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犯人がなにをしたかは知りませんけどね

 『幽結界かくりけっかい』。


 360度全方位、感知できる能力。

 範囲は自身を中心に四メートル程度。


 インベントが初めて『幽結界』の使い手に出会ったのは、ロメロとデリータである。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレーク狩りが終わった後。


 その際は小さな違和感覚える程度だった。


 その後、ロメロチャレンジを皮きりにロメロにつきまとわれる。

 まあ、つきまとわれる原因はインベントが、クリアしたロメロチャレンジをおかわりしたからなのだが。


 兎にも角にも、インベントは『幽結界』の恐ろしさを誰よりも知ることになる。

 正確に言うならば『幽結界』を使いこなすロメロの恐ろしさを。


 『幽結界』があるためロメロには不意打ちの類は一切通用しない。

 そして『幽結界』関係無しに異常な強さを誇る『陽剣のロメロ』。


 インベントが全力で戦っても全く歯が立たない、圧倒的な実力差。


 と言ってもインベントにとって全力を出せる相手は『モンスター』。

 対人戦であれば無意識に力をセーブしてしまう。

 インベントとて人殺しはしたくないからだ。


 だが、ロメロ相手には力のセーブなど不要。

 殺す――いや狩るつもりで戦っても絶対的な強さで跳ね返してくれるロメロ。


 次第にインベントの中でロメロという存在がなんとも分類し難い存在になる。


 インベントにとって全力を出す相手はやはり『モンスター』なのだ。

 だがロメロも全力で戦える相手。


 ロメロと『モンスター』は非常に近しい存在と認識するインベント。 


 結果、ロメロは『人型モンスター』として認定された。

 そんなロメロは『幽結界』の使い手。


 色々拗れた結果、『幽結界』を使える相手なら本気でりにいっても構わないというルールが、インベントの中で生まれた。


 これが『ぶっ殺スイッチ』である。


 そしてアドリー、クラマ、デリータ、そしてクリエ。

 数々の『幽結界』持ちの人物と出会う中で、見るだけで幽結界が使えるか判断できるようになった。

 名付けるならば『幽結界レーダー』といったところだろうか。


 『幽結界レーダー』の正確な仕組みはインベント本人もわかっていない。

 なぜ備わったのかもわからない。


 だが、独特なオーラのようなものを感じることができる。


 まあ……それだけと言えばそれだけの能力。

 しかしながら――――幽結界を使えることを秘匿している人物からすれば天敵となる能力なのだ。



****


 時は少しだけ遡る。


 『愚虎グトラ』の像が跨る塔で、はじめてゼナムスとインベントたちが出会う。

 途中、クラマが乱入し、ゼナムスとクラマは口論になる。


 そんな時――窓ガラスが割れた。

 もちろん、割ったのはインベント。


 ゼナムスとクラマの口論がヒートアップしていたため、強制的に仕切り直しさせた。

 そしてゼナムスに『雷獣王狩り』を決断するように誘導するのが目的だった。


 だが――窓ガラスを割り、場が落ち着くまでの間、インベントはもう一つ行動を起こしていた。



 窓ガラスにその場にいる全員の視線が集まる中――

 当然、エウラリアも窓ガラスに注目していた。


 そんな時――


 インベントは小石を飛ばした。

 エウラリアの死角から、エウラリアのお尻目掛けて。


 小石がお尻に当たる前に、エウラリアは無意識に反応し掌で受け止めた。

 コロコロと壇上から石が転がり落ちる。


 エウラリアは小石が飛んできた方向に視線を移す。

 そして――視線の先にはエウラリアを凝視するインベントの姿が。


 その場の全員が窓ガラスを見ているのに、インベントとエウラリアだけが見つめ合っている。


 エウラリアは息を飲んだ。


(石を……投げたのは彼――

 なぜ? え? どういうこと?)


 無表情なインベントの瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥るエウラリア。


 意図がわからない。

 全貌が見えない。


 だが、なんとも言えない不気味さが、インベントからひしひしと伝わってくる。

 エウラリアは考える。


(こんな……窓ガラスが偶然割れたタイミングで?


 偶然じゃない? この子が割った?

 『窓ガラスが割れた』ではなく、『窓ガラスを割った』タイミングで私に対して石を投げてきた?

 なぜ? なにかを伝えるため?)


 窓ガラスが割れたことで警戒態勢になる周囲。

 非常事態だ。

 だからこそ宰相秘書官の立場としてやるべきことや発言すべきことがある。


 あるのだが、エウラリアは思考するだけで精一杯。

 インベントを無視することなどできようがない。


 そんな時――インベントの左手にはいつの間にか小石が。

 さきほどとは別の小石。


 その小石を持った手を左から右に移動させ――右手で左手の動きを止めた。


『お前はどうして見えもしない小石を手で防げた?』


 同じ動きをもう一度。


『お前はどうして見えもしない小石を手で防げた?』



 意図が伝わり、背筋が凍るエウラリア。


(なぜ……私が『幽圏ゆうけん』を使えることを知っている?

