落ち着けけけけけけけけけけけけ!
『星弾』を『雷獣王』にクリーンヒットさせたクラマ。
怯えるゼナムスの前で、睨みつけるように立っていた『雷獣王』。
その隙を突いたのだ。
(さあて……どうなるかのう。
本当は、ゼナムスが拘束でもしれくれればと思って準備していたんじゃがのう。
まさかゼナムスを囮にすることになるとは。
とかくこの世はなんとやらじゃ)
『雷獣王』はクラマを睨みつけている。
『星弾』を喰らった箇所は、真っ黒な毛並みが荒らされて、くっきりと視認できる。
雷の衣を破り、『星弾』が本体まで届いた証拠である。
怒り。
やられたらやり返す。
動物的な本能。
――のはずなのに。
『雷獣王』はクラマを視界のギリギリに収めつつ、周囲を見渡している。
やはりターゲットがクラマにならない。
ゲーム的に言えば『ヘイトが溜まらない』のだ。
「ったく、わけがわからんのう」
意味不明な行動をする『雷獣王』。
前日から明らかに挙動がおかしいのだ。
そして――ゆっくりと一歩、ゼナムスの方に。
「ヒ、ヒイィイ!?」
ゼナムスの更に後方からエウラリアが「王よ! お逃げください!」と叫んでいるが腰が抜けたゼナムスは這いずることしかできない。
そんなゼナムスと『雷獣王』の間に、アイナが剣を構えて立ちはだかる。
「おいおい! 王様! シャキッとしてくれよ!」
錯乱状態のゼナムスに声をかけるが、やはりゼナムスには届かない。
じたばたとしながら後方に下がるだけ。
アイナはゼナムスを護るように、『雷獣王』と相対している。
『雷獣王』はクラマを警戒しつつも、なぜかその場に留まり周囲を警戒している。
クラマは、『雷獣王』を刺激するとアイナに危険が及ぶと考え動けない。
誰も動かない中、ゼナムスだけが無様にもがいている。
だが――
突如『雷獣王』の瞳に火が灯る。
そして咆哮が荒野に響き渡る。
「い、いかん!」
クラマは『星弾』を放つ。
だが、『雷獣王』は後方に軽く飛び退き、回避した。
クラマは舌打ちし「ええい!」と一気に加速する。
だがクラマよりも速く、『雷獣王』は一足飛びでアイナの前に着地し――
流れるような動きでアイナを切り裂こうとする。
(圧力がやっべえな。
だけどまあ――)
死が迫る。
だがアイナは落ち着いていた。
『雷獣王』の動きは単純であり、ある程度予測できるからだ。
(――どうにかなるだろ!)
アイナはあえて一歩前進した。
『雷獣王』が纏う雷の衣――激しく揺らぐ幽力に身を焦がされそうになりつつも死地に飛びこみ――
「あっちむいてホイー!!」
【伝】を利用した意識逸らし。
アイナの【伝】の有効範囲は非常に狭いため、あえて踏み込んだのだ。
意識逸らしは効果抜群で、『雷獣王』は首を捻り斜め後方を睨む。
睨んだ先には――クラマがいる。
(囮にさせてもらいますぜい!!)
利用できるものはなんでも利用する。
【伝】で意識を逸らし、逸らした先は囮に適任のクラマ。
絶好のクリティカルチャンス……だがアイナは回避だけに専念する。
意識を逸らしたとしても雷の衣は健在だからだ。
アイナにとって今一番大事なのは、これ以上犠牲者を出さないこと。
インベントが諦め、クラマも倒せないと言っている『雷獣王』。
アイナが導きだした現状の最適解は、ターゲットをクラマに押し付け、とんずらすることである。
『雷獣王』がクラマに気を取られている隙に――
「おい! 王様! しっかりしろ!」
『雷獣王』を警戒しつつも、アイナはゼナムスに近づき肩を揺する。
だが、「余は……余は……」と呟きながら錯乱する王。
「だあ~! しっかりしてくれよ!
立ち上がって親衛隊の人たちと逃げてくれっての!」
必死の説得。
だがゼナムスには届かない。
そうこうしているうちに――
「や、やべべ」
『雷獣王』のターゲットがクラマからアイナたちに戻った。
「そ、そっちむいてホイ! ホイ!」
再度『雷獣王』のターゲットをクラマに押し付ける。
だが、焦るアイナ。
(い、意識逸らしはやればやるほど効果が薄れる!
『雷獣王』はひっかかりやすい気がするけど、次成功するかわかんね!)
