好感度×フラグ×ルート選択
牢に入れられたふたり。
牢と言っても、ベッドは二つあるしトイレもある。
中からドアを開けることはできないので、監禁部屋といったところだろうか。
「なあインベント」
「ん~?」
「なんで剣なんて渡したんだ?」
インベントはせせら笑い「まあ、好感度上げかな」と言う。
「こ、好感度だあ?」
「尋問官の好感度上げといた方がいいでしょ。
まあ……あの尋問官はモブキャラっぽけど、どう転ぶかなんてわからないし」
納得していないアイナを見て、インベントはやれやれという感じで話を続ける。
「イング側からコッチにモンスターを送り込んでいるのかどうかはわからない。
けど、事実として、私たちは敵国の人間扱いされている。
結構微妙な立場にある」
「まあ、でも、クラマさんが来れば……」
インベントが「ウフフ」と笑う。
「クラマさんが来るとは限らない」
「は?」
「正確に言えば、来るとは思うけど、いつ来るのかわからない。
尋問官もクラマさんの動向は知らなかったみたいだし、あのジイさん単独行動なんじゃないかしら?
もしかしたら誰も動向を掴めていないのかもしれない。
ジイさんがイング側に来てることも知らないみたいだし」
「ま、まあな」
「だからジイさんが来なかった場合のルートも考えておかないと。
ジイさんが来なかった場合、尋問官の好感度は重要に……なってくるかもしれないしこないかもしれない」
アイナはずっこけ「どっちだよ」と言う。
「ま、立てれるだけフラグは立てといたほうがいいでしょう」
アイナは「ふ、フラグ?」というがインベントは無視して話を続ける。
「しっかしまあ、あの尋問官じゃあキャラが弱いのよねえ~。
だけど尋問官から誰かに繋がるかもしれない。
案外ジイさんが今日にでもやってきてそれで完了するかもしれない。
フフ、モンスターが強襲してきて共闘ルートなんてのも……いや共闘というよりも救出ルートか。
ま……あんまり面白そうじゃないわね~」
インベントはこちらから開けることのできないドアの前まで歩く。
そしてドアにペタペタと触る。
「どうした? インベント」
「ドアは木製。壁は土壁? そこまで強度も無さそうね」
「ま、まさか」
インベントは笑う。
「最悪の場合は……脱獄ルートねえ」
「だ、脱獄って、おい。
そこまでする必要はないだろう」
インベントは溜息を吐いた。
「――イング王国からのスパイ発見」
「へ?」
「憎っくきイング王国のスパイを捕獲し、尋問を行った。
結果、やはりオセラシアに対して敵対行動をとっていることが発覚。
二名を――磔の上、火あぶり」
「お、おいおい」
「なあ~んてことありえない?
絶対無いと言える?
現時点で投獄されているのに?
罪のでっち上げは、貴族や王族の特権でしょう?」
「あ、あぁ」
アイナは狼狽える。
インベントが仮定している未来に対してもそうだがなにより――
(い、インベント、なんか賢くなった?
まあ頭悪くは無かったけどさ。
モンスターのこと以外でこんなに饒舌になるやつだっけ……)
インベントの変化にも戸惑うアイナ。
「は、話は戻るけど、どうして剣で好感度が上がると思ったんだ?」
インベントはナイフを取り出した。
「オセラシアって恐らく鉱物資源が少ないと推測される。
だからノルドさんも剣が無くて困ってたでしょ。
包丁だって高級品扱いだし、石包丁を使ってるのも何度か見たことがある」
「ああ~そりゃあそうかも」
「この町に来てから、軍隊っぽいやつらを観察していたけど鉄系の武器ってほとんど無かった。
というよりも盾は多いけど武器らしい武器がぜ~んぜんない。
恐らく……武器の水準、というよりも文化水準が数段階落ちるのよね、オセラシア。
だからまあ剣でもプレゼントになるかな~と思ったら、面白いぐらい食いついてたね。
まるで妖刀に魅入られているみたいだったにゃあ、ヒッヒッヒ」
「ハ、ハハハ」
「まあ、後は武器は全部出したフリをしたかったってのもあるね」
「フリ?」
「脱獄の可能性もあったし、武器を失いたくなかった。
だから先に護身用と贈答用の剣として手渡した。
武器は全部出しましたよってアピール。
インベントリーの中が武器だらけだと知られるとめんどくさい」
「な、なるほど」
「ふふ、両手を縛られたり、破れない堅牢だったらどうしようかと思ったけど……杞憂だったわねえ。
やっぱり最悪の場合は――脱獄かな」
「ナハハ、そうならないといいな」
「ま、相手の出方を見ましょうかねえ~、フフフ」
****
三日後――
尋問官がやってきて、ドアを開けた。
開口一番――
「やはりクラマ様は現れなくてな。不便をかけて申し訳ないな」
と謝罪からスタートする。
明らかに軟化している態度に、アイナは内心驚いていた。
(好感度……上がっとるやん!)
