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わんわん王国へ

「モンスターの異常発生ねえ。

 だがオセラシアのことはオセラシア側で解決するのが筋じゃねえのか? ジジイ」


 ロメロの指摘に対しクラマは「それはまあ……その通りだ」といい、押し黙る。

 憎たらしいがロメロが言っていることは正論だからである。


 言い返してこないクラマを見て面白く無さそうにロメロが話を続ける。


「ま、国境沿いは色々あるみたいだからなあ。

 インベントの手を借りたいぐらいなんだから、緊急事態なんだろ?」


「う、うむ。

 モンスター発生数が多少増えている傾向はあった。

 だがのう、最近は爆発的に増えておる。それもハウンドタイプばかり」


 ロメロが「犬っコロなら問題無いだろうが」と言うがクラマは首を振る。


「イング王国とオセラシアではそもそも地力が違うわい。

 各町に森林警備隊がおって常日頃モンスター対策をしているイング王国。

 それに比べてオセラシアはモンスターが頻繁に発生したりせん。

 町の自警団がモンスター対策に追われとるが……ハウンドタイプ一匹でも苦戦しておる」


「ふ~ん」


 ハウンドタイプは犬がベースとなったモンスターである。

 イング王国ではそこそこの発生率だが、それほどの脅威とされていない。

 スピードは速いがそれほど大きく無いからである。


 ――と考えられているのはイング王国だからである。

 常にモンスター対策を行ってきたイング王国だからこそ、モンスターに対応出来る人員が多く存在する。

 モンスターに対応できる森林警備隊も組織されている。


 隊員の質も、組織としての統率力もどちらも重要なのだ。

 モンスター対策せざるを得ない土地だからこそ、イング王国はモンスターに対して強いのだ。


「イング王国との国境に近い町が三つあってのう。

 ナイワーフの町は非常に大きい町でのう、すでに国軍が出動しておる。

 だがもう二つは厳しい。タムテンの町と――サダルパークの町」


 アイナが「サダルパークっていうとあの町か!」と声を上げた。

 インベントは「知ってるの?」と問う。

 ずっこけるアイナ。


「い、行ったじゃねえか!! ノルド隊長がいた町だっての!!」


 インベントは「ああ」と柏手を打った。

 インベントにとっては町の名前なんてどうでもいいのだ。


 だがどうでもよくない人物がいた。


「の、ノルド隊長……ですって?」


 ロゼが呟く。

 ロゼはノルドが生存していることは知っている。


 だが――その後は知らない。

 イング王国側でノルドのその後を知っているのは、アイナとインベントだけなのだ。


「あ、あの! ノルド隊長はオセラシアにずっといるのですか!?」


 クラマは不思議そうにロゼを見る。


「お前さんノルドを知っておるのか?」


「もちろんです。私の……隊長でしたもの」


 インベントが「俺とロゼはノルド隊だったんですよ~」と付け加えた。


「そうか……奇縁じゃのう」


 『狂人くるいど』のノルド。


 インベントと出会うまでは、ひとりでモンスターを狩っていた変人。

 自身以上の変人であるインベントに目をつけられて、仕方なくノルド隊に加わった。

 そしてロゼもすったもんだの末に隊員となった。


 だがノルド隊は、紅蓮蜥蜴ファイアドレーク戦でノルドが殉職したため短期間で解散となる。

 まあ生きていたのだけれど。


 そんなごく短い期間だけ組織されたノルド隊。

 ノルド隊に在籍したメンバーはインベントとロゼだけなのだ。


 「ちゃうで! 俺もや!」とラホイルが言い出しそうだが、ラホイルはたった一日の体験入隊で、ハートブレイクしてしまったのでノーカウントである。


 ロゼにとってノルドは特別な人である。

 『神童』と呼ばれ有頂天だったロゼ。

 その伸びた鼻を叩き折ってくれたのがノルドである。

 まあ正確に言えばノルドがインベントを上手に扱い、ロゼを挑発することで模擬戦をけしかけたのだが。


「ちなみに、インベントを連れてくるようにワシに提案したのはノルドじゃ」


 インベントは「あ、そうなんだ」と。

 ロゼは「の、ノルド隊長はいまどこに!?」と鼻息荒く。


「ノルドはサダルパークの町を守ってくれておる。

 モンスターが町に接近しないようにたった一人でのう」


「な、なぜ一人なの!? 町の人たちは助けてくれないの!?」


「違う。そういう意味ではない。

 サダルパークの住民たちも自分の町を守ろうとしておる。

 だがいかんせん武器も不十分。そしてモンスターと戦った経験も無い。

 火を焚き、町の周辺を警備するのが精一杯なんじゃ。

 厳しい状況はずっと続いておる。

 正直……もうサダルパークはだめかもしれん」


「だ、だったらなんでノルド隊長は!?」


「ノルドは時間稼ぎをしてくれておる。

 現在進行形で南部の町まで町人の輸送が行われておるんじゃが、これも中々時間がかかってのう。

 ひとり町から飛び出し、モンスターの頭数を減らすことでどうにか時間をつくってくれておる」


 ロゼはノルドの状況を想像し、唇を噛んだ。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークを討伐した後、濃紺のドレークが現れた。

 その際にノルドは自身が囮となることで、アイレド森林警備隊を救った。

 死を覚悟した自己犠牲。

 クラマに発見されたことでどうにか拾った命だ。


(隊長……! また無茶なされているのね)



 さて――インベントはソワソワしている。

 ノルドのピンチに? サダルパークのピンチに?


 もちろん違う。インベントにとっては些細なことである。


 インベントが興味があるのはモンスターのみ。

 そしてクラマが話した内容の中で気になった点はたった一つだけ。


「あ、あのー!」


「なんじゃインベントよ」


「ノルド隊長が『モンスターの頭数を減らしている』んですよね!?」


「う、うむ」


「それって……モンスターがすっごいいっぱいいるってことですか!?」


「嬉しそうに言われても困るが、その通りじゃ。

 本来なら群れないはずのモンスターじゃがのう、よくわからんがある程度まとまって行動しておる。

 町には雪崩れこんだりはしておらんが、いつそんな事態になってもおかしくない状態よ」


「うはあ~! それはすごい!

 早く行きましょう!」


「う、うむ」


 クラマとしてはモンスターのことを話せば、インベントが食いついてくるとは思っていたので、想定通り。

 インベントが来てくれるのは非常にありがたいと思っている。

 モンスターを狩る力と、オセラシアまで来れる飛行能力があるインベントは稀有な存在なのだ。


 ただまあ、オセラシアの危機なんて眼中に無く、ただモンスター狩りがしたいだけのインベント。

 猫の手も借りたい事態なので仕方がないのだが、多少不安はある。

 オセラシアの危機を救う気なんてこれっぽっちも無いのだから。



「い、インベント!」


「ん? なあに? ロゼ」


「私も――オセラシアに連れて行って!」


 ロゼの願い。

 インベントは「いいよ~」と即答した。


「あ、ありがとう! インベント!」


 ロゼはノルドを助けれると思い、ぱあっと顔が明るくなった。

 そしてクラマの顔を見た。


(あ、あれ……ですわ?)


 クラマは困った顔をしている。

 理由がわからないロゼ。


(わ、私の助太刀は不要いらないってこと!?)


 ロゼがそう勘違いしてしまっても無理はない。


 もちろんクラマとしてはありがたい展開である。

 ロゼの実力は知らないが、『宵蛇よいばみ』に入隊するぐらいだ。戦力にならないはずがない。


 クラマの表情の理由。

 その答えを知っているのは、クラマ本人と――


「ハハハ、顔が暗いなあジジイ」


「うるさいわい」


「え? ロメロ副隊長?」


 ロメロが不敵に笑う。

 そして言い放った。



「残念だけどな、ロゼ。

 お前はオセラシアには行けないんだよ」


 ――と。

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