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本当に近い未来

「ど、どうして?」


 ロゼは首を傾げた。

 ロメロは「ま、俺から説明してもいいんだが……」と言いクラマに目をやる。


「お嬢ちゃん。ロゼといったかのう」


「は、はい」


「申し出は本当に感謝しておる。ありがとう。

 だがのう、お前さんに来てもらうわけにはいかん」


「ど、どうしてですか!?」


「それはのう……お前さんが『宵蛇よいばみ』だからじゃよ」


「……え?」


「まあ……その……なんじゃ。『宵蛇よいばみ』はイング王国直轄の組織。

 その隊員が許可なくイング王国から出るわけにはいかん」


 ロメロが笑う。

 続けて「それだけじゃないだろ~? ジジイ」と。


 クラマはモジモジし始める。


「じ、実はそのお……ワシが『宵蛇よいばみ』は国王の許可なく他国……というかオセラシアに行くことを禁じたんじゃ」


 ロゼは難しい顔をしたまま首を傾げる。


「ハハハ! ジジイはカッコつけだからな!

 オセラシア出身のジジイが妬まれたり、後ろ指差されないように自ら自分を縛るルールを作った」


「ど、どうしてそんなことを?」


「ほら……ワシってオセラシアの人間だから。

 裏切らないアピールをしておかんと後々面倒じゃろうて」


 ロメロが「媚びてたってことさ」と笑うロメロをクラマは「うるさい!」と怒鳴る。


「ついでだから教えてやろうロゼ。

 そもそも『宵蛇よいばみ』はジジイが組織した隊じゃない」


 ロゼは「え!?」と声を上げた。

 『宵蛇よいばみ』はクラマ・ハイテングウが組織した隊であることは周知の事実だからだ。


「お、おい! それは話したらいかんじゃろう!」


「ジジイは都合悪いかもしれんが俺にとってはどうでもいいことだからな。

 そもそも『宵蛇よいばみ』なんて縁起でもない名前だと思わないか? ロゼ」


「そ、そんなこと……考えたこともありませんでしたわ」


「宵ってのは日が落ちた後の時間だ。

 そんでもって蛇。暗い中にいる蛇なんて薄気味悪いだろ?」


 ロゼとアイナ、そして話に飽きてきているインベントも想像する。


「まあ、そうですわね」


「確かにあんまり気持ちいいもんではないな」


「そうかも~」


「ハハハ、もともと『宵蛇よいばみ』ってのはイング王国直轄組織だった。

 それは今も昔も変わらん。だが役割が全く違う」


 アイナが「ああ、なるほど」と呟いた。


「お? わかってきたか?」


「ん? まあ……蛇ってのは『裏切者』の隠語だったりするし。

 多分だけど『宵蛇よいばみ』って、裏切者の暗殺とか、あとは……王家の邪魔者を排除するような組織だったんじゃねえの?」


 クラマが観念し、溜息を一つ。


「まあ大体正解じゃ。

 といってもそれほど後ろめたい仕事はしとらんがのう」


 ロメロが「はは、どうだかな」と言うが、クラマは手を振って否定する。


「ワシが『宵蛇よいばみ』に所属するよりもず~っと前はそうだったらしい。

 だがイング王国は国として非常に安定しておる。

 暗殺するような相手も……まあほとんどおらんかった。

 部隊に紛れ要人警護が多かったのう。空からの周辺警護は重宝されたもんじゃ。

 まあ、昔話はこれぐらいでええじゃろ! とにかく『宵蛇よいばみ』は国家機関!

 イング王国から出るのはダメじゃ!」



 昔話が小恥ずかしくなり、話を打ち切ったクラマ。


「だってさ。ロゼ。ハハ」


 オセラシアに行きたいロゼ。

 ノルドのピンチに駆け付けたいロゼ。

 そんなロゼを嘲笑うかのように小馬鹿にしたようにロメロは言い放った。


 ロゼは拳を強く握りしめた。


「俺からすればインベントを連れてくのだって微妙だと思うけどな。

 特にジジイはイング王国に背信するような行為を嫌がっているし。

 ま、当のインベントが行く気満々なんだから仕方ないか。

 所属もフラフラしてるしな~」


 アイナが「所属はアイナ隊だっての!」と怒鳴る。

 ロメロはヘラヘラと受け流す。


「だがインベントとロゼでは立場が違う。

 入隊したばかりだとはいえ『宵蛇よいばみ』は『宵蛇よいばみ』だ。

 レイが推薦したってことは、実力は折り紙つきなんだろう。

 数年もすれば『二つ名』もつくだろう。

 レイが『妖狐ようこ』だし……そうだな、よう……よう……。

 まあなんかつくだろ!」


 インベントとアイナは思う。


(思いつかなかったんだ)


