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ロゼ・サグラメント来襲③ チョロイ女

評価・ブックマークありがとうございます!

「……私がそこのボンクラより弱いですって?」


 ノルドは吹き出しそうになった。


(おいおい、おりこうさんキャラはいいのかよ?)


「まあ、そうだな。

 俺はインベントが大物狩りメンバーに入るのはまだまだ早いと思っている。

 つまり……ロゼ。お前もまだまだ早いってのが結論だな」


 ロゼは唇をプルプルさせている。


「だ、だったら!!」

(お、そうそう。だったら? どうするのかな~?)


「私が……!」

(ワタクシが~?)


「コイツに勝てば良いんですね!?」

(はい、ちょろーい)


 ノルドは笑い転げそうになっているが、「まあいいんじゃないか?」と応える。


 それに対し、驚いたのが当の本人であるインベント……よりもバンカースだった。


「ちょ、ちょっと待てよ!! なんでここでインベントが出てくるんだ!?」


 バンカースはノルドに詰め寄った。


「お、おかしいだろ? インベントがロゼに勝てるわけない」


「そうか?」


「あ、あいつはなんかおかしな奴だが、さすがにロゼに勝てるわけないだろ?」


「まともにやればそうだな。だが……勝つよインベントが。

 ロゼも初見殺しっちゃあ初見殺しだが、インベントはそれ以上だからな。

 一発勝負なら……負けねえよ」


(まあ……多分だけどな)


 仮にインベントが負けたとしても別に何かを賭けているわけではないので、ノルドは気楽なのだ。


「おい、ロゼ」


「なんでしょう」


「先に一本入れたほうが勝ちってことでいいか?」


「……いいでしょう」


「よ~し決まりだ!」


 というわけでインベントとロゼが模擬戦を行うことになった。


**


「いやいやいや……なんで俺が戦わないといけないんですか?」


「まあ、成り行きだ。サクっと勝ってくれ」


「無理ですよ。あの子滅茶苦茶強いですよ」


「ああ、でもお前なら楽勝だ。初見なら絶対負けねえ」


「ほんとかなあ……」


 ノルドは小声で――


「ここで勝てば、俺とバンカースに貸しがつくれるぞ」


「え?」


「俺はともかく、バンカースに貸しを作っておくのは今後のためになる。

 いいからサクっと勝ってこい」


「わかりましたよ……」


「うっし、じゃあ作戦だ」


**


 ロゼはイライラしながら作戦会議をしている二人を待っている。


(あの新人私より強いですって……? 男のくせにあんな貧相な身体で何ができるというのかしら……。

 まあ……何か策があるんでしょうが……用心して手の内を全て潰してやりますわ。

 さっさと終わらせてやります! そして大物狩りメンバーよ)


「待たせたな」


「よ、よろしく」


 作戦会議を終え多少緊張した面持ちのインベント。


 ロゼはイライラしているが「――ええ」と努めて冷静に応えた。



「そんじゃあまあ、始めるぞ」


 バンカースはなぜこんな展開になったのか頭が追い付いていないが、とりあえず模擬戦を始めることにした。


「始め!!」


 開始と同時にロゼは【束縛ニイド】を展開する。

 剣を構えつつ、足元からは【束縛ニイド】の触手が10本。


(奇襲なんてしませんわ。真っ向勝負で圧し潰す!)


 ロゼはインベントを格下だと思っている。

 自分は神童であり選ばれた人間であり、インベントはただの新人。

 真っ向勝負でも勝てると判断した。 

 

 それに対しインベントは――


 収納空間から煙玉を出し、身を隠した。


(む!? なるほど……! 奇襲が得意なのはお互い様のようね!)


 ロゼは一歩後退し、煙幕から距離を取る。


(煙幕から……遠距離攻撃……ではない……)


 煙幕が消えたが、中にインベントはいない。


(どこかしら?? どこに??)


 ロゼは全方位を警戒しつつ、触手を360度張り巡らせた。


(どこから来ようが無駄よ――――さあ……来なさい!!)


 ロゼ同様に、バンカースもインベントの居場所を探す。

 入隊試験の際にインベントを見失った記憶が甦る。


 ノルドはただ一人、インベントの居場所を把握していた。

 そしてインベントの勝利を確信している。


(もしも【マン】のルーンまで持っていたら負けていたかもしれねえな。

 ま……勝ったな)


「卑怯な!! どこにいるのよ!!」


 ロゼは苛立ちを露わにし、隠れていそうな場所に触手を伸ばす。

 触手は最大10メートル先まで伸ばすことができる。

 しかしどこを探してもいない。気配さえ無い。


 だが急に影がロゼを覆った。


(何??)


