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おしゃべりな男の性教育

 見れば見るほど不可解なモンスター。


 インベントは唸る。

 大きく唸る。


 モンスターが苛立ち、左前足を振るうが当たらない。

 絶妙な位置に立つインベントに、虚しく風が通過するだけだった。


 酷く憐れんだ表情のインベントが語りかけるように呟く。


「おまえ……こんなところでなにしてるんだよ。

 だめじゃないか、モンスターはモンスターらしくしないとね」


 モンスターはモンスターらしく、強く、逞しく、そして――狩られる存在でなければならないのだ。

 拘束されているなんてもっての外なのだ。


 もちろんインベントの思い込みだが。


「う~ん、でもなんでここにいるんだろ?

 アドリーがやったにしても目的は?

 それに……どうして木を折ったの?

 俺に知らせるため? なんで? 助けてほしいの?

 ハハ、まさか」


 疑問が疑問を呼ぶ。

 どれだけ考えても真実に辿り着かないもどかしさを感じるインベント。


 だが――


「うふふ」


 風に乗って笑い声が運ばれてくる。

 中性的な声色だが、良く澄んだ笑い声。


 インベントは不思議そうに、アイナは警戒心を一層強めて声の主を探す。

 そしてすぐに発見する。


 灰色の髪に、真っ白な肌の男。

 笑顔なのか無表情なのかよくわからない表情でゆっくりと歩いてくる。


 アイナは剣をいつでも抜けるように臨戦態勢をとる。

 続けてインベントの袖を引く。


「おい、あれがアドリーか?

 アドリーってのはちっちゃい女の子だって話だったよな?」


「違うよ。アドリーじゃないよ」


「ち、違うのかやっぱ。

 な、なんで落ち着いてんだ? し、知り合いか!?」


「知らなーい」


 アイナは困惑の極致に。

 アドリーが現れるかもしれないと想定していたが、現れたのは成人男性。


 こんな場所でアドリー以外のだれかと出会うこと自体が想定外。

 敵か味方か? なにをしていたのか?


 不確定情報が多すぎてどうしていいのかわからないアイナ。

 本当ならばインベント号に乗って、さっさとこの場から去るのがベスト。


 だがインベントの思考がわからない。

 全く焦っていない。落ち着いているのだ。


 こんな予想外だらけの状況でも平静を保っている。


 男は近寄ってくる。

 アイナは警戒しているものの、戸惑っている。


(敵か? 敵なんだろ? 悪い奴なんだろ?)


 こんな場所にいる時点で怪しい人物に違いない。

 だが――


(くっそお、敵っぽくねえ! 優男! なんかイケメンだし!

 ノルドさんのほうがよっぽど悪人面じゃねえか!)


 人を顔で判断してはいけない。

 なのだが、人相で判断してしまうのも人間の性である。


 全身が強張っていくアイナ。

 冷や汗もかいている。


 そして、アイナは叫ぼうとした。

 肺に溜めた空気を一気に吐き出し、「止まれ!」――と。


 だが言おうとした寸前。


「こんにちは」


 男は足を止め、当然の如く挨拶をした。

 インベントは「こんにちは」と返す。


 アイナは「あ、ああ」と口をモゴモゴさせた。


 男はインベントを見て、アイナを見て、またインベントに視線を戻す。


「ええ~っと、キミがインベントかな?」


「あ、インベントです」


 男は目を細めて笑う。


「ああ~! やっぱりインベントだったんだねえ!

 よかったあ。空を飛んでいくのが見えてね。

 あ~絶対インベントだあ、と思ったんだよ。

 いつもはこんな早い時間に起きたりしないんだけどねえ、偶然目が覚めてたんだ。

 風の知らせって言うのかなあ?

 なんだろうねえ、運命的なものを感じるねえ」


 インベントとアイナは呆然としながら思う。

 よく喋る男だと。


「あ、ごめんごめん! ついつい喋り過ぎちゃったねえ。

 こんな場所にいると話し相手もいなくてさ、ついついお喋りになっちゃよね。

 ボクはルベリオ。ルベリオ・ベルゼ。

 ルベルオって言われたり、ロベリオって言われたりもするけど、まあそんなのはどうでもいいよね。

 名前なんて通じればいいと思うんだよね。

 だからなんでもいいよ

 年齢は28歳なんだ。インベントよりは少しお兄さんになるのかなあ?

