暗躍
「あんれ? 副隊長は?」
カイルーンの町にやってきた一行。
ロメロがいつの間にかいなくなっていることに気づいたのはレイシンガーだ。
それに対しロゼは――
「火急かつ重要な案件があると先程行ってしまいましたわ。五日程度で戻るとのことです」
「んあ? そりゃまた……急だな。ま、いいけど」
「よくないわよ、レイ。
私たちは明日にも本隊に戻る予定よ」
ケアがうんざりした顔で言う。
「あ~そうだったな。
まいったな……今回は副隊長も回収してこいって言われてるのに」
ロゼは手を挙げた。
「あ、ですので私がカイルーンに残り、副隊長が戻り次第、一緒に本隊に合流します。
ロメロ副隊長から、そのように申し付けられていますわ」
誇らしげに言うロゼ。
副隊長に直々に命令されて、鼻高々なのだ。
「あ~そなのか。ま……それでもいいか」
「相変わらず自由ね……ハア」
レイシンガーもケアも若干呆れている。
だがロメロはそういう人物なのだ。
やるときゃ誰よりもやる男。
やらないときはな~んにもしない。逆に邪魔するぐらいの男。
**
インベントは森林警備隊管轄の病院に運ばれ、ケアから指導の下、治療が引き継がれた。
絶対安静ながらもインベントは一命をとりとめた。
その後、アイナとフラウが病室にやってきた。
アイナは激怒していたが、激怒すべき対象のロメロがいない。
怒りのぶつけ場所がわからなくなり、インベントに「このバカベント」と言い放った。
フラウはなんとも言えない顔でインベントを見つめていた。
模擬戦をすることは知っていたが、思った以上に重症なインベントを見ていたたまれない気持ちになった。
兎にも角にもインベントは快方に向かっている。
ケアは胸をなでおろし、伝達事項だけ伝えて病院を後にする。
もう少し看てあげたい気持ちはあるのだが、『宵蛇』は忙しいのだ。
翌日にはケア、レイシンガー、そしてフラウが『宵蛇』に戻ることになった。
フラウとしては急なタイミングだが、ロメロが『宵蛇』に戻る予定なので必然的にこのタイミングである。
つまり、フラウはアイナ隊を離脱することになる。
「アイナ隊長……短い間だったっすけどお世話になったっす!」
カイルーンの町の外。
アイナは手をひらひらと振り「よせやい」という。
「アタシはお飾りの隊長だっての。
隊員の一人は目を覚まさないほどの重症だし、もう一人はトンズラこいてるしな!
ったく! かったるい!」
「な、なんか申し訳ないっす……」
「フラウはな~~んも悪くない。むしろフラウがいてくれなきゃこの隊は成立してなかったぜ。
最初は嫌々隊長やってたけど……てか、逃げ出そうとしてたアタシを殺そうとしてたけどな!」
「そ、それは忘れて欲しいっす」
ロメロが勝手にアイナ隊を発足させたその日。
アイナはカイルーンから逃げ出そうとしていた。
そんな時、フラウはアイナに「逃げたら殺す」と言い放ったのだ。
「キシシ、まあ『宵蛇』で有名になってくれよ。
そしたら『フラウってのはアタシの隊にいたんだぜ~』って自慢すっからよ」
「が、がんばるっす!」
「はは、あんまり長いと寂しくなっちまうな。
そんじゃあまたな! 次にいつ会えるかわかんねえけどさ」
「はい! この御恩は忘れないっす!」
そう言ってフラウはハルバードを掲げながら去っていった。
アイナは手を振りながらフラウを見送った。
そしてフラウが森の中に消えていったのを確認後――
「あとは……あのバカ野郎だけだな」
と呟いた。
**
一方その頃――
「クックック。計画通り!」
カイルーンの町の片隅にロメロはいた。
計画通り、レイシンガーとケアとフラウが町を離れたことを確認しご満悦だ。
そして魔の手は――インベントに迫ろうとしていた。
****
カイルーンに運ばれたインベント。
そのまま眠ること三日。
深夜に突然目覚めるインベント。
(なん……だ?)
違和感を覚えるインベント。
インベントは違和感の正体がわからず、自分の体をまさぐる。
ケアに治癒され、その後も【癒】のルーンを持つ看護師に継続して治癒されている。
肉体的にはある程度回復している。
臓器に対してのダメージは少なかったのも幸いした。
多少の息苦しさはある。そして手足の指先は力が入らない。
だが違和感の正体はそれではないのだ。
(なんか……体に膜が張ってるような感じだな~、なんだろ?
でも……生きてたんだ。俺)
違和感の正体は不明だが、インベントは生きていることに安堵し、再度眠りについた。
**
翌朝――
目覚めたインベントは、やはりよくわからない違和感が晴れていないことを再確認する。
だが言葉にできない違和感だった。
だから担当看護師であるリンナには、「特に異常は無いです」と言った。
リンナはひどく驚いていた。
「痛いところとか、違和感があるところは無いの? 本当に?」
インベントは全身くまなく確認して「あ、指に力が入らないですね」と答えた。
「そ、そう。指はもしかしたら動かなくなるかも……。
なにかしらの後遺症は――」
と言った瞬間に、インベントはグーパーする。
問題なく指も動く。
「す、すごいわね……あなた健康なのね、アハハ」
インベントは「はは」と笑った。
看護師リンナは非常に優秀である。
【癒】のルーンを持ちで、経験も豊富。
そんな彼女から見て、インベントの状態は元に戻れないぐらいの重症だった。
四肢末端はどうやればあんな状態になるのかわからないぐらいボロボロ。
どれだけ【癒】のルーンで回復させたとしても後遺症は必ず残るはずだった。
だがインベントは普通に歩いている。
握力が弱まっているが普通にモノを掴んでいる。
更には「よく寝たからか、調子いいですね」なんて言い出す始末。
リンナは引きつった笑顔でインベントの様子を見ていた。
そして――
(さ~すが『宵蛇』のケア様だっぺ~!
私にはわからなかったけど、なんかすっげえことをしたに違いないっぺ~)
そう結論付けた。
**
その後、アイナとロゼがお見舞いにやってきた。
久しぶりのロゼとの再会なのに、インベントは「あ、ロゼだ」と大して驚かなかった。
思いの外――いや予想以上に元気そうなインベントに、アイナとロゼは喜び半分困惑半分といったところだ。
**
インベントは元気になった。
だが念のため入院は続いている。
怪我が怪我だったので、経過観察といったところだろう。
とは言え数日後には問題なく退院する予定である。
それですべてが元通りになる。
(暇だなあ)
元気なのに外に出られないインベント。
仕方がないので収納空間を弄る。
だが模擬戦で武器や装備の大半を失ってしまった。
スカスカな収納空間。
落ち着かないので、収納空間を使いナイフでジャグリングをするインベント。
腕を使わず、三本のナイフが綺麗に宙を舞う。
(あっれえ~なんか……収納空間の調子が凄い良い。
ん~? こんな感覚……前にもあったなあ。いつだっけ?)
物思いに耽るインベント。
だがやはり思うことはただ一つ。
(……早くモンスター狩りたいなあ~)
元気なのに絶対安静。
そんな状況にフラストレーションを感じているインベント。
窓から見える森林を眺めながら、モンスターのことを考えているその時――
「イ~ンベント」
みんなが寝静まった夜。
怪し~い笑顔のロメロ・バトオが現れた。
おやおや、ロメロさんがお見舞いにきたみたいですよ。
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