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幽結界

 インベントの背中の風穴にちょっかいを出そうとしたクリエは、赤いスープに反撃されてしまった。


 インベントの収納空間から出たスープがクリエを襲ったのは間違いない。

 だがインベントが意図して出したわけでは無かった。

 インベントとしては申し訳ない気持ちもあるが、なにゆえこんなことになってしまいましたのかわからず困惑している。


 クリエもインベントを責める気はない。

 汚れた髪で、妖しく笑うクリエ。


「さすが妖怪少年よ。

 ふふ、背中には鬼でも飼っておるようじゃのう」


「ハハハ、クリエさん大丈夫か?」


 ロメロは人生で初めて見る、クリエの間抜けな様子に興味津々。

 だがクリエは気にしない。


「ロメロや。この子やはりおかしい。

 ――おそらく幽結界が使えている」


「え?」


「ええ!?」


 インベントとロメロは驚いた。


「スープが飛んできたのはよくわからんが、確実にインベントは私の接近に気づいていた」


「ん? そんな感じはしなかったが?

 クリエさんの接近にまったく気づいてなかったじゃないか」


 クリエは頷いた。


「確かにのう。しかしな――インベントのは未完成な幽結界よ。

 インベントや後ろを向け」


「え? あ、はい」


 クリエは「ロメロのように攻撃したりせん」と言いながらインベントの斜め後ろに立つ。

 念のため風穴は警戒している。


 クリエはインベントの背中近くに手を寄せた。


「インベント、私の手がどこにあるかわかるか?」


「あ~、腰ですね」


「正解じゃ」


 ロメロは「う~ん幽結界なのか? それ?」と首をかしげる。

 クリエは「ふむ」と言い指を二本立てた。


「インベント、指は何本立っておる?」


 インベントは「ああ、二本かな」と即答する。


「これはどうだ?」


「――これも二本。だけど親指と小指かな?」


 ロメロは「ほお」と驚く。


 次にクリエはインベントから少し離れていく。


「次はどうじゃ?」


 インベントは「むむ?」と唸るが――

 「わかんないですね」と答えた。


「やはりか」


「へええ~! これはまた新しいなあ!」


 ロメロはインベントに近づいてインベントの背中で遊び始める。

 「おい、これは指何本だ?」と、指の数当てゲームを始めた。


「おいおいクリエさん!

 インベントの幽結界、50センチぐらいしかないぞ!

 ハハハ、なんだこれ!」


「……わからん。

 幽結界はおおよそ四メートルと決まっておると思ったったんじゃがなあ。

 まあ、私を含め幽結界を使えるのは四人だけしか知らん。インベントが異常と判断するわけにもいかんしのう」


「それはそうだな」


「しかしのう……ロメロ、お前気づかんかったのか?」


「い、いや、さすがに50センチじゃわからんよ。

 そもそもインベント本人が気づいてなかったじゃないか」


 当のインベントは「い、いつのまに幽結界が!?」と驚きつつ、手を背中に伸ばしたりして確認作業をしている。


 クリエはインベントを眺めつつ「やっぱり色々とおかしいのう」という。


「まあインベントがおかしいのはいつものことだけどな」


「にしても……なにゆえこんな中途半端な」


「う~む。インベントは『門』が開きかけってところなのか?

 しかしまあ、どうやれば『門』が開くかなんてわからんしなあ」


 インベントは「あのお」と手を挙げた。


「どうしたインベント」


「俺……よくわかんないんですけど、『門』のこととか、幽結界ってどうやったら身につくのとか……」


 ロメロは笑い「俺もよくわからん」と堂々と言い張る。


「え?」


「俺の場合、いつの間にか『門』も開いていたし、いつの間にか幽結界も使いこなしていたしな~」


 クリエは溜息を吐いた。


「ロメロは参考にならんよ。

 この阿呆は戦うこと以外な~んも考えておらん。

 まあよい。これも縁。

 ルーンと幽結界に関して私が知る限りのことは教えてやろう」


 インベントは頷いた。


「と言ってもの、経験談しか話せんがのう

 まずルーンに関してだが、私の場合ある事件に巻き込まれた際に進化した。

 弟のデリータも同じようにルーンが進化した」


 インベントは「デリータ? え~っと……あれ?」と呟く。

 ロメロが「この前戦っただろう。クラマのジジイも一緒にいた時に」と言う。


「ああ~、あの人か。ちょっと変な感じがする人」


 ロメロは――


(インベントのほうがよっぽど変だけどな~)


