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悪巧み

「あ~あ、まさか野宿になるとはな~」


 火の番をしながらぼやくレイシンガー。


 インベントの治療には時間が必要だった。

 カイルーンの町も遠いので、仕方なく野宿をすることに。


 イング王国の森林地帯での野宿。それは自殺行為である。

 よほどの準備をしていない限りは、モンスターに襲ってくれと身を捧げているようなものだからだ。


 だが、このメンツであれば問題ない。


「おい~ちゃんとやってるか~! ロゼ~」


「ちゃんとやっています。話しかけないで」


「へいへい~」


 ロゼは周辺に配備したロープと、触手を連携することで結界を作り出している。

 レイシンガーが考案した、夜営用の結界技術である。


 『宵蛇よいばみ』にはデリータがいるし、【マン】のルーンを持つエンノもいる。

 だが夜営可能なメンツは多ければ多いほうが良い。

 『宵蛇よいばみ』は独自の作戦が多く、夜営をせざるを得ない状況がどうしても発生するからだ。


 まあ、レイシンガーとしては面倒事をロゼに押し付けただけなのだが。



 ロメロは治療を行うケアとインベントの護衛のため、二人の近くで座っている。

 少し不機嫌な顔で、ロゼの様子をぼーっと見ている。

 

 そこにレイシンガーがやってきた。


「――なんだ? レイ」


「ヘヘヘ、怒らないでくださいよ」


 そういってレイシンガーは腰かけた。


「しっかしあれですね~」


「ん?」


「インベントちゃんがそんなに強くなってるとは思いませんでしたわ~」


 ロメロは睨む。


「ヘヘヘ、本音っすよ、本音。

 さっきは面白がっちゃいましたけどね。

 その腹の傷……インベントちゃんがつけたんでしょ?」


「何度もそう言っている」


 レイシンガーは「カカカ」と笑い――


「あんな普通に見える少年が、天下の『陽剣』様に一太刀いれたなんて言われてもにわかには信じられませんて」


「フン」


「あっれえ? でもイング王国最強の副隊長に一撃喰らわせれるってことは……。

 まさかインベントちゃんって世界二位?」


 ロメロは「ハハハ」と笑う。


「そう簡単な話では無いだろう。

 インベントは色々特殊だからな。

 期待値は高いが……穴も多いさ。

 もしも、レイとインベントが真剣に殺しあえばレイが勝つだろう」


「ほお」


「だが三回戦えばどうなるかわからんな。

 あいつはとにかく対策を立てるのが上手い……上手い? ま、そんな感じだ」


「ヘヘ、なるほど。

 もしもインベントちゃんを殺さないといけなくなったら、即殺しないとダメってことっすね」


 ロメロは笑う。


(まあ……レイ相手だとインベントは本気にならないだろうがな……。まあいい)


「しっかし、そんなに強いなら『宵蛇よいばみ』に入れちまえばいいのに」


「俺としては願っても無いがな。

 だがデリータはインベントのことあんまり好きじゃないからな」


「へええ」


「能力的には問題ないだろうが、性格的には難があるからな~インベントは」


 レイシンガーは吹き出して笑う。

 ロメロは「なんだ?」と問う。


「い、いや。能力的には優れてて、性格に難があるって……そりゃロメロ副隊長じゃないっすか」


「な、なにい! 俺のどこに問題があるんだ!」


「自分勝手に部隊から離れちまう副隊長に問題がないと思ってるんすか~? ブハハ」


「ぐぬぬ! もういい! 俺は寝るぞ!」


「へへへ、夜の番はお任せくださいな~」


「ふん!」



 ロメロは横になる。

 横になって考える。


(さすがにそろそろ本隊に戻らないとデリータが怒り出すだろうなあ。

 しかし……インベントと離れるのも面白くない。

 だが『宵蛇よいばみ』に入れるのは……難しいよなあ。

 でもでも~、俺を殺せる可能性が一番高いのはインベントだしなあ。

 ううう~~ん! 悩むなあ……。

 いっそ……『宵蛇よいばみ』辞めちゃう? いや……さすがにそれは……)


 横になりながらジタバタするロメロ。


(大体、クリエさんがいけないんだ。

 『殺される』なんて予言したから、期待しちゃったんだ。もおー!)


 自分勝手な男ロメロ・バトオ。

 だが許されるのは圧倒的な強さゆえ。


 そして、悪知恵も働く男。


(まてよ――ふふふ、ああ~これは妙案だ!)



 おやおや、ロメロさんがなにか思いついたