし、服の袖を切った。


 そしてギリギリまで引き寄せて回避する。

 傍から見れば危険極まりない行為だが、インベントにとってはなんてことない回避。


 だが――


「ぐ、ぐああああ!」


 呻き声をあげるインベント。

 振り返った『雷獣王』はインベントを見て、目を丸くする。


 インベントは右手で左腕を掴みながら、大袈裟に痛がっている。


 インベントの左腕に装備されていた小手が地面に転がり、袖は破れている。

 『雷獣王』からすれば、攻撃が当たったと勘違いしても不思議ではない。


「ひ、ひいい~、た、たすけてええ~」


 丘に向かって走り出すインベント。

 否――『雷獣王』を恐れて逃げる矮小な生き物。


 目の前から忽然と消えるインベントも、手の届かない空に逃げるインベントももういない。

 インベントはただただ大地をちょこまか動き、逃げ惑うことしかできなくなったのだ。


 インベントはもう弱っているのだ。


「きゃあああああ~~」


 前足を伸ばせばすぐに届きそうな位置にいるインベントを攻撃する『雷獣王』。

 なんとか回避するインベント。


「た、たすけてえ~、ゆるしてえ~、お代官様~」


 惜しい。

 これまた惜しい。

 次第に攻撃することに夢中になる『雷獣王』。


 ――徐々に丘を上っている事に気付いてもいなければ、気にも留めていない。


「ガ、グガッ! ガッガッガ!」


 ――そして。


(――頃合いね)


 インベントが高速移動し、丘の頂上まで。


 もしも『雷獣王』が人間だったならば――

 『よお~し、新技の溜めダッシュ攻撃で決めちゃうぞ!』とでも思ったのだろう。


 なにせ先ほどは非常に惜しかったのだから。


 後ろ足に限界まで力を溜め込み、今日一の『溜めダッシュ』を実行。

 迅雷の如く凄まじい、そして凄まじく間抜けな攻撃を敢行した。


「――ようこそ、大地の王よ」


 インベントは両手を広げ、後方に跳んだ。


 後を追うように跳ぶ『雷獣王』だが、惜しくも攻撃は当たらない。


 だがしかし、手に届く範囲にインベントがいる。

 あと一歩踏み込めば――インベントを亡き者にできる。


 あと一歩。

 前後左右、どの足でもいい。

 大地待つ。


 待ちきれず空転するペダルを漕ぐように、両足を回転させる『雷獣王』。

 だがいつまで経っても足が大地に到達しない。


 それもそのはず――

 大地は遥か下にあるからである。


 あるはずの丘がごっそり半分消えていたのだ。




「空へ――そらへようこそ。

 バカ猫ちゃ~ん」

投稿遅くなりました。


そろそろ本章も終盤ですが……予想外の結末を迎えるかもしれません。

まさかの全部夢落ち!?

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