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御乱心・極

 ゼナムスを殺害しようとしたが、未遂に終わり組み伏せられているファティマ。


 未遂とは言え、王の殺害は極刑で然るべき。

 ではあるものの、ファティマはゼナムスの実姉。


 どうするべきか誰も判断できずにいた。

 唯一決断を下せる立場のゼナムスが、誰よりも右往左往しているのだからどうしようもない。



 さて――


 インベントは腕組みして、遠巻きから数秒間状況確認をした。

 まだ誰もインベントの存在には気付いていない。


(な~んかよくわからないわねえ。ま……いっか)


 なぜファティマが組み伏せられているのかさっぱりわからないが、インベントにとってそんなことはどうでもよかった。


 スタスタと歩いてくるインベントに気付いたのはアイナだ。


「あ、インベント」


 アイナの発言で、他の面々がインベントを見る。


 インベントは視線を気にもせず真っすぐ歩いてくる。

 そして組み伏せられているファティマと目が合った。



 インベントはファティマに多少の恩がある。

 ゼナムスと初めて謁見する際に、ゼナムスの事前情報を与えたのがファティマである。


 事前情報があったからこそ、ゼナムスの好感度を効果的にアップさせ、都合よくコントロールできたのだ。


 多少の恩が――


「ふ~ん」


 インベントはファティマを路傍の石扱いし、無視し、素通りした。


 そして――


「ど~もど~も、オ・ウ・サ・マ。フフフフフ」


 ゼナムスの前に立つインベント。


 『雷獣王』との戦いで疲弊し、まさかのタイミングでファティマが急に命を狙われたゼナムス。


 肉体的にも精神的にも疲労の色を隠せないゼナムスはへたり込んでいた。

 エウラリアは、ゼナムスの背中を擦っている。


「い、インベント……」


「あらあら王様、な~に? お疲れかしら?」


 急に馴れ馴れしく関わってくるインベントに眉をひそめるゼナムス。


 エウラリアが――


「い、インベントさん。王に対し不敬ですよ」


 と言う。言うのだが――


 インベントはあからさまに不機嫌な顔で――


「――あ?」


 と――不良少年のように首を傾げエウラリアを睨みつける。

 俗に言う、メンチを切るという行為である。


「邪魔すんな。私はな、王様と話してんのよ」


 と続けるインベント。


 アイナは大いに焦る。


(お、おいおいおいおいおい!?

 なんちゅう発言してんだ!? こ、好感度はどうした!?

 やべえよ、絶対エウラリアさん激怒すんじゃねえか!!)


 アイナの予想では、エウラリアは毅然とした態度で「失敬な!」とでも言うだろうと予想していた。


 だが――

 なぜかエウラリアは言葉に詰まっている。

 そこには宰相秘書官の女傑エウラリアではなく、男に恫喝されて震える弱弱しいエウラリアが。


 これにはその場にいる全員が驚いた。

 全く持ってエウラリアらしくないからだ。


 特に驚いているのはゼナムスである。


「エ、エウラリア?」


 不安に襲われるゼナムス。

 エウラリアの気丈さは、ゼナムスの精神安定剤なのだ。


「さあて王様~」


「む? なんだ?」


「実はお願いがあるのよ~」


「お願い??」


「そそそ。簡単なお願いよ。『雷獣王』のことよん」


 ゼナムスは「お、お、お」と顔を綻ばせる。

 インベントが『雷獣王』を引き連れていったことを思い出したのだ。


「ゲハハ、素晴らしい働きだったぞインベントよ。

 そ、そうだ! お、お前、まさか空を飛べるとはな!」


「ああ、そんなことはどーでも――」


「どうでもよくはあるまい。

 空を飛べるなんてそれは……まあ、なんというか」


 ゼナムスは「星天狗のようだ」と言おうとするが、言い淀む。

 『星天狗』はオセラシアでは最も有名人であり、ゼナムスが最も忌み嫌う単語なのだ。


 モゴモゴするゼナムスに対し舌打ちするインベント。


「ねえ王様。こっちは時間無いのよね。

 さっさと作戦立てないと」


「む? 作戦?」


 インベントは満面の笑み。

 だがゼナムスは笑顔から滲みだしてくる黒い感情を察し、胸に小さな痛みを感じていた。


「そうなのよ~。

 王様にはねえ~、『雷獣王』の足止めを頼みたいのよ~、ウフフフフ」


「――は?」


「撹乱とかは私がやるし、攻撃はお爺ちゃんがやるわ。

 だからアナタは足止め役よ」


 ゼナムスは「あ、足止め」と呟く。

 何度も何度も呟き、呟く度に脳裏に『雷獣王』の顔が鮮明に描かれていく。


「ま、とはいえアナタに難しいことを頼む気は無――」


「お、お断りだ!! もう『雷獣王』など見とうない!!」


 インベントの話を遮り、首をブンブン振るゼナムス。


「ハア……別に『雷獣王』を見なくてもいいわよ。

 私の言う通りに足止めの準備を――」


「い、嫌じゃ嫌じゃ!

