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心の分岐点

 嘘は砂上の楼閣である。

 一つボロが出れば、瞬く間に崩れていく。


 エウラリアがモンスターを操るだけでなく、長年に渡りゼナムスにゲロを吐かせていた――

 そう暴露したインベント。


 だがゼナムスやゼナムスの親衛隊は信じられずにいた。

 非現実的であり、特に証拠も無い。

 そしてエウラリアには宰相秘書官としての長年の実績がある。


 どこの馬の骨とも知れないインベント、そしてエウラリア。

 どちらを信じるかと言えば明らか。


 だが、アイナは違う。

 エウラリアは仕事のできる女だとは思っているが、信頼しているわけでは無い。

 だから確かめる。


 エウラリアの後ろに回り、小石を投げた。

 奇しくもインベントと同じ方法で、『幽結界』の有無を確かめたのだ。


 エウラリアの背中に小石が当たる。

 しかしエウラリアは何事も無かったかのように振舞う。


 だが小石が当たる前にビクリと反応してしまうエウラリアをアイナは見逃さない。

 咄嗟の動きは中々制御できるものではないのだ。


「……ふ~ん」


 エウラリアが悪人だと仮定し、インベントが暴露した内容を基に熟慮するアイナ。


 いくらでも疑うことはできるが、証拠や決め手は無い。

 『幽結界』の件だって、証拠は無いのだ。インベントが嘘をついている可能性はある。


(あ!)


 だが、アイナはとある出来事を思い出す。

 アイナしか知らないある出来事を。


 結果、インベントが知らないエウラリアの真実に到達する。


 まあ、インベントはエウラリアに興味などないのだが。

 インベントは利用できるか、邪魔になるかぐらいしか頓着していない。


(そういうことかよ。

 確かめてみねえとわかんねえけど、多分間違っていないはず)


「あ~、クソッーー」


 苛立ちを声に。

 溜息の後、舌打ちするアイナ。


 苛立ちを隠さずインベントを見るアイナ。


「で? これからどうすんだ? インベントさんよ」


「ん~? 私は作戦通りゼナゼナが動いてくれれば他はどーでもいいわよ」


 アイナの冷めた目。

 そして「さいですか」と冷たく言い放つ。


「だったら王様はさっさと行動開始したほうがよござんすね」


 アイナの提案にゼナムスは首を振る。


 最も信頼しているエウラリアが、裏切者かもしれない。

 いまだに信じられず動揺しているのだ。


 それでもアイナは動じない。


「ショックなのはわかりますけどね~、さっさと動かないとインベントがキレてその女ぶっ殺しちゃうかもしれませんぜ」


 笑顔で脅迫するアイナ。


「な!?」


「とりあえず、王様は働きましょうよ。ね? ね?」


 ゼナムスとエウラリアがなにか言いたそうにしている。

 アイナは冷たく微笑んだ。


「エウラリアさんが裏切者かどうかは後で考えましょうね。

 潔白は後で調べればわかるでしょうし。ね?

 だから、そうだな。親衛隊は四人いるし、二人は王様の護衛でいいですかね?

 そんでもって、残りの面々は野営地にでも行きましょうかね~。

 ファティマさんとエウラリアさんは一応拘束させてもらう感じかな?

 縄はインベントが持ってるだろうし。

 それでいいですよね? 王様。ね?」


 アイナは同意を求めるが、そこに拒否権は無い。対案を考える頭脳も無い。

 ゼナムスは「う、うむ」と同意する。


「はいはい~、それじゃあ行動開始しましょうね~。

 親衛隊の皆さんは目上の人を拘束しなきゃいけなくて戸惑うでしょうが非常時ですからね~。

 王様の命令なんでお願いしますね~。


 ――そんでもって、インベントはさっさと『雷獣王』のとこにでも行け」


 てきぱきと段取りするアイナ。

 そして、インベントに対して突き放すような発言。


 インベントは表情を変えず「それじゃあ行ってくるね~ん」と飛び立った。


 飛び去るインベントを眺めながら歯ぎしりするアイナ。


「なんで……先に言わねえんだ。バカヤロ」


 アイナは怒っていた。


 インベントが、エウラリアが『幽結界』を使えることを言わなかったからである。


 もしも事前に知っていれば、惨劇を未然に防げたかもしれない。

 少なくともエウラリアの動きを警戒することはできたはずである。


(言わなかったってことは、言う必要が無いって考えたからだろ?

