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違和感

 サダルパークの町に戻ったノルド。

 背負っていたダムロを自警団の男性に渡した。

 あれだけ騒がしかったダムロが一言も喋れない状態になっていることに自警団の面々は唖然としている。


 ダムロはにこやかな顔だった。

 サダルパークが平和になることを確信したかのような笑顔にノルドは決意を新たにする。

 ノルドは「すまんが後は頼む」とだけ言ってその場を後にした。



 さて――悲しんでいる時間はノルドには無かった。

 サダルパークの町はギリギリの状態である。

 このままでは遠く無い未来にサダルパークの町は壊滅する可能性が高い状態にまで追い込まれていた。


 どうにか民間人を逃がす時間を稼ごうとノルドはこれまで独りで戦ってきた。

 だが――インベントがやってきた。


(クラマさんも戻ってきたのか?)


 インベントを呼ぶようにクラマに伝えたのはノルドである。

 クラマは渋ったが、猫の手も借りたい状況だ。

 ノルドがごり押しした。


 イング王国からオセラシア側に増援を送るのは、地理的にも政治的にも難しい。

 そんな中、飛んでこれるインベントは最適かつオンリーワンな人材である。


(とはいえ……あの惨状を見ると少し不安だ……)


 モンスターの猟奇的殺害現場を目にしたノルド。

 インベントが変人だということは知っているが、変人で一括りにできないぐらい変人度合いはパワーアップしている。


(まあ……恐らく五匹いたモンスターをたった一人でっちまってた。

 ライノタイプモンスターも倒しちまうし……あいつどこまで強くなってやがる)


 インベントの精神面には不安は残る。

 だが戦力的には非常にありがたいのも事実。


(それにインベントが来たということはアイナも来た可能性が高い。

 まあ……あの子が戦力になるとは思えんが……)


 ノルドにとってアイナは補給部隊の女の子なのだ。

 インベントと行動を共にしているのは、単に仲が良いからだと推測していた。

 実はカイルーン森林警備隊で隊長職を務めていたことは知らない。


(それでもある程度戦力にはなるだろう。

 小隊が組めれば戦略は変わってくる)


 これまでノルドは独りで戦ってきた。

 それは『狂人』の矜持があったからではない。

 オセラシアにはノルドと組んで戦えるレベルの人員がいないのだ。


 ついでにノルドは人見知り。

 「一緒に戦わない?」なんて言えるはずもない。


 ノルドはアイレド森林警備隊に属している時は、死んでも構わないと思ってモンスター狩りをしていた。

 もちろんあえて死のうとはしていないが、最悪、ひとり、森の中で死ぬ覚悟があった。


 だが今は死ぬわけにはいかない。

 ノルドが死ねば、モンスターがサダルパークの町に押し寄せてくるかもしれないからだ。


 生き抜く。

 結果、無理も無茶もできない状態だった。

 だが隊を組織すれば多少の無茶も可能だ。


「しかし……まいったな。

 クラマさんは人前に出るのを嫌がるしな……。

 この広いサダルパークを探すのは骨だ。

 そもそも、外で戦ってる可能性も……」


 インベントを発見したことで気持ちが逸ってしまったノルド。

 だがどこに行っていいのかわからず途方に暮れた。


 そんな時――


「ノルド隊長!」


 『隊長』と呼ばれ、ノルドは安堵した。

 ノルドを『隊長』と呼ぶのはアイレド森林警備隊の人間だからだ。

 振り向きつつノルドは考える。


(ん? 誰の声だ? アイナの声ではない――)


 安堵と疑念。

 そして呆然とするノルド。


「な、なんでお前が?」


 ロゼが目を潤ませて立っているのだ。

 隣にアイナもいるが、そんなことよりも何故ロゼがここにいるのか理解できないノルド。


 感極まったロゼはノルドに抱き着いた。


「た、隊長。本当に生きているのね」


「あ、ああ」


 ノルドは知らない。

 『紅蓮蜥蜴ファイアドレーク』を倒した後、ロゼが『宵蛇よいばみ』に入隊したことを。

 未だにアイレド森林警備隊でバリバリ働いているものだと思っていた。



 その後、アイナを交えてロゼがどのような経緯でサダルパークの町までやってきたのか語られる。

 輝かしく脚色された食傷気味になりそうなロゼの武勇伝。


 ノルドは――


(相変わらずだな)


 と呆れながらも楽しくロゼの話に耳を傾けた。


 兎にも角にも戦力は整った。

 新ノルド隊が産声を――産声を――?



