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アイナVSルベリオ③ 終幕

 ルベリオが首を傾げる。


幽結界かくりけっかいを知ってるんだ……。

 ああ、クラマの関係者だからか……へえ~、ふ~ん」


 ルベリオの口からクラマの名が出た。

 アイナは少し考え――


(ああ、そういやクラマさんも幽結界かくりけっかい使えるんだったな)


 幽結界を使用できる人物は非常に少ない。

 アイナが知っているのは、ロメロとクラマのみ。


 そしてアイナにとって幽結界と言えば、ロメロである。

 インベントがロメロチャレンジに挑戦している様子をずっと見てきたからだ。


(ロメロの旦那……当初は幽結界があるから強いんだと思ってた。

 360度全てを見渡せる幽結界はトンデモスキルだからな。

 ま、ロメロの旦那の強さは、幽結界云々じゃなくて存在そのものって感じだけど。

 ったく、神様は不公平……おおっと集中、集中!)


 ロメロのことを思い出しつつも、アイナは目の前のルベリオに集中する。


 そんなルベリオは物思いに耽っている。

 そして――


「――ねえ」


「ん? なんだよ」


「どうしてボクが幽結界が使えると思ったの?」


「そりゃあ……」


 アイナは考える。

 なぜルベリオが幽結界を使用できるのではないかと思い至ったか――ではなく。


 ルベリオが幽結界を使用できるのか否か、どうすれば判断できるかを。


(ルベリオが幽結界を使えるのかどうか?

 使えるんだったらマジで詰んだかもしんね。

 地力で負けてる相手に勝つには、揺さぶり、不意打ち、だまし討ちとかだろうけど、幽結界があるとほとんどが封殺されちまう……。

 そんでもって、おそらく……()()()()()()も)


 虎の子の回転切りが失敗に終わった今、アイナに残された起死回生の一手はクリティカルだ。

 クリティカルは【アンスール】のルーンを使用し、念話で相手の意識を強制的に自身から逸らしたタイミングでの攻撃。


 アイナはクリティカルを人間相手に使用したことは無い。

 それはこれまで使う場面が無かったからである。


 だがクリティカルはどちらかといえば、対モンスターよりも対人向けのスキルである。


 なにせ注意を逸らすための念話は、モンスター相手には何度も検証を繰り返す必要がある。

 なぜならば人間はモンスターと会話することができないからだ。


 だが人間相手であれば、検証は不要である。

 相手の背後から奇声で呼びかければ、確実に意識を逸らすことができる。


 アイナもルベリオの意識を逸らすところまでは自信がある。

 だがもしもルベリオが幽結界が使えるとなれば、意識を逸らしたとしてもアイナの攻撃は躱されるだろう。


 だからこそ――ルベリオに幽結界があるかどうかは死活問題である。


 そしてクリティカルは技の性質上、二回目以降は効果が薄まっていく。

 つまりチャンスは一度。


 そう――だからこそ――アイナは慎重に言葉を選んだ。


「さっきの回転斬り……正直防がれる気がしてた。

 いまだにアンタのルーンがなにかもわからねえし、剣も防具も無しで戦ってるから、奥の手ぐらいあるだろうってな。

 だが回避は本当に予想外だった。

 あのタイミングで――あの攻撃を避けれる奴なんて……アタシはたった一人しか知らねえ」


 アイナは真実を話す。

 ルベリオ相手に腹芸は通じないからだ。


「ふ~ん……それがクラマだってこと?」


「違う。アタシはクラマさんが幽結界を使えることは知ってるけど、クラマさんが戦ってる場面はほとんど見たこと無いし」


「ん? だったら誰?」


「――陽剣のロメロ」


 ルベリオは多少なりとも驚いたようで「ほう」と声が漏れた。


「ロメロか。へえ~すごいなキミ。

 クラマもロメロも知り合いなんだ。へえ~」


「ま、色々あってね。

 試したことは無いけど、ロメロさんなら初見の回転切りであっても確実に避ける。

 というかあの男なら、避ける前に反撃してくるかもな。

 だからアンタに避けられたときに、ふと思ったんだよ。

 ロメロさん同様に、アンタも幽結界使えるんじゃないかってね」


 アイナは話すのを止め、ルベリオの目を見る。

 沈黙には、『話し終えたんだからアンタも話せ』というメッセージが詰まっている。


 ルベリオはゆっくりと口を開いた。


「幽結界か。

 アドリーも使えるんだけどね。

 アドリーは幽圏ゆうけんって言ってたかな」


 アイナは自身の親指で、自身の薬指を強く掻いた。


(焦れってえな。いや、焦らしてんのか?

