表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/436

キモチワルイ

「うふふ」


 邪魔者ダムロがいなくなり、目の前に集中するインベント。


 ハウンドタイプモンスターが四匹。

 インベントに警戒しつつも、同胞が殺されているためか怒りを露わにしている。


(四匹か……)


 モンスターが複数いる。つまり長く遊んでいられる。

 そう考えるインベント。


 と同時に――


(複数体同時ってのは……どう戦えばいいんだろう。戦ったことが無いんだよなあ)


 インベントはゲーム脳である。

 というよりも『モンブレ脳』。そしてモンブレは基本的には一対一か、一対多。

 モンスター一体に対して戦うゲームなのだ。


 カイルーンの町で遭遇した『軍隊鼠アーミーラット』はあまりにも数が多すぎてインベントの思考を崩壊させてしまった。

 モンスターは『一体で堂々としているべき』というのがインベントの考え方なのだ。


 さて――


「――ま、いっかあ」


 四体相手でも、にこやかなインベント。


 左手を前に出し、『クンッ』と人差し指と中指を空に向けた。

 インベントがサイヤ人ならば一帯は爆発していただろう。


 だがインベントがやったのはもっと些細なことだった。


「ガガウウ!?」


 徹甲弾をモンスターの眼前に突如出現させ――

 徹甲弾はふわりと宙を舞う。


 モンスターの注意は徹甲弾に。

 立方体の鉄塊が突如目の前に現れたのだから当然の反応である。


 だが――


 ――グシャリ。


 一匹のモンスターの顔面を薙刀が破壊した。


 加速武器アクセルウエポン飛龍ひりゅうノ型。

 インベントは瞬時に薙刀を取り出し、続けて反発力を利用し薙刀を飛ばしたのだ。


 本来、この技は方向の制御に難があった。

 以前までは両手でしっかり薙刀を持つことにより、両腕を拳銃のバレルのような役割を担わせていた。

 だが、今回はそのまま薙刀を片手で持ち、いとも簡単に武器を飛ばすインベント。

 インベントの戦闘レベルは確実に向上していた。


 急激なインベントの技術の向上。

 それは幽結界を意識し始めたからである。



 インベントの幽結界は、ロメロやクリエのとは違い50センチメートル程度しかない。

 探知としては使い物にならないレベル。


 だが幽結界は、範囲内であれば手に取るように状況が把握できる。

 たったの50センチメートルだが、技を使う際にはこの50センチメートルが非常に大きい。

 結論から言えば、幽結界のお陰でインベントは精度の高い動きを実現できるようになった。


 膨大な時間を収納空間の扱いに費やしたとはいえ、インベントの肉体は並みの人間だ。

 素早く動けばどうしても動きに誤差が発生してしまう。


 そんな誤差を幽結界のお陰で修正することができるのだ。

 手に眼がついたような感覚でインベントは技を繰り出せるようになっている。



「うへひひひ、よそ見したらダメじゃない」


 興奮するインベント。

 モンスターからすれば、『よそ見させたのお前じゃねえか!』と言いたくもなる状況だ。


 インベントはいつも以上に興奮していた。

 最近、モンスターと遊べていなかったからである。


 ロメロとの模擬戦と思えない死闘を演じ、重傷を負った。

 その後、白いボアを見るためにルザネアの町に行き、クリエと会う。

 だがその間、ほとんどモンスターと遊べていなかったインベント。


 久しぶりのモンスターだ。できるならじっくり楽しみたい。

 だが――もう限界だった。


 優しく二発の徹甲弾を発射するインベント。

 本来なら重力グラビティグリーブでぶん殴って発射するのだが、今、重力グラビティグリーブを装備していないインベント。

 優しく投げるように二発の徹甲弾は、二体のモンスターに迫る。


 二体のモンスターは警戒し、後方に下がった。


 さて残されたもう一体はというと、徹甲弾を眺めていた。

 幾何学的な鉄塊は、モンスターにとっては奇妙以外のなにものでもないからだ。


 だが――


「――またよそ見。ヒヒヒ」


 ハッとしたモンスターは振り返る。

 だがそこにはインベントはいなかった。


 縮地を使いモンスターの死角に移動するインベント。

 完全にインベントを見失ったモンスター。


 インベントはゆっくりと両手を上に構え――


(よいしょっと!)


