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It's Narou world

 インベントたちがサダルパークの町にやってきてから早いもので30日が経過した。


 壊滅寸前まで追い詰められていたサダルパークの町だったが、急激に状況は良くなっていた。


 誰よりも状況を把握しているノルドは、日に日に町の周囲のモンスターが減っていくのを知っていたが別に報告などしなかった。


 だが、住民も遅れて気付き始める。


 まず24時間体制で周辺警戒していた自警団の面々が――

 「あれ? モンスター減ってね?」と気づき始めたのだ。


 なにせ町から何度も目撃されていたモンスターがほとんど確認できなくなっている。


 モンスターが減ったことは、自警団の中で共有され、そしてすぐに住民にも噂として流れていく。

 


 だが噂は噂。

 事実が脚色されるのは世の常である。


 モンスターが減った。

 ノルドとかいう男が頑張っている。

 ノルドは目立つのが嫌い。

 仲間には空を飛ぶやつがいるらしい。

 三人の弟子がいるらしい。

 星天狗クラマの隠し子。


 様々な情報が混ざり合った結果――



(んな……なんだこれは!?)


 ノルドは町の掲示板に、張り出された張り紙を見て驚愕する。


『白髪の最強賢者、モンスターを殺しまくる。

 ~おっさんだけどクラマの秘蔵っ子でした。天空からの白刃で今日も弟子と一緒に無双してます』


 長すぎるタイトルと、ノルドらしき白髪の男性が描かれた張り紙。

 白いマントをなびかせて空を飛ぶノルドが、飛翔する斬撃でモンスターを倒している絵。


 ノルドは絶句している。


(こ、この男は……俺か? お、俺なのか?)


 アウトロー気取りのノルドは、目立つことを嫌う。

 まあ嫌う反面、誰にも認知されていないのはちょっと寂しく思う男。


 陰で頑張ってる、知る人ぞ知る実力者的なポジションが一番居心地がいい。


 そんなノルドがまさかの英雄扱い。


 この噂の立役者は、先日死亡した噂大好きダムロであることは間違いない。

 ダムロが酒場で話していた内容が時を経て、噂に尾ひれをつけまくっているのだ。


 草葉の陰からダムロはガッツポーズしていることであろう。



 ノルドは大きく溜息を吐いた。


(帰ろう……宿に帰ろう)


 人の噂も七十五日。

 噂が落ち着くまで、人前に出ないようにしようと心に決めたノルド。


 だが――


 目線を感じ、ノルドは目線の主を探した。

 動物的勘の鋭いノルドは、視線にも敏感なのだ。

 そしてひとりの少女を見つけた。


 六歳から七歳といったところだろう。

 子供は南部の町にいち早く避難させられていたため、残っている子供は少々珍しい。


 少女の視線の先にはノルドと――ノルドらしき人物の絵。

 少女は「あ~」とノルドを指差した。


 ノルドはマズイなと思ったが、もう遅かった。


 「どうしたんだい」と少女の父親らしき男が少女に近寄る。

 少女は「絵の中のおじさん」とノルドを指差す。


「え……あ、いや」


 狼狽するノルド。


 逆に歓喜するお父さん。

 ちなみにお父さんの名前はデム。

 ダムロの叔父にあたり……やっぱり噂大好き。


「う、うわああ! あ、あなたは噂の『天翔ける白刃はくじん』のノルドさん!?」


 デムの大きな声に注目が集まる。

 ノルドは「ちょ、ちょっと」と焦りながらデムを黙らせるようとするが――


「いやあ! 感激だな!

 おい、サダルパークの英雄だぞお!

