表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/445

噂の快楽殺人者

 イング王国の南西、オセラシア自治区近くの森の中。

 大木の幹の中に家がある。大人一人用だが十分快適な家。


 入り口はわかりにくく、発見するのは難しい。空中からは茂みがブラインドになり更に発見は困難。

 つまりクラマであっても見つけることはできない。


 家の造り方は至極簡単。

 適当な大木の中身だけをくり貫いて部屋を造る。――それだけ。

 まさにツリーハウス。こんな芸当ができるのはたった一人だけなのだが。 


 さて、そんな家から――


「ん~~ん。今日もいい天気だなあ。

 ああ、感じるよ。お日様の恵みをね」


 ドアに見えないドアを開けて現れた男。

 灰色の髪に、真っ白な肌の男。優しい印象を受ける青年だ。


 木漏れ日を眺めながら――


「しかし暇だなあ。そうは思わないかい?

 ――アドリー」


 青年はある方向に目をやった。


 するとアドリー・ルルーリアが木の陰から現れた。


 インベントを殺しかけた少女。

 見た目は幼女。中身は39歳の女性である。


「おい、ルベリオ。アドリーさんだろ。アドリーさん。

 さんをつけろ。さんを」


「ふふふ、そうだったそうだった。

 子供に見えても実は40過ぎた()()()のアドリーさん」


 優しいトーンで話すルベリオ。


「相変わらず口が悪いし……てか39だし。

 まあいいけど」


 アドリーは怒らず、ただただ呆れた。

 ルベリオはただニコニコしている。


「調子はどうだし?」


「ああ、すごくいいんだよ。

 よく食べてよく飲んで、水が美味しいからかなあ。

 お肌もプルプルだし、お通じも――」


「なんの話だし!

 あんたの健康なんて聞いてないし!」


「アハハ、だめだよ~アドリー。

 怒りはお肌の天敵だよ~。アドリーはババアなんだから気をつけないと~」


「うるさいし!

 そんなことより、犬小屋はどうなんだし!」


 ヘラヘラと笑うルベリオ。


「うん。大丈夫大丈夫。

 一度暴れたけど、眼球を潰したら大人しくなったよ。

 両目を無くすのはさすがに嫌みたい。アハハ」


 アドリーは溜息を一つ。


「相変わらず気持ち悪いガキだし」


「ええー、そうかな~。

 みんなのほうがよっぽど気持ち悪いよ。

 ボクは普通だよ。一番普通さ」


「まあいいし。問題無いならいいし。

 犬小屋の様子だけ確認してくるとするし」


「でもちょっと飽きてきたよ。

 ここにいても面白いことがなーんにもない。

 ボクはアドリーみたいに、種馬を失ったりしてないしひどいよね。

 ヘマした無能と同じ扱いはひどいよね」


「うっせえし……。

 あん時は色々あったんだし」


「アハハアハアハ!」


 バカにするように笑い出すルベリオ。


「アドリーって見苦しいよね。

 あんなウソついてまで言い訳しちゃって。

 国境沿いに人なんて来るわけないのにね。

 星天狗ならまだしも。

 あれ? 星天狗も来たんだっけ?」


「アンタは相変わらずな~んも聞いてないし……。

 インベントっていうクソガキが飛んできたんだし!」


「フフ、フフフ、人間が飛べるわけないじゃないか。

 アドリーは本当にバカだなあ」


 アドリーは呆れて「もういいし」と話を終わらせた。

 いや終わらせようとした。


「でも空を飛べるなんていいよねえ~。俺も飛びたいなあ~。見てみたいなあ~。

 インベント……だっけ? 変わった名前だなあ。

 でもあれかあ~、アドリーが殺しちゃったんだよね。残念だなあ~」


 アドリーは「――生きてるかもしんない」と呟いた。


「え? なんてなんて? 生きてる?

 あれ? でもおかしいよね? アドリーが刺し殺したって言ってたよね。

 え? 嘘ついたの?」


「嘘なんてついてねえし! てかなんでそこだけちゃんと覚えてるんだし!

 しっかり背中から心臓を刺したし」


「アハハ。心臓を刺されたら死ぬんだよアドリー。バカだなあ」


「そんなことわかってるし!!

 わかってるけど……なんか知らねえけど生きてたんだし。

 いや……息をしてただけか」


 アドリーは思い返す。

 確かに心臓を突き刺したはずなのに、インベントは生きていたことを。

 その後クラマが現れて、インベントを連れて行ったことを。


(インベントのお陰で、私はクラマから逃げれた。

 だけど……結局なんだったのかわからねえし。

 生きてるか死んだのかもわからねえし)


「へえ~生きてるんだ~へえ~。

 ねえねえ、その~インベントってのはどんなやつだったの?」


 「どんなやつ……ね」と思い返すアドリー。


「得体の知れないガキだったし」


「得体が知れない?

 もっとなんかないのかい? 説明が下手だなあ」


「うっさいし!

 空は飛ぶし、動きもメチャクチャだし、武器も飛んでくるし!

 今思い出しただけでもイライラするガキだったよ」


 アドリーは頬を擦った。

 インベントが放った薙刀が顔面に直撃したことを思い出したのだ。

 加速武器アクセルウエポン飛龍ひりゅうノ型で飛ばした薙刀である。


 そしてインベントの行動、表情を思い返す。


「――そんでもって、快楽殺人者だ」


「ええ、ナニソレ。おもしろーい」


「こんなに可愛い幼女を躊躇なく殺そうとした。

 あれは紛れもなく……何人も殺してるね。恐ろしいガキだった。

 幽壁は使えなかったから、見た目通り……たしか15歳とか言ってたな。

 ったく、イング王国はどうなってんだし」


 ルベリオは笑う。想像して笑う。

 アドリーが惨殺されるシーンを想像して更に笑う。


 アドリーは「っとに気持ち悪いガキさね」と吐き捨ててルベリオの元を去ろうとした。


 だが思い出したように「あ」と声を上げた。


「どうしたの? アドリー」


「インベントってのは……アンタに似てるって思っただけだし」


「へえ~! どの辺が? どこが? どんな風に?」


 アドリーは振り向いてニッコリ笑う。

 そして幼女のような可愛らしい声で――


「とぉ~っても、気味が悪いところだよ。

 ルベリオお兄~ちゃん」


 そう言った後、アドリーは地面を踏みつけた。

 次の瞬間、アドリーの足元から木の根が伸びた。


 ルベリオはアドリーが見えなくなった。

 これ以上ルベリオと会話する気がないという意思表示だ。


「ふふん。相変わらずだなあアドリー。

 健気で真面目で純粋で――――滑稽だ」


 ルベリオはあくびを一つ。


「そっかあ、ボクと似ているんだ。インベント。

 なにか運命的なモノを感じ……たりはしないけどね。

 会ってもいないからねえ」


 ルベリオは歩き出す。


「フフフ。

 会いたいなあ。インベント。

 ボクのもとに飛んできてくれないかなあ。

 ま、なんでもいいからこの退屈をどうにかして欲しいよ」


 すると、森の奥から遠吠えが聞こえた。


 遠吠えを聞いて、ルベリオは無表情に笑う。




「ウフフ。どうすればもっと楽しくなるかなあ。

 ――オセラシアをぐちゃぐちゃにすれば楽しくなるのかなあ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