 と思い、鼻で笑う。


「私もデリータもルーンが進化した後、幽結界が使えるようになっていた。

 恐らくロメロも同じはずだ」


「まあ……そうだった気がするなあ」


「へえ~。あれ?」


 インベントはロメロを見る。


「ロメロさんもルーンが進化したんですか?

 あれ? ロメロさんのルーンって【太陽ソエイル】ですよね?

 進化した【太陽ソエイル】?」


「いやいや、俺は違う。

 う~~ん、まあ秘密なんだけどインベントには教えておこうかな。

 内緒だぞ。誰にも教えないようにデリータに釘を刺されているからな~」


 クリエは「デリータは相変わらず心配性よのう」と久しく会っていない弟を思い出し微笑んだ。

 ロメロは「あいつは正義の男だからなあ~」と言いながら剣を抜く。


「さあて、インベント」


「はい」


「クリエさんやデリータはルーンが進化した。

 だがな、俺はルーンなんて進化して欲しくなかった」


 ロメロは剣に光を宿す。


「【太陽ソエイル】。絶対無敵の攻撃手段。

 これ以上進化なんてされたら――つまらんだろ?」


 インベントは「つまらない?」と首を傾げる。

 クリエは「やれやれ」と呆れている。


「俺は戦いに明け暮れていた。

 対人戦、モンスター、戦争も経験した。

 物心ついてから俺は負けたことなんて無かった。

 唯一――クラマのジジイぐらいか。出会った頃は強かったなあ

 ククク」


 剣に帯びた光は、滑らかになっていく。


「前に少し話した気がするが、【太陽ソエイル】の弱点を教えてやろう。

 【太陽ソエイル】は圧倒的な攻撃力を誇るが、燃費が非常に悪い。

 並みの奴なら持続時間は30秒といったところか」


「え? そんなに短いの?」


「【太陽ソエイル】のルーンはレアだからな。

 俺以外は会ったことが無いだろうが、そんなもんだ。

 な~んにも考えずに【太陽ソエイル】を使えば幽力を膨大に消費する。

 だから俺は考えた。どうすればもっと【太陽ソエイル】で遊べるかをな」


 ロメロは剣を点滅させるように光らせる。


「【太陽ソエイル】が発動するギリギリまで出力を絞ったり――

 使う瞬間だけ発動したりしてな。

 ま、そんなに難しいことじゃない」


 ロメロはそう言うが、【太陽ソエイル】の出力制御は非常に難しい。

 その証拠に、イング王国で【太陽ソエイル】のルーンを授かった者の大半はロメロから【太陽ソエイル】のレクチャーを受けているが、満足に出力制御ができるようになったのは誰もいない。


「ま、色々【太陽ソエイル】で試行錯誤しているうちにな、なんとな~く『門』が開く予感はしていた。

 なにせジジイからは『門』について聞いていたし。

 ちなみにジジイは『門』を開くと、『望む力が手に入る』って言ってたな。

 ま……確かにその通りになったけどな」


「ロメロさんの望み?」


「そ。あの頃の俺の望み。それは……『もっと遊びたい』だ」


 インベントは溜息を吐く。


(今と大して変わらないじゃん……)




「その結果――『門』は俺に新たなルーンを与えた。

 それは【継続ヤラ】のルーンだ」

背中に鬼。

インベントは範馬の血が……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 範馬………ハンマ………半魔?? ハッ!こんなところに主人公の正体へのヒントが!(白目)
[一言] つまり普段郵便屋をしている親父は範馬勇次郎だった…?
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