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犯人は最初からわかっていました

 剣をちらつかせ、脅迫じみたやり方をとったインベント。

 従順になったゼナムスは、正座し、真面目にインベントの話に耳を傾けている。


「そんじゃまあ、時間が無いから手短に話すわよ」


「う、うむ」


「アンタにやって欲しいのは『雷獣王』の足止め。

 本当ならおびき寄せた『雷獣王』を【故郷オセル】で羽交い締めにでもして欲しいんだけど……」


 首をブンブンと振るゼナムス。


「わかってるわよ。アンタにそんな無茶は要求しない。

 できもしないことを強制しても、作戦が失敗に終わるだけだからね~。

 これは『愚王』でもできる簡単なお仕事よ」


 『愚王』と呼ばれ、多少顔を歪ませるゼナムスだがどうにか我慢するゼナムス。

 ゼナムスは『我慢』を覚えたのだ。


「てことで説明するわね――――」


**


 インベントは手短に作戦を説明した。


 先ほどまでの脅迫的態度が嘘のように、ゼナムスが理解したか確認しつつ話す。


 ゼナムス以外の面々も、作戦内容に興味があるようでいつの間にか集まってきた。

 ファティマも拘束されつつもインベントの話に耳を傾けている。



「――これならできると思うんだけど、どうかしら?」


 ゼナムスは顎に手を当て――


「うむ……それならできる」


 肯定的なゼナムスの発言にインベントは「よし」と小さく拳を握りしめた。


「な、なあインベント」


 そのまますっ飛んで行きそうなインベントに、アイナが恐る恐るインベントに声をかける。

 色々あって気まずいのだ。


「なあに?」


「本当にうまくいくのか? その作戦」


 アイナ以外の面々は自信満々に語ったインベントの策に納得した。

 というよりもモンスター狩りの経験に乏しいオセラシアの面々には、インベントの作戦の穴を指摘するほどの知識も経験も無いのだ。


 だが、アイナは森林警備隊でまがりなりにも隊長職。

 アイナからすればかなり無茶のある作戦なのだ。


「ま、五分五分。というか……爺ちゃん次第ね」


「微妙……まあ五分あれば良いほうか」


「爺ちゃんのポンコツ必殺技が果たしてちゃんと命中するのか?

 そんでもって『雷獣王』を倒すだけの威力が本当にあるのか?

 後は……ゼナゼナがちゃんと仕事するのか?」


 ゼナムスは「ぜ、ゼナゼナ……」と人生で初めてつけられたあだ名に戸惑っている。


「クラマさんと王様もそうだけど、お前の役割が一番大変だろ」


「私は問題無い。絶対に失敗しない。

 『雷獣王』のプロファイリングは済んでるし」


 自信満々のインベント。

 アイナは「ならまあ……イイケド」と投げやりに言い放つ。


 インベントは目を閉じた。

 そして片目だけを大きく見開く。


「強いて言うなら――」


 インベントは冷めた視線である人物を指差した。

 そして――「マジで邪魔すんなよ」と言う。


 その人物は――


「は、はい?」


 指差された人物。

 それはエウラリアである。


 エウラリアはぎこちなく首を傾げる。

 エウラリア以外の面々も首を傾げる。


 皆、こう思う。

 『なぜエウラリアに言う?』――と。


 インベントは「わかったか?」と念押しする。

 エウラリアは「ナンノコトデショウ」と抑揚のない喋り方で応じた。


「フン。ま、邪魔しないならいいけど~。

 ……でもあれか~、王様の邪魔されるのも面倒だしな。

 あ~、『雷獣王アイツ』の怒り状態のオンオフされると厄介だな。

 大事なところで行動パターン変えられるとウッザいし。

 そうね――――気絶させとくか」


 インベントは砂袋を取り出し、グルグルと回す。


「お、おいおいおいおい! なにやってんだインベント!?」


 急遽、物騒な発言と行動をするインベントにアイナは驚く。


 脅迫モードになったかと思いきや、説明する際は物腰柔らかな教師モード。

 かと思いきや、まるでチェーンをブンブン振り回しているかのようなスケバンモードに。


 コロコロ変わるインベント。

 インベント七変化。


 もう驚き疲れたアイナ。


「いや、この女、作戦の邪魔なんだよね」


「な、なに言ってんだよ、エウラリアさんが邪魔?」


「泳がせといても別に私としては構わないんだけどね~。

 『雷獣王ライジンガ』殺しは一発勝負になるし、不確定要素は潰しておきたいじゃない」


 アイナは何を言っているのか理解が追いつかない。


「待て待て、本当に意味がわかんねえ!

 だってよ、アタッカーはクラマさん、誘導役はお前。

 そんでもって王様は諸々準備。そうだよな?」


「そうよ」


「だよな?

 え、エウラリアさん、関係無いじゃねえか」


 インベントは左手首をトントンと右手の人差し指でトントンと叩く。


「フフ、あんまり時間無いけど、ま、いっか」


 インベントは目を見開き、エウラリアを指差す。


「この女は『雷獣王ライジンガ』に干渉できる力がある」


「……は?」


「どこまでできるかは知らないけどね。

 少なくとも、怒り状態のオンオフはできる」


「ちょ、ちょちょ!

 なんだよ怒りのオンオフって!」


「ハア~、見てて気づかなかった?

 『雷獣王アイツ』登場した時は、落ち着いてたでしょ?

 雷さえ発動してなかった。なのに急変。

 かと思いきや、王様に接近した時は急に落ち着いたり」


 アイナは反論しようとする。

 だが思い返し、言葉を止めた。


(た、確かに丘の上から発見した時は、デッカイ黒猫みたいだった。

 兵が近づいても黒猫のまま。だったけどいきなり暴れまわった。

 それに王様がゲロ吐いてるときはなんか落ち着いていた……気がする。

 舐めてるのかと思ったけど……考えれば確かに不自然)


「カカカ、不自然でしょ? ど~~~考えてもね」


「い、いや、だけど。

 モンスターを操るなんてあり得ねえ……だろ? 普通」


「そうだねえ、()()ならね。

 普通じゃ――ないからねえ。

 まあ、どうやってるのかまではわからない。

 わからないけど……ま、大体予想はついてるけどさ」


「ちょ、ちょっと待てよ! やっぱりわかんねえ!

 仮にモ、モンスターを操れるやつがいるとする」


「だからココに――」


「待て待て! 仮定だ! まだ信じられねえの!

 か、仮に『雷獣王』を操れる人間がいるとしよう。

 だけど……なんでそれがエウラリアさんだって断定できるんだよ!?

 親衛隊の人かもしれないし! ファティマさんかもしれない!

 なんで断定できるんだ?」


 アイナの疑問は最もである。


 インベントとアイナ。

 一緒にナイワーフの町に来て、同じ時間を過ごしてきた。


 片やインベントはエウラリアがモンスターを操っていることに確信を持っている。

 一方アイナは、話を聞いてもなお、信じられずにいた。


 インベントがいかに名探偵だとしても、なぜ『エウラリアがモンスターを操っている』という結論に至ったのかが全くわからない。

 アイナの脳内には、証拠となる事実が一つも浮かんでこない。


「プフフ、消去法よ」


「しょ、消去法??」


「アナタが言ったんでしょ?

 『普通』。そ、普通じゃ無理。だったら普通じゃない人を探せばいい。

 というよりも普通じゃないのが紛れてたんだから、疑うでしょ?」


 アイナは「なんで……いつから……疑ってたんだ??」と呟く。

 インベントが答えようとしたその時――


「お、おい、インベントよ!」


 ゼナムスが立ち上がる。


「なあ~に? ゼナゼナ」


「え、エウラリアをなにやら疑っているみたいだが、エウラリアが悪いやつなわけが無かろう」


 インベントは沈黙した。


「エウラリアはオセラシアに尽くしてくれている。

 余が子どもの頃からずっとな。

 そんなエウラリアが悪いわけがあるまい。

 な、なにかの間違いだ」


 ゼナムスにとってエウラリアは母のような存在である。

 いつも支えてくれ、頼りになる存在。


 子にとって母の存在は絶対的。

 安心や、愛情をくれる存在。


 そんな母のようなエウラリアを悪者扱いされたゼナムスは、立ち上がった。

 ゼナムスにとってエウラリアは唯一と言っていいほど、信頼できる存在なのだ。


 だが――


「カハ、アハハハハハハハ、アッヒッヒヒヒハハアハハ」


 嘲笑うインベント。

 ゼナムスの信頼をコケにする。


「おうおう、おいたわしや」


 哀れむ。

 嘆く。


 お涙頂戴。

 泣き真似する。


 そして――


「なんと、なんと愚かで可哀そうなゼナゼナ」


「な、なにがだ?」


 インベントは泣き真似するが、笑いを堪えるのに必死だ。


「アナタが心の支えだと思っている女。

 アナタの誰よりも理解者だと思っている女。

 なのに……なのにいぃ~。キャッハハ」


「なにが……なにがおかしいのだ?」


「嗚呼、これを笑わずにいれようか?

 ねえ~? ゼナゼナ」


「だ、だから何が……」


 インベントは泣き真似し、くねらせていたが、ピンと真っすぐな姿勢に。

 表情は無表情とも真面目ともとれる表情に。


 そしてビシっとエウラリアを指差した。


「――お前が」


 インベントがそう言ってから沈黙すること五秒。



「ゲロを吐く原因は、この女だよ」


「……ハ?」


「この女がお前にゲロを吐かせているんだよ。

 嘘だと思うなら、この女を遠ざけてみな。

 お前の長年の悩みは解決するだろうさ、ヒッヒッヒ」


 ゼナムスはエウラリアを見つめる。

 『呪曲』のせいではない吐き気が、ゼナムスを襲っていた。



**


 誰も声を出せない状態になっていた。


 そんな中、インベントはアイナの隣まで歩いた。

 そして――


「そうそう、いつから疑ってたかだよね?」


「え、いや、あ」


 インベントが搔き乱すだけ搔き乱したこの状況。

 アイナとしては先程の質問の答えよりも、この事態をどうすればいいのか気が気じゃない。


 だがインベントは気にせず語りかける。


「――見た瞬間からだよ」


「へ? み、見た瞬間?

 ってえと――」


「初めてゼナゼナと謁見した時。

 隣にいるあの女を見た瞬間、ああ~この女、なにかやってるなってね」


 「あり得ない」と言おうとするアイナ。

 だがもうなにが正しくてなにが間違っているか判断できない。


 だからただ黙る。

 インベントの発言を待った。



 インベントは微笑んで囁いた。


「だってねえ、あの女、幽結界が使えるんだよ」

「ん~ふふふ、解決編はCMの後で。

 古畑任三ベントでした~」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >幽結界が使える インベントのモンスターセンサーかな。
[一言] 今まで、結界使えるやつがモンスター操ってた事例を3つ知ってる上に、そのうちの1名に殺されかけといて、モンスター操れるやついないとかいってるアイナは、昔の知性をどこに捨ててきたんだ。君、最初は…
[良い点] 古畑任三ベントすごい!見ただけで、幽結界使えるかわかるんですね。 [一言] エウラリアをぶっころモードでもしかしてヤってしまうのかも
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