王様との謁見イベント
「お、王様がアタシたちに会いたい!?」
「そうなのです〜」
アイナは「い、嫌だー!」と叫ぶ。
「そう言われても~、ゼナムスがおふたりを呼んでいるのです~」
「さ、散々ヤバイ王様だって話しといて、今更会いたくなんてねえっての!」
「あはは……。
でもですねえ~、そもそものきっかけはインベントさんなんですよ~」
インベントは「私?」と少し驚いている。
「インベントさんが剣なんてプレゼントするからゼナムス、喜んじゃって」
「ハハ、あの剣、王様のもとまでいったんだ」
「尋問してた彼らは王と近い人たちなので、イング王国からの贈り物として扱われちゃいました~」
インベントは「こりゃ効果はバツグンだ」と笑みを浮かべつつ――
「で? 王様にはいつ会いに行くの?」
「実は……すぐにでも」
アイナが「す、すぐ!?」と小さく飛び上がる。
「じゃあいきましょ」
インベントが立ち上がろうとするが――
「バカバカ! ヤバイ王様になんて会いたくねえぞ!」
インベントは溜息を吐き「だったらひとりでいくよ」と冷たく言い放った。
「うえ?」
「ファティマさんの話を聞いた感じ、王様は『すぐに会いたい』と思ってる。
待たせたら機嫌を損なうかもしれないでしょ。
それに拒否なんてしてみなよ。本当に殺されるかもしれないよ?
なにせ、私たちは敵国の人間なんだからさ」
アイナは「こ、殺すなんて」と首を振るが――
「その可能性は……無いとは言い切れないのですう~。
ゼナムスは気分屋で、コロコロと意見が変わるのです~」
ファティマが申し訳なさそうにしている。
インベントが立ち上がる。
「やっぱりすぐに行くしかないね。
幸い、ファティマさんが――――」
インベントは何かを思いついたように「ああ」と言いファティマを見る。
「なんでしょう~?」
「王様の情報を教えてくれたのは、私たちが王様を怒らせたりしないためだったりするのかしら?
な~んて思ってね」
「まあ、そんなところです~。
あとはうまいことやっていただいて、早くこの国から逃げてほしいのです~」
「なるほどなるほど、ふふふ」
こうしてインベントは『愚王ゼナムス』の情報を手に入れた。
あとは王様との謁見次第でインベントたちの未来が変わる。
アドベンチャーゲーム的に考えれば――――
・ゼナムス王となかよくなる→ グッドエンド
・ゼナムス王をおこらせる→ バッドエンド
・????
インベントはグッドエンドに進むための情報がある。
プレゼントも渡しておりゼナムスの好感度も高い。
グッドエンドに向かうのはそれほど難しくないように思える。
だが――物事は思うようにいかないものである。
想定外の事態が起こるかもしれない。
そしてなにより、プレイヤーはインベントなのだ。
いや――インベントらしきナニカなのだ。
****
インベントとアイナは兵に連れられゼナムスのもとへ。
ファティマも同行する。
さて――
連れてこられた場所は、町の中で一番目立つ塔。
『愚虎』の像が跨る塔の中へ。
塔の中は装飾品が飾られており、なかなか優雅な空間になっていた。
一行は螺旋階段を登り二階まで。
「ほお~、それっぽいね。謁見の間っぽい」
塔の中なので多少狭くはあるものの、インベントが呟いたようにまさに謁見の間と言える。
舞台のような場所があり、ポツンと一つ豪華な椅子が置かれている。
王が地位の高さを誇示するような形式。
そしてインベントたちの左右には兵が整列している。
「ああ、そうだ。ファティマ――様?」
「ふふ~、インベントさん。
私には『様』なんてつけなくても良いのです~」
インベントは周囲を眺め、首を竦める。
ファティマは王の姉である。
インベントとしては、王の姉を人前で『さん付け』で呼ぶわけにもいかないのだ。
「オセラシアの挨拶には儀礼的なものはありますか?
片膝をついたりしたほうが良いでしょうか?」
ファティマは首を振る。
「親衛隊は忠誠のため片膝をつきますが、客人のおふたりは不要です~。
会釈ぐらいしていただけるとありがたいのです~」
「なるほど、心得ました」
インベントは非常に落ち着いている。
だがアイナは挙動不審と言っていい状態だ。
なにせ、急遽王様と会うことになってしまったのだから無理もない。
「ど、ど、ど、ど、どうしよう」
「ハハハ、ニコニコしてればいいんじゃない?」
「に、ニコニコ?
