主人公の咆哮
「エネルギー弾のスペック教えてよ~」
アイナとゼナムスのコンビがてんやわんやしながら、『雷獣王』と戦う中――
インベントは世間話でもするかのように、クラマに話しかける。
「なんだっけ『星弾』だっけ?
あれってもっと火力出せるの? 連射は?
あ、制約はあるのよね? でなきゃ出し惜しみする理由がないものね」
ぐいぐいと質問してくるインベントに対しクラマは――
「い、今はそんな場合じゃなかろう!
あのふたり、やられてしまうぞ!?」
ちらりと様子を見たインベントは、せせら笑う。
「大丈夫よ。――殺す気が無いみたいだし」
「な、何を言っておる!?
あれほど殺しまくったアレに殺す気が無いわけが――」
「いやいや、そっちの話じゃない」
「そっち? あっちはどっちじゃ!?
もうええ! ほれ、さっさとふたりを助けるぞ」
「ちょっと待ってよ」
「待ってる場合じゃ――」
インベントは大きくわざとらしく溜息。
「カカカカ、ちょっとは考えてみてよ。
どれだけ爺ちゃんが頑張っても、ヘイトは稼げないよ」
クラマが「へ、ヘイト?」と首を捻る。
「爺ちゃんは自分自身をターゲットにしたいんでしょ?
みんなを守るための自己犠牲。素晴らしいね、御立派だねえ。
でもでも散々やったけど無理だったでしょ?
『同じことをして異なる結果を得ようとする、それを狂気と言う』。
どこぞの偉~いワトソンの言葉よ。
……ワトソン? エジソン? モリアーティ? まあ誰でもいいわ」
「だ、だからと言って」
インベントはクラマの発言を遮るように「アイツが狙う相手を――私にしてあげる」と言い切った。
「は?」
「『雷獣王』の狙いを私にする。
そうすればこれ以上誰も死ぬことは無い。ね? そうよね?
それなら『星弾』のことも話してくれるかしら?
私としてはさっさと『雷獣王』をぶち殺す算段を立てたいのよねえ~」
「い、いやしかし……。
そ、そんなことができるのか?」
インベントは無言の笑顔。
続けて、ゆっくり自由落下していく。
そして――「まあ、待ってなさいな」と言い『雷獣王』の方へ。
「じ、自信満々すぎて反論できんかったわい」
**
【故郷】を駆使するゼナムス。
だが旗色は悪い。
「ぐぬぬ、ええい!」
土柱――『衝土』は使えるようになった。
しかしながら先ほどまでのように、『雷獣王』を翻弄できない。
とにかく土柱で『雷獣王』の進路妨害することで精一杯。
先程のゼナムスはまさに神懸っていた。
『神憑っていた』のほうが近いかもしれない。
憑依されていたかのような状態だった。
だが今のゼナムスはただのゼナムスである。
【故郷】で大地を操ることはできたとしても、戦闘経験の乏しい王様なのだ。
「ぐ、ぐう、なんで……」
理想と現実。
絶対的な強さの理想形が頭の中にあるのに、現実は『雷獣王』を近づけないように妨害するしかできない。
更に――
『お、おい、大丈夫なのか? 王様』
ゼナムスの頭に流れる『呪曲』に対し、なぜかアイナの【伝】が効果的だと気付いたゼナムス。
アイナがいれば正気を保ち、吐く醜態を見せずに済む。
これ幸い? 万事解決?
そうもいかない。
「……ププリッツはとにかく喋り続けてくれ」
『わ、わかったよ。
え~っと、あ~っとそうだな~。
あ、さっきみたいにババーンと吹き飛ばせないのか?
