爺と孫
クラマ視点――
「まずい! まずいのう!」
アレの対処で手一杯なのにのう。
まさかインベントたちが来ておるとは……予想外。
予想外……ではないか。正直、忘れとった
色々あったとはいえ……放置してしもうた。
しっかし、まいったのう。
拘束されておった場所におらんと思ったら、もうゼナムスの元に連行されとるとはのう。
あ~~もう! あのバカは、な~にをしでかすかわからん!
その場で処刑されてもおかしくないわい!
本当は会いたくなどないが……行くしかない。
どうせ塔の中でふんぞり返っておるんじゃろうて。
****
「な、なんで来たんじゃ!?」
インベントたちを見て咄嗟に叫んでしもうた。
「なんでって言われてもねえ」
「いや……クラマさんが来ねえからでしょ」
そ、そりゃあそうじゃな。
ワシから頼んで来てもらっておいて、三か月近く放置してもうた。
インベントは空を飛べるし、この町に来てもおかしくはないのう。
「す、すまんかったのう」
「まあいいですけどねえ」
ふたりの無事を確認できて、まずは一安心。
しかし――。
どうにも重苦しい雰囲気じゃのう。
ま、ワシとゼナムスの仲が悪いことは皆知っておるからか。
インベントたちには申し訳ないのう。
こんなくだらない内輪揉めに巻き込んで。
ちゃんと護ってやるからのう。
しかし……なにから話せばいいのやら。
「――クラマ様」
「む?」
エウラリアが話しかけてきおったか。
ワシ……この娘、苦手なんじゃよな。
「王の御前です。
たとえクラマ様といえど、ずかずかと入ってこられるのは、少々不敬かと」
まあ……正論じゃな。
やりにくいのう。
「それはまあそうじゃのう。申し訳ない」
ゼナムスがニヤニヤ笑っておる。
相変わらずのバカ野郎じゃのう。
む? 指を鳴らしおった。
歯切れの悪い音じゃ。不摂生で指までぷよぷよしとるからの。
「エウラリア。まあよいじゃないか」
「しかし……」
「なにせ敵国であるイング王国から秘密裏に彼らを呼び寄せたのは、他でもない爺さんだからな。
それに、爺さんには聞きたいこともある。グフ~」
「聞きたいことがなにか知らんが、コイツらに危害を加えるでない。
解放してやれ」
「グフッフ、失礼な。危害なんて加える気は無い」
「嘘をつけ。監禁しとったんじゃろう。
見せしめに殺すつもりなんじゃないのか?」
「グッフッフッフ、野蛮な。そんなことをするわけがないだろう。
余はあなたのように武力で全てを解決するような野蛮な人間ではなーい」
昔の状況も知らずにこのバカモンは……。
「イング王国を敵国扱いする、『愚かな王』がなにを言っておる」
エウラリアが「クラマ様!」と怒鳴る。
ったく……鬱陶しいのう。
「エウラリア、よいよい。
爺さんはイング王国が敵ではないと言い続けておるがなあ、ゲフフ。
だが、実際問題モンスターがイング王国から大量に送り込まれているじゃないか」
「なにをバカなことを。
そんなことはイング王国でもできん!
モンスターを操ることなどできん!」
ゼナムスの悪辣な笑み。
「さすがイング王国に随分と詳しいなあ。
もう何年もイング王国には行っていないはずなのになあ?」
「む?」
なるほど……そこを突いてきおったか。
インベントたちがイング王国側の人間だということはさすがにバレておるじゃろう。
ワシが手引きしたことも……知られておるか。
あ~めんどくさい。
「ゲンジョウ家のホムラをイング王国に差し出して、爺さんはイング王国と一切関係を断ったはずだよなあ?
だけど、ゲフフ、おかしいな~?
