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黒い靄

 クリエを攻撃した丸太はいまだ転がったまま。

 クリエがインベントを押し倒したため、インベントは丸太を収納するタイミングを失ったのだ。


 胸をなでおろすクリエ。

 インベントから渦巻く黒い風は健在ではあるものの、インベントの両腕を抑え動きは封じている。


 勝負あった。

 だが、そう思っているのはクリエだけだった。 



空間投射レールガン、ナイフ装填!)


 クリエはハッとする。

 クリエの死角から黒い風が吹き荒ぶ。


(なにか! くる!)


 クリエはインベントの空間投射レールガンを予知し、回避しようとインベントの両手を離した。

 だが今度はインベントがクリエの左手を掴んだ。


「ヒヒヒ……捉まえたア! 捕まえたア! 掴まえたア!!」


 クリエの自由を奪い、クリエに向けてナイフを発射するインベント。

 だがクリエはナイフが飛んでくる位置を予知し、右手を構える。

 飛来するナイフを掴もうとするクリエ。


 だが――


(な、ナイフが消え??)


 クリエに到達する直前でナイフが消えた。少なくともクリエにはそう見えた。

 実際はゲートを開き、クリエに到達する前にナイフを収納したのだ。


 ナイフから発せられた黒い風が消える。

 消えたと思ったら、別方向から黒い風が発生する。


 ゲート。

 インベントの身体から近ければ近いほど展開速度も正確性も上がる。

 つまり……インベントと密着している状態は危険極まりないのだ。


「む!?」


 黒い風が黒い靄に変化していく。

 クリエを覆いつくすような靄に変わる。


 再度飛来するナイフ。反応し防御するクリエ。

 だがやはりクリエに到達する前に消えるナイフ。


(うふふ、この『人型モンスター』は勘がすごく良いモンスターなんだね!)


