占いタイム
絶対当たる予言。
その恐ろしさはクリエ自身が痛いほど理解している。
本来、絶対当たる予言なんてものは存在してはならないとクリエは思う。
ロメロが死の予言に縋っているように――
そして実の弟であるデリータでさえも、クリエの言葉に縛られている。
大切な人だからこそ伝えた予言が、人生を捻じ曲げていく。
そんな経験からか、クリエは軽はずみに予言を伝えたりしない。
そもそも人間社会と関わる気もない。
クリエは対象を一人に絞ることで未来予知の精度を高めることができる。
ロメロが自身を殺してくれる『運命の人』がインベントがどうか調べてもらうために、クリエはインベントを予知の対象に絞っていた。
結果、クリエはインベントが今後どうなっていくか知った。
知った上で伝えても問題無いと判断したのだ。
「からかっているわけではなく、インベントの未来はどうなるかわからん」
「……そ、それって予言じゃなくないですか?」
「まあまて。『わからん』と言ったがのう、正確に言えば『分岐が多すぎる』。
ゆえにどう転んでいくのかわからん」
「分岐?」
「人生振り返れば、『あの時こうしておけば』、もしくは『あの時こうしていなかったら』と思う瞬間がある。
普通の人間はそんな人生の分岐点、いわゆるターニングポイントは数回程度。
波乱万丈な人生であれば、ターニングポイントが多いものじゃ」
「つまり……俺はターニングポイントが多いってことですか?」
「そういうことじゃ。
だから、予言はできん。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば、仲間は大事にしろ」
「仲間?」
「うむ。手に届く範囲の仲間で構わん。
とにかく大事にしろ。困っていれば助けてやれ。気を配ってやれ。
――――――」
クリエはあと一言、喉の奥まで出かかった言葉を引っ込めた。
インベントはなんとも納得できないアドバイスだが「はい」と答えた。
「……さあて、皆のもとに戻るとするか」
「そうですね~。朝ごはんにしましょう~」
「ふふ、そうだな」
その場を後にするふたり。
クリエは物悲しさを感じていた。
クリエは予言することはできても、予言を覆すことはできない。
インベントに関しても同じことだ。
クリエはあえてインベントに言わなかった言葉。
それは――『後悔しないように』である。
(インベントの人生はどうなるかは本当にわからん。
だがかなり高確率で発生するであろう出来事。
それは、隣にいる誰かをインベントは失う――恐らく殺されるということだ。
そしてその可能性が一番高いのは、あのアイナとかいう少女)
インベントは人との繋がりを重要視するタイプではない。
来るもの興味薄く、去る者追わず。
そんなインベントと繋がりが深い人物は限られている。
クリエはあえてその人物がアイナかどうか確認はしていない。
クリエ自身も知るのが怖いのだ。
だから言葉にせず、ただ祈った。
(どうにか……悲しい結果にだけはならないでくれ)
さて、インベントだが――
「ん??」
インベントの頭の後方から声が聞こえてくる。
(――スキップ)
振り返っても誰もいない。だが女の子の声が聞こえる。
(スキップ、スキップ、スキップ、スキップ)
声に苛立ちが混じっていく。
(スキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップスキップ……)
淡々と延々に。
インベントはよくわからないが、スキップをしながら帰るのだ。
らんらんる~。
****
インベントとクリエはみんなと合流し、朝食をとった。
そして別れの時。
クリエとの別れを一番悲しんだのは――
「まさか、デリータさんのお姉さまだとは思いませんでしたわ!」
「あ、ああ」
元気になったロゼがクリエとの別れを悲しんでいる。
悲しんでいるのではなく、デリータの姉だからアピールしているだけなのだが。
そんなことは百も承知のクリエは冷ややかに対応する。
「さて――そろそろお暇しようか」
ロゼのアピールタイムという茶番も終わり、ロメロがまるで親戚の家から帰るかのようにさらりと発言した。
もう二度と会うことができないロメロとクリエだが、ロメロはあえて何事も無かったかのように、自然に。
「そうじゃのう」
クリエも平穏を装った。
すると――カリューがロメロに近寄ってくる。
「おお、カリュー。お別れを言いに来てくれたのか? ハッハッハ」
ロメロはカリューの顎の下を撫で、カリューは気持ちよさそうにしている。
今生の別れを察して、出てきたのかもしれなかった。
