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クリエ・ヘイゼン③

「私は村が襲われた後、何日もかけて村人の埋葬をしていた。

 村人は恐らく皆死んだ。生き残ったのは私とデリータだけ。

 私は独りで埋葬をしていた。来る日も来る日も。

 村を復興させる気にはならなかったが、少なくとも綺麗な状態で終わらせてあげたかった。

 そしてある日、遠くから私を見ていたのがこの子だった」


 語るクリエを見ているうちにインベントは不思議な感覚に陥る。


 カリューがいつの間にかモンスターに思えなくなっているのだ。

 狩りたいと思う衝動をどうにか抑え込んでいたのに、いつの間にかその衝動さえ失われていた。


「もちろん出会った頃は普通の猪だった。

 大きさはもちろん、こんなに白くなかったしのう。

 まあ、私はとにかく村人たちの埋葬を続けていた。そして数日後――カリュー様の埋葬にとりかかった。

 ちなみにカリュー様はお亡くなりになられてからかなり小さくなった。

 それにどういうわけか腐りもしなかった。まあそれでも埋葬できる穴を掘るのはかなりの時間が必要。

 なにせ私の細腕ではのう。

 そんな時、助けてくれたのが現在のカリューよ」


 インベントは「ほわ~頭がいいんだ」と呟いた。


 クリエは、クリエの話を心から楽しんでいる風を感じていた。

 あえて『モンスター』を話題に出さなくても、インベントは飽きずにクリエの話を楽しんでいるのだ。


 そしてインベントから漏れていた黒い霧が完全に引っ込んでいることを不思議に思いつつも話を続ける。


「私は一人で墓を掘り続けた。

 しかしのう、ある日、ルザネアからオルカリユまで戻るとカリューが穴を掘っていてくれた。

 あの日から私はカリューとともに過ごすようになった。

 ともに墓を掘り、ともに同胞に祈りを捧げた。

 そして私もいつの間にか猪の群れとともに行動するようになる。

 私は【フェオ】を使いカリューにアドバイスをし、カリューは群れに私の言葉を届けた。

 いつの間にかカリューは群れのリーダーになっていた。

 群れは拡大し、オルカリユ村の周辺はカリューたちの縄張りとなった。

 だが……私は猪たちと別れるつもりだった」


「どうして?」


「猪の寿命は10年程度だからよ。

 カリューが亡くなったとき、私も猪たちから離れようと思っておった。

 人と猪だからのう。いつかは離れればならん。

 じゃが……なぜかカリューは老いなくなった。

 おかしなことに年々元気になり、そして体が大きくなっていく。

 私は確信したよ。先代の神猪カリュー様は亡くなったが、その遺志を継ぎこの子が神猪になることを」


 インベントは「近寄ってもいい?」とカリューに呼びかけた。

 カリューは座り込みインベントを待つ。


 インベントはにこやかにカリューに近づき、眺めた。


「ほお~。綺麗な毛並みだ。

 神猪になる条件ってあるんですかねえ?」


「わからん。わからんが……一つ言えるのは仲間から絶大な信頼を得ることだと思う。

 群れの長がその種族を超えた力を得ることがある。

 カリュー以外にもそういうモノがいることを知っておる」


「え? カリュー以外にも巨大化したモンスターみたいだけどモンスターじゃないのがいるんですか!?」


「ふふ、巨大化はしとらんが凄まじい力を有している。

 おそらくインベントも知っている……()()よ」


「お、俺が知っている? え? 人物??」


 インベントは『人物』と言われて困惑する。

 『凄まじい力を有した人物』。


 そう言われてインベントは、『ロメロ』、『クラマ』、『クリエ』の名を挙げた。

 だがクリエは首を横に振る。



「ふふふ。インベントが知る中で一番偉い人物よ」


 インベントは「え、偉い?」と呟き、『偉い人物』を考える。

 といっても『偉さ』などに全くもって興味がないインベント。


「え、偉いっていうと……、ば、バンカース総隊長?」


 クリエは首を傾げた。


「アイレド森林警備隊の総隊長ですけど……う~ん違うか。

 あ、アイレドの町長のほうが偉いか!?」


「も~~っと上」


「町長より偉い? え? そんなの……いるのか?