 結局のところ、幽結界使えんのか? どっちなんだよ)


「なんだっけねえ。周囲五メートルぐらいを感知できるんでしょ?

 どれぐらいの精度なのか知らないけど、たった五メートルでそこまで変わるのかな?

 ウフフ、背後から矢で打たれたら避けれるのかな?

 結構微妙なラインだよねえ? フフ、フフフ、フフフ」


 ルベリオは幽結界を知っている。

 だがその口ぶりは、知識として知っているかのように話している。


 つまり――


(使えないってことか?

 そういうことだよな??)


「キミはさ、ボクが幽結界を使ってキミの攻撃を先読みしたと思ったんだろう?

 だけど違うよ。ボクは幽結界は――使()()()()

 あんなのは人外が使うワケのわからない能力だろ?」


 ルベリオは髪をかき上げる。


「随分、幽結界を警戒してるみたいだけどさ。

 これで答えになったかな? ウフフ」


 アイナは舌打ちする。


(結局、幽結界が使えるか判断つかねえや。

 だけどまあ……読めないし食えない男だけど、嘘はつかねえ気もする。

 ……確認する方法は無い。癪だけど信じるとするか)


 アイナは、ルベリオは幽結界を使えない。

 そう結論付けた。


 ――そうでなければ困るからだ。


(へっ、どうせ打つ手はクリティカルしかねえんだ)


 覚悟を決めたアイナ。

 覚悟というよりも開き直りに近い。


「フフフ、もうお喋りは満足したのかい?」


「――ああ」


「それじゃあ、インベントが戻ってくる前に殺してあげるね」


 アイナとルベリオの戦いの最終幕が始まる。

 といっても時間にすれば、とても短い最終幕である。



 アイナがとにかく攻める。

 先ほどまでとは違い、回転攻撃を解禁したアイナ。

 アイナのは斬撃は竜巻のように荒れ狂う。


 それに対し、先ほどと同じようにルベリオは回避し続ける。

 アイナの攻撃は絶え間なく、先程よりも熾烈になったはずだ。

 だがルベリオは余裕の表情を崩さない。


 均衡状態かと思いきや、状況は悪化している。

 なぜなら――


「ぐぬ!」


 回転攻撃の隙を突き、ルベリオはアイナを嘲笑うかのような挑発的な動きを繰り出す。


 回転しているため、確かに隙は発生する。

 といっても、常人では見極めることは困難な隙。


「敵の前でクルクル回るなんて、危険極まりないねえ~」


 アイナとて回転攻撃が諸刃の剣であることは理解している。

 リスクを対価として威力を手に入れた技、それが回転攻撃だ。


 だがアイナはあえて回転攻撃を繰り出す。

 左右に回転を繰り返す。


 クリティカル――


 まさに『致命的一撃』のための布石として。



 そして――

 クルクルと二回転。


 威力特化の回転攻撃。


 もちろんルベリオに当たるはずもない。

 ルベリオは余裕を持って、アイナの攻撃に備えている。


 だが――


(――ここだッ!!)


 剣を振う直前――


 アイナは【アンスール】でルベリオの後頭部から一気に音を叩き込む。


 奇声。

 雑音。

 高音。


 様々な不快な音の詰め合わせ。

 ルベリオの身体がビクリと震える。


 そしてアイナを見ていた視線は――――背後に。


瞬間ココッ!!)


 まさに千載一遇。

 完全にルベリオの視線はアイナから外れている。


 そしてアイナは回転斬りから、刺突に切り替える。

 刺突攻撃はここまであまり使用してこなかった。


 回転斬りをも布石にした、最後の攻撃。

 狙いは――腹部。


 速く、正確な突きは――


 ルベリオの腹部に到達した。


(成った!!)


 剣先がルベリオの腹に触れた。

 後は、剣が進み、臓器を傷つけ、肉を貫く。


 ――ハズだった。


 剣がルベリオの脇腹をすり抜けていく。


 突然、ルベリオの身体が――回転したのだ。

 その動きはまるで――アイナの回転斬りのように。


 アイナの刺突攻撃を回転し回避したルベリオは――その回転を活かしアイナの左上腕部を蹴り飛ばした。


 強烈な蹴りを受け、吹き飛びながら、アイナは思う。




(チックショ……やっぱり……幽結界使えんじゃねえか……)


 ――と。

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[良い点] そろそろ翔技の天啓が!
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