 まあ歳なんて関係ないよね」


 楽しそうに笑うルベリオ。


「なあ、ルベリオさん」


 アイナが戸惑いながら話しかける。


「ん? なんだい?

 というよりキミは誰? インベントの恋人?

 なんかイチャイチャしていたよね?

 背中にぎゅ~ってしがみついてさ。なんかいやらしいよね。

 空で愛し合うなんてちょっとロマンティックな気もするけど、誰も見ていないからって少し不純だねえ」


「あ、愛し合ってねえわ! アタシとインベントは……その、仕事仲間だっての」


 アイナはルベリオにペースを乱されていることを自覚しつつも、警戒は解いていない。

 むしろ得体の知れないルベリオに警戒を強めている。


(なんか……おしゃべりなやつだし……色々喋ってくれるかもしれねえな)


「てか、ルベリオさんは、なんでこんな場所にいるんだ?」


 ルベリオは髪をかき上げる。

 そしてモンスターを指差した。


「ここにいる理由か。

 そりゃあコレの見張りだよ」


「見張り?」


「コレは種馬なんだけど……ああ、種馬と言っても馬じゃないよ。

 まあそんなの見たらわかるか。

 アハハ、ハハ、よく考えたらおかしいよね。

 種馬ってオスの馬だもんね。コレはメスだもんなあ。

 ま、こんなのになっちゃったらメスとかオスとか関係なく、ただのバケモノだけどねえ。

 とにかく、まあ、()()()なんだよ、コレ」


 さらりと話される真実。

 アイナは眉間にしわを寄せた。


 モンスターの発生源があるとは思っていたが、簡単に発見できるとは思っていないかったからだ。


「マジかよ……」


 アイナは驚きを隠せない。


「だからまあ、コレの監視が――」


「ちょ、ちょっと待って! ルベリオさん」


「ん~? なんだい?」


「こ、このモンスターがハウンドタイプモンスターが大量発生している原因だってのか?」


「アハハ、理解力ないの? そう言ってるじゃない」


 アイナは少々苛ついたが――


「理解したいんですがねえ……どうにも理解が追い付かないんですよ。

 つまり――このモンスターが、モンスターを産んでるってことか?」


「もちろん、そうだよ」


「こ、このモンスターが?

 で、でも……つがいもいないし……。

 あ、相手もいないののどうやって……」


 ルベリオは「つがいぃ?」と首を捻る。

 そして酷くバカにした顔でアイナを見る。


「ああ、つがいってそういうことか。

 コレに射精する相手――、つまりセックスする相手ね。

 まったくもって、いやになるね。

 女ってのはいつも卑猥なことしか考えていない」


 アイナは「セッ――!? ば、バカか! お前」と怒る。


「やれやれ、ボクはねえ、モンスターの性事情なんかに興味は無いんだよ。

 アハ、アハハハ、アハアハアハ。

 というかこんなバケモノたちがセックスするとは思えないけどね」


 冷静にあろうとするが、ルベリオにペースを乱され続けるアイナ。


「ねえ、ルベリオさん」


 ここまで沈黙していたインベントが発言する。


「ん? なんだいインベント?

 あ、『さん』づけは不要だよ。アハハ、なんか他人行儀じゃないか」


「ん~じゃあ、ルベリオ」


「なんだい?」


「このモンスターって、今、妊娠しているよね?」


 アイナが「うぇえ!?」と声を上げた。

 ルベリオが何度も頷いた。


「さすがインベントだ。観察力が鋭いね」


「まあ、お腹大きいし」


 アイナはモンスターのお腹を凝視する。

 だが妊娠しているかどうが判断できなかった。


「こ、子供が産まれるのか!?」


 ルベリオは大きく溜息を吐いた。


「やれやれ。妊娠してるんだから子供を産むなんて当たり前だろう?

 キミはまともに性教育を受けていないのかい?」


「だあああ! うるせえ!

 つがいはいないのに、妊娠はしてる。意味が分からねえ!」


「アハハ」


 ルベリオはモンスターに近づいた。

 インベントとは違い、モンスターの前足が届く射程圏内に侵入する。


 だが――モンスターは攻撃しない。

 モンスターは怯えているかのようにも見える。



「せっかくだから、教えてあげるよ。

 コレが、どうして子供を産むか。

 いや、()()()()()()()()()をね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 闇ですね。一種のトラウマ
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