ギャップ萌え
ロメロが恋焦がれる人物。
それはロメロを殺してくれるであろう人物だ。
そんな人物がいつか現れると予言したのがクリエである。
だが待てど暮らせど、そんな人物は現れない。
可能性のある人物さえ現れない。
そんな中で見つけた可能性。
それが――
「あの……妖怪少年だと?」
「――可能性がある」
ロメロはそうであって欲しいと――ロメロを虐殺してくれるのがインベントであってくれと願っている。
絶対的な実力差でも立ち向かってくる稀有な存在のインベントが『運命の人』だと願っている。
だからこそしつこいぐらいにちょっかいをかけ、『宵蛇』をはぐらかしてまでインベントをクリエのもとに連れてきたのだ。
……その可能性が低いことを知りながら。
ロメロは懇願するかのような緩んだ瞳で問いかける。
「インベントが該当者かどうか、判断はできるんだろ?」
「そう――じゃのう」
「だったら頼むよ。この通ーり!」
両手を合わせているが、軽薄な懇願にしか見えない。
だがクリエは昔を懐かしむように「しょうのない坊よのう」と笑う。
「ハハハ! ありがとう! それじゃあ早速!!」
「待て待て。今日はとりあえず死にかけのロゼとやらを介抱せんとなあ。
お前さんのワガママに付き合わされて、こんな目にあったんじゃろうしのう」
「え~! そっか~仕方ないか~。じゃあ明日? 明日ならいいよね?」
ロメロは童心に帰る。
『陽剣』でも『宵蛇』のロメロではない。
ただ純粋に生きるロメロがここにいる。
「わかったわかった。明日な」
「ハハハ~やったぜ」
****
夕刻――
森を突き進むと開けた場所に到着した。
そこには苔生しているが人が手を加えたであろう木材がある。
家らしき残骸もある。人が住んでいた形跡がある場所だった。
「クリエさん。ここはもしかして」
「ああ、私の村」
「ほお……ここが例の」
「一応、一軒だけ使えるようにしておる。
ロゼとやらはそこで寝かせるとよい」
村らしき場所に一軒だけ、家らしき物体がある。
かろうじて雨風は防げるだけの建物。
その他の面々は野宿で一夜を過ごしたのだ。
****
インベントの場合。
インベントは落ち着いていた。
優秀な飼い主が四六時中ついてまわり、インベントが暴走しないように調教したからだ。
その前に人型モンスターのクリエと遊ぶことができたので、ガス抜きもできている。
インベントは――
(廃村か~。モンブレにもこんな場所あったなあ~。ふふふ~)
そんなことを考えながら、収納空間に収められている料理やお茶をみんなに振舞うのだった。
**
クリエの場合。
クリエはインベントを警戒していた。
黒い霧も靄もスッキリと晴れているインベントだが、先刻本気で殺りにきていたインベント。
(ギャップが……すさまじいのう)
モンスターがいない状態のインベントは、ごく普通の男の子である。
筋肉もついてきて、男らしさもアップしている。
優しい雰囲気が好印象。
到底同一人物に見えない少年を眺めていると――
「あ、料理どうですか~」
インベントはさきほどの戦いが無かったかのように、フレンドリーに料理を勧めてきた。
「い、いただこうかのう」
「は~い、どうぞ~」
クリエはインベントから料理を受け取った。
料理は熱々のまま、出来立ての状態をキープしている。
食欲をそそる匂いに、笑顔になりそうになる。
だがロメロがちらちら見ているので無表情を貫き通す。
鼻孔をヒクヒクさせながらパクリと一口――
「~~~~~~~~~!」
(う、うみゃああい!
ふわっふわでトロットロ~! なのに酸味と甘さが絶妙~!
脳が蕩けそうじゃ~!)
クリエは人里から離れて数十年。
自炊して生きてきた。イング王国の森は動物も植物も豊富で、食うには困らない。
だが凝った料理は作れないし、クリエはそもそも料理が苦手。
パンチのきいた料理など夢のまた夢だ。
そんなクリエにとってルザネアの町の美味しい料理は、美味過ぎるのだ。
まるで地下強制労働施設で、仕事終わりに飲むキンキンに冷えた缶ビールのように。
ハグハグという音が聞こえてくるかのように食べるクリエ。
どうにか無表情をキープしているが、表情筋のいたるところが痙攣していた。
そして――すぐに無くなってしまった。
食べると無くなる。
当たり前の出来事だが、喪失感を覚えずにはいられないクリエ。
だが――
見計らったかのように新しい料理がクリエの前に。
「えっ?」
インベントは「おかわりどうぞ~」と邪魔にならない笑顔を添えて料理を提供した。
クリエはなんとか「すまん」とだけ言う。
インベントのホスピタリティは、クリエの警戒レベルを引き下げ、クリエの好感度を1ゲージアップさせたのだった。
**
アイナの場合。
食後――眠りにつく前の時間。
アイナは気が気では無かった。
(な、なんなんだここ)
地図にない場所。誰も知らない廃村。
もう何年も放置されているであろう自然に飲み込まれているかのような廃村。
(わけわかんねえ……どういうことなんだよ……)
アイナはなぜか震えだした。
自分たち以外に誰もいないはずなのだ。
だが、アイナは気配を感じる。
それもたくさんの。
(こ、この場所……なんかよくない場所な気がする!)
なにかが近くにいる気配を感じている。
それも――大量に。
「ひう!?」
茂みがガサガサと動く。
「ぜ、絶対なんかいる!! なんかいる!!」
震えるアイナに、クリエが声をかけた。
「どうした? 童?」
アイナは震えながら――
「こ、ここ! なんかいますよね!? (オバケ的ななにか)」
クリエは笑いながら――
「ああ、たくさんいるぞ (猪たちが村の周りにな)」
「ぎやああああ!」
村の周囲には白いボアであるカリューを中心に、猪たちが群れを成していた。
猪のテリトリー。それゆえ夜でもこの村は安全なのだ。
そんなことはつゆ知らず、アイナは震えながら朝を待つことになりましたとさ。
**
ロゼの場合。
急に覚醒するロゼ。
(真っ暗闇!? よ、夜!? しまった!)
ロゼの役割は夜警である。
それなのに夜になるまで眠ってしまったことに後悔する。
急いで上半身を起こす。だが――
(は? な、なにここ??)
『知らない天井』とはよく使う表現である。
だがロゼは困惑した。『知らない天井』にではなく『天井が存在』することに。
(る、ルザネアの森にいましたわよね?
夜警してましたわよね? え? え? え?
い、家? どこ? ルザネア?)
窓らしきものから外を見るロゼ。
だがどうみても町の中ではない。
皆目見当がつかない。
どこにいるのか? なにが起きたのか? そして誰もいない。
解決の糸口どころか糸くずさえ見つからない。
そこへ――
「目覚めたようだな」
クリエがこれ以上無いタイミングでロゼの様子を確認しにやってきた。
ロゼは見惚れた。闇夜の中、クリエは幻想的で美しかったのだ。
(まあ美しい方……って誰???)
「今日はゆっくり休むといい。まだまだ休息が必要だろう」
それだけ伝えてクリエは部屋から出て行った。
(って誰ー!? 誰なのよー!?)
追いかけるにも身体は休みたがっている。
なにもわからないロゼだが、そのまま眠りについた。
**
ロメロはずっと月を見ていた。
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