彼らが言うには、サダルパークにイング王国の人間がもう四人もいるらしいじゃないか」
う~む……色々バレちまっとるのう。
仕方ない――か。
「ハア……確かにイング王国の人間をサダルパークまで運んだ。
じゃがのう……ノルドは偶然、森の中で死にかけとったのを拾っただけじゃ」
「ブハハ! 人間を拾った? 中々に苦しい言い訳だな」
「嘘などついておらん!」
エウラリアが咳払いを一つ――
「ですがクラマ様」
「なんじゃい?」
「そもそも、森にはなぜ行ったのですか?」
「な、なぜってそりゃあ」
「イング王国の誰かと密会するためでは?」
「ば、バカをいうな!」
「ですが……10年近く前にクラマ様はイング王国と関係性を断つと明言されております」
「も、森に立ち寄っただけじゃ。モンスターの動向とかをこう――」
エウラリアは首を振る。
「クラマ様。
例えば、クラマ様が『ナイワーフ』に近づいてはならない――としましょう。
その場合、もちろん、町には入れないのは当然です。
ですが町の周辺だったら良いのでしょうか?
空の上ならば良いのでしょうか?
違いますよね。ナイワーフは町の名前でもありますが、周囲を含めてナイワーフです。
同様に――イング王国と言えば、あの鬱蒼とした森からがイング王国です」
むぐぐ~! 面倒極まりないのう!
「わかったわかった!」
ゼナムスが高笑いしておる。ほんに鬱陶しい!
だから会いたくなかったんじゃ。
「まあ、一人は拾ってきたとしよう。
だが爺さんは、え~インベントとププリッツ、それにもう一人も運んできたんだろう?」
「そりゃあ、非常時だったから――」
ゼナムスが椅子を叩く。
「非常時だからと言って、敵国の人間を連れてくる権利は爺さんには無いだろう!」
むぐぐぐぐぐ、権力の使い方ばかり覚えおって……!
「とりあえず、爺さんをまず監禁だな」
「な!?」
「当然だろう? 秘密裏に敵国と繋がっているのは明白だ。
なあ? エウラリア~?」
エウラリアが「ええ」と同調しおる。
「ば、バッカもん!
今は非常時! ワシにはやることがあるんじゃ!
貴様らでは対処できんモンスターが近づいてきておる!
こんな茶番に付き合っている場合ではないんじゃ!」
「ブアッハッハッハ!
これまで散々、モンスターには困らされてきたがな!
もうモンスターなど怖くなどないわ!」
ゼナムスが両手を広げる。
「ナイワーフの町には、我がゼナムス親衛隊!
更に各地の猛者――
『十騎神衆』! 『ギニア特戦隊』! 『幻影五団』! 『黄金拳闘士』!
そして――『特務機関ゲルブ』まで集まっておる!
モンスターなど恐れるに足らんのだよ! グヒヒー!」
「な、なんじゃそいつら……。
ぜ、全部知らんぞ!? 聞いたことも無い。
名前は強そうじゃが……いやいや、何人集まろうが意味が無いんじゃ!
数で勝てるようなモンスターでは――」
「グヒヒ。
モンスター対策、『絶対防御陣』も完成している!
もう、モンスターなど遅るるに足らぬのだよ!
おい!
爺さんを連れていけい」
兵たちは命令されたが戸惑っておるようじゃのう。
『星天狗』を捕まえるのは嫌じゃろうな。
まったく困った『愚王』じゃわい。
さてさて、どうしたもんかのう……。
捕まってる場合じゃないし……ずらかるか。
逃走経路の確認……しつつ――む?
パリーーーン。
「な、なんじゃあ?」
手に届かない位置のガラスが割れおった。
****
その場にいた全員の視線が同じ場所に集まる。
――たったひとり。
インベントだけが違う方向を向いていた。
じっと、ある人物を注視していた。
そして――あることに確信を持つ。
(なるほど――そういうことね。
ふ~ん。
さあ、どうやって――遊ぼうかしら?)