インベントの意図した展開になり驚くアイナ。
そして――
「もう一度話を聞かせて欲しいのでついてきてくれ」
**
再度尋問室に連れてこられたふたり。
ふたりに対し、相手側は一人増えていた。
尋問室に似つかわしくない、にこやかな女性。
まるでお茶でもしに来たかのような緩い雰囲気を纏う。
「あ、どうもどうも、こんにちは。
ごめんなさいです~。監禁みたいな感じになっちゃって~」
雰囲気通りの緩~い喋り方にインベントとアイナは面食らう。
「ご不便無いでしょうか~? 男女同じ部屋というのは問題かなあと思ったのですが~。
一人ぼっちよりはいいんじゃないかと思ったんです~」
「ん……まあ、孤独感無くてありがたいかな」
アイナの発言にふんわりガールは手を叩いて喜んだ。
「それはそれはよかったのですー!
ちなみにおふたりはご夫婦なのですか~?」
「ブッ! 違う違う! ただの仲間」
「あらあ~そうなのですかあ~。お似合いだと思ったのにい~」
女子会のようなノリ。
ふんわりガールの隣に座る尋問官が咳払いを一つ。
「あ、ごめんなさいなのです~。
えっと~私はファティマと言います~。
おふたりはアイナさんとインベントさんですね~」
「はい」
「そうそう、じ……クラマ様とお知り合いなんですってね。
私も長いこと会っていないのですが、元気そうでしたか?
最近は咳が酷いって言ってたので、心配だったんですよ~」
アイナは「へ?」と言い――「咳なんてしてたか?」とインベントの顔を見る。
インベントはファティマの顔を見ながら――
「――してないよ」
と答えた。
ファティマは表情を崩さず――
「うふふ~そうですかあ~。
元気そうでなによりです~。
そういえばクラマ様とお会いしたのはイング王国側なんですよね~?
そちらではクラマ様ってどのような恰好をされているんですかあ~?」
アイナは宙を仰ぎ――
「恰好ねえ。
なんか目立つのが嫌いみたいだから、地味な恰好してる気がするな。
町に立ち寄るのは嫌がってる感じだったし」
「ああ~そうなのですねえ~。
なるほどなるほど~」
世間話のような会話。
だが、インベントは鼻で笑い――
「普段は天狗下駄は履いてませんね。
とにかく目立つのが嫌いみたいなので。
立場的な理由なんですかねえ。
白髪で小柄、あれ~歳はいくつなんだっけなあ。
まあ見た目は50歳ぐらいに見えましたね。
鍛えているから若く見えるんですかねえ、ハハハ」
インベントは最後に――
「これぐらいで信じてもらえますか?」
と言う。
笑顔だが目が笑っていないインベント。
「アハハ~……まあ疑っているわけではないですよ~。
ただ、クラマ様が絡んでいるとなると、慎重にならざるを得ないんですよ~。
気を悪くされましたか~?」
上目遣いのファティマ。
「いえいえ、お気になさらず」
目を細め笑顔を崩さないインベント。
笑顔の探り合い――
続く。




