対CPU(最強)
インベントが蹴り主体に攻め、ルベリオがひたすら回避し続ける。
インベントの攻撃はダイナミックだが、筋力に全く依存しない動きのため攻撃の起こりが全く分からない。
これまでにルベリオが学習していたインベントの行動パターンが、役に立たなくなってしまった。
収納空間を使う際の微細な指の動きさえも無くなってしまったのだ。
完全に別人。
【器】を使うこと以外は、表情も、言動も、行動パターンも、狂い具合も――
そして叫んでいる技名らしきものも、何を言っているのかまったくわからない。
「サマーソルト――スピンバイパー!
……あれ? スピンアックスだっけ? スピンコブラ?
ヒヒ、まあなんでもいっか」
予備動作から先読みすることができない。
インベントがバク転しながら放つ蹴りも、ギリギリ回避するのがやっと。
だが重要なのは、ギリギリだとしても避け続けていることである。
(先読みができなくってもねえ――!)
戦闘時間が伸びれば、ルベリオにインベント対策を講じる時間を与えるということだ。
だがこれといって優れた対策は思いつかなかった。
それだけ現状のインベントが異常な強さなのだ。
それゆえ――ルベリオはまず、先読みすることを諦めた。
できないものを潔く手放した。
そして集中すればなんとか躱せる事実にルベリオは勝機を見出す。
インベントの身体が動き始めた瞬間に反応できるよう、【人】のルーンを全開放した。
その結果、より速く、より正確に攻撃の軌道を予測する。
後は――
ルベリオはインベントの右から左への蹴りをギリギリで躱しつつ、前進する。
インベントは刀を返すが如く、左から右に蹴る。
ルベリオはその蹴りを両手で防御する。
(重い――! だけどねえ、これなら――!!)
ルベリオは蹴りの威力を、技術で分散させ完全に殺した。
そして反撃。
固く握った拳がインベントの腹部を狙う。
(さあどうする!? どんな動きをしてきても対処してあげるよ!)
躱す? それとも防御する?
否。
インベントは――笑いながら――
(なにもしない??)
インベントは攻撃をモロに受けた。
ルベリオの拳は、インベントの腹筋を突き破り、内臓に衝撃を与えた。
そして肺に溜まっていた空気が押し出された。
当然の結果。
だが、起きるべき反応が起きない。
インベントは痛みで声を上げない。それはまだわかる。
苦しみもしない。
何事も無かったかのように――
インベントは笑っていた。
(――狂ってる)
自然とそう思い、ルベリオは身の毛がよだち、恐怖した。
そんなルベリオの恐怖を更に煽るように――
か細い声でインベントがわけのわからない言葉を紡ぎだす。
「ス~~パ~~ア~~マ~~」
――と。
直後――
インベントの裏拳がモロにルベリオの顔面にヒットし、吹き飛ぶ。
「ゴフッ!」
口が切れ流血するルベリオ。
だがすぐに体勢を立て直す。
インベントの異常さに動揺し、一撃喰らってしまったが、追撃を許す気は無い。
臨戦態勢のルベリオ。
それに対し、ケラケラと笑っているインベント。
だが、急に表情が曇る。
そしてルベリオに殴られた腹部を擦り始めた。
ルベリオは安堵する。
「ハハハ、全く効いていないかと思ったけど、やせ我慢だったんだね。
そりゃあそうだよね」
ルベリオは嘲笑う。
だがインベントはルベリオを見てもいない。
インベントは「――うっせえな」と呟く。
すぐさま反応するルベリオ。
「ウフフ、痛み分けってところかな!?」
沈黙。
数秒後――
「――ハッ! 時間制限アリなのかねえ。
まあそれも格ゲーらしくていいか。
でもまあ、雑魚相手だから問題無いっての」
噛み合わない会話と、馬鹿にするように笑うインベント。
ルベリオは「雑魚だって?」と発言しようとする。
だが――
「カカカ。ダイジョブダイジョブ。
ここからは無傷で終わらせるっての」
インベントは会話をしているわけではなかった。