 だ、誰かが教えたのか? そんな……私が『幽圏ゆうけん』を使えることは誰も知らないはず)


 混乱するエウラリア。

 『幽圏ゆうけん』――つまり『幽結界かくりけっかい』を使用できることをなぜインベントが知っているのかわからない。


 これまでに一度もバレたことが無いのだ。


 それが初対面のインベントにバレてしまった理由がわからない。

 まさか『幽結界レーダー』を使えるなど露知らず。


 そして『幽結界』が使えることがバレただけならまだいい。

 だがインベントがどこまで知っているのかわからない。

 目的もわからない。

 敵意があるのかもわからない。


 これ以上無い精神的な不意打ち。


 そしてインベントの目的を推察しようにもインベントの情報が少なすぎる。

 エウラリアにとってはのインベントは、イング王国側の人間であり、クラマの知り合いの運び屋。


 そんな男が『幽結界を使えると知っている』ことだけを伝えてきた。


 どうしていいのかわからなくなる。

 沈黙し、流れに身を任せることしかできないエウラリア。


 動揺は――顔に出た。


 インベントはエウラリアの表情の変化を確認した後、優しく微笑んだ。

 そして――アイナに耳打ちする。


「ここからは私が王様と話すわ。私に任せて~。

 だから、うっさい爺ちゃん黙らせといて~。ヨロシク~」


 インベントはエウラリアの話をしたわけではない。

 だが、エウラリアからすれば気が気では無い。


(なにを話した? わ、私をどうするつもりなの?)


 インベントがなにを知っているのか?

 なにを画策しているのか?


 エウラリアにはなにもわからないのだ。


**


 インベントは、エウラリアを一目見た瞬間から『幽結界』を使えることがわかっていた。

 滅多にいない『幽結界』持ち。異常なほど目立つのである。


 さて――インベントの経験則では、『幽結界』が使える人間は揃いも揃って曲者揃い。


 未来が見えるクリエとデリータの、ヘイゼン姉弟。

 最強の『陽剣』、ロメロ・バトオ。

 空飛ぶ爺さん、クラマ・ハイテングウ。

 そして、樹木を操るロリータおばさん、アドリー・ルルーリア。


 『幽結界』を使えるエウラリアが、ただの一般人であるはずが無い。

 当然エウラリアもなにかしらの特殊能力のようなものがあるはずと、インベントは判断した。

 もちろんその能力はわからない。


(どんな能力なのかしらねえ?

 ファティマは一言も話して無かったけど。

 そもそもファティマは知っているのかしら?

 皇女殿下様はな~に考えてるかわからないしねえ~。

 ま、秘匿してる可能性もあるか。

 王家の懐刀的な感じでね。

 それとも……なにか悪巧み?

 んふふ~ん。


 ――エリート才女って言えば裏切りキャラじゃな~い? カカカ)


 インベントはエウラリアが実は裏切者じゃないかと妄想した。ただの直感である。

 そして仮に間違っていたとしても状況が悪化する可能性は低いと判断した。


(ま、クラマの爺ちゃんもいるし、打ち首にはならないでしょ)



 だから窓を割り、石を投げた。

 エウラリアにやましい心があるかどうかを知るために。


 そして反応を見て、確信する。


(カカカ、アナタ悪人ね~)


 ――と。



 エウラリアの精神的優位に立ったインベント。

 エウラリアがオセラシアでかなりの発言権を持っていることはわかっていた。


 後は――自らの望む愉快な方向へ進むだけ。

 ゼナムスに『雷獣王』を狩るように焚きつけ始めるインベント。


 エウラリアは理解できない。

 なぜゼナムスに『雷獣王』を狩らせようとするのか理解できない。


 だが、インベントの邪魔をするわけにはいかない。


 インベントが望む以上、ゼナムスの背中を押すしかなかった。

 なにが目的かわからない以上、敵対するわけにはいかなかった。


 だから――


「『星天狗』が倒せないモンスターを、あなたが倒すんですよ。

 ()()()()()


 そうインベントが提案した時――

 クラマが「無理だ!」と叫んでいる時――


 ゼナムスにしか聞こえないぐらいの小声で――


「――素晴らしい提案ですわ」


 と呟いた。


 エウラリアには確信があった。

 自身が後押しすればゼナムスは確実に決断するだろうと。




 結果的にはインベントが描いた未来へ突き進むことになる。


 誰もが予想しなかった『愚王』の決断。

 それはインベントとエウラリアが結託したからこそ実現したのだ。


 そして――悲劇に至る。

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