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何事も無い

 『雷獣王殲滅作戦』のために組織された隊、総勢98名。

 内、四割が後方支援である。


 本来、後方支援は前線で戦う部隊の支援を行う部隊である。

 だが今回は、ゼナムスの支援もしなければならない。


 そしてゼナムスは『愚王』と呼ばれようが、王は王。

 不自由させないように追加で物資が運ばれる。


 そんなゼナムス専用物資。

 その量を見てクラマはがっくりと肩を落とす。


「遊びに行くんじゃないんじゃぞ……」


 ゼナムスのために用意された馬車は四台。

 ゼナムスの乗車用に一台と、ゼナムス用の食材、衣服、寝具などなどを積んだ馬車が三台。


 遠出するならわかるが、モンスターがいる場所はナイワーフの町から歩いて一日程度。

 クラマ以外にも呆れている者も多い。

 仕方ないのだ――『愚王』なのだから。


****


 さて――


 100名近くの大所帯のため、部隊は大きく分けて三部隊に分かれた。


 一つ目は先発部隊。

 クラマを含む10名が騎馬隊として大きく先行する。


 ちなみにクラマも馬に乗っている。

 クラマのルーンは【騎乗ラド】であり、馬術のスキルは非常に高い。

 だが、飛行可能なクラマをあえて馬に乗せているのは、クラマに自分勝手な行動をさせないためである。



 次に本隊。

 ゼナムスが乗る馬車のスピードに合わせて進軍する部隊。


 そして最後に後方支援部隊が続く。

 ちなみにインベントたちは後方支援部隊に同行している。



 道中――


「しっかし、すげえ量の荷物だな」


 ほぼ手ぶらのアイナは、後方支援部隊が運ぶ荷物の量に驚いている。

 ゼナムス専用物資もだが、それを除いてもかなりの量を運んでいる。


 物資の大部分を占めているのが――盾である。

 それも大型長方形の木製盾。


「あんなに嵩張る盾だからねえ、フフ」


 インベントはガタガタと音を立てながら運ばれる盾を横目に見つつ、ゆっくり歩く。


 ちなみにイング王国では、大型盾はそれほどポピュラーな防具ではない。

 森林地帯では邪魔になることが多く、移動力を削ぐような装備は好まれない傾向にある。


 特にアイレド森林警備隊では小手の使用人口が高い。

 総隊長のバンカースも小手愛好家である。



「しっかし……なかなかクラマさんと話せねえなあ~。

 話したいことたくさんあるんだけど」


 実はインベントたちは、いまだにクラマと会話する時間を持てていなかった。

 王様との謁見後、クラマは軟禁状態になった。

 ゼナムスとしては自身の栄光のため――唯一『雷獣王』の居場所を知るクラマに逃げられるわけにはいかないからである。


「私たちは一応敵国の人間だしね~。

 クラマさんも監視対象だし、私たちもゆる~いけど監視継続中って感じでしょ。

 だってさ――」


 インベントは指差す。

 その先には――


「あ、あれ? ファティマさんじゃん」


 後方支援部隊にファティマも同行しているのだ。

 アイナに気付いたファティマは笑顔で手を振った。


 アイナは手を振り返し「なにしてんだ? あの人……」と苦笑い。


「本当に……なにしに来たんだろ? 監視?

 皇女殿下様がすることじゃない。ま、いいけどさ。

 とにかく、ゆる~く監視されているとは思った方がいいね~」


「ま、マジかあ~。

 さっさとクラマさんに話しつけて、帰りてえぜ……」

 

