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オトモアイナー

 モンブレの世界の料理『こんが〜り肉』を手始めに、様々なモンブレの世界の料理を作るアイナ。

 味はイマイチなものの、インベントは文字通り食いついた。


「狩りからの、『こんが~り肉』!

 こんなに幸せなことはないね!」


 お昼休み。

 インベントとアイナは向かい合うように岩に座っている。


 一狩り終えたインベントは、『こんが~り肉』を頬張りご満悦だ。


「そうかそうか、そりゃあ~よござんす」


 アイナは干し肉を齧りながら、インベントを見ている。

 インベント曰く、「『こんが~り肉』はワイルドに食べないと!」とのことだ。


 なのでインベントはかぶりつくように食べているのだが、そもそもインベントは上品に食べるタイプ。

 モンブレらしく食べたい反面、これまでの食事マナーが邪魔し、どうにもワイルドになりきれずにいた。


(ま、ゆっくり食ってくだせえな。

 ゆ~っくりな) 



 アイナの思惑は成功したと言える。


 インベントは毎日アイナの料理を楽しみにしている。

 アイナの料理を待って、狩りに出かけるのが日課になった。

 完全に餌付けは成功。


 アイナは絶妙に料理の完成時間をコントロールすることで、インベントの出発時間を後ろ倒しにしている。

 できるだけ狩りの時間を短くするためである。



 更に、狩りをするときにアイナを連れていくのが至極当然な流れになっている。


 アイナは、インベントがノルドとロゼと別行動することを選択したとき、いずれはアイナとも別行動するのではないかと懸念していた。


 インベントは夢の中の黒い少女の影響もあり、ソロで狩りがしたいと思っている。

 ゆえに仲間など必要ない。


 いつか邪魔者扱いされるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。


 だが心配は杞憂に終わり、出発するとき、必ずアイナにインベントから声をかけるようになっている。

 アイナは『餌付けが功を奏したのか?』と考えているが、理由は違う。


 モンブレの世界には『オトモ』と呼ばれるシステムがある。

 プレイヤーに友好的なモンスターが随伴し、プレイヤーをサポートするシステムである。


 『オトモ』の種類は様々だが、一番多いのがネコの獣人である。

 二足歩行で、武器や防具を装備したネコの獣人。

 身長は低く、100センチメートル程度。


 さて――

 アイナさんの身長は150センチメートル。

 ネコ要素はそれほどないが、雰囲気はイヌよりはネコっぽい。


 多少大きいもののインベントはアイナを『オトモ』だと勘違いしているのだ。

 『オトモ』とはいつでも一緒が当たり前。


 アイナはインベントにとっての『オトモアイナー』になったのだ。



 さて――食事を終えたインベントは、自生していたねこじゃらしを手に取った。

 そして「ほれほれ~」と言いながらアイナに向けて振る。


「ん? なんだよ」


 アイナは困惑している。

 そんなアイナを見て「……おかしいな」と首を傾げた。

 『オトモ』なら当然喜ぶはずなのだが、『オトモアイナー』は喜んでくれないからである。


「ま、いっか。

 さあて、また一狩りしてこよ~っと」


「おう、気をつけてな。無理すんなよ。

 ま、頑張ってな」


 インベントはアイナを見る。

 物欲しそうな顔のインベントだが、アイナはその表情がなにを求めているのかさっぱりわからない。


 仕方なくアイナは、こぶしを握り「ガンバレ~!」と鼓舞したが――


「まあいいや。

 じゃあ、アレを狩ろっか」


 と目視できるモンスターの群れを指差して、ゆっくりと飛んでいく。



 飛び去りながらインベントは思う。


(そこは『頑張るニャ』って言って欲しいなあ~)


 ――と。



**


 アイナの努力の甲斐もあり、インベントの暴走は抑えられている。

 ひとりでどこかに行くことも無いし、ちゃんと夕方にはサダルパークの町に帰る生活をしている。


 行動もワンパターンであり、群れを見つけ、インベントひとりで殲滅し、アイナと合流する。

 それを繰り返す。


 戦い方はジャストラッシュを多用する。

 モンスターの攻撃をギリギリまで引きつけてからのカウンター攻撃は、アイナを何度もヒヤヒヤさせてきた。


 だがいつの頃からか、アイナはインベントの戦いを見ても気を揉むことが少なくなっている事に気付いた。


 理由は二つある。


 一つは見慣れたことだ。

 なにせモンスターは白や青のハウンドタイプだらけ。

 イレギュラー要素は非常に少なく、安心して見ていられる。


 そしてもう一つの理由。

 それはアイナにも不可解な理由だった。


(なんだろう……インベント……綺麗になった?)


 インベントが美少年になった――わけではない。

 アイナが感じたのは、インベントの剣の振り方、足運びなど一挙手一投足が格段にレベルアップしているのだ。


 ずっとインベントの戦いを見てきたアイナだからこそわかる違い。


(これは……成長なのか?

 キッカケひとつで爆発的に成長するやつってのはいるけどよお……。)

 (なんか……もはや別人じゃね?)



 たった今、危なげもなく三体のモンスターを狩り、残りモンスターは一体。

 インベントは大太刀で居合の構えをする。

 構えは素人臭い構えである。


 残り一体なので遊んでいるのである。


「さ、おいで~」


 インベントは待っている。

 ただモンスターがやってくるのを待っている。


 モンスターは危険を察知しているが、同胞がやられた怒りと、攻撃衝動で撤退などできるはずもない。

 足の筋肉を爆発させ、猛スピードで襲いかかってくる。


 同胞を殺した憎きインベント。

 モンスターは突き刺すような鋭い視線でインベントを捉えている。


 ――捉えているはずなのだ。

 なのにどうしてだろうか、モンスターにはインベントがぼやけて見えている。

 居合の構えのまま、微動だにしていないはずのインベントがまるで分身しているかのよう。


 戸惑いはモンスターの速度を緩めさせた。

 だが敵がいるのに止まるわけにはいかず、モンスターは接近してくる。


 そして嘲るような顔のふたりのインベントが、急にひとりになった。


(ヒ、ヒダリダアアーー!!)


 迷いとは、選択肢があるから迷うのである。

 優しいインベントは分身を止め、選択肢を一つにしてあげたのだ。


 迷いが無くなったモンスターは全身全霊でインベントを攻撃した。


 跡形も残らないぐらいの大振りの攻撃――が空を切る。


 そして――


「居合抜刀――」


 インベントの声が聞こえる。

 だが声だけでは正確にインベントの位置を把握することはできない。


 インベントの臭いも感じる。

 だが臭いだけでもインベントの正確な位置は把握できない。


 見なければならない。

 最悪攻撃が見えれば、幽壁が発動する。


 首を一心不乱に振るうが、願いは叶わず。


「――朧斬り」


 次の瞬間、尋常ならざる速さで大太刀振るわれる。

 あまりにも速過ぎて、インベントは剣を保持することができずに手放した。


 大太刀はほぼ垂直に飛翔する。

 続いて、モンスターが腹部を境目に真っ二つに切断された。


 そしてインベントが「左手は――添えるだけ」と呟く。

 その後、居合後の構えを解いた。


 続けて鮮血が舞う。

 汚れるのを嫌って、インベントは後方にピョンと飛ぶ。


 軽く飛んだはずなのに、インベントはまるで羽が生えたかのように、ふわりと浮いた。



 一部始終を見ていたアイナは溜息交じりに――


「か、かっちょええ」


 と呟いた。

綺麗のヒミツは次の話で☆

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― 新着の感想 ―
[一言] 小型でサイのモンスターくらい固いのが群れで現れたら対処が難しそう
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