表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

211/446

アイナVSルベリオ①

 インベントは――迷っていた。

 アイナがどこにいるのかわからなくなってしまったのだ。


「あっれえ……どこだここ?」


 拘束されし魔狼(フェンリル)と夢中で戦っていたため、もともと拘束されし魔狼(フェンリル)が拘束されていた場所がわからなくなってしまったのだ。


「う、ううう~ん……ええ~っとお」


 空から記憶を頼りに折れた木を探す。


 インベントがアイナのもとに到着するまで――もう少しかかる。


****


 さて――

 インベントが拘束されし魔狼(フェンリル)と遊んでいる頃。


「キミを殺しておけば、インベントも怒ってくれるかなあ?

 ねえ?」


 インベントがいなくなり、残されたアイナとルベリオ。

 ルベリオは殺意を冷ややかな笑顔で包みながらアイナに迫っていた。


 アイナは目を潤ませながら――


「い、いやあ!! こ、こないでえ!!」


 目を潤ませ、震えるアイナ。

 だが冷ややかなルベリオの表情は崩れない。


「――醜いねえ」


 ルベリオは頭を振りながら、鼻で笑う。


「泣き真似しつつも……しっかりと剣の準備してるんだもんねえ」


 そう言ってルベリオはアイナの腰に装備されている剣を指差した。


 アイナは唾を吐く素振りを見せた。


「――わかりやすく構えたつもりは、無えんですけどねえ」


「アハハ、足運びがあからさま過ぎるよ。

 本当に女ってのは浅ましくて、滑稽で、嘘ばかり」


 アイナは一歩引いていた足をゆっくりと戻した。


(やっべえな。

 多分……この男、相当強い)


 アイナは冷や汗をかいている。


 ルベリオを油断させ、不意打ちを仕掛けようとしたものの、簡単に看破されてしまった。


 アイナの勘が、謎に包まれているルベリオの実力が相当なものだと警鐘を鳴らす。


 勘だけではない。

 アイナはこれまでのルベリオの発言や状況を思い返してみる。


(色々口を滑らせてくれた話をまとめると……。

 ルベリオは、あのバケモノの監視役だ。

 アドリーは何度か来てたみたいだけど、基本的にルベリオ(この男)はこの森の中でひとりで生活してたってことだ)


 モンスターがうろついているイング王国の森の中。

 そんな森の中で生きてきたルベリオは、なにかしらの能力、強力なルーンを持っている可能性が高い。


 ルベリオの仲間であるアドリーのルーンはレアな【ベオーク】。

 常軌を逸した植物操作能力を有していたとアイナは聞いている。


(ルーンはなんだ? わっかんねえな。

 だが……アドリーの仲間みたいだし、どんなおっかなびっくりな能力が出てくるかわからん)


 アイナはルベリオのルーンを予測してみるが皆目見当もつなかい。


(ただ強いだけじゃ森の中で生きていけるとは思えない。

 ノルドの旦那みたいに、索敵能力が高いのか?

 ……くそ、わかんねえ。わかんねえことをあーだこーだ考えても仕方ねえか)


 アイナは鼻から大きく息を吸う。


(わかってるのは、やっこさん、アタシを殺せる自信があるってことだ。

 武器は……持ってない。隠し武器ってことは無さそうだし……まさか【ペオース】?

 わかんねえ……徒手空拳? う~ん……ダメ元で聞いてみっか)


 アイナは一つ咳払いをした。


「アンタ、アタシを殺そうとしてるみたいだけど、武器も持たずにどうするってのさ」


 ルベリオは無表情なまま、アイナを見ている。


「――キミさ」


「あ?」


「色々考えて発言するタイプだろ?」


「……むむ」


「まあどちらかと言えば、色々考えて発言するけど、知能が足りず自爆するタイプってところかな。

 ハハハ、読みやすいね」


 アイナは図星を突かれ、口を尖らせた。


「で、そんなキミが考えた結果、平静を装って質問してきたのが……武器についてだったね。

 つまり、ボクの武器がなにか気になっているワケだ。

 ハハハ、それぐらい教えてあげるさ。心配しなくていいよ。

 ――ボクは素手で戦う。

 いや……素手でキミを殺すよ」


 アイナは黙る。

 素直に喋られると逆に信じていいのかわからなくなる。


「フフフ、本当かどうか迷ってるみたいだね」


「いやあ、まあ、そりゃあそうですねえ。

 ついでに、ルベリオさんのルーンも教えてくれませんかねえ?」


 ルベリオは笑う。


「それは――――自分で確かめてみたらどうだい?」


 そう言ってルベリオはふわりと飛んだ。

 着地と同時に――


「――ッ!?」


 急激に加速しアイナに接近するルベリオ。

 アイナは剣を構えつつ、後方に跳ぶ。


 ルベリオは真っすぐアイナに迫る。


(マジでステゴロかよ!?