 余はもう疲れた。余は野営地に戻る。

 もうモンスター討伐などコリゴリじゃ。

 野営地に行くぞ、エウラリアよ」


 インベントとの話を打ち切り、野営地に戻ろうとするゼナムス。

 だが――


「――おい、()()


 悪意たっぷりな発言。

 聞き慣れない言葉にゼナムスは、インベントを見る。


「今、――なんと言った?」


 インベントは笑みを浮かべ――


()()って言ったのよ。『愚王』様」


 崩れていく。

 これまで築き上げた好感度の城が一瞬にして瓦解していく。


 顔を真っ赤にして怒るゼナムスだが、インベントは気にせず詰め寄る。


「さっさと言うことを聞けばいいのよ。

 時間も無い。さっさと来なさい、『愚王』」


「だ、黙れ黙れ! 無礼者!

 ええい! この者をひっ捕らえよ!!」


 ゼナムスは命令する。


 だが親衛隊は四名。

 内二名はファティマを拘束しているため動けない。


 仕方なく残り二名がインベントに駆け寄り、インベントの肩を押さえた。

 続けて両腕を拘束しようとするが――


 インベントは「――不用心」と呟いた。


 親衛隊の片方が「は? なんだって?」と問う。

 問いの答えは――身体で知ることになる。


 得体の知れない大きな力によって、親衛隊のひとりは信じられないほど吹き飛び、転げまわる。


 親衛隊のもう片方は咄嗟に「なにをした!?」と叫び、拳を構えた。


「カハハ、平和ボケしすぎ」


 そう言った後――インベントは親衛隊の顔の前で指をパチンと鳴らす。


「な、なんの真似だ? ゴブッ!!?」


 親衛隊は腹を抱えて倒れてしまった。

 屈強な親衛隊二名を一瞬で無力化したインベント。

 それも、まるで魔法のように。


 アイナ以外は、収納空間を利用した攻撃だということさえ理解できていない。

 アイナでさえも実際に何をしたのかわからない、早業。


「ああ~ああ~ああ~王様~」


 インベントはゆっくりと右手親指と中指をくっつける。

 そしてパチンと指を鳴らす。


 ビクリとするゼナムス。


「私はね~、お願いしてるんですよ~」


 またパチンと鳴らすインベント。


「お、お願いだと……」


「そうそう、お願い。

 そもそもねえ『雷獣王』はオセラシアの問題。私には関係無い。

 だけどね~、私って優しいから、ちゃんと狩ってあげようとしてるわけよ。

 わかるかしら? オ・オ・サ・マ」


 ゼナムスは首を縦に振る。


 インベントは再度指パッチンをした。

 やはりビクリとするゼナムス。


 だがこれまでと違い、今度は上空から剣が落下しゼナムスの前に突き刺さる。


「う、ウヒイイ!?」


「せっかくお願いして上げてるのにさあ~。

 無下に断られたらさあ~。

 私だって悲しくなるわよね~?

 怒っちゃっても仕方ないわよねえ~?」


 そう言ってインベントは突き刺さった剣を手に取る。


「お願いしてもやってくれないんじゃ、強制するしかないのかしら?

 それでもやってくれないなら…………ねえ?」


 願いを叶えてくれないならば――斬る。

 インベントには躊躇なく実行してくる威圧感があった。


 そしてそれは、お願いではなく、脅迫である。

 実力行使してくるインベントに対抗するには、実力行使するしかない。


 だが――親衛隊は動けない。

 頼みのエウラリアも、なぜかインベントに対しては弱腰だ。


 ゼナムスは本能的に両手を上げた。

 そして――


「や、やります~、なんでもやらせていただきます~、ゲッゲハハ」


 と懇願するのだった。




 インベントはもう――誰にも止められない。

ゴランシンノキワミアッー!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、無事討伐した後で褒めちらかせばゼムナスなら有耶無耶にできそうな感じはあるし、脅すのが手っ取り早いなぁ……可哀想に
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