冥土の旅の一里塚
色々あって更新頻度が落ちていましたが、恐らく復活します!
様々なルーンがある中で、効果がわかりやすいものとわかりにくいものがある。
【太陽】や【器】は非常にわかりやすい。
目に見える特殊能力を得られるからだ。
それに比べて、明確に効果がわからないルーンもある。
【読】や【喜】、そして【継続】である。
ロメロは『門』を開いた際に【継続】のルーンを得たことをカミングアウトした。
インベントは、新たにルーンを得る可能性があることに驚きつつも――
「【継続】……ってあの【継続】ですよね」
「そうだ」
「【継続】の効果って……なんでしたっけ。
あんまり……パっとしない効果だった気が」
「一般的にはルーンの持続時間を延ばす効果と言われているな。
ま、正確には違う。【継続】は幽力を増やすルーンだ」
「ほえ~」
「単体だとあんまり効果が無いルーンだって言われてるけどな、そんなことないんだぞ。
幽力が増えるってことは、幽壁の発動回数が増えるってことだ。
幽壁ってのは【太陽】同様燃費がすこぶる悪い。
一般人なら一回か多くて二回。だが【継続】のルーンを持ってるやつは三回から四回は幽壁が発動する。
致命傷を防ぐ回数が増えると考えればなかなか優秀なルーンだと思うがな」
ロメロはひどくつまらなそうに、「ま、致命傷を与えてくれる敵がいればだけどな~」と締めくくった。
クリエは「ちなみに――」と付け加える。
「あえて『門』と言うが、『門』を開くとそもそも幽力が増える。
恐らく一般人の倍程度。ロメロの場合はもっとじゃがのう」
「へええ~」
「そして『門』が開くと、幽結界も使えるようになる。
『門』と幽結界はワンセットのようなものじゃ。
まあ、理由はよくわからんがのう。第六感のようなものかもしれん」
インベントは大きく頷いた。頷いた後――
「あれ? だったら俺は?」
インベントは不完全ながら幽結界が使えるようになっている。
だがインベントは『門』が開いてはいない――と思っている。
「どうなんじゃろうな……。よくわからん」
「ハハハ、俺はまだインベントは『門』を開いてないと思ってるぞ。
面白いから【太陽】を覚えろよ。面白くなる」
「面白いのはロメロだけじゃろうが」
「いやあ、インベントは素早いからな。
一撃必殺の【太陽】があるとかなり強いと思うぞ!
いいな! 【太陽】で斬り合おう。ハハハ!」
インベントは妄想する。
(【太陽】かあ~。
悪くないかも! 必殺技っぽくて面白そう。むふふ)
「まあ、『門』に関してはどうなるかわからんってことでいいだろう」
インベントは「釈然としないですね~」と口をとがらせる。
「仕方ないだろう。そもそも人数が少ないんだ。
もうすぐ『門』が開くかもしれないし、一生開かないかもしれん。
結局どうなるのかはわからんさ」
「な、なにかキッカケみたいなのは無かったんですか?」
ロメロとクリエは目を合わせた。
「ふ~む……キッカケねえ。
俺の場合は、ルーンが話しかけてくるような感じだったな~」
クリエも「確かにそんな感覚はあるのう」と同意する。
「そうそう、【太陽】が『斬れ、斬れ』って訴えかけてくる感じだ。
別に従う気もないがな。ハハハ。
言われなくても斬るっての」
「それは初耳よのう。
しかし私も囁かれている感覚はある。
ルーンが勝手に話しかけてくるような感覚……といったところか。
ふふ、もしかすればルーンというのは、死者の怨念なのかもしれんのう」
「ハハハ! だったら俺の怨念はよほどの人殺しか!
クリエさんはそうだな……噂好きのババアってとこかな?」
クリエはロメロの尻を蹴り飛ばす。
「もっと言い方があるじゃろうて。誰がババアだ」
「いやいや、怨念の話だからな? ハハハ」
インベントはクリエとロメロを眺めながら――
(そういえば……俺も声を聞いたことがある気がするなあ。
いつだっけ?)
****
クリエは髪にかかったスープを洗いに川までやってきた。
じっくりと洗う様子にロメロはやきもきしている。
クリエはもう知っている。
ロメロが知りたがっている答えを。
ロメロを殺す誰かが、インベントなのかどうなのかを。
ダラダラと引き延ばしたが、もう答えは知っている。
インベントに聞かせる話でもないので、クリエはインベントをアイナたちの元に帰らせた。
「腹をすかせた女子たちが、お前のことをすご~く待っておるぞ」と伝えて。
「さあさあ、答えてもらうぞ!」
「ハア……せっかちじゃの」
「俺を殺してくれるのは――インベントなのか!? 違うのか!?」
観念したクリエは小さい声で申し訳なさそうに「――違う」と呟いた。
ロメロはこの世の終わりかのような顔で「違うかあ……やっぱり」と肩を落とす。
「わかっていたんじゃろう。
あの子はロメロを殺したりせん」
「だってさ~! なにかのはずみで殺しちゃうことだってあるだろ?
打ち所が悪かったりとかさあ!
もお~! 結局誰なんだよお~」
ロメロは駄々っ子のように不満を言う。
「少なくとも――あの子ではない。
というよりも……今後ロメロとインベントは関わることさえない」
ロメロは目を見開いた。
「そういうアドバイスは初めてだな?」
「まあのう。ロメロもインベントも深く風読みした結果よ。
二人の風は現時点から未来永劫交わらない。
インベントはなにか大きな流れに巻き込まれていく。
その流れに……ロメロ……お前は巻き込まれん」
「……つまり、インベントとはもう会うことも無くなるってことか?」
「ああ」
クリエは「恐らくな」と付け加えた。
だがクリエは100パーセントそうなる確信がある。
進化した【読】の風読みはこれまで一度も外れたことは無い。
ゆえに『恐らく』などという言葉は、自責の念から出た言葉である。
クリエは、自身の予言にロメロが縛られてしまっていると感じている。
クリエは少なからず後悔しているのだ。
「そっか……ま~た『運命の人』を探さないといけないのかあ~」
落胆するロメロ。
だが――
「え? クリエさん!?」
クリエの瞳からは涙が零れ落ちる。
小さな粒から始まり、次第に涙は大粒になっていく。
「ど、どうした!? く、クリエさん!?」
慌てるロメロ。
クリエはそんなロメロに抱き着いた。
「――ばかもん」
「え? いや、ははは」
「だから会いとうなかった」
ロメロはわからない。
なにが理由かわからない。
どんな理由があって、『だから』会いたくなかったのかわからない。
なにに涙しているのかわからないのだ。
クリエは大きく息を吸って、吐いた。
そして――
「ロメロと会えなくなるのはインベントだけではない。
――私もだ」
「……え?」
「私と……会うのもこれが最後よ。
私とお前の風も交わることはない。
あと一度だと知っておった。だから会いたくなかった」
ロメロはクリエの言葉を反芻する。
そして――
笑った。
(駒が一歩進んだということか。ククク)
会えなくなる悲しみよりも、死する運命を求めて――
ストーカーロメロさんは今日をもってオシマイです。