 斬っちまうぞ? ホントに斬るかんな!)


 アイナの構えた剣は、二つフェイントを挟んだ後、ルベリオの上腕部目掛けて鋭い一撃を放った。


「へえ~」


 ルベリオは悠々と躱した。

 とは言え、アイナの攻撃はルベリオの身体ギリギリまで迫っている。


「チッ! 回避けんの上手いな!」


 アイナは攻撃を続ける。

 だがことごとく躱すルベリオ。


「アハハ、キミ、中々の腕だねえ。

 インベントの金魚の糞だと思ってたのに、なかなかいいね」


「にゃろめ!」


 ルベリオは軽口をたたきながらも、いとも簡単にアイナの攻撃を回避する。

 当たりそうで当たらない。


(くっそ!

 もうちょっと変化をつければ――!?)


 攻撃のギアを一段階上げようとした次の瞬間――


 回避一辺倒だったルベリオが、アイナの考えを見透かしたかのように、突如蹴りを放つ。

 アイナは回避行動をとるが、蹴りが肩を掠めた。


「おっつっつ!」


 アイナはバランスを崩しながらも、距離を取りつつすぐさま体勢を整えた。


 ルベリオは拍手する。


「ハハハ……言いたくないけど、本当にセンスいいねえ。

 驚いたなあ。攻撃も防御も上手いじゃないか。

 しかしまあ、そんなちんちくりんな身体じゃあ――――ああ、そういうこと?」


 アイナは「ん? なんだよ」と首を傾げる。


「腕は良くても、そんな小さな身体じゃあ、モンスター狩りは難しい。

 つまり……キミは人殺し専門か」


「は? いや、なに言って――」


「ハハハ、そうかそうか」


 ルベリオはアイナの話も聞かず、歩を進める。

 そして蹴る。


「ッ!」


 アイナは咄嗟に剣で迎え撃つが、空振る。


 回避に追い込まれる。


 剣道三倍段なんて言われたりするが、明らかに剣を持っていないルベリオがアイナを圧倒している。

 武器が無くてもルベリオはアイナの攻撃を完全に見切っていた。


「幼い容姿を武器にして、ターゲットに接近し――殺す。

 悪い女だなあ」


(幼い容姿を武器になんてしてねえ!)


 ルベリオが創作したストーリーに苛つくアイナ。


 文句の一つでも叫びたいアイナだが、叫ぶ余裕は無かった。

 ルベリオに応戦するので精一杯。


 すると――突然「あ! アハ、アハハハハハ!」と高笑いするルベリオ。

 隙だらけのルベリオに対し、アイナは突きを放つ。


 だがそれも避けられる。


「――キミ、アドリーにそっくりだねえ」


 アイナは盛大に蹴り飛ばされる。

 だが見た目ほどダメージは負っていない。


 上手く蹴りの威力を分散させていた。


「ハアハア……アタシはアドリーってのと直接会ったこと無いんだけど。

 どんなとこが似てんのさ?」


「フフ、幼い容姿を武器にしているところもそうだし。

 人を殺すことに躊躇が無い」


(生まれてこの方、殺した事なんて無いっての……)


 アイナはうんざりしている。

 だが反論するよりも体力の回復を優先した。


 そして――勝ち筋を探している。


 これまで素手の相手と戦ったことが無いアイナ。

 ルベリオの動きに戸惑いはあったが徐々に慣れてきた。


 脳をフル回転し、ルベリオの動きを脳に学習させる。


 ルベリオはそんなアイナを見て――


「それに……そうだな。

 無駄に色々考えているところだね。

 勘違いしないように言っておくと、思慮深いってことではないよ?

 色々考えて、真面目に努力して、精も根も尽くして……結局失敗する。

 フフ、フハハ、まさに滑稽だよね?」


 ルベリオは嘲笑う。

 その対象はアイナであり、――アドリーでもある。


 アイナは舌打ちした。


 自身に対しての侮蔑的な発言に苛ついているのも確か。

 だが、仲間であるはずのアドリーに対しても嘲笑うルベリオに苛立つアイナ。



(かったりいけど……マジでこのクズ野郎をぶちのめしたくなってきたぜ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