変隊(変態が集まった隊)
宿屋に到着したノルドとインベント。
宿ではアイナとロゼが待っていた。
「や、やっと帰ってきましたわ! インベント!」
ロゼが怒っている。
「ただいま~」
「ただいまじゃありませんわ!
私を放置した挙句、どこかに行ってしまうし!」
「あはは~」
アイナが「インベントってのはそういうやつなの」と干し肉を齧りながら笑う。
ロゼは頬を膨らませた。
インベントは周囲を確認し「あれ~? クラマさんは?」と問う。
アイナが窓から見える東の空を指差した。
「クラマさんなら、他の町に向かったぞ。
『すまんがサダルパークは任せる』だってさ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「ま、飯でも食えよ。宿も飯も全部クラマさんのおごりだってさ」
インベントとノルドはテーブルに加わり、食事を始める。
ノルドが――
「今日はどれぐらい狩った? インベント」
「う~ん、10ぐらいじゃないですかね」
「ほお、一人で10もやったのか。これは頼もしいな」
インベントが狩ったのは10。
ノルドは10体だと思っているが、実際は10グループである。
数にすると30~40体といったところだろう。
アイナが「それで明日からはどうするんですか?」と。
「ああ。
せっかく四人いるんだし、小隊を組んでモンスター狩りをするか。
なぜかよくわからんが、モンスターは群れになってやがるからな。
町に近寄ってくるモンスターを排除していきたい」
「な~るほど」
群れに対抗するために、こちらも小隊を組んで戦う。
それは正しい選択と言える。
昔のようにアイレド森林警備隊の頃のように、ノルド隊をとしてモンスター狩りにあたればいい。
ノルドはそう思っている。
だがノルドは知らない。
現在のロゼの実力を。
現在のインベントの実力を。
そして――アイレド森林警備隊では後方支援部隊に属していたアイナの実力を。
****
夢。
睡眠中に、まるで現実かのような経験をすること。
楽しい夢や、悲しい夢を見れば、起きた時の気分に影響を与えることもある。
ちょっとHな夢を見ちゃって悶々としたりするかもしれない。
特に多感なお年頃なら尚更だ。
さて、インベントにとって夢は非常に大きな意味を持つ。
『モンブレ』というゲームの内容を、まるで現実かのように体験できる特別な時間だ。
インベントは夢から大きく影響を受けてきた人生である。
モンスターが大好きなのはもちろん、収納空間の使い方、収納空間を活かした戦闘スタイル。
『モンブレ』の世界に憧れ、『モンブレ』の世界の中のようにモンスターを狩りたいからこそ、この世界の中で異質な存在になっているインベント。
夢の世界に影響を受けているのは今も昔も変わらない。
だが、最近、少しだけ変化があった。
黒い少女が頻繁に現れるようになったのだ。
黒い少女には特徴がある。
まず異常に強いことだ。
ほとんど無傷でモンスターを狩ってしまう。
インベントが目で追いきれないほどの超絶回避を繰り広げつつ、モンスターを斬り刻む。
と思いきや、攻撃を喰らった瞬間、即座に狩りを中断したりする気分屋でもある。
続いてソロで戦うこと。
とにかくソロでしか戦わない。
『モンブレ』はパーティーを組んで戦うほうが主流だが、黒い少女はいつでもソロプレイなのだ。
そして最後に――
「――――!!」
黒い少女はしきりになにかを叫けびながら戦っている。
その声はよく聞こえない。だが何度も何度も叫んでいる。
黒い少女の叫び。
何度も何度も聞いているうちに、インベントはなにを言っているのか興味を持ち始めた。
そして――聞き取ることに成功した。
(ああ、『――――』って言ってるのかな)