 目にも止まらぬ早業で大剣を収納空間から取り出し、大剣を加速させつつ振り下ろす。

 綺麗にモンスターの体は真っ二つに。

 勢いをつけすぎたのか、剣は地面にめり込んでしまった。


 本来なら、命の危険を感じる攻撃に対しては幽壁が自動的に発動する。

 だがインベントの姿を見失っている以上、危険を感じることもできない。

 いとも簡単にモンスターは絶命する。


「うふふ……あと二匹かあ。

 なんかモノタリナイ。ああモノタリナ~イ」


 モンスターは戸惑っている。

 どう見ても強そうに見えないニンゲンが、よくわからないうちに同胞を二匹殺してしまった。

 危険な相手だ。


 だがインベントは武器をなにも持っていない。

 これを好機と判断し、二体のモンスターは飛びかかってくる。


 二体同時攻撃を想定した戦い方はインベントには無い。

 インベントはタイマン専門なのだ。


 ゆえに同時攻撃に対して有効な手段は持ち合わせていない。

 ただ――完全に同時攻撃であるならばである。


 同時攻撃を仕掛けようとするモンスターだが、完全に同時というわけにはいかない。

 そこまで密な連携はできないのだ。


 先に飛びかかってきたモンスターに対し、インベントは――


(丸太ドライブ――零式!)


 ゲートから丸太の先端を出し、モンスターの眼前に出した。

 避けることはできず、激突するモンスター。


 丸太ドライブの零式は、相手の突進力を利用し跳ね返す技である。

 モンスターは勢いよく後方に吹っ飛んでいく。



 続くもう一体に対しインベントは「これで一対一だねえ~」と笑う。


 インベントの笑顔を見て、モンスターの心に初めての感情が湧きあがる。

 『キモチワルイ』。


 だがもう止まれない。


 モンスターは鋭いその牙でインベントを噛み殺そうとする。

 だが――消えた。眼前で消える『キモチワルイ』。


 とは言え完全に見失ったわけでは無い。

 モンスターの周辺視野はインベントが、右側をすり抜けていったことをどうにか捉えていた。


(コッチダロウ!!)


 振り向くモンスター。

 だが――いない。


(ダッタラコッチ!)


 体を大きく捩り反対側を見る。

 でもいない。


 混乱。


 だが、背後からドスンという音がした。


(シマッタ! ヤハリコッチカ!)


 再度、ダイナミックに振り向くモンスター。

 そこには――徹甲弾が落ちていた。


「ガ、ガウ……」


 わけがわからなくなり、モンスターは不安になる。

 なにと戦っているのかわからなくなってしまったのだ。


 でも大丈夫。

 ――もう考える必要はないから。



 ズドン。


 モンスターの体をなにかが貫いた。


(ウフフ~、『龍の矢』だよお~)


 『龍の矢』とは、モンブレで弓使いが使用する矢の一つである。

 その特徴は貫通性能であり、貫通中は多段ヒットする。

 まあ多段ヒットなんてものはゲームでの概念である。


 インベントが『龍の矢』と呼称したのは、まるで巨大な鉄の爪楊枝。

 先端は尖っているが、装飾や持ち手部分も無い無機質な鉄の巨大爪楊枝。

 インベントがドウェイフ工房のドウェイフに製作をお願いしてたオリジナル武器である。

 貫通性能だけを特化させたシンプルな武器だ。


 インベントはモンスターの上空にいた。

 『龍の矢』を上空から放ち、モンスターを大地に釘付けにした。

 続けてもう一本。更にもう一本。


 モンスターは物理的に動けなくなった。

 多少暴れるが――、傷口からドボドボと体液が漏れていく。

 そして生物的にも動けなくなった。


 残虐な死。

 大地に倒れることも許されず死んでいく。



 さて――

 名残惜しいがモンスターは残り一匹。


 吹き飛ばされていたモンスターは、猛スピードで戻ってきていた。

 だが、無残な死に方をしている同胞を見て、その足を止めた。


 インベントという生物。

 牙も爪もない。弱そうな生物。


 だが、モンスターは前に進めなくなっていた。

 なぜか足がすくむ、震える。


 その感情が『恐怖』であることをモンスターは知らなかった。




「さあ――(あ~そ)ぼう」

・面白かった

・続きが気になる

・ダムロがどうなったかは気にならない


そんな方はブックマークと評価をお願いいたします。

※評価は広告の下の☆☆☆☆☆をポチっとするだけです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