アイナはゼナムスの両肩を掴み――
揺する。
思いっきり揺する。
脳が震えるぐらい揺する。
なんとか平常心を取り戻させようとするが――
「いやじゃ、いやじゃあ! 聞きとうない! もう嫌じゃァ!」
耳を塞ぎ駄々をこねるゼナムス。
アイナは苛立つ。
(この非常時になぁに言ってんだ、こんのクソキング!!)
アイナは両手でガシッとゼナムスの頭を掴んだ。
不敬な行為であるが気にしている場合ではなかった。
そして、一瞬脳裏にインベントの顔が浮かぶ。
ずっと昔――いや数か月前のインベントの顔。
現在よりは幾分マシだった時――ルベリオと出会う前のインベントを思い出しつつも――
(迷ってる場合じゃ――無い)
アイナはゼナムスの頭に直接念話を叩き込む。
『落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! ――――』
連呼。
360度から全方位からの『落ち着け』。
どう考えても落ち着けない。
「お、おわああ!?」
慌てふためくゼナムス。
アイナはゼナムスの頭を離さない。
『落ち着けー! 大丈夫だぞー! アタシの目を見ろー!
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け――――』
「わ、わかった! わかったから止めてくれ!」
脅迫的な『落ち着け』にどうにか平常心を取り戻すゼナムス。
アイナは念話から口頭に切り替える。
「よお~し、だったら――」
だが――
「うう、オエエエ! ま、またなのか!?
うぐぐぐぐぐぐう!!」
再度耳を塞ぐゼナムス。
吐き出しそうになるが、もう吐くものが無い。
「お、おいおい? どうしたんだ?」
「ぐうぅぅぅあ、な、なんでまた……」
アイナは再度念話に切り替え――
『お、落ち着け! 落ち着け! 落ち着け!』
「お、落ち着いておる!! ん?
おお、おお、お!?」
「ど、どうした?」
「ぐうう? お、おい、ププ、ププリッツ!
もっと頭に直接話しかけてくれ!」
アイナは驚きつつも――
『こ、これでいいのか?』
「う、うむ! い、いや、話しかけ続けてくれ!
そうすれば気持ち悪い雑音が幾分マシになる!」
『は、話しかけ続けろだあ?
い、いや、なにを話せばいいんだよ?』
「な、なんでも良い!
ププリッツの声が頭に響いていればよいのだ!」
『わ、わかったよ……しかし困ったな。
話せって言われると、逆になにを話せばいいか迷っちまう。
い、いや、迷ってる場合じゃなかった!
さっさと逃げよう! 『雷獣王』はクラマさんが引き付けてくれる』
「お、おい」
『んあ? なんだよ、王様。
てか王様だった…………王様相手にタメグチはマズいだろ……。
しまったな』
ゼナムスは血相を変えながら指差す。
「た、タメグチなどどうでもよいわ!
ら、『雷獣王』がこっち向いておるぞ!?」
『んあ? ん――』
「――ぎ、ぎゃああ!?」
どれだけクラマがちょっかいをかけても、やはり『雷獣王』の狙いはクラマにならない。
いつの間にか、『雷獣王』はゼナムスとアイナを見降ろしていた。
『や、やべええ! あっちむいてホイしないと!』
アイナは間違えてゼナムスに対して念話してしまう。
ゼナムスに気を取られていたため、混乱してしまったのだ。
だが逆に、ゼナムスは多少の落ち着きを取り戻していた。
(今なら……いけるかもしれん)
ゼナムスは夢見心地だった際の、圧倒的強者だった自分を思い出す。
そして――腕を交差させ腕を振り上げる。
すると、土柱が『雷獣王』を吹き飛ばす。
「で、できた!!」
「お、おお! スゲ! やるじゃん! 王様!」
「ぐうう、ププリッツ! 頭の中に話しかけるのを続けるのだ!」
「わ――」
『――かった! とにかく話し続ける!』
まさかのコンビ、アイナ&ゼナムス。
どうにか【故郷】の力を取り戻したゼナムス。
そんな中――
インベントが満を持して登場した。
――ふわりと。
「ねえ~爺ちゃん」
クラマの背後から接近してきたインベント。
クラマは幽結界で把握できるはずなのだが、『雷獣王』に気を取られており驚く。
「い、インベント!?
おぬし、今の今までなにしておったんじゃ?」
「カカカ、まあそんなことはどうでもいいじゃない」
「ど、どうでもいいわけあるか!」
「そんなことよりさ~」
インベントはマイペースに話し続ける。
アイナとゼナムスは緊迫した状況であり、クラマは焦っているのだが、そんなことはどこ吹く風。
インベントは戦場では似合わない笑顔で――――
「ねえ~?
エネルギー弾のスペック教えてよ~」




