表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/446

主人公の咆哮

「エネルギー弾のスペック教えてよ~」


 アイナとゼナムスのコンビがてんやわんやしながら、『雷獣王』と戦う中――

 インベントは世間話でもするかのように、クラマに話しかける。



「なんだっけ『星弾ほしだま』だっけ?

 あれってもっと火力出せるの? 連射は?

 あ、制約はあるのよね? でなきゃ出し惜しみする理由がないものね」


 ぐいぐいと質問してくるインベントに対しクラマは――


「い、今はそんな場合じゃなかろう!

 あのふたり、やられてしまうぞ!?」


 ちらりと様子を見たインベントは、せせら笑う。


「大丈夫よ。――殺す気が無いみたいだし」


「な、何を言っておる!?

 あれほど殺しまくったアレに殺す気が無いわけが――」


「いやいや、そっちの話じゃない」


「そっち? あっちはどっちじゃ!?

 もうええ! ほれ、さっさとふたりを助けるぞ」


「ちょっと待ってよ」


「待ってる場合じゃ――」


 インベントは大きくわざとらしく溜息。


「カカカカ、ちょっとは考えてみてよ。

 どれだけ爺ちゃんが頑張っても、()()()は稼げないよ」


 クラマが「へ、ヘイト?」と首を捻る。


「爺ちゃんは自分自身をターゲットにしたいんでしょ?

 みんなを守るための自己犠牲。素晴らしいね、御立派だねえ。

 でもでも散々やったけど無理だったでしょ?

 『同じことをして異なる結果を得ようとする、それを狂気と言う』。

 どこぞの偉~いワトソンの言葉よ。

 ……ワトソン? エジソン? モリアーティ? まあ誰でもいいわ」


「だ、だからと言って」


 インベントはクラマの発言を遮るように「アイツが狙う相手を――私にしてあげる」と言い切った。


「は?」


「『雷獣王ライジンガ』の狙いを私にする。

 そうすればこれ以上誰も死ぬことは無い。ね? そうよね?

 それなら『星弾ほしだま』のことも話してくれるかしら?

 私としてはさっさと『雷獣王ライジンガ』をぶち殺す算段を立てたいのよねえ~」


「い、いやしかし……。

 そ、そんなことができるのか?」


 インベントは無言の笑顔。

 続けて、ゆっくり自由落下していく。


 そして――「まあ、待ってなさいな」と言い『雷獣王』の方へ。



「じ、自信満々すぎて反論できんかったわい」


**


 【故郷オセル】を駆使するゼナムス。

 だが旗色は悪い。


「ぐぬぬ、ええい!」


 土柱――『衝土しょうど』は使えるようになった。

 しかしながら先ほどまでのように、『雷獣王』を翻弄できない。


 とにかく土柱で『雷獣王』の進路妨害することで精一杯。


 先程のゼナムスはまさに神懸っていた。

 『神憑かみがかっていた』のほうが近いかもしれない。

 憑依されていたかのような状態だった。


 だが今のゼナムスはただのゼナムスである。

 【故郷オセル】で大地を操ることはできたとしても、戦闘経験の乏しい王様なのだ。


「ぐ、ぐう、なんで……」


 理想と現実。

 絶対的な強さの理想形が頭の中にあるのに、現実は『雷獣王』を近づけないように妨害するしかできない。


 更に――


『お、おい、大丈夫なのか? 王様』


 ゼナムスの頭に流れる『呪曲』に対し、なぜかアイナの【アンスール】が効果的だと気付いたゼナムス。

 アイナがいれば正気を保ち、吐く醜態を見せずに済む。


 これ幸い? 万事解決?

 そうもいかない。


「……ププリッツはとにかく喋り続けてくれ」


『わ、わかったよ。

 え~っと、あ~っとそうだな~。

 あ、さっきみたいにババーンと吹き飛ばせないのか?