 町長の上……大町長? そんなのいないし。

 町長より偉いのは…………王様?」


 クリエは笑う。クリエの笑みは正解を意味していた。


「え? 王様? イング国の?」


「その通り」


「王様っていうと……イング・ハイランド・メティエ女王?」


「ふふん、さすがに知っておるか」


「まあ……有名人ですしね」


 イング王国は王国というぐらいだから王制である。

 代々男性が王位についていたが、現在の王は女王メティエなのだ。


「メティエ女王が即位した理由は、明かされていないがのう。

 まず間違いなく、【豊穣神イング】のルーンを継いだからじゃろう」


「イングのルーン??」


「国名の由来になった豊穣の神イング。

 王家は代々【豊穣神イング】というルーンを授かっておる。

 先々代のエルダフ王が持っておったが、崩御されたタイミングでメティエ様に引き継がれたのじゃろう。

 崩御されたタイミングとお生まれになったタイミングがほぼ同時期じゃしのう。

 ちなみに【豊穣神イング】のルーンは超広範囲に豊穣をもたらす」


「ほ、豊穣?」


「これは昔話だがのう。

 もともとイング王国は砂漠地帯だったそうな」


「あ、その話は聞いたことがあります」


「うむ。有名な童話だからのう。

 イング神が現れ、この土地に緑と恵をもたらした――というのが童話。

 本来はおそらく、砂漠の中に大きな町があった。

 その町の長が、【豊穣神イング】を授かったんであろう。

 時代とともに砂漠を緑が侵食し、何十年、何百年をかけてこの地は森に覆われた。

 嘘のような話だが、西方のダエグ側、南方のオセラシア側、どちらも突然森林地帯が終わっておる。

 おそらく【豊穣神イング】の影響範囲がそこまでなのじゃろう。まあ、憶測だがのう」


「ほお~」


「まあ実際に見てみればわかるが、メティエ王は人間離れした存在感をしておる。

 【豊穣神イング】は特別なルーンよ。恐らく世の中に一人しか存在できないルーン。

 そして恐らく神猪しんちょも一匹しか存在できんと思われる」


 クリエはカリューを撫でた。


「この子は先代のカリュー様から、猪の王としての役割を引き継いだのじゃろう。

 まあ……これも憶測にすぎん。【フェオ】のお陰でそれなりに予測はできるがのう。

 世の中わからんことだらけじゃ」


「でも説得力ありましたよ。

 あのロメロさんがクリエさんを頼りにしてるのがわかる気がします」


 クリエは首が落ちるぐらいうなだれた。


「ロメロの阿呆は、私がなんでもわかると思っているフシがある。

 だが私にわかるのは、目の前の相手の感情だけだ。

 そして少しだけ未来がわかるだけ」


 インベントは「それだけわかれば十分ですよ」と言う。


「そうかものう。

 しかしまあインベントが狂人ではないとわかってよかったよ」


「狂人? 俺が?」


「自覚はないのか? ほんに困ったわっぱよのう。

 二重人格……とは違うがどうにも感情を制御できんことがあるようじゃのう」


「ああ~……まあ、そんなときもありますねえ。

 でも……アイナが止めてくれれば大丈夫ですよ」


「ハッ。オナゴに任せるとは甲斐性が無いのう。

 まあええ。昔話はしまいにしようかのう。

 そしてなにかの縁だ。今から予言をしてやろう」


「え、予言?」


「そうじゃ。私の予言は100パーセント当たる」


「そ、そういわれるとドキドキしますね」


「と言ってもな、わかることしかわからんがのう」


 インベントは首を傾げた。


「例えば今日の夜に何を食べるかなんてわからん。

 わかるのは、風がどう吹いていくかだけ。

 波風たたずに生きて、最愛の人と出会って平穏な人生を生きていく。

 はたまた誰かに騙され、転落していく人生。

 ある程度どんな人生になっていくのかがわかるだけ。

 さあて心して聞くがよい」


 インベントは緊張している。

 それを察したのか、クリエは微笑んで――


「心配するでない。

 少なくともロメロのように私の予言に縛られるようなことにはならん。

 なぜなら…………私の予言ではインベントの人生は、どうなるか、ま~ったくわからんからのう。ハッハッハ」


「……………………へ?」



 クリエはとても楽しそうに笑う。

 その笑顔には少しだけ憂いが混じっている。

昔話はおしまいdeath!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、モン〇〇にもオ〇モア〇ルーとかいう小型お助けモンスターがいるからね、モンスター判定外になってもおかしくはない
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