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Round1 Fight

 インベントはルベリオにまったく興味が無い。


 だがアイナがプッシュしてきたので戦うことにしたインベント。

 モンスター以外に興味が無いことは確かなのだが、逆に言えばモンスター以外に関しては押しに弱い面もある。


(まあ、アイナが「絶対勝てる」なんて言うし……まあいっか。

 でも……対人戦なんて久しぶりだなあ。

 ほとんど()()()()()()()


 それに対しルベリオは、念願が叶い、その表情は恍惚としている。


「ねえ、インベント」


「ん?」


「あのバケモノは倒したのかい?」


 『バケモノ』が拘束されし魔狼(フェンリル)のことだと気づき、瞬間、インベントの顔には笑顔が見えたが、すぐに溜息がインベントの表情を曇らせる。


拘束されし魔狼(フェンリル)……楽しかったけど……最期はちょっとなあ)


「ああ、まあ~そうかな」


「へえ、凄いねえ。フフフ、楽しみだなあ」


 インベントの表情は晴れない。


 早く帰りたい――なんて思っている時――


「がんばれよ~インベント~」


 ――と声援を送るアイナ。


 背中から聞こえる声援に対し、インベントは「も~」と気怠い声をあげる。


(他人事だと思って……。

 ハア……早く終わらせたい)


 インベントはアイナの方を見る。

 何気なく、自然とルベリオを視線から外したインベント。


 と同時に――


(――『加速武器アクセルウエポン』)


 収納空間から音も無く、槍の先端から50センチメートルほど引き出し、すぐさま発射した。

 まさに早業。


 そして正確にルベリオの右太ももを狙った一撃。

 正確さに重点を置いたため、多少スピードは落としたが、それでも重傷を負わせるには十分な威力。


 そんな一撃を――


「ウフフ」


 ルベリオは、右足を後方に引き、槍の柄を掴んで無効化した。

 ルベリオが手放した槍が地面に転がる。


「アイナの言った通りなんだ。本当に見えてるんだね」


「ウフフ、手加減無用だよ。インベント」


**


 序盤――


 武器を持たないルベリオに対し、インベントは長物を駆使して戦いを挑む。

 ルベリオの間合いの外からの攻撃だ。


 それに対しルベリオは幸せそうに避け続ける。


 早業で換装される武器。

 宙を舞い、これまでに体験したことのない角度からの攻撃。

 絶妙なタイミングで飛来する武器や徹甲弾。


 何度かインベントの攻撃はルベリオに肉薄する。


 ルベリオの衣服が数か所破れているのは、インベントの攻撃がルベリオの想像以上だったからであろう。


 初めてのおもちゃに歓喜する子供のようにインベントの攻撃を堪能するルベリオ。

 ルベリオの好奇心を満たすのに十分だった。


 アイナの奥の手、クリティカルがルベリオを興奮させたように――

 インベントには特異な攻撃方法がいくつもあるからである。


**


 中盤――


 インベントは淡々と攻撃を続ける。

 ルベリオも淡々と攻撃を避け続ける。


(当たらないなあ)


 どれだけ攻撃を繰り返してもルベリオは回避する。

 むしろ時間が経過すればするほど、ルベリオは余裕を持って回避するようになった。


 ルベリオは世にも珍しい【ペオース】を戦闘利用する男と戦っている。

 人生で初めての経験。


 ゆえにこれまでに培ってきた先読み技術が活かせない。

 ルベリオであっても、収納空間の中までは探知することはできない。


 なにが、どのタイミングで、飛び出すのか?

 それとも不可思議な力で武器が加速するのか? それともインベントそのものが加速するのか?


 収納空間そのものには予備動作などない。

 だからこそ、ルベリオであっても先読みはできず、後手に回るしかなかった。 


 ――後手に回るしかないはずだった。


(収納空間は先読みできないねえ。

 ()()()()は……ね)


 何度も何度もインベントの攻撃を避け続けている中で、インベントさえも気づいていない癖や仕草を把握していくルベリオ。


 遂には――


(指の動き――指の強張り――

 なるほどね。指の動きと、収納空間が連動している。

 親指をくるりと回した。

 ああ、次は――何かが飛んでくるのかな?) 


 インベントの仕草が収納空間の連動していることにたどり着いたルベリオ。


 指の些細な動きなど、戦闘中に把握するのは不可能に近い。

 だがルベリオにならば可能なのだ。


 後手に回りながら回避していたルベリオ。

 だが、次第に予測が働くようになっていく。


 予測と実際のインベントの動きを照らし合わせていく。


 仮説と事実をすり合わせ、仮説が確信に変わっていく。


 時間とともに危なげないシーンは極端に減っていく。



 そして――時間とともにルベリオの顔から歓喜の笑顔も消えていく。


**


 終盤――


 動きが完全に読み切られたインベント。

 アイナがルベリオに心を読まれているのではないかと感じたように、インベントも同様の感覚を味わっていた。


 ルベリオは無表情になり、見透かすような瞳でインベントを見ている。


(うん……うん。

 目にも止まらぬ速さで収納空間を起動している。

 ボクじゃなきゃ見逃しちゃうね。

 でもやってることは多くない。

 結局、モノを出すか、モノを仕舞うか。

 あとは原理はわからないけど、武器を加速させたり、自分の身体を加速させたりしている。

 手を使わずにモノを飛ばすこともできるみたいだけど、速度はそれほど速くない。


 うん……それで終わり??)


 インベントが攻めてくる。


 連続攻撃。


 だが攻撃と攻撃の隙間にはルベリオにとっては大きすぎる隙間があった。


「あっ!?」


 ルベリオが体当たりして、インベントを吹き飛ばす。

 インベントは上手く着地する。


 だがルベリオはアイナを見ていた。


「ねえ……キミ」


「あ、ああ」


「キミさ、インベントはボクより強いって言ってたよね?」


「は、はい……」


 縮こまっているアイナ。


「ねえ? 今でも同じことが言えるのかい?

 確かに動きは面白いよ。だけどさ、それだけでボクに勝てると思ったのかい?」


「い、いや……あのお……」


「そう――収納空間を利用した戦い方は独創的。

 火力もあるよね。なにせ重い武器でも収納空間なら関係ない。

 インベントの身体は未熟って感じだけど、収納空間の扱いは凄い。

 でもさあ、だけどさあ、当たらないよ。

 予測しにくいけど、できないレベルじゃない。

 長期戦になればボクが有利になるのは目に見えていた。

 ねえ? ヌルいよね? 本来なら初手で殺しに来るべきだったよね?


 ボクの能力を説明した上でアレなのかい?」


 アイナは心の中で思う。


 おっしゃる通り――と。


「ちょ、ちょっとインベントと話する時間をくれませんかねえ……」


「ハア……話? 話してどうなるって言うのさ?」


「い、いやあ……彼……ちょっと調子が悪いみたいで……」


「調子? 調子云々の話なのかな?

 まあ、いいよ。調子が上がるんなら話でもハグでもキスでもしてきなよ」


「す、すいませんねえ」


 アイナは苦笑いしながらインベントの元に駆け寄るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや、幽結界習得してないんだった。モンスター判定されてないんだ。
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