戦う王様
交差したゼナムスの両手。
交差したまま腕を振るうことで、大地が連動する。
急激に隆起した大地が『雷獣王』を吹き飛ばす。
大きく吹き飛ばしたもののさしたるダメージは無い。
だが吹き飛ばされたことに驚いている。
――当然である。
動くはずの無い大地が動いたのだから。
「ハァン――猫めが」
ゼナムスは低い声、独特なイントネーションで呟く。
続け、右足で大地を強く踏み、交差した両手を左右に往復させる。
大地から太い土柱が生え、『雷獣王』を殴打した。
突然の事態に右往左往する様は、まるで弄ばれている猫のようである。
ゼナムスの変貌に皆、驚く。
だが誰よりも驚いているのはクラマである。
「……父ちゃん?」
ゼナムスに、亡き父――『豪王ダイバ』の面影を見るクラマ。
20年以上前に他界し――他界した年に産まれたのがゼナムスである。
オセラシアの象徴となるルーン【故郷】を授かったゼナムスは、まさにダイバの生まれ変わりと言える存在。
だが、現在の姿は似ても似つかない。
堕落した肉体に、憎たらしい表情。
似てなどいないハズなのに――
(動き……いや仕草が似ておる。
【故郷】を使い、他を圧倒した父ちゃんにのう)
クラマはゼナムスに多大なる期待をしていた。
だが、ことごとく大事な場面で失敗続きのゼナムスに、クラマは呆れ、失望する。
期待の大きさゆえに、大きく落胆した。
そして見限った。
ゼナムスは『どうしようもない孫』であり、期待などするまいと心に決めた。
もう諦めていた。
諦めていたのに――
クラマは「……期待してもええのかのう」と呟いた。
**
「な、なんじゃこりゃ……」
丘の上から参上したアイナ。
決死の覚悟で参上した。
なのだが――
「あ、あれえ? アタシ……必要無くね?」
ゼナムスと『雷獣王』の戦いに、アイナが入り込む余地は無く、せっかく丘から降りてきたのに傍観者に逆戻り。
アイナーー
丘の上の傍観者から、荒野の傍観者にランクアップ。
**
大地から伸びた土柱が『雷獣王』を襲う。
土柱は円柱形であり、表面には凸凹が残っていた。
『柱』というよりは巨大な土の棒と言った感じだ。
スケールの大きな攻撃だが、柱は土でできているため強度は大したことがない。
綺麗に『雷獣王』に直撃しても、雷の衣に阻まれボロボロと崩れていく土柱。
肉体まで攻撃は届かない。
だが土柱は徐々に進化していく。
円柱から四角柱に――
四角柱から――六角柱に――
表面の凹凸は無くなっていき、土の密度が上がり、硬度も上がる。
まるで本物の柱に。
「ほ~れほれほれ!」
絶え間ない土柱の連続攻撃。
明らかに『雷獣王』は嫌がっている。
そして、一旦大きく距離をとった。
ゼナムスは前進し、ファティマと親衛隊を自身の後方に。
『雷獣王』は土柱の攻撃を嫌い、狙いが定まらないようにジグザグに動く。
その動きは稲妻の如く。
ゼナムスは微動だにせず、両手を交差したまま待つ。
そして――ゼナムスに飛びかかってきた瞬間――
「フン!」
交差した両手を頭上に掲げる。
と同時に、ゼナムスの周囲から天を目掛け五本の土柱が伸びた。
『雷獣王』の突進は土柱によって阻まれる。
まるで檻に捕らわれた獣のように。
明らかに苛立っている『雷獣王』は大きく口を開いた。
雷咆哮。土柱の隙間から。
「アァ~! 無……駄ァ!」
土柱の隙間を埋めるように、更に柱が伸びる。
雷咆哮は完全にシャットアウトされた。
なにが起こったのか理解できず、立ち尽くす『雷獣王』。
目の前の壁と睨めっこ。
「破……柱!」
ゼナムスが創り出した土壁。
その壁を自らが創り出した極太の土柱でぶち壊しながら、『雷獣王』を吹き飛ばす。
圧倒的な【故郷】のルーンの力。
それを見たクラマは確信する。
(やはり……父ちゃん――豪王ダイバの戦い方。
豪王らしい豪快な戦い方はそっくりじゃ。
土の柱――『衝土』は得意技じゃったのう)