 そのせいで……何人死んだと思ってんだ)


 怒りがこみあげてくる。

 アイナにとってはゆかりの無いオセラシアの人たちだとしても、救えるかもしれない命をみすみす失っている。


 誰もアイナを責めないかもしれない。

 だが許される行いでは無いと思っているのだ。


 そんな中、ふと回りを見渡すと、どうしていいのか戸惑っている面々。


 呆然とする愚かな王様。

 裏切者扱いの宰相秘書官。

 王殺し未遂の皇女。


 指揮命令系統もへったくれもない混沌カオスな状況。


 アイナは髪をボサボサと掻いた。


(ま、乗り掛かった船。ちゃんと最後までやりましょうかね)


 アイナは柏手を打つ。


「そんじゃま、二手にわかれるとしましょうかね。

 さっさと終わらせましょうぜ、ニヒヒ」



 『雷獣王』狩りは終盤を迎えつつある。


 そして――


(これが終わったら……サヨナラだ。

 もう付き合いきれん)


 アイナはインベントとの別れを決意していた。


****


 『雷獣王』と追いかけっこしているクラマ。

 ナイワーフの町から徐々に離れていく。


 本来ならばもっと効率よくナイワーフの町から遠ざけることも可能。

 あえてスピードを落としているのは、多少なりともインベントの提案に期待しているからだ。


(ゼナムスにできるわけなどない。

 じゃが……本当に可能ならば、終わらせたいもんじゃ)


 クラマはゼナムスが足止め役などできると思っていない。


 クラマはゼナムスを心の底から見限っている。いや――見限っていた。

 今日の今日までは。


 一時的とはいえ【故郷オセル】のルーンを使いこなし、先代の豪王ダイバをも上回る戦いを見せたゼナムス。


(現金な男じゃのうワシも。

 【故郷オセル】を継承する孫が、力を発揮できるもんならして欲しい。

 そう願っちまってる)


 揺れるクラマ。

 そんなクラマの元に――


「どうも~、お待たせ~」


 インベントが暢気にやってくる。

 クラマは「なんか楽しそうじゃのう」と言いつつ雷獣王の届かない高さまで高度を上げた。


「で? うまくいきそうなのか?」


「ん~~、――多分」


「なんじゃ、多分か。

 やはりゼナムスに、先程のように力を使いこなさせることは無理じゃろうて」


「カカカ、あ~違う違う」


「む?」


「ゼナゼナに足止めさせるのは、まあ大丈夫でしょ。

 『愚王』でもできる簡単な仕事しか任せてないし。

 そもそもアレにそこまで期待するほどバカじゃないわよ。

 できもしない奴に無理難題を押し付けるほどね」


 ゼナムスが愚かなことはクラマが良く知っている。

 だがインベントから言われると、どうにも苛立つクラマ。

 まあ、だからといって怒ったりはしないのだが。


「だったら問題無かろう?」


「私が『多分』って言ったのはね。

 正直一番心配なのはお爺ちゃんなのよん」


「む? ワシ?」


「そ。

 ゼナムスは今頃真面目に働いているハズ。

 邪魔は入らないだろうし、アイナがうまくやってくれるでしょ。

 だけどまあ、この作戦だと『雷獣王』を完全に停止させることはできないのよ。

 かなり狙いやす~い状況は演出できる。

 だからねえ~、お爺ちゃんがちゃんとポンコツ必殺技を当ててくれるかが一番心配」


 クラマは顔を少しだけ歪ませるが、笑みも混じる複雑な表情に。


「ハッ。ガキんちょに心配されるとはのう。

 『星天狗』なめんじゃねえぞ」


「アハハ、ま、一発勝負よ。

 本番には強いタイプでしょ~? 『星天狗』ちゃん」


「当たり前だぜ。

 修羅場を潜ってきた数が違うわい」


 両指をボキボキと鳴らすクラマ。


「それじゃあまあ……町の方へ戻って。

 さっきまで雷獣王と戦ってた場所。

 狼煙のろしが上がってるから――後は見ればわかるわ」


「わかった」


「それじゃあ、15分後ぐらいに行くわ~」


 そう言ってインベントは落下してく。


「お、おい!? なんか説明は無いのか? 作戦の!」


「行けば――――わかる――――」


 重力に身を任せ、落ちていくインベント。

 クラマは「ああ、もう!」と拳を震わせた。



 そんなクラマを見ながら――


「ふふ。

 なるようになる。

 成功確率は60%ぐらいかしらね~。

 ま、失敗しても別にどう~ってことないわ」


 インベントは着地する。

 落下速度をコントロールし、ゆっくりと大地に降り立つ。


「ねえ? アナタもそう思わない?

 所詮、ゲームなのよ。こんな世界は」


 目の前には『雷獣王』。




 決着の時は近い。

 だが分岐点まではまだ遠い。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さすがにインベントの女口調が長すぎてくどいわ。主人公がここまで性格が急変してそのまま長く続くともはやその小説のアイデンティティが失われて行く気がする。
[一言] これはアイナの面倒くさがりな性格が復活したかな? それか、あのままでは死んだ可能性が高かったけど、5割位インベントがヒロインちゃん(多分)の人格に書き換えられてる原因なのを自覚してないのかも…
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