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計画的逃避行

 深夜にインベントがいる病室に忍び込む男。

 相手が女性だったなら、完全に犯罪者である。


「お? 元気になったみたいだな。感心感心」


「どうしたんですか? こんな夜中に」


「ん~、ちょっと……()()をな」


 インベントはあからさまに嫌な顔をした。


「模擬戦はもう嫌ですよ~。死ぬかと思いましたよ」


「ハハハ、生きてるんだからいいじゃないか。

 それに怪我人のインベントを模擬戦に誘うほど馬鹿じゃないさ。

 代わりと言っちゃあなんだが、す~ばらしい提案を持ってきた。絶対に気に入ると思うぞ」


 インベントは「え~どうだか」と信じない。

 だがロメロは笑う。用意したインベント用の作戦は完璧だからだ。


「ふふふ……『モンスター』」


 インベントがピクリとした。


「珍し~いモンスター」


「め、珍しいモンスタ~?」


 顔を輝かせるインベント。


「白くて大きい、ボアタイプのモンスター」


「白くて……大きい!」


 想定通り過ぎてロメロは笑う。


「見たくないか?」


「見たあああーい!」


「よお~し! それじゃあ出発しようじゃないか」


「はあーい!」


 見事釣られたインベント。

 絶対安静よりもモンスターのほうが大事なのだ。


 ホイホイとロメロの魔の手に引っ掛かり、病院を後にした。


**


 夜道を歩くふたり。文字通り人っ子一人いない。

 イング王国では、夜は寝るものなのだ。


「で、どこにいるんですか?」


「ちと遠いんだ。馬車を使う」


「へえ~」


 月明りを頼りに町を歩きながら、小声で話すふたり。

 声以外には風の音が聞こえるのみ。


「ハッハッハ、まあ療養だと思ってくれ。

 行く先は、ルザネアだ」


「あ~、ルザネアかあ~」


「お? 知ってるのか?」


「まあ……実家は運び屋ですしね。

 数回行ったことがありますよ」


 インベントが住むアイレドから、ルザネアへは馬車で三日。

 ず~っと北上し続けた先にある町である。


「そうか、なら話は早いな」


「カイルーンから馬車だと……アイレド経由で六日かな?」


「いや、五日でいけるらしい。

 俺も詳しくは知らんが、朝早くに出発すれば一日短縮できる場所があるってさ」


「へえ~」



 イング王国内は多数の町が点在している。

 王都であるエルダルバーフを中心に、網目状に広がっている。

 地図で見ればわかるが、町と町の距離はほぼ一定間隔である。


 距離が一定なのは、すべて『馬車で一日走れば到着できる距離』だからである。

 なぜなら、イング王国領では野宿ができないからだ。

 野宿すれば暗闇の中でモンスターを相手にしなければならないため、夜間の移動は厳禁なのだ。


 よってイング王国は長い期間をかけて、街道を伸ばし、その先に町を作ってきた。

 イング王国の歴史は、街道と町によって拡大してきた歴史だ。


 拡大することによって得られた恩恵は、平和である。

 実は王都周辺にはモンスターがほとんど発生しない。

 町がつくりあげたネットワークが、人間のテリトリーになったためモンスターが発生しなくなったのではないかと言われている。



 さて、インベントの生まれ育ったアイレドの町は、イング王国の最も南西に位置する。

 現在滞在中のカイルーンの町は、南端に位置する。

 王都とは逆に、モンスターの発生率がもっと高い場所である。 


 だからこそ森林警備隊が力を持っているし、王都からも支援金が出ている。



 ロメロが行こうとしているルザネアは、イング王国の西端に位置する。

 つまりアイレドやカイルーン同様にモンスター発生率が高い場所なはずなのだ。


 だが――ルザネアは異常にモンスター発生率が低い。

 そのため駐屯地も無い。森林警備隊はあるにはあるがモンスター退治よりは町の便利屋のような扱いだ。

 誰が言ったか『神寄かみよりの町ルザネア』。


 ロメロにそそのかれて、インベントからすればま~~ったく面白くない町に行こうとしている。


**


 太陽が昇る少し前。

 豪華な馬車に乗り込むインベントとロメロ。

 

「ま、多少長旅だがゆっくりしようじゃないか」


「また貸し切ったんですか?」


「ハハハ、金ならいくらでもあるからな」


「でもふたりで乗るには広すぎません?」


「いいじゃないか。それにふたりじゃないぞ」


「え?」


「もうすぐ来るはずだ」


 ロメロがそう言った後、一人の女性が乗り込んできた。

 インベントの見知った人物。


「あ、ロゼ!」


「あらインベント。元気になったみたいね」


「ロゼも一緒にモンスターを見に行くの?」


「ん? モンスター? なんのこと?」


「え?」


「え?」


 首を傾げ合うふたり。

 ロメロは慌てて「まあ、ロゼには後で話すよ」と言う。


 ロゼは納得した顔をした。


(はは~ん。()()()()。ですものねえ~!

 色々と秘密事項があるのね。ふふ、ロメロ副隊長の期待に応えてみせますわ!

 まあ……なぜインベントが一緒なのかはよくわかりませんが)



 ロゼはここ数日、ロメロにインベントの状態を逐一報告していた。


 ロメロからは『極秘任務』と言われ、ロゼは舞い上がっている。

 ロゼからすればロメロは尊敬すべき『宵蛇よいばみ』の副隊長。

 よもや自分勝手に行動しているとは思っていないのだ。


 尊敬するロメロの言う通り、インベントの状況を報告した。

 おかげでロメロはインベントが歩けるようになったタイミングで誘いに行くことができた。


 馬車の手配もロゼが行った。

 実は二日前から馬車は借りている。法外な金額で待機させていたのだ。

 

 ロメロの共犯者として素晴らしい働きをしているロゼ。

 よもやロメロが独断で行動しているなんて微塵も疑っていない。


「そろそろ出発しますわよ~」


 ロメロはロゼにできるだけ早く出発するように指示していた。


 日が昇る前にカイルーンの町を脱出する。

 ロメロはほくそ笑んだ。


「クックック……計画通り」


 インベントが「なにか言いました?」と聞くが、ロメロは笑って誤魔化した。


(そろそろジジイが戻ってくるかもしれないと思っていたからな。間に合ってよかった。

 それにデリータめ。ロゼなんていう扱いやすい女を寄こすとは【フェオ】が鈍ってるんじゃないのか?

 ま、これで計画通り。カイルーンの町さえ出てしまえばこっちのものだ)



 三人を乗せた馬車が動き出した。

 豪華な馬車なため、揺れさえも心地よい。


 ロメロは寝ていないためウトウトしだす。

 だが――


 ギギイイィ!!


 馬車が急停止し、驚く一行。



 ロメロは御者越しに急停止の理由を探った。

 そして急停止した理由を把握し、舌打ちをした。


(すべて上手くはいかないか…………アイナめ)


 馬の前には腕組みしているアイナが、不機嫌な顔をして立っているのであった。

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[一言] 有能なボスで草
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