プロ牢グ
十章スタートです
「……なんでこうなった」
「ファ~ア、なんでだろうねえ」
アイナは嘆き、インベントはあくびしつつ寝転がる。
インベントが「モンスター狩りたいなあ」と呟く。
そう――狩りたくても狩れない状況に陥っているのだ。
「ねえアイナ~」
「な、なんだよ」
「ここからいつ出られるの~?」
「あ、アタシだってわかんねえんだよ!
なんで……こんな……こんなことになったんだ!?」
頭を抱えるアイナ。
インベントは不貞腐れながら、外を見る。
小さな小さな窓から外を見る。
灰色の空の下、モンスターたちはインベントに狩られるのを待っている――と思っているインベント。
だが狩りに行けないのだ。
なぜなら、ココには出口が無い。
そう――牢屋の中にいるのだから。
****
拘束されし魔狼を倒し、ルベリオを退けたインベント。
その後――インベントは全身の激痛に耐えつつもどうにかサダルパークの町に。
あえてアイナはアイレドの町ではなくサダルパークの町に戻ることを選択した。
当初の目的は『インベントを森に還す』ことであり、ルベリオを退けた地点はアイレドとサダルパークの中間地点。
アイレドの町に戻ることもできた。
だが――さすがに拘束されし魔狼のことや、ルベリオやアドリーが属す『星堕』なる集団のことを知ったアイナ。
『スーパーかったるい』と思いつつも、クラマに話さなければならないと思い、サダルパークに戻ることにしたのだ。
だが――しかし――
「クラマさんが帰ってこねえ!!」
そう、いつまで経ってもクラマはサダルパークにやってこない。
報告したくても報告すべき相手が現れない。
ルベリオを退けてからなんと二か月経過してしまった。
ちなみにこの二か月間、サダルパークには平和が訪れた。
拘束されし魔狼を倒したためか明らかにハウンドタイプモンスターは激減したのだ。
激減したため、インベントはあえて探してでもモンスターを狩りに行く。
――ある意味通常運転。
アイナも同行するが、特段変わった点は見られない。
極稀に――オネエ言葉を喋るようになったぐらいである。
そんな生活の中で痺れを切らしたのはインベントではなく、アイナだった。
インベントは物足りない生活を送っているものの、モンスターを狩れているのである程度満たされている。
だがアイナとしては、さっさと情報を然るべき組織か人物に渡してしまいたかった。
アイナにとっては手に余る情報であり、宙ぶらりんな現在の状況は、まったくもって「かったるい」のだ。
「ああ~、もう! クラマさんはなんで来なーい!?」
インベント、ノルドとともに晩御飯を食べるアイナは管を巻いていた。
ちなみにロゼは自警団の面々と打ち合わせや作戦会議をしているため不参加である。
インベントは気にせずご飯を食べ、ノルドは酒の肴をつまみつつ軽く酒を嗜んでいる。
「だいたいクラマさんが呼んだから遥々オセラシアまでやってきてるのに、一度も顔出さないってのはどういう了見なんすかねえ!?