****


 さて――


 何事も無く野営地に到着し――

 何事も無く野営地で夜を過ごし――

 何事も無く、本当に何事も無く翌朝を迎える。


 唯一インベントたちが驚いたのは、野営地と定められた場所の真ん中には100%石造りの真っ白な小屋があったことだ。

 シンプルな小屋だが、壁面は幾何学的な模様が施され、更に、入り口の上部にはインベントがゼナムスに贈答した剣が飾られている。


 100%石造りの家を造れるのはゼナムスしかいない。

 インベントとアイナは興味深く石の家を眺めていた。


 そんなインベントたちにファティマが近づき――


「『凶悪なモンスターを倒した偉業を称える神殿』――だそうなのです~」


 と教えてくれた。

 そして去り際に――「本当にゴミカスね」と呟いた。


 まあ、それぐらいである。

 何事も無い一日だ。


**



 だが――気が気でない男がひとり。

 クラマ・ハイテングウ。


 自身で倒すこと叶わず、町から引き離すことしかできないモンスター、『雷獣王』。

 何度引き離しても、吸い寄せられるように町に接近してくる。


 だがモンスターは短命。

 だからこそ、クラマはモンスターが天寿を全うするまで付き合う覚悟だった。


 なのに――異分子インベントの登場で、モンスター討伐に向かうことになってしまった。


 「倒せない!」といくら説明しても――いや説明さえできない。

 ゼナムスは聞く耳を持たない。


 仕方なく――クラマは嘘をついた。

 クラマが最後にモンスターを発見したのは北北東。

 だがクラマは東北東を目指すように指示をしたのだ。


 ――時間を稼ぐために。


 そして――「先行してモンスターを探してくる」と言い飛び立った。

 独断専行は禁止されていたが、無視して飛び立ったのだ。


(後は――発見して、これまで通り引き離せばいいわい。

 ま~たゼナムスには嫌われちまうだろうがのう。

 ――犠牲者がでるよりマシじゃ)


 部隊は『雷獣王』を発見できなければ、『雷獣王殲滅作戦』は失敗に終わる。

 そしてゼナムスは全ての責任をクラマに押し付けるだろう。


 クラマはそれで構わなかった。


 ――全ては祖国のため。



 だが予想外な事態に直面する。


 思ったよりも簡単にモンスターを発見したのだ。

 それもそのはず――


(ナイワーフの町に向かっとらん??

 まさか、部隊に……向かってきておる? バカな)


 ゆっくりとモンスターが歩を進め先は、ナイワーフの町では無くゼナムスの率いる部隊の方向なのだ。


 嫌な予感――

 そんなものは振り払い、クラマはゆっくりと大地に降り立った。


 モンスターは、降下してくるクラマを発見し苛立つ。

 「またか……」とぼやきが聞こえてきそうな、なんとも言えない表情のモンスター。


「――また付き合ってもらうぞい」


 クラマはモンスターを飛び越える。


 モンスターは首を捻りクラマを睨む。

 威嚇の表情。


 だが――方向転換をしないのだ。

 また部隊の方向に向け進み始める。


 追いかけっこが――――始まらない。


(な、なんでじゃ!?)


 そこから何度もちょっかいを出すが、どうしても方向転換させることはできなかった。



 ――もう戦いは避けられない。


**


 さて――『何事も無い』とは非常に素晴らしいことである。


 野営地まで向かう道中、『何事も無かった』のは本当である。


 ただし――モンスターは現れた。


 なにせオセラシアは現在、非常時。

 『イング王国がモンスターを送り込んでいる』と言われても仕方がないほどに、ハウンドタイプモンスターがわんさかやってくる。

 モンスターと遭遇するのは当然である。


 だが問題無い。

 『雷獣王殲滅作戦』のために組織された隊は精鋭揃い。


 ハウンドタイプモンスターが何体やってこようが、組織力で対処する。


 弓兵がモンスターを牽制し、突進を防ぐ。


 続いてゼナムス自慢の大盾の出番である。

 大盾を持ったディフェンダーがモンスターの攻撃を封じ、そして機動力を封じる。


 後は、屈強な肉体を武器にしたアタッカーが、打撃でモンスターを屠っていく。


 効率的かつ、危なげない戦い方を繰り広げるオセラシア兵。

 中々手慣れたものであり、アイナは感心した。


 そんなわけで、インベントたちが同行する後方支援部隊は、何事も無く野営地に到着する事ができましたとさ。


 めでたしめでたし。

 すごいぞ! オセラシア兵!






 そう――何事も無い一日。

 モンスターが接近してもインベントは我関せず。


 そんな何事も無い、異常な一日。

インベント、視力が落ちたのかな?

そうに違いない。


そういえば読者の皆様のおかげで、そろそろ総合評価が44444Pです。

ありがとうございます!

不穏なポイント……ですが、愛と平和の日常系小説としてがんばります!


ブクマ、評価よろしくね!

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