へへ、ヒヒヒ、ニヘヘ」
どう見ても引きつった不気味な笑顔のアイナ。
「そうそう~いい感じ~。女は愛嬌ってね~」
**
待つこと数分――
ゆったりとした服装でも隠し切れない、ずんぐりむっくりな男が現れる。
不摂生からか顔には吹き出物があり、表情は傲慢不遜。
クラマの血縁者とは思えないほど堕落した肉体であり、低めの身長と目つきの鋭さぐらいしか類似点は見いだせなかった。
だがファティマの話を聞いていたので、すぐに彼がゼナムス王だとわかった。
まさに器ではない王の登場に、インベントは自然と嘲笑しそうになるがどうにか友好的な笑顔に切り替える。
ゆっくりと歩くのだが、大物ぶっているのが見え見え。
付き従って歩く女性の姿勢が良く、無様さを引き立てていた。
王の椅子にドスンと座ると――
その場にいたインベント、アイナ、そしてファティマを除く全員が片膝をついた。
その様子に笑みを浮かべたゼナムス王。
そして――
「うむ、皆、面を上げよ。
エウラリア。そこのふたりがイング王国の人間か?」
ゼナムス王の隣で秘書のように振舞うエウラリアと呼ばれた女が「ええ、そうでございます」と囁いた。
「ふう~む、まだ子どもでは無いか。グフグフ」
ゼナムスは主にアイナを見ながら、特徴的な声で笑った。
アイナは緊張と、ゼナムスの気持ち悪さに生唾を飲んだ。
ファティマが一歩前に出た。
「お久しぶりなのです~、ゼナムス王」
「ああ、姉さん。相変わらず暢気に生きてるみたいだねえ、グフフ」
「あはは~、私は王族の責任なんて怖い怖いです~。
ゼナムス王のような器ではないのですよ~」
明らかなおべっかなのだが、ゼナムスはまんざらでもない笑みを浮かべた。
「まあよい。そのふたりはあのイング王国の人間で間違いないのだな?」
「はい~。間違いありません。
ですがおふたりには敵対意思はないですよ~。ご安心ください」
ゼナムスは鼻で笑い「それは余の慧眼を持って判断する」と言い、どっしりと座りなおした。
そしてインベントたちを見下すように見て――
「あ~ゴホン!
余はオセラシア自治区の王であるゼナムス・オセラシア・ハイテングウだ。
お前たちはなぜ、オセラシア自治区内に侵入してきたのだ?」
インベントは半歩前に出た。
そして、それらしく頭を下げる。
「この度は高貴なるオセラシア自治区の当代の王、ゼナムス様に謁見でき、誠に光栄でございます」
スラスラと喋り始めたインベントに対し、アイナはポカンと口を開けた。
「私、イング王国で運び屋を営んでおります、リアルト家の長男、インベントと申します。以後お見知りおきを。
そしてこちらがアイナ……え~~家名なんだっけ?」
アイナが「プ、プ、ププリッツ」と言うので――
「こちらはアイナ・ププリッツです」
本当は『プリッツ』なのだが、口を挟めないアイナ。
「それでは、私からオセラシアに参った経緯をお話してもよろしいでしょうか?」
ゼナムスは「申してみよ」と言う。
「ありがとうございます。
え~――――クラマ……」
クラマの名を出した瞬間、明らかに顔が歪むゼナムスを確認し――
あえて『クラマ様』ではなく「クラマさんとは――」と話し始める。
「クラマさんとはですね、イング王国で何度かお会いすることがありまして。
実はサダルパークの町に、私たちとは別にイング王国の手練れが二名、参戦しております」
「む? そんなことは知らんぞ」
と憤慨気味のゼナムス。
「ええ、ええ。私も驚いたのですが、まさかクラマさんはゼナムス王に許可をとっていないとは思わず。
こう言ってはなんなのですが、ある意味騙されて参上した状態でございます」
ゼナムスは「グフー! なるほどのう、それは悪いことをした」と言う。
「いえいえ、もったいないお言葉でございます。
まあ、経緯といたしましては、こちらのアイナが戦力の増援として。
そして私が運び屋として武器をお持ちしたのでございます」
「グフ! なるほど。
そうそう、あの剣はとても素晴らしかったぞ。
しかし……インベントとやらが運び屋なのはわかるが――
そちらの――ププリッツとやらは戦力としてなのか?」
アイナは苦笑い。
「ははは、小柄ではありますが彼女の剣の腕は中々でございます。
あ~とは言えですね、実は私、この町に来て感服したことがございます」
「ほほう? なんだ? 申してみよ」
インベントは両手を広げた。
「呼び方はわからないのですが、ここにいらっしゃる兵の方々はもちろん。
町の中でも鍛え抜かれた屈強な強者をたくさん見かけました。
これほど戦力が整っているとは、驚嘆の極みでございます」
ゼナムスは満面の笑み。
「ほほう! よくぞ気付いたなあ!
そうなのだ、この町にはオセラシアの優秀な人材が集結している。
ゲフゲフフ、これだけの戦力を揃えれば――――」
嬉々として話始めるゼナムス王。
インベントの思惑通り、ゼナムスの好感度は爆上がりだ。
してやったり――
後はオセラシアから大手を振って帰れるように交渉すればいいだけだ。
だが、ここで想定外の人物が現れた。
インベントは「こりゃまたタイミングの悪いこって」と言う。
血相を変えたクラマが現れたのだ。
あまりアドベンチャーゲームはやったことないです。
シュタインズゲートは、途中で投げ出しました。
※アニメは全話見ましたが