アタシは早く帰りたいってのにさ!」
ノルドとしては何度も何度も聞いた話である。
ノルドは仕方なく――
「あの人は、色々忙しいからな」
「忙しいったって三か月ですよ!? 一度も顔を出さないってのはおかしくないですかあ!?」
普段ならばアイナがストレスの発散のため愚痴をまき散らすだけなのだが、ノルドは珍しく「そういえば」と握力が無くなってしまった右手を擦りながら話し始めた。
「イング王国との国境沿いには三つの町があることは知ってるな?」
「あ~聞いた記憶はあります」
「まずはここ、サダルパーク。
そして西にいくとタムテン、さらに西に行くとナイワーフという町がある。
そしてタムテンの町は壊滅したそうだ。
サダルパーク同様、大量のモンスターに襲われたそうでな」
「やっぱり種馬とかいうのが別に一体いるのかもしれませんね。
インベントは『ふぇんりる』とか呼んでたけど」
インベントは「アハ~拘束されし魔狼ゥ~」と喜びの声を上げた。
アイナは「ハイハイ、落ち着こうな」と窘める。
「そうかもしれんな。
まあタムテンの住民は、大半がナイワーフや南部の町に移動したらしく被害は少なかったそうだ。
だがモンスターがいなくなったわけじゃないからな。
クラマさんがいるとすれば、タムテンの南部の町か、ナイワーフの町だろう」
「ふう~ん」
ノルドは悪態をつく。
「ま、あえて言うなら、オセラシア自治区としてはサダルパークを捨てたんだよ。
イング王国から来た、たった四人の助っ人を信頼したのかもしれねえが――」
ノルドはインベントを指差した。
「このモンスターバカが尋常じゃない成果をあげなければ今頃サダルパークは滅びてた。
それも種馬とやらを殺したお陰で、逆に平和になりつつある」
ノルドはグイっと酒を喉に流し込む。
「ま、俺が国家運営する立場だとすれば、こんな辺境の町、さっさと放棄するがな」
「まあ……そりゃそうかもしれませんね。
…………ぷふふ」
アイナが馬鹿にしたように笑う。
「ん? なんだ?」
「いやあ……まあ確かにそうなんですけど、『白狼団』の団長様が言っちゃあだめでしょうってね」
ノルドは咳き込んだ。
『白狼団』とは、自警団の中でノルド直属――と言い張っている部隊の連中が勝手に名付けた名前である。
今やノルドはサダルパークの町のヒーローである。
そんなヒーローにあやかって『白狼団』と勝手に呼び始めた。
ちなみにモンスター討伐数は圧倒的にインベントのほうが多いのだが、インベントは自警団と絡む気が全く無い。
そのためインベントが頑張れば頑張るほど、ノルドの評価が上がってしまうのだ。
「チッ、あいつらが勝手に呼んでるだけだ」
「ええ~? でもでも、最近『白刃』様は後進育成にも手を出してるみたいじゃないですかぁ?」
ノルドはバツが悪そうに耳をほじる。
「……育成などしてない。
アイツらだけで町を守れるようにだな――」
酒が入りニヤニヤしているアイナ。
そんなアイナを見て、ノルドは溜息を吐いた。
「――もういい。俺は部屋に戻る」
「ハハ~、おやすみなさい」
「あ、おやすみなさ~い」
ノルドは席を離れ、そそくさと部屋に続く階段を登っていく。
「ああは言ったが――」とノルドが呟く。
(クラマさんがサダルパークを見捨てるとは思えない。
だったらなぜ来ない?
いや――来られないのか?
空を飛べるクラマさんを縛り付けるような何かが……起きているのか?)
**
「そろそろ俺も部屋に戻るね」
「おう、アタシも戻ろうかねえ。
あ~あ、いつになったらイング王国の飯が食えるようになるのかねえ~」
席を立とうとするインベントが――
「イベントかにゃあ~?」と呟いた。
「んあ? なんか言ったか?」
「――――」
「おい~? インベント?」
「ねえアイナ」
「ん?」
「そんなに会いたいなら、こっちからクラマさんに会いに行けばいいんじゃないの?」
「え?」
「恐らく、ナイワーフとかいう町にいるんじゃないの?」
少々積極的なインベントに対し多少気圧されるアイナ。
「お、おう。だけどちょっと遠いぞ?
壊滅した隣町までが馬で三日って言ってたからなあ。
さすがにインベントでも一日じゃ無理だ」
「夜間に移動すればいいよ」
「はえ? 夜間?」
「夜の間に移動して、昼間どこかで仮眠をとれば問題無いと思う。
場所さえ選べばアイナひとりでも護衛はできるでしょ?」
「ま、まあそうだな」
「それか遠回りだけど南部の町を経由して行けば、時間はかかるけど安全かな。
そのあたりの情報は自警団の人に聞けばわかるんじゃない?」
アイナは納得する。
納得しているはずなのに、なぜか後ろ髪を引かれているかのような気分。
「そんじゃあ……明日情報収集してみるとすっか」
「よろしくー!」
「ってアタシかい!」
インベントは笑いながら席から去っていった。
**
翌々日深夜――
ナイワーフに向けて出発することが決まった。
――決まってしまった。
インベントのイベント……。
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