 まるで先読みされているかのような動きのクリエに対し、インベントはたった一本のナイフがワープしているかのように多角的な攻撃を繰り広げる。


 攻撃を防がれてナイフを失っては元も子もない。

 なにせインベントの残る武器はナイフ一本だけだからである。


 クリエからすれば当たらないナイフは無視すればいい。

 だがすべての攻撃がクリエを攻撃する気満々。ゆえにスルーはできない。


 まるで後出しじゃんけんを繰り返すかのように、インベントの攻撃は続く。



 この状況を止めるべき男。

 ロメロはインベントの動きに感心し、見学している。

 超至近距離のやりとりは、ロメロにとって新鮮なのだ。


 相変わらずのクソ野郎である。



 クリエは対応するが疲労の色を隠せない。

 そもそもクリエは戦うタイプではないからだ。

 まさか追いつめられる事態に陥るとは想定していなかった。



 インベントは相変わらずである。

 『ぶっころスイッチ』の赴くままに攻撃を続ける。


 クリエからすればいい迷惑である。



 そしてこの状況を打破したのは――


「止んまれええ! バカベント!!」


 叫ぶアイナ。

 もちろんインベントは止まらない。

 そして近寄ろうにもナイフが飛び回る危険地帯。


 アイナは中腰になり、ゆっくりとインベントに近寄った。

 そして――


『止まれ! アホ! バカチン! 正気に戻れ! は、ハゲ! 禿げてないけど……。

 う~ん……とにかく止まれ! 止まれ止まれ~! こっち向けー!』


 念話を使い、大量の言葉をインベントの脳に送り込むアイナ。


 『ぶっころスイッチ』はモンスターを殺すためだけに集中させている状態である。

 だったら集中を乱せばいいのだ。


 次第にインベントは正気を取り戻す。


「……あれ? どうしたのアイナ?」



 こうしてどうにか、正気を取り戻したインベント。

 亜空間を飛び回る狂気のナイフが芝生に落ちて、このとばっちりの戦いが終わった。


 もちろん、インベントとクリエ、ロメロとクリエの間に溝ができたのは言うまでもない。



****



 ひと悶着あったものの、インベントは落ち着いた。

 そしてクリエに連れられ、ついていく一行。


 インベントはアイナに連行されている状態だ。

 袖を掴まれ、急に飛び出せないよう制御されている。さしずめ躾けられているペットのように。

 なにせ視線の先には大型ボアタイプモンスターであるカリューがいる。


 いつ何時、インベントが暴走してもおかしくない状態なのだ。


『あの白いボアは敵じゃない。攻撃しちゃだめだぞ』


「わ、わかったよ」


『ホントか? ちょっと攻撃してもだめだぞ?』


「――う、うん。しないしない」


『なんか怪しい~間があったぞ。とにかく暴れるんじゃないぞ。

 あの白いボアは……なんでかわからねえけど人間を攻撃しない』


「う~ん……それって本当なの?

 だってモンスターだよ?」


 アイナは痛いところを突かれて押し黙る。

 だが黙っていても念話しているため駄々洩れ。


『う~ん……そうなんだよなあ……。

 でもあのクリエって人を信じるしかないんだよなあ……』


「でもあんな大きいモンスターがいきなり暴れだしたら危ないよね?」


『そりゃまあ……そうなんだけど……ってダメダメ!

 アタシを懐柔するんじゃねえ! インベントはとにかく暴れちゃダメなの!

 ナイフも没収! 丸太もだめだかんな!』


「そんなあ~」


 インベントのナイフはアイナが預かっている。

 丸太も破棄させられた。


 収納空間の中は食料と砂しか入っていないため、さすがのインベントも暴れられない状態である。


**


 先行して歩くふたり。ロメロとクリエ。

 いまだにクリエはインベントに対して警戒を怠っていない。


「おいロメロ」


「ん~?」


「なんなんだ、あの少年は」


「ハハハ」


 ロメロはクリエを見る。

 そして「なんなんだろうな?」と問いかけた。


 クリエはロメロの目を覗きこむ。


「ふざけているわけではないようだのう」


「もちろん。

 それに俺だって、軽い気持ちでクリエさんに会いに来たりしない。

 それもガキんちょたちを連れてなんてありえないだろ?」


「――嘘はついてないようね。

 まったく……」


「それよりも酷いじゃないか。

 いつまでたっても俺を殺してくれるやつが現れん」


 クリエは首を振った。


「ま~たその話か」


「俺にとっては最重要事項。

 こんなつまらない人生だが、どうにかクリエさんの予言を頼みに生きているんだからなあ」


「私は……言わなきゃよかったと心底後悔しておるよ」


「俺は、言ってくれなきゃ自死を選んだ自信がある。心底、感謝しているさ」


 クリエの後悔。

 ロメロの感謝。

 どちらも嘘偽りない感情だった。


 クリエに嘘は通じない。

 と同時に本音はストレートに伝わってしまう。


 クリエは照れ隠しで「もうよいわ」と言う。


「い~や、よくないな。あの予言は本当だったんだろう?

 しかしもう数十年経った。俺はもう限界だよ、クリエさん。

 知りたいのは運命の日が――いつなのか? だ」


「前にも言ったが、私の風読みは万能では無い。

 対象をお前にだけ絞れば、相当先の未来まで予知できる。

 お前がいつか出会う誰かに消される。それは間違いない。

 だがそれがいつなのかは本当にわからんよ」


 ロメロは「ま、そうだよなあ」と納得する。


「おかしなやつよ。

 そんなわかりきったことを確かめにきたのか?」


「ハハハ。まあ、本当に俺が『殺される』のか確かめたかったのは本当だ。

 あまりに遅くって半信半疑になってきてしまったよ」


「未来予知に間違いはない。風読みは外れたりせん」


 ロメロは「いいな。それを再確認できただけでも生きていく理由になる」と笑う。

 ロメロは続けて「まあ、今回来た本当の目的は違う」と言った。


「もったいぶるのう」


「なあに、簡単なことだ」


 そういってロメロはインベントを指さした。




「あのインベントという男が、俺の『運命の人』なのか知りたいんだよ。

 俺を――殺してくれる男なのか知りたいんだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] え、ロメロってホモで屑な人? 運命の人って言葉に真意ば別として反応せずにはいられないな!
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