 ほらほら、握手してもらいなさい」


 少女は促されるままにノルドに対し手を伸ばした。


 いたいけな少女の瞳。

 ノルドに握手を拒むことなどできるはずもなく。


 なんとも言えない表情で握手するノルド。

 さっさとその場を離れようとするが――


「あのお~」


 ノルドは呼び止められた。


 なぜか、まるでモンスターが迫っているかのような悪寒を感じるノルド。


 恐る恐る振り向くと、自然に「なっ!?」と声が出た。

 老若男女数人がノルドに握手を求め、待っているのだ。


 ノルドは逃げるわけにもいかず、後ずさりしながら握手に応えつつその場を後にした。




 ノルド。

 目立たない系のアウトローキャラ卒業。


 もちろん「オレ、またなんかやっちゃいましたか?」なんてノルドは言わなかった。


****


 意図せず目立つことになってしまったノルド。

 とはいえ、壊滅寸前だったサダルパークの町がノルドたちのお陰で九死に一生を得たのも事実。


 町の危機を救ってくれたノルドを英雄視してもおかしくない状況だったのだ。 



 さて……町は活気を取り戻しつつある。

 そんな中、アイナは密かに『インベントを森に還そう』大作戦を決行しようとしていた。


 アイナは、インベントの急激な変化の原因がわかっていない。

 だがサダルパークの町――オセラシアに来てからおかしくなった……もとい、すご~くおかしくなったのも事実。


 だからこそ、イング王国の森林地帯に戻れば事態が好転するかもしれないと考えたのだ。

 インベントを狂わせる原因がオセラシアにあるのだとすれば、離れるだけで案外元に戻るのかもしれない。


 藁にも縋る思いである。


 現在ノルドとロゼはサダルパークの町周辺を警戒している。

 モンスターは減ってきたものの、一体でも町に入り込めば大惨事になる可能性があるためだ。


 それに対しインベントとアイナは、モンスターを探しに飛んでいく。

 サダルパーク周辺ではモンスターがいなくなってしまったからである。


**


「……そろそろだな」


 インベントの背中で呟くアイナ。


「ん~? どうしたのアイナ~?」


 アイナは念話に切り替える。


『なんでもねえ~よ~。

 あっち見てみろよ~、イング王国だぜ~。

 すげえ~木が生い茂ってるよな~』


「ん~そうだね~」


『そろそろハウンド以外も狩りたいよな~』


 インベントは「むふふ」と笑う。

 アイナも「へへへ」と笑う。



 『インベントを森に還そう』作戦、スタート。


**


 夜。


 アイナはノルドとロゼを集めていた。


「どうもどうも。軽く情報共有でもしましょうかねえ。

 状況はどんなもんでしょうか?」


 ロゼが微笑む。


「明らかにモンスターの数は減ってますわね。

 サダルパーク周辺は安全を確保できたと思っていますわ。

 この状況が続けば、南北で交易も再開できるとのことです」


「ほほ~、そりゃあすげえ」


 アイナは手を叩いて称賛した。

 だがノルドは首を振る。


「さすがに楽観視はまだ早いだろう。

 北部と東部……まあ主に北部だが、モンスターは減ったがそれでもまだまだ多い」


 ロゼは口を尖らせながら――


「うふふ、ですが天下の『白刃はくじん』さえいれば、ぜ~んぜんへっちゃらでしょう」


 ノルドは顔をしかめ「おい……」とロゼを睨んだ。

 目立ちたがり屋のロゼとしては、ひとり英雄扱いされているノルドに少々ヤキモチを焼いているのだ。


 アイナはふたりのやり取りを聞きつつ――


(うむうむ、予想通りの状況だな。

 まあ、アタシは空から見てるからなあ。

 しかしまあこれで……状況は整ったな! よ~し)


 アイナがノルドたちと情報共有を実施したのは、『インベントを森に還そう』大作戦を進めて問題無いか確認するためである。


 アイナが懸念していたのは、サダルパークの町に危険が及ぶ事態である。

 インベントとアイナがイング王国に帰った結果、サダルパークの町が壊滅してしまったのでは寝覚めが悪い。


 『インベントを森に還そう』大作戦を実行するには、サダルパークの町の安全が第一条件なのだ。


 後は――イング王国に帰る自然な理由があればいい。

 ノルドとロゼが納得し、さらにインベントが喜ぶ理由である。




「実はですねえ~。折り入ってお話がありましてねえ~」

アイナの悪巧みは……

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