ただの独り言である。
インベントは両手を広げ、ルベリオを見る。
「ククク、私を誰だと思っている。
『漆黒幻影魔王』第一の眷属、『闇枯れの淑女』。
訳あってこんな場所にいるがねえ――」
インベントは意味深に右目を左手で隠しながら――。
「大事な宿主様なんだ――」
インベントは歩を進める。
「だからねえ。ぶち殺して、あ・げ・る」
狂気に――闇に呑まれたインベントに対し――
ルベリオが「聞いていないかもしれないけどね」と前置きし、
「ボクも本気でやるよ。
まだ……死にたくないからねえ」
ルベリオが構える。
それに対しインベントが垂直に飛び跳ねた。
着地と同時に大量の砂塵が足元から舞う。
「沙冥――」
インベントの身体が加速し、ルベリオの顔面目掛けて蹴りを放った。
「闇風脚!」
**
そこから一分。
たった一分だが濃密な一分だった。
インベントは足技を中心に高速移動しつつ戦う。
対するルベリオは、どっしりと構えて戦う。
インベントの攻撃をどうにか躱し、隙あらば反撃を行う。
インベントはルベリオの攻撃を避ける。
ガードはしない。とにかく回避する。
決定打はゼロ。
まさに均衡していた。
「カカカ、待ちガルイかよ!?」
「なに言ってるのか――本当にわからないね!」
まるで早送りしているかのような戦闘。
奇しくも両者同じことを感じていた。
『反応速度が異常』――と。
インベントは収納空間を利用して移動している。
インベントはルベリオの攻撃を見た瞬間には移動しているのだ。
それに対しルベリオも【人】のルーンを全開放し、インベントが動き出した瞬間には反応している。
そして身体に沁みついている格闘技の動きがルベリオを助ける。
見た瞬間に動くインベントと、見る前から動くルベリオの戦い。
「超反応しやがって……こんのクソCPUが!」
インベントが吠える。
膠着状態になり、やはり奇しくも同じことを考えていた。
このままでは『埒が明かない』――と。
だがルベリオは『ここからは我慢比べ』だと思っていた。
根負けしたほうが負けると。
だがインベントは――『闇枯れの淑女』は違う。
「やめやめ」
インベントは一旦距離をとる。
「めんどくさぁ~い。
なにこのCPU。反応速度バグってる。バッカみたい。
あ~クソゲー。戸愚呂かよ。
もういいや。
こんなクソゲーでガメオベアしたくないし……さっさと終わらせちゃうね」
ルベリオが鼻で笑う。
(やれるものならやってみろ)
ルベリオは苛立ちつつも、高揚していた。
死と隣り合わせの状況だが、互角に立ち回れているからである。
インベントは歩く。
まっすぐとルベリオに向かって。
「アンタに敗因を教えてあげるわ。
それはねえ、飛び道具が無いことよ。
なにせ、この『闇枯れの淑女』には――」
ルベリオの間合いにずかずかと侵入したインベント。
ルベリオの手刀がインベントの目を狙う。
避けられることはわかっていた。
だがそれで構わなかった。
また我慢比べが始まるだけである。
だが――
(バカな? 避けない?? 当たった??)
爪先がインベントの眼球に触れる。
いや――触れたと錯覚した。
なにせインベントは微動だにしていないからだ。
それは視覚でも、【人】のルーンでもはっきりと認識している。
ルベリオの手刀は確かにインベントに当たった――はずだった。
だが――
「な――なんだ……これ」
インベントは微動だにしていないのに、ルベリオの手刀はインベントの身体を擦り抜けていた。
まるでルベリオの手刀が顔面に突き刺さっているかのようなインベントが笑う。
笑いながら――
「めんどくさいからねえ、物理攻撃無効にしちゃうねえ。
クソCPU相手だから、チート使っても……イイヨネエ? ネエ? ネエ~?」
■スーパーアーマーとは
他のキャラクターから攻撃や接触などを受けても「よろめく」「仰け反る」などの状態にならないこと
※wikipediaより