さっきはもっと硬そうな柱だった気もするし。
アイツが簡単に柱を叩き折っちゃってるしよ。
もうちょっとこう――』
「え、ええい! うるさいぞ! 気が散る!」
『き、気が散るって言われても、話し続けろっていったのは王様じゃねえか!』
「ぐぬぬ、気が散らぬように喋り続けるのだ!」
『い、いや、どうすりゃいいんだよ』
アイナが【伝】を使わなければ、『呪曲』でまともに動けない。
だがアイナの【伝】は音が非常にクリアなため、それはそれで気が散る。
集中できない。
そんな中――
ゼナムス親衛隊のひとりが指差す。
「お、おい!? あれはなんだ!?」と指差す。
その先には――宙に浮くインベント。
『雷獣王』の後方でフワフワと浮いているのだ。
騒ぎ出す親衛隊と、目を丸くするエウラリア。
空を飛ぶ。
それは『星天狗』のみに許された力。
オセラシアの民にとって飛行能力は特別なのだ。
少し遅れてアイナも気付いた。
『あ、あのバカ……来たのか』
「む!? 誰がバカだ! 不敬であるぞ!」
『い、いや、王様のことじゃねえよ。
あ~めんどくせえ~、念話使いながらだと思ったことが全部念話になっちまう!』
インベントはアイナと目が合う。
そして「ハァイ」と手を振るインベント。
インベントは『雷獣王』を眺めている。
(さあ~て、なんか落ち着いてるな。
飼いならされちゃったのかな~? こんの『電気猫』め。
ウフフ……野生を取り戻させてあげましょうか)
インベントは徹甲弾を手に持ち――
「ど~~ん」と気の抜けた掛け声で発射した。
気の抜けた掛け声だが、威力は凄まじい。
並みのモンスターであれば一撃で屠れるレベル。
狙いは背骨。
確実に当たるように、当てやすい場所を狙う。
雷の衣は鬣部分が一番強烈だが、背面は比較的薄い。
(コレでダメージ与えれるなら……できることは増えるんだけどねえ~)
徹甲弾は『雷獣王』の身体に肉薄する。
だが――幽壁に阻まれてしまった。
多少の衝撃が『雷獣王』に伝わる程度。
「ちぇ。不意打ちでこれじゃあ、やっぱダメか」
『雷獣王』にダメージは無い。
だが振り向かせることには成功する。
インベントは左の人差し指を動かし、挑発する。
「ほ~れ、遊びましょ? ビリビリネコちゃんよ」
インベントはあえて高度を落とし、接近する。
ヘイトを稼ぎ、『雷獣王』に自らをターゲットにさせるために。
だが――
警戒し、威嚇してくるものの、インベントを攻撃してこない。
クラマの二の舞。
「カカカ――つれないね、釣れないね。ああ、悲しいなあ」
続けてインベントは槍を構え、発射する。
『雷獣王』は叩き落とした。
やはり事態は変わらない。
クラマは「やはり無理じゃのう」と呟く。
だがインベントには策があった。
つれない『雷獣王』を、振り向かせる必殺技が。
(ま、キャラじゃないけど、やりますかね)
ふわりと浮いたインベント。
首をクルクルと回し、お腹を擦る。
(な、なにやってんだ? インベント?)
アイナが不安そうに見上げる中――
インベントは息を大きく吸い込む。
そして叫んだ。
「邪魔すんじゃねえぞ!!」
――と。
荒野に響きわたるインベントの怒号。
インベントを知る者からすれば、まさに呆気にとられている。
インベントは奇声をあげることはあっても、大声で叫ぶようなタイプでは無いからだ。
それに――
『邪魔すんじゃねえってモンスターに言うなよ……。
ん? モンスターに邪魔すんなってどういうことだ?
相変わらず、わけわかんねえぞ』
「む!? なななな、あれはインベントではないか!?」
アイナは困惑する。
今更インベントに気付いたゼナムスは、飛んでいる事に驚愕する。
さて――
インベントは「あ~ノドが痛い」と言いつつ徹甲弾を放物線を描くように飛ばす。
攻撃ではなく、挑発である。
そして舌を出し、ふざけた表情で『雷獣王』に接近する。
「ホラホラ、さっさとおいで~、ビリビリクソバカネコ」
昨日からクラマが何度挑発しても無視されてきた。
だが、インベントの挑発に『雷獣王』は――――乗った。
「グガアアアアア!!」
身体をゴムのように伸ばし、爪で切り裂こうとする『雷獣王』。
インベントは余裕をもって回避する。
だが爪撃を追いかけるように雷が飛来し、インベントを襲う。
咄嗟に自身の肩を丸太で押し回避する。
多少のダメージと引き換えに。
「ヒヒ、イイネエ」
肩を押さえつつ、『雷獣王』を流し見るインベント。
怒りに燃える『雷獣王』の瞳には、インベントしか映っていない。
情熱的な殺意を感じ――
「ああ、モンスター狩りはこうでなくっちゃ」
インベントは恍惚とした顔をしている。
楽しい狩りの――始まりである。




