100人斬り
ロメロはインベントを誘うが、クラマに阻まれた。
「危ないことはしない」とロメロは言うが、アイナとクラマは全く信じない。
これまでに余罪が多すぎるのだ。信じられるはずもない。
仕方なくロメロは全員を連れ人気のない場所へ。
ロメロは頭を振り「は~あ、インベント以外見ても意味ないのに」と口をすぼめた。
インベントは「なにするんですか?」と問う。
「ま……ジジイのせいで野次馬が増えちまったがな」
クラマが怒るが無視して続けるロメロ。
「インベントはオセラシアに行くし、次に会うのはいつになるかわからんだろ?
ふふふ」
不敵に笑うロメロ。
ロメロは遠くを見た。視線の先はクリエがいるであろう森の方角だ。
そして思い出す。
クリエの予言。インベントがロメロの運命の相手ではないこと。
そしてクリエの『今後ロメロとインベントは関わることさえない』という発言。
つまり予言通りであれば、現時点がインベントとロメロが一緒にいられる最後の時間なのだ。
(ま、クリエさんの予言通りなら――この時間がインベントと遊べる最後の時間だ。
ジジイをぶっ殺して模擬戦してもいいんだけどな。クックック)
ロメロの邪悪な顔に「やっぱり悪いこと考えとるんじゃろ!」とクラマが指差す。
「チッ。しねえよ」とロメロは呟いた。
(予言通りなら最後。
もちろんクリエさんの予言は絶対だ。絶対に当たる。
なんだけど……まあ――)
ロメロはインベントを見る。
顔つきも体つきも多少逞しくなったものの15歳の少年である。
だが天下の『陽剣のロメロ』を楽しませた稀有な少年でもある。
「ククク」
インベントと遊んだ日々を思い出しつつ、布に包まれた長物から布を剥いだ。
そして出てきたのは――剣。剣が二本。
「いやあ、ジジイが急に来やがったからな。
剣を用意する時間が無くて参ったぜ」
クラマがロメロとインベントの間に割って入る。
「やはりお前、インベントと戦う気じゃのう。させんぞ」
「違えよ。早とちりすんな」
「じゃあその二本はなんじゃ?」
ロメロは「ふふん」と言いながら剣を抜く。
右手から抜き、左手からも剣を抜いた。
インベントは「に、二刀流?」と驚いた。
「そうだ。まあ二刀流なんてダサイからやったことはないんだがな。ハハハ」
ロメロは歩を進めクラマを押しのけた。
「この前の模擬戦を覚えているな?」
「はい。
まあ……最後の方は覚えてないですけど」
「ま、ぶっ倒れてたからな。
結果は引き分けってところだろう」
クラマは「引き分けじゃと!?」と声を上げた。
模擬戦をしたことはアイナから聞いているが勝敗は聞いていなかったのだ。
そしてインベントが『陽剣のロメロ』と引き分けるなんて信じられないのだ。
「ジジイ。ちょっと黙ってろ」
「な、なんじゃと!」
ロメロは凄む。圧倒的な威圧感は周囲の空気を軋ませるほどに。
「今はインベントと話しているんだ。ジジイの出る幕じゃない。
それにオセラシアに行くんだろ? 邪魔すんな。それほど時間はとらせん」
「む、むう」
クラマは引き下がる。
「さあて、話を戻すぞインベント。
ま、模擬戦は引き分けだった。そうだな」
「う~ん……あれで引き分けなんですかねえ。引き分けた感じはしないんですけど」
「俺に傷を負わせたんだ。勝ちでもいいぐらいだぞ。クックック。
だがまあ……あの時点の俺にインベントは引き分けたわけだ。あの時点のな」
『あの時点』と強調するロメロ。
「この前の模擬戦は、ちゃんと集中して臨んだ。
戦いの前に準備するなんて久しぶりだったなあ。
だが準備する価値があると思ったし、実際にインベントは期待以上の力を発揮した。
ま! 模擬戦だからインベントに怪我させないように気は使ったがな。だが本気は本気だ」
アイナは――
(戦いの後、瀕死状態だったけどね!)