これまでは、様々な『モンブレ』の世界の様子を夢の中で見てきたインベント。
パーティーメンバー、モンスター、使う武器。
似たシーンはあったが、全く同じシーンは一度としてなかった。
だが黒い少女は確実に同じ人物なのだ。
いつもソロプレイで、武器は近接武器を好み、同じような戦い方で、モンスターを狩る。
眺めているだけの世界に、知っている人物が現れたのだ。
そんな黒い少女の登場は、ゆっくりとインベントに影響を与えていた。
その影響が――良い影響なのか、悪い影響なのか。
「――――!!」
「――――!!」
「――――!!」
****
翌朝、日が昇る頃。
「さあて……行くか」
「ふふ、ノルド隊の復活ですわね」
ロゼが嬉しそうに言う。
ノルドは鼻で笑う。
ノルドはこれまで独りでサダルパークの町のために戦ってきたが、限界を感じていた。
そんな中、インベントだけでなく、ロゼと、ついでにアイナが来てくれたのは正直ありがたかった。心強かった。
それにボロボロだった剣が新しくなっている。
インベントが収納空間にしこたま武器を詰め込んでいるので数本もらったのだ。
まさに心機一転のノルド。
アイナは一仕事終えたかのような顔で、座りながら空を見ていた。
「ふああ~あ、かったりいな~」
「はは、アイナが『かったるい』っていうの久しぶりな気がする」
「うるせ~な。
さすがにオセラシアまで飛んできて、翌朝からモンスター狩りはかったるい。
それもモンスターが群れてんだろ? かったるいしめんどくさ~い」
「でも、あんまり強くなかったよ」
「ホントかよ……。あ、あれか、噂の徹甲弾とかいうの使ったんだろ」
「ん~、今は重力グリーブが無いからあんまりうまく使えないんだよねえ」
「そりゃ残念だな。
まあ実際に飛ばしているのを見たことないけどよ~。
ま、隊で戦うんだし、周りに迷惑かけるなよ~」
アイナは埃を払いながら立ち上がる。
「ま、無理せず気楽にいきましょうや、インベントはん」
「うん、そうだね」
アイナはジト目でインベントを見る。
(ま、インベントが暴走するのは織り込み済みだけどな~。
まあ、なんとかなるだろ)
続けてノルドとロゼを見る。
(この二人ってどうなんだろ?
実際に戦ってるところってほとんど見たこと無いんだよな)
アイナはノルドとロゼに面識はあるものの、深く知っているわけでは無い。
カイルーン森林警備隊で隊長職まで務めたアイナだが、【伝】のルーンの有効範囲が異常に狭くポンコツ扱いされ、逃げるようにアイレドへ。
そしてアイレド森林警備隊では後方支援部隊で腐っていたアイナ。
共に戦ったことは無いし、戦っているシーンを見たことも無い。
アイナは旧ノルド隊の三人を眺めた。
(ロゼって悪いやつじゃないけど、向上心が強すぎる変なやつって感じ。
ノルドさんは、『狂人』なんて言われてたしやっぱ変な人なんでしょうな。
サダルパークに来ても毎日狩りしてたみたいだし。
そんでもって変人オブザイヤーのインベント)
アイナはポリポリと鼻頭を掻いた。
(よくもまあ、隊を組めていたよなあ。
連携とか大丈夫なのかねえ。
ま、いいけどさ)
アイナはこの四人の中で一番ドライである。
ノルドのように世話になった恩を返す義理も無ければ、ロゼのようにノルドの役に立ちたいと思う仲間意識も無い。
もちろん、インベントのようにモンスターを狩りたい欲求も無い。
インベントとの腐れ縁で、仕方なく来ただけなのだ。
口にはしないが、最悪サダルパークの町が滅びても仕方ないと思っている。
手に届く範囲の役には立ちたいと思う心はあるが、正義感には乏しいのだ。
怪我無く無事に帰りたいのだ。
だが――いや、やはりと言うべきだろうか。
結局一番翻弄されるのはアイナであることを、本人は未だ知らないのだ。
さあ、変態たちの楽園へ。