 さっきはもっと硬そうな柱だった気もするし。

 アイツが簡単に柱を叩き折っちゃってるしよ。

 もうちょっとこう――』


「え、ええい! うるさいぞ! 気が散る!」


『き、気が散るって言われても、話し続けろっていったのは王様じゃねえか!』


「ぐぬぬ、気が散らぬように喋り続けるのだ!」


『い、いや、どうすりゃいいんだよ』


 アイナが【アンスール】を使わなければ、『呪曲』でまともに動けない。

 だがアイナの【アンスール】は音が非常にクリアなため、それはそれで気が散る。


 集中できない。



 そんな中――


 ゼナムス親衛隊のひとりが指差す。

 「お、おい!? あれはなんだ!?」と指差す。


 その先には――宙に浮くインベント。

 『雷獣王』の後方でフワフワと浮いているのだ。


 騒ぎ出す親衛隊と、目を丸くするエウラリア。


 空を飛ぶ。

 それは『星天狗』のみに許された力。

 オセラシアの民にとって飛行能力は特別なのだ。


 少し遅れてアイナも気付いた。


『あ、あのバカ……来たのか』


「む!? 誰がバカだ! 不敬であるぞ!」


『い、いや、王様のことじゃねえよ。

 あ~めんどくせえ~、念話使いながらだと思ったことが全部念話になっちまう!』 


 インベントはアイナと目が合う。

 そして「ハァイ」と手を振るインベント。



 インベントは『雷獣王』を眺めている。


(さあ~て、なんか落ち着いてるな。

 飼いならされちゃったのかな~? こんの『電気猫ピカニャー』め。

 ウフフ……野生を取り戻させてあげましょうか)


 インベントは徹甲弾を手に持ち――

 「ど~~ん」と気の抜けた掛け声で発射した。


 気の抜けた掛け声だが、威力は凄まじい。

 並みのモンスターであれば一撃で屠れるレベル。


 狙いは背骨。

 確実に当たるように、当てやすい場所を狙う。

 雷の衣は鬣部分が一番強烈だが、背面は比較的薄い。


(コレでダメージ与えれるなら……できることは増えるんだけどねえ~)


 徹甲弾は『雷獣王』の身体に肉薄する。

 だが――幽壁に阻まれてしまった。


 多少の衝撃が『雷獣王』に伝わる程度。


「ちぇ。不意打ちでこれじゃあ、やっぱダメか」


 『雷獣王』にダメージは無い。

 だが振り向かせることには成功する。


 インベントは左の人差し指を動かし、挑発する。


「ほ~れ、遊びましょ? ビリビリネコちゃんよ」


 インベントはあえて高度を落とし、接近する。

 ヘイトを稼ぎ、『雷獣王ライジンガ』に自らをターゲットにさせるために。


 だが――

 警戒し、威嚇してくるものの、インベントを攻撃してこない。

 クラマの二の舞。


「カカカ――つれないね、釣れないね。ああ、悲しいなあ」


 続けてインベントは槍を構え、発射する。

 『雷獣王ライジンガ』は叩き落とした。

 やはり事態は変わらない。


 クラマは「やはり無理じゃのう」と呟く。


 だがインベントには策があった。

 つれない『雷獣王ライジンガ』を、振り向かせる必殺技が。


(ま、キャラじゃないけど、やりますかね)


 ふわりと浮いたインベント。

 首をクルクルと回し、お腹を擦る。


(な、なにやってんだ? インベント?)


 アイナが不安そうに見上げる中――


 インベントは息を大きく吸い込む。

 そして叫んだ。


「邪魔すんじゃねえぞ!!」


 ――と。


 荒野に響きわたるインベントの怒号。


 インベントを知る者からすれば、まさに呆気にとられている。

 インベントは奇声をあげることはあっても、大声で叫ぶようなタイプでは無いからだ。


 それに――


『邪魔すんじゃねえってモンスターに言うなよ……。

 ん? モンスターに邪魔すんなってどういうことだ?

 相変わらず、わけわかんねえぞ』


「む!? なななな、あれはインベントではないか!?」


 アイナは困惑する。

 今更インベントに気付いたゼナムスは、飛んでいる事に驚愕する。


 さて――


 インベントは「あ~ノドが痛い」と言いつつ徹甲弾を放物線を描くように飛ばす。

 攻撃ではなく、挑発である。


 そして舌を出し、ふざけた表情で『雷獣王ライジンガ』に接近する。


「ホラホラ、さっさとおいで~、ビリビリクソバカネコ」


 昨日からクラマが何度挑発しても無視されてきた。

 だが、インベントの挑発に『雷獣王ライジンガ』は――――乗った。


「グガアアアアア!!」


 身体をゴムのように伸ばし、爪で切り裂こうとする『雷獣王』。

 インベントは余裕をもって回避する。


 だが爪撃を追いかけるように雷が飛来し、インベントを襲う。


 咄嗟に自身の肩を丸太で押し回避する。

 多少のダメージと引き換えに。


「ヒヒ、イイネエ」


 肩を押さえつつ、『雷獣王』を流し見るインベント。

 怒りに燃える『雷獣王』の瞳には、インベントしか映っていない。


 情熱的な殺意を感じ――


「ああ、モンスター狩りはこうでなくっちゃ」


 インベントは恍惚とした顔をしている。



 楽しい狩りの――始まりである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