****


 一方その頃。


「うっひょお~!」


 インベントは狂喜乱舞していた。


「モンスターたぁ~くさん!」


 ハウンドタイプだらけという残念な点はあるものの、至るところに点在するモンスターたち。

 イング王国と違い、オセラシアは荒野や草原が多い。

 つまり森林という遮蔽物が無いため、飛べばすぐにモンスターが発見できるのだ。


 それもちょうどよく群れになっている。

 ハウンドタイプモンスターは一体ではインベントの脅威にならない。

 だが複数体セットになっていると丁度良い。

 丁度良く、スリリングに楽しめる。


 曲がりなりにも『陽剣のロメロ』と渡り合ってきたインベント。

 自身の生命線である収納空間の扱いは、不完全ながら幽結界を使えるようになったことも相まって格段にレベルが向上している。


「ふふふ」


 複数体で飛びかかってくるモンスターに対し、武器を飛ばし牽制する。

 できるだけ優しく攻撃してあげることでモンスターに傷がつかないように配慮している。


 そして牽制した結果、一対一の状況をつくりだす。

 一対一ならインベントの独擅場だ。


 全速力で突進してくるモンスターの足元に、絶妙なタイミングで丸太を設置する。

 すると、面白いぐらいグルグルと回転しながら吹っ飛んでくるモンスター。


「――一刀両断~」


 モンスターはなぜ高速回転しているのかがまずわからない。

 そしていつの間にか一刀両断されている。

 斬られたことさえわからず死んでいくのだ。


「いいね! イイネエ!!」


 現在のインベントには余裕さえある。

 だが余裕の無いものもある。


 それは物資だ。


(おっとおっと、武器は大事に使わないとなあ~。

 オセラシアでは武器の調達ができないらしいしな~)


 収納空間には大量の武器が詰め込まれている。

 カイルーンのドウェイフ工房にある武器をあるだけ入れてきたのだ。

 ただ重力グラビティ装備はロメロとの模擬戦で無くしてしまったため、現在新規作成中である。

 そして徹甲弾に関しても20発だけしか作成されていなかった。


 万全とはいえない状況。

 だがそれも楽しんでいるのがインベントである。


「ウフフ~。幽壁が発生しないように綺麗に殺してあげないとなあ」


 幽壁は命の危険を感じた際に自動的に発動する幽力の盾である。

 人間、モンスター、どちらでも発動するが幽力が多いモンスターは発動回数が多い。

 幽壁は非常に頑丈な盾であり、まともに武器と幽壁がぶつかり合えば武器が消耗してしまう。


 そこでインベントは幽壁の発動を回避しつつモンスターを殺している。

 インベントはこれを『不可視の一撃(クリティカル)』と呼んでいる。


 縮地を利用して死角からの攻撃したり、上空からの一撃で仕留めたり、『不可視の刃(インビジブルエッジ)』で注意を逸らすなど。

 そして最近は自分から離れた位置でも正確にゲートを展開できるようになったので、丸太ですっ転ばせたり、突然目の前に徹甲弾を現せたりするのがお気に入りだ。



 暗くなるまでモンスターを狩り続けるインベント。

 だが――時折違和感を感じていた。

 今までに感じたことのない違和感。



 徹甲弾をモンスターの顔面に命中させて、続けて『不可視の一撃(クリティカル)』とどめを刺すインベント。

 危なげない戦いだった。


「ん~? なんだろう??」


 だがインベントは首を傾げた。


 収納空間から物を出す際になにか引っかかるような感覚を覚えるインベント。

 極めて僅かな違和感。

 だが収納空間を極めつつあるインベントにとっては明確な違和感。


 一度だけではない。何度も何度も発生している違和感。


 右手をグーパーするインベント。

 連動してゲートが開閉する。

 なにも問題は無い。


「んん~……まいっか」



 モンスターを狩れたことに満足し、ホクホク顔でサダルパークの町に帰るのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ剥ぎ取りしようずぇ〜
[一言] 門が開ききって収納量が無限になるだけだったらインベント発狂案件ですね。
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