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ジェットコースターロマンス

 少し前の話。


 サダルパーク町に向かう一行。


 クラマがアイナを、インベントがロゼを背負う。

 イング王国の森林地帯を抜け、眼下にはオセラシアの雄大な草原地帯が広がる。

 二度目の来訪なのでインベントに驚きはない。


 だがモンスターがた~くさんいる。


「ほわああぁ」


 インベントがよだれを垂らしながらゆっくりと高度が下がっていく。

 禁断症状が出始めていた。


「ちょ! ちょっと! インベント!

 お、落ちる! 落ちてますわー!」


 ロゼが背後で叫ぶ。

 インベントは正気に戻り高度を上げた。


「おっとっと」


「し、しっかりして!

 もしかして疲れました? 女の子一人を背負いながらですものねえ」


 インベントは、モンスターを眺めながら「ほあ~」とよくわからない声をだす。


「だ、大丈夫? サダルパークの町とやらはもう少しよ」


「ん~? ああ全然疲れてないよ。

 ロゼの体重って『XX.X』キロでしょ。

 それぐらいなら重力グラビティシリーズを装備した時と変わらないし」


「ちょ! ちょっと!! なんでそんなに私の正確な体重がわかるのよ!?

 そ、それも……小数点までピッタリ」


 インベントは「ははは」と力無く笑う。


「わ、笑い事じゃありませんのよ!

 く、訓練をしてると筋肉がついて体重が……」


 ロゼとて女の子。

 贅肉がついたわけではないが体重が増えてしまったことを気にしている。


 だがインベントはロゼの話なんてま~ったく聞いていない。


(狩りたい……狩りたい……)


 インベントは収納空間から大剣を抜いた。 

 ドウェイフにお願いしていた新しい武器である。


(――『死刑執行人の大剣(エクセキューショナー)』)


 『死刑執行人の大剣(エクセキューショナー)』。

 両刃の大剣であり、一番の特徴は切先が無く、剣の先端が平らになっていることだ。


 由来としては死刑執行の際に使われた剣であり、突く必要性が無いため切先が無い。

 非戦闘用の武器である。

 だがゲームやアニメなどでは強キャラが使うことが多い武器の一つである。



 さて、インベントが『死刑執行人の大剣(エクセキューショナー)』を作らせた理由は二つ。

 まずはカッコいいからである。カッコよさ。それは非常に重要。


 そしてもう一つの理由は、剣の先端が平らであるため収納空間からの反発力を利用しやすいからである。


(――反発移動リジェクションムーブ、最大出力)


 思い切り収納空間内の砂空間を『死刑執行人の大剣(エクセキューショナー)』で押すインベント。

 するとほぼ想定通りの速さと方向に真っすぐ突き進むインベント。


 インベントの収納空間を扱う技量の向上と、『死刑執行人の大剣(エクセキューショナー)』の性能も相まって、飛行性能もアップしているのだ。


 早くサダルパークの町に到着し、モンスター狩りに行きたいインベント。

 早く背中の荷物ロゼを下ろして狩りに行きたいインベント。


 ……だが問題がある。

 速ければ速いほど身体に圧がかかる。Gがかかるというやつである。


 インベントはまあ問題ない。慣れている。

 さて……後ろのロゼは――


「うっぷうぅぅぅ!」


 猛烈な圧力に、肺から空気と一緒に奇妙な声が漏れた。

 そして、インベントを掴んでいた両手が離れそうになる。


(え? 死ぬ?)


 ここはオセラシアの上空。

 自由落下すれば確実に死ねる高さである。


 ロゼが刮目する。

 十指から触手が伸び、インベントの身体に絡みついた。

 どうにかしがみつくロゼ。


「ん~?」


 触手に少し驚いたもののインベントは振り向いてニコリと笑った。

 ロゼは息を飲んだ。


(あ、これ『あかんやつ』ってやつですわ――――!!)


 急加速を続けるインベント。

 ロゼの身体に負荷が積み重なる。


 「止まって」と言いたいロゼだが、口を開く余裕がない。

 口を開けば色々な体液がほとばしりそうなのだ。

 触手を使いどうにかインベントにしがみつく。


 そしてサダルパークの町の上空へ。

 クラマたちを大きく引き離している。


 ロゼは「や、やっと止まった……」と呟く。

 インベントはどこに荷物ロゼを下ろそうか確認している。


 そんな時――


「ハアハア……あら? あれは何かしら?」


 ロゼが南方を指差した。

 なにかが土煙を上げている。

 そう――ダムロが乗った馬車である。

 そしてその背後には――モンスター。


「アハァ」


 インベントは自由落下を始めた。


「え!? ちょ、ちょっとお!」


 サダルパークのど真ん中。

 上空から二人が落ちてくる。


 幸運なことに着陸しやすい場所を探すのは難しくなかった。

 かなりの人数が町から避難しているためである。


 地上スレスレで急停止するインベント。

 ジェットコースターのような移動の連続に、ロゼは吐きそうになりつつもなんとか堪えている。


 そして優しく地面に荷物ロゼを置いて、インベントはすぐに飛び去った。


「お、オエっぷ」


 ロゼは二度とインベントの背中に乗らないと決めたのだった。


 さて、数人の住人が空から落ちてきて、飛び去っていくインベントを見ていた。


「クラマ様か?」

「いんやあ、クラマ様より大きかったし」  

「ああ、若かったな。それに……」

「変な服着てたな」

「ああ、真っ黒だったな」

「なんだったんだ~?」


 インベントの服装は忍者スタイル。

 オセラシアでイング王国の服を着ていると目立つので、あえて忍者スタイル。

 まあ、真っ黒過ぎて、逆に目立ってしまうのだが。



 だが、一人の女性が飛び去るインベントを眺めて呟いた。


「え? 烏天狗からすてんぐ??」


 ――と。


****


 その後、モンスターを狩りホクホク顔で町に戻ったインベント。

 指に残るモンスターたちの命を奪っていった感覚を反芻しながら、みんながいる宿に急ごうとする。


 だが――どの宿かわからない。


(しまったなあ……。みんなどこにいるんだろう?)


 途方に暮れるインベント。


(うう~ん、待ち合わせ場所……どこだろう。

 ……わかんないや)


 待ち合わせがわからなくなった理由。

 ロゼを放置しモンスター狩りに出かけてしまったからである。

 つまり自業自得なわけだ。


 一軒一軒宿を回ろうにも、どこに宿があるかわからない。

 サダルパークの町には一度しか来たことが無いのだ。


「ブラブラしたら……誰かに会えるかな」


 妙案が思いつかないインベントは、とりあえず歩き出そうとした。

 その時――


「あのお~」


 誰かがインベントに声をかけた。

 振り向くインベント。

 そこには知らない女が立っていた。


「ええ~っと?」


「あ、初めまして、私……シドニーって言います」




 シドニー。

 サダルパークに住む女性である。

 そして――ダムロの幼馴染であり、ダムロが結婚を申し込もうとしていた女性である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 改めて思うけど、インベントって精神異常者ですね。
[一言] オセラシアのシドニー!
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