 と――。


「ま、まあ、今後そんな感じだろうさ。

 輝かし~い人生が待ってるってわけだ。

 だがその代わり、『宵蛇よいばみ』としてのルールは守らないといけないなあ。

 ジジイ的には『宵蛇よいばみ』は人々の希望にならねえといけねえんだとよ。

 ぶはは! 人々の希望だってさ。ダッサいな!」


 クラマが「なにがダサイじゃ!」と憤慨するが無視するロメロ。

 ロメロがロゼを指差した。


「だからお前はオセラシアにはいけない。

 もしも行きたいなら――『宵蛇よいばみ』を辞めるしかないな」


「よ、『宵蛇よいばみ』を辞める……」


 オセラシアに行くには『宵蛇よいばみ』を辞めるしかない。


 つまりノルドをとるか、『宵蛇よいばみ』をとるか。

 『選択』の時。


 そしてハッとするロゼ。


(く、クリエさんが言っていた『人生を左右する選択』ってこれのこと!?)


 クリエの占いを思い出した。


『近い未来――人生を左右する選択をすることになるだろう』


(ち、近い未来って、近すぎるわよおー!)


 なにせクリエの占いを聞いたのは、本日のお昼前である。

 時間としては六時間ぐらい前なのだ。



「ハッハッハ。残念だがオセラシア――というよりもノルドはインベントに任せるしか無いな~?

 いやあ~残念残念」


 ロメロの理屈は正しい。


 『宵蛇よいばみ』を辞めてまでオセラシアに行くなんてありえない。

 案外『狂人くるいど』のノルドは楽しくモンスター狩りをしているのかもしれない。

 ロゼなんて不要なのかもしれない。


 今、この瞬間決断をする必要なんてない。それが理だ。

 

 だが人間は理屈が正しいからと言って必ずしも動くわけではない。

 理屈を無視してでも、捻じ曲げてでも行動するときがある。

 それは強い感情だ。


 100の理屈をたった1つの感情がねじ伏せた。

 


「私――オセラシアに行きます」


 ロゼに迷いは無かった。

 驚くクラマとアイナ。

 なんとも思っていないインベント。


 ロメロは「それは『宵蛇よいばみ』辞めるってことか?」と問う。


「はい。仕方がありませんわ。

 私――ノルド隊長の役に立ちたいから」


 言い切ったロゼに対しロメロは「あ~あ、若い若い。ハハハ」とお道化た。

 続けて――


「よ~し行ってこい。

 後のことは気にすんな。『宵蛇よいばみ』にも戻れるようにしてやるからよ。

 ハッハッハ」


「え?」


 驚くロゼ。

 ともう一人。


「お、おい、なにを言っておるんじゃ!」


「あ? なんだ? 耄碌もうろくジジイ」


「ろ、ロゼがオセラシアのために『宵蛇よいばみ』を辞めることなんて無いわい!」


「ナニ聞いてたんだ? 本当に耄碌したのかクソジジイ。

 ロゼはノルドのために行くだけだ。オセラシアがどうなろうと知ったことじゃねえよ」


 ロゼは「いえ……そんなことはありませんけど」と言うがふたりは聞いていない。


「それに一度辞めたやつを『宵蛇よいばみ』に戻せたりなんかするもんかい!」


「ハッ! 知らねえよ。どうにかなんだろ」


「なるか! デリータが許すわけなかろうて!」


「うるせえぞジジイ!

 お! そうだ思いついたぞ! ロゼ!

 お前、そもそもオセラシアに行っちゃいけないことを知らなかったことにしろ」


「えええ?」


「ハハハ! ナイスアイディア!」


「なあにがナイスアイディアだ! バカモン!

 副隊長のクセに無茶苦茶言いおって!

 ワシがデリータに会った時になんて説明すればいいんじゃ!」


「うるせえなあ。

 だったらもうイング王国側に来んな来んな。シッシ。

 オセラシアで壺でも作ってろ」


「こんな異常事態に壺作っとる場合か!」



 本格的に口喧嘩が始まる。


 そんな二人を見て――


「……お二人って仲が悪いのかしら?」


「いつもこんな感じだよなあ、インベント」


「ん? 仲良しだよね」


 ロゼの決意なんてどこ吹く風。

 ロメロとクラマの口喧嘩は日が落ちるまで続いた。

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[一言] 壺でも作ってろwww
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