 そう思った時はもう遅かった。


「がふぃあ!!」


 いつの間にか背中に強い衝撃が走ったと思うとそのまま地面にダイブしていた。


「あ……や、やりすぎちゃった」


 そんな間抜けな声を聴きながら、ロゼは意識を失うのだった。


**


 煙玉で姿を隠した後、インベントは空中に飛び立っていた。


 反発移動リジェクションムーブを複数回使うことで、イング領のよく育った木々を超え上空に飛び立つインベント。


(……あんまりやりすぎると危ないからなあ。俺の足が)


 ノルドからの作戦は、煙玉で姿を隠し、上空から落下して踏みつける。

 仮に外してしまった場合は縮地からの攻撃で突き刺す。

 二段構えの作戦だったが、一段目でロゼは気を失った。


 空中から勢いをある程度殺しながらロゼの背中に着地したインベント。

 ロゼの触手は全方位をカバーしていたが、真上はカバーしていない。

 たとえカバーしていたとしても、60キロ近いインベントが降ってきたら防ぐことは難しいだろう。



「お、おいおい!」


 バンカースが気絶したロゼに近づいた。


「あちゃあ……やりすぎちゃいましたね」


「ロ、ロゼ? 大丈夫か!?」


 バンカースが問いかけても返事はない。


「ククク、嫌味の一つでも言ってやろうと思ったが、気絶しちまったら仕方ねえな」


「の、ノルドさん……」


「望み通りの展開だろ? バンカース総隊長さんよお」


「い、いや……まあそうだけど……」


「なら俺はそろそろ行くぞ? もう昼前だからあまり遠くまでは行けないがな」


 バンカースは引き留めようと思ったが、引き留める理由が思いつかない。


「あ、俺も行っていいですか?」


「え? あ……」


 ノルドは笑う。


「インベントのお陰で助かったな。バンカース。

 ハハハ、今年の新人は豊作だ。

 そら、行くぞ、インベント」


「は、はーい!」


 ノルドとインベントは去っていった。


 一人残されたバンカース。


(け、結局なんだったんだ……。インベントがロゼを倒した。

 どうやって? なんだったんだ?)


 バンカースは結局、インベントの攻撃がわからなかった。

 そもそもインベントが空を飛べることを知らない。

 当然、空中からただ真っすぐ落ちてきたことは想像できない。


(ど、どうしよう。と、とりあえず――)


 バンカースはロゼを背負い、医務室へと連れていった。


****


「いやあああああああああああぁぁ!!」


 ロゼは後ろから首を絞められる夢を見た。

 ロゼは強烈な首回りの痛みとともに覚醒する。


「い、痛い!」


 首回りに信じられない痛み。なぜこのような状況になったのか理解が追い付かない。


 インベントの攻撃は、自由落下から踏みつけただけ。

 とはいえ、人一人が落ちてきた威力は凄まじい。

 もしも本気でインベントが攻撃していたら、恐らくロゼは死んでいた。


「あれ……なんで私は……」


 自分自身が昼間にベッドにいる現実が理解できない。


 痛い。

 ベッドの上。


(まさか……負けた?? なんで??)


 記憶が追い付かない。

 なぜ負けたのかわからない。


 ロゼは負けた。

 だが、負かした相手であるインベントの印象が薄い。

 それもそのはず。


 ロゼが最後にインベントを見たのは、煙玉で消える前。

 それ以降、まったく見てもいない相手に負けているのだ。


(嘘よ……私が……負ける……嘘よ!!)


 ただの路傍の石だと思っていた。

 自分が天才だと疑わない女――ロゼ・サグラメント。


 事実ロゼは天才だ。

 女性故に男性に筋力で劣るが、剣術のセンスは図抜けている。

 そして恵まれたルーンと、努力する向上心を持ち合わせている。

 10年に一人の逸材と言われても皆納得するであろう。


 だが一人のイレギュラーが同じ時期、奇しくも同期にいた。

 天才でも神童でもない。変人インベント。


 後に職務から戻り合流したバンカースの表情やしぐさを見て、ロゼは自分が負けたことを理解した。


(インベント……! 私は……! お前を……!!)


 ロゼの中に渦巻く感情。


 ロゼは自然と大粒の涙を零していた。

明日からは毎日17時ごろ投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの上から攻撃 [一言] 天才的な動きですね それを書ききるのがまたすごい
[一言] そうゆう←✖️ そういう←○
[良い点] 論理的なのに、どうなるだろうとワクワクできる展開、面白いです。登場人物が単純で一面的な人間ではなく、それぞれの思惑を持って行動するがゆえに生まれるドラマが良いです。
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