と思ったが言えずに口には出さなかった。いや出せなかった。
ロメロは話を続ける。
「次に会うとき――」と話し始める。
ロメロはあえてクリエの予言通りでは実現しない『次』――『未来』の話を始める。
「俺はしっかりと勝つつもりだ。模擬戦だろうがなんだろうが負けるのは性に合わんのでな。
だから俺は――インベント用の戦い方を準備したぞ」
インベントは目をパチパチとしながら「それが二刀流だと?」と問う。
「ふふふ。それは――見ればわかるさ」
そう言ってインベントに背を向け歩き始めた。
そして構える。といっても自然体に剣を握っているだけ。
更に目を閉じる。
「さあて……俺は今からインベントの幻影と戦う」
そう言って目を開くロメロ。
クラマはインベントに伝わるように「インベントを敵と仮想した演武といったところかのう」と語りかけた。
ロメロは待つ。
そしてインベントの幻影が高速でロメロに接近する。
対するロメロは最短最速の動きで左手に持っていた剣で牽制する。
幻影は躱した。躱した後ロメロの死角に移動し、隙を突こうとする幻影。
だが――ロメロに一分の隙も無かった。
右手がすでに準備されているからである。
幽結界だけでも厄介なのに、ロメロが巧みに扱う二本の剣の幽結界への侵入を完全に防いでいる。
剣が二本に増えたため、単純に手数が増えている。
それはまさに結界だった。
(あ……やられた)
インベントは自身の幻影が倒されているシーンをはっきりと目撃した。
ロメロは独りで踊っているかのように見える。
だがロメロの『やったことのない二刀流』は、達人の域であり斬撃一つ一つに意味があり、最善の一手なのだ。
そう――インベントに対応するための最善手である。
ロメロの思い描くインベントと、インベントがイメージする自分自身がピッタリ一致する。
徹甲弾を撃ちまくり、反発制御で反射神経を凌駕した動きをするインベント。
ロメロしか知らないインベントである。
インベントには見えるが、クラマもアイナもロゼにも見えない幻影が確かにそこにいる。
ロメロが言ったように、この演武は『インベント以外見ても意味がない』。
なぜならこれはインベントのためだけにロメロが考え出したインベント対策だからである。
幻影は駆けぬけ――惑わせ――攻撃する。
だが模擬戦の時とは違い、インベントの攻撃は全く通用しなくなっているのだ。
その二本の剣がことごとくインベントの企みを潰していく。
(またやられた……。
あ、こっちも死んだ。
う、うう~む、これもだめか)
インベントたちが死んでいく。
ロメロに斬り刻まれて死んでいく。
そして――100人のインベントが死んでしまった時――
「まあ、こんなところかな」
と言って、ロメロは止まった。
インベントには死者累々が見えている。全て己の死体である。
そしてスタスタと何事もなかったかのようにインベントに近寄ってくる。
笑顔で「どうだった?」と勝ち誇ったように言うロメロ。
「いや……100人斬りされちゃいましたね」
「ハッハッハ! ちゃんと見えていたようだな。
どうだ? インベント対策に二刀流をやってみたんだが」
「いや……お手上げって言うか……なんで二刀流にしないのって感じですけど」
「ククク、二本も剣を持つのは面倒だからな。
ま、わかったと思うが今のままのインベントだと俺には通用しないってことだ」
インベントは「う~む……確かに」と唸った。
ロメロは笑いながら剣を仕舞う。
そして、なにかを言いかけるが――首を振った。
「ま、次に会うときはもっと強くなっておけよ。インベント。
手の内は見せておいたからな」
「う~ん、頑張ります」
「『門』でも開いたら、また遊ぼう。
――――じゃあな!」
そう言ってロメロは足早に去っていく。
ロゼが「あ、副隊長! ありがとうございました!」と叫び、ロメロは手だけ振ってこたえた。
**
「また――遊ぼうな。インベントよ」
運命さえも打ち破り、またインベントと遊ぶことを決めたロメロ。
『宵蛇』副隊長であり、イング王国最強の男。
ロメロ・バトオはやっと『宵蛇』に戻るのであった。
これにてロメロのストーキングは終幕です。
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