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マクマ隊とノルド隊④ 絶対無敵の三メートル

(……なんなんだコイツは)


 模擬戦の中でインベントを研究するうちに、徐々にインベントができることを把握していくノルド。

 だが知れば知るほど、わけがわからなくなっていく感覚だった。


(【ペオース】を使い、目に見えないほどの速さで武器を入れ替えることができるわけか……。

 いや、目に見えないように工夫している感じか。初見だと対応は難しいだろうな。

 だが……気づかないレベルで武器の変更ができるものなのか??)


 インベントは簡単に躱されているように感じていたが、ノルドは何度もヒヤヒヤとしていた。

 インベントの攻撃は予測より間合いが大きく変化する。

 剣と槍はでは倍ほどの間合いの差があるし、急にナイフ投げを挟めば一気に間合いが増える。


 達人ほど間合いギリギリで避けるので、間合いの変化は大きな武器である。


(まあ、間合いの変化は知っていれば対応できるな。

 残念なことにコイツには武器を扱うセンスが無え。

 盾や砂を使った目潰しも慣れればどうにかなる。

 どちらかと言うとあの奇妙な加速が一番厄介だな。

 というか予備動作無しであの動きは反則だろ。クハハ)


 ノルドは反発移動リジェクションムーブに目を付けた。


「おい」


「は、はい」


「急に加速する技は、空を飛ぶ技の応用か?」


「逆ですね。反発移動リジェクションムーブを連続使用することで空を飛べます」


「その……リジェクなんとかはどういう仕組みなんだ?

 まあ……教えたくはないかもしれんが」


 ルーンや戦い方に関しては基本的に公表しないのが普通である。

 敢えて手の内を晒す必要は無いからだ。

 そんな常識がインベントには――


「あ、反発移動リジェクションムーブは、収納空間の反発力を利用しています」


 アッサリと暴露する。彼にとって反発移動リジェクションムーブは秘密でもなんでもないのだ。

 むしろ収納空間に関しての話はしたくて仕方がない。


「反発力だと?」


「収納空間に収まらないモノを入れると、吐き出す力が発生します。

 その反発力を利用するのが、反発移動リジェクションムーブです」


 そう言って、インベントは剣を下方向に動かし、収納空間に突き刺した。

 直後、インベントの身体が少し浮く。


「ほお……」


「ただまあ、課題もあって、飛ぶ距離とか方向の制御が難しいんですよね……。

 森林の中で使うと生傷が絶えません。なので遮蔽物の無い空中で使うのが一番便利かな~と」


 ノルドは考える。

 収納空間の性質はわからなくても、反発移動リジェクションムーブの仕組みはある程度理解できた。


「その技……今のままでは使えないな」


「え?」


「動きが制御できないんじゃあ、攻撃には使い難すぎる。

 さっきも急接近してきたが、方向が滅茶苦茶だった。

 もしも距離と方向を正確に使えるんだとすれば大きな武器にはなるがな」


「う~む……やっぱりそうですよねえ。

 元々は緊急回避用に考えた技だったんです」


 ノルドは「なるほど」と呟き――


(こいつ、頭は悪くなさそうだ。

 やはり……マクマへの当てつけにも使えそうだな……クク)


「おい」


「はい」


「こんなことはできるのか? 正確な動きが求められるが――――」



 ノルドとインベントの技開発が始まった。


 インベントにとって収納空間の使い方は独学だ。

 モンブレの世界を参考にしてはいるものの、モンブレの世界はゲームであり、実際の世界とは大きく隔たりがある。


 インベントは人生で初めて、他の誰かが考案した収納空間を使った技を習得しようとしている。

 そんな経験が嬉しくて、インベントは終始ニヤニヤしながらノルドと話している。



(……やっぱり変な奴だな)



****


 インベントは空いている時間、可能な限りノルドの所に行った。

 マクマ隊の任務がある日はマクマ隊の任務をこなすが、それ以外のほとんどの日はノルドを追い回した。


 マクマは嫌そうな顔をしているのだが、そんなことはインベントの知ったことではなかった。

 それに任務時間以外に何をするのも自由なので止められない。

 というよりもまさかあの『狂人くるいど』であるノルドがインベントを拒否せず、連れていくとは思っていなかった。


 ノルドはノルドでめんどくさいと思ってはいたものの、別にインベントはモンスターを狩る邪魔はしてこない。

 ついてくる分には困らないし、インベントを鍛えることも暇つぶしには丁度良かったのだ。

 誰かと関わることに飢えているなんてノルド本人は認めないだろうが。


 ノルドはインベントにまず一つだけ習得するように命じた。

 指導した動きができるまでは他の練習はしないで良いと伝えたのだ。



 インベントは、ノルドが指示した動きを何に使うのかわからなかった。

 でもとにかく練習した。

 元々凝り性なインベントにとって、お題が与えられたのは良かったのだ。


 与えられたお題はたった一つ。

 反発移動リジェクションムーブで三メートル先の狙った場所に移動すること。たったそれだけ。


 だが――


(難しい……)