ゼナムスの戦い方は豪王ダイバに酷似している。
だが――
ゼナムスはプヨプヨのだらしない肉体。
戦いに向いているとはお世辞にも言えない。
そして【故郷】を使用した戦闘――そもそも戦いの経験さえ皆無。
いつボロがでてもおかしくない。
期待と不安が入り混じる中、クラマはいつでも助けれるように心も体も準備する。
しかしながら良い意味で裏切られる。
ゼナムスが『雷獣王』を圧倒している。それも危なげなく。
理由はたった一つ。
ゼナムスの技量が――【故郷】のレベルがダイバよりも圧倒的に高いのだ。
ゼナムスは各地に『愚像』と呼ばれる巨大な像を造っている。
造り方は、市民に石を集めさせて【故郷】で大まかな造形をつくりあげ、細部を仕上げていく。
同じ事をダイバができるかと言われれば不可能である。
ダイバにとって【故郷】は――土を操るルーンであった。
土で柱を造ったり、土で壁を造るルーン。
石の形状を変えることはダイバにはできない。
やろうとも思ったことが無い。
【故郷】の扱いに関して、ゼナムスは天才的なのだ。
**
クラマもインベントも倒すのは困難と判断した『雷獣王』をゼナムスが圧倒している。
そんな様子を丘の上から眺めているインベント。
土柱――『衝土』で、雷の衣を気にせず攻撃し、接近することを許さない。
仮に接近されても土壁で跳ね返す。
(属性相性なんて気にしてなかったけどねえ。
ウフフ、雷遁は土遁に弱い。
雷タイプは地面タイプにダメージを与えられない。
まさかの天敵ってわけねえ)
観察を続けるインベント。
ゼナムスの覚醒には多少驚いている。
だが――
「そう、上手くいくかしらね~?」
インベントはまだ動かない。
**
『雷獣王』の身体能力は高く、雷の衣は攻防どちらにも優秀で厄介極まりない。
だが、動きはワンパターン。
突進からの攻撃を繰り返す。完全なる近接タイプ。
そんな『雷獣王』に対しゼナムスは接近を許さない。
相手の得意な間合いでは戦わない、危なげない戦い。
しかしながら決め手に欠けている状況だった。
『衝土』によって多少のダメージは与えているものの、雷の衣を完璧に破れているわけではない。
例えるならば、鎧の上から攻撃しているような状態だ。
鎧を破壊することも、鎧の隙間から攻撃することもできていない状態。
ゼナムスの技量ならば、土を硬い槍状にすることは可能である。
だが、『雷獣王』のスピードに対抗するには手数が必要であり、攻撃力を上げるために手数が減っては意味が無い。
均衡を崩すつもりが、逆にピンチになりかねない。
「――なら……ば!!」
ゼナムスは両手を大地に。
そして『雷獣王』を待つ。
急接近する『雷獣王』。
ゼナムスは『衝土』で牽制するが、すり抜けるように回避される。
ほぼ真っすぐに接近してくる『雷獣王』。
――否。
真っすぐに誘いこまれた『雷獣王』。
「壁ィ!!」
土壁に行く手を阻まれる。
それならばと横からすり抜けようとするが――
「グガア――!?」
駆けるために蹴った脚が、地面に吸い込まれていく。
「アイヤ~! 砂地獄!」
『雷獣王』の身動きを封じるために、誘いこんだ地面を砂状にしていたゼナムス。
もがきながら脱出を試みる『雷獣王』だが、ゼナムスは脱出を許さない。
ワンパターンな『雷獣王』を罠にはめたゼナムス。
拘束し、動けなくなったところで煮るなり焼くなりすればいい。
ゼナムスの完全勝利までもう少し――――
『愚王』の名を返上し、オセラシアの平和を守る、皆に尊敬される王に――――
そうは問屋が卸さない。
インベントは「鬼畜だねえ」と呟いた。
急遽、身震いし始めるゼナムス。
そして両手で口を覆い――
「う、ヴォ、ヴォエエエエエエ!」
盛大に嘔吐した。
ネット小説大賞二次突破しました~。
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