そんな様子を見ていたアイナが、ハッと我に返る。
「おい! インベント! 暴れるなよ!」
カリューの接近。
インベントが暴走してもおかしくない状況。
だが――
「暴れるわけ無いじゃん、馬鹿だなあ~」
「へ?」
インベントもカリューに近寄り、撫でる。
インベントが『モンスターに敵意を向けない』という稀有な状況に理解が追い付かず、アイナは声にならない声を漏らす。
ロメロは驚かない。
クリエがインベントと何を話したのか知らないが、クリエならありえない事でもやってのけると知っているからだ。
「あ、そうだそうだ! クリエさん」
「どうした? ロメロ」
「アイナとロゼにも――よく当たる占いをやってやったらどうだ?」
「ふむ」
ロメロはあえて予言とは言わず、占いと言うことでオブラートに包む。
「お、占い?」
アイナは占いと聞いて興味を示す。
女の子全てが占い好きとは言わないが、アイナも占いは好きなのだ。
クリエはアイナを見つめる。
だがあえて集中して見ない。知り過ぎたくはないのだ。
そして――紡ぎだした言葉は――
「…………健康第一」
「へ?」
ポリポリと頭をかくクリエ。そして「安全確認」と言う。
そして沈黙――
「え!? 終わり?」
クリエは「うむ」と頷いた。
占いというには余りに淡泊だったためにアイナは少しがっかりした。
だがクリエからすればどうにか無事でいて欲しいという願いだった。
さて――もう一人の女の子。
「わ、私は大丈夫ですわ! う、占いなんて信じていませんもの!」
ロゼはクリエの占いを拒否した。
「なんだよ? せっかくだからやってもらえよ」と言うアイナに対し、
「う、占いなんて迷信ですわ! 未来は自分の手で切り開くものです!」
アイナは「んあ?」と嘲るように笑った。
「なんだなんだ? 占いで悪いこと言われるのが怖いのか~? ロゼ?」
「ま、まあ! 怖くなんて無いですわ! 全然へっちゃらです!」
「ほんとか~?」
「でもロゼって信じやすそうだもんね」
「う、うるさいですわよ! インベント!」
占いを回避するわけにはいかない空気。
仕方がなくロゼは「ぜ、全然信じてませんけど、お、お願いしますわ!」と。
クリエは鼻で笑いながら「まあ、占いなんて信じないほうが良いのう」と言いつつロゼを見る。
クリエにはロゼから発せられる風がどうなっていくのかを見ている。
そして「ほお~」と意味深な声を漏らす。
ロゼは「ど、どど、どうなさいました?」とオドオドしている。
「いや……困ったのう」
「こ、困る? なにか悪いことでも起きるんですか!?」
「いや、違う。悪いとか悪くないとかではない」
「だ、だったらなんでしょうか!?」
アイナはインベントに「めっちゃ真剣だな」と笑いながら話す。
クリエはグイグイ来るロゼに少し戸惑いつつも――
「近い未来――」
「ち、近い未来?」
「人生を左右する選択をすることになるだろう」
「え!?」
「――終わり」
「お、終わり!? も、もっとないんですか!? 具体的ななにか!?」
「いや……まあ占いだしのう」
「だ、だって随分と明確な占いじゃないですか!?」
「いや……まあ……その……なんというか心構えだけはしっかりしておけ」
「な、なんのですか!?」
「う~ん……ほら……何があってもいいようにな」
タジタジになるクリエ。
占いが気になって仕方ないロゼ。
アイナは口をへの字に曲げた。
「なんか……アタシとロゼの占い、差がありすぎじゃね?」
「アイナはこの先、特にな~んにも無いってことじゃないの?」
「それはそれでなんかつまんねえな。まあいいけど」
その後、どうにか解放されたクリエ。
和気あいあいとした雰囲気の中、ロメロはずっと笑っていた。
そして自然な流れで一行は去っていく。
クリエから。カリューから。そしてオルカリユ村から。
ロメロは振り向かなかった。
クリエの死の予言は信じている。
クリエとの今生の別れであることも信じている。
だが――
(殺せるものなら殺してみろ。
生半可なやつには殺されてやらん。
予言さえも――覆してやろう。ククク。
そしてまた、クリエさんに会いに行くとするかな)
クリエは表情を変えず、ただただロメロの後ろ姿を見ていた。
(さよならだ。ロメロ)
クリエの頬から涙痕が消えることは無かった。
八章終わりです。
少々書きにくい章だったので、執筆スピードが落ちてしまいましたが九章からは更新頻度上がると思います!
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