 インベントはとにかく練習したが、反発移動リジェクションムーブでキッチリ三メートル飛ぶのがまず難しかった。

 そもそも反発移動リジェクションムーブは緊急回避用に考案した技だ。


 収納空間の一角に砂を目一杯敷き詰めた空間を作り、その中に武器を押し込む。

 当然入らないため、反発力が発生するのでその力を利用して高速移動するのだ。


 ただし、この反発力が曲者で、どの武器を入れるかで反発力の大きさは変わる。

 更に武器を入れる角度で力の方向が微妙に変わる。

 ノルドが求めるような正確な動きに利用することはできない。

 そもそも収納空間の反発力は本来の使い方では無いのだから。


 そう……できないはずだった。


(剣……はだめだ)


 インベントは何度も剣を収納空間に突き刺した。

 その回数は優に100を超えている。


(剣……というよりも先端が尖っているモノは反発力を一定にするのが難しすぎる。

 刺す角度、刺す強さ。均一にするのは難しい。というか無理かな)


 次にインベントが選んだのは盾だ。

 インベントは駐屯地の武器倉庫にあった円形の盾をゲートのサイズピッタリの直径30センチまで削った。

 そして盾で砂を敷き詰めた部分を何度も何度も押してみた結果――


(うん、反発力は一定だな。方向も真っすぐだ。いい感じ)


 インベントはおおよそ三メートル飛べるだけの反発力を得る方法を体得した。

 ノルドが求めるレベルには到達していた。


 だが――


(きっちり正確に三メートルを狙えるようにならないと!)


 インベントの体重は58キログラム。

 58キログラムの肉体を三メートル飛ばすために必要な反発力は出せるようになった。

 だが、正確に三メートルの地点に着地するには、角度が重要になる。


 同じエネルギーで遠くまで届けたいなら、45度がベストだ。

 だが45度では着地までの時間がかかる。


 とはいえ10度ではすぐに着地してしまう。

 距離も出ないし、足への負担も大きい。


 ・三メートル分、身体を移動させること

 ・足への負担がかかり過ぎないこと

 ・可能な限り飛翔時間を短くすること


 この三項目を完璧に満たす動きをするために、インベントはひたすらトライ&エラーを繰り返す。


 面白いものでギリギリを追い求めると、改善点が見えてくる。


 反発力を増やせばより速く三メートル先に届く。

 足への負担は着地体勢を工夫すれば、かなり軽減できる。

 革靴にもこだわった。


 速さを追求すれば、その分着地地点は大雑把になるが、反復練習すれば徐々に正確な位置に着地できる。


(もっと速く…………もっと正確に…………)


 インベントは何度も何度も三メートルを極めるために練習を続けた。

 他にやることが無かったのも大きいが、とにかく空いた時間は全て注ぎ込んだ。


 狂気の沙汰だ。


 皆が酒を飲んだり、カードゲームに興じる中、インベントは一人三メートルを極めるために試行錯誤をしていた。

 インベントは飢えていたのだ。モンスターを狩ることに。

 そしてこの三メートルを極めることが、もしかしたらモンスターを狩ることに繋がるのかもしれないと思い空いてる時間は全て練習に費やした。


 ノルドはそこまでするとは思っていなかった。

 正確で素早い三メートルの移動をマスターすれば、便利でありモンスター狩りに使えるだろうと思いマスターするように伝えた。

 もしもできなくてもそれはそれで良いと思っていた。

 別に正確な三メートルの移動ができなくても他の手を考えれば良いのだから。



 だがインベントは練習している中で、正確な三メートル以上があるのではないかと感じだしていた。

 きっかけはモンブレの夢で見たことである。


 夢の中で一つの言葉を思い出す。


(『無敵時間』……か)


 『無敵時間』とはモンブレの世界での話である。


 モンブレを含む多くのゲームでは回避行動をしたとき僅かだが無敵時間が発生するケースがある。

 最も有名な無敵時間は『昇竜拳』であろう。

 インベントが見ていたモンブレの世界でも複数のスキルに無敵時間がある。


 無敵時間であればどんな攻撃もダメージ判定が無い。

 勿論ゲームだからこその判定である。


 だがインベントから見れば、速すぎる回避行動はどんな攻撃でも避けることができるように見えていたのだ。


 だからこそ――


 インベントは極めようとしていた。


 正確な三メートル移動ではなく――


 絶対無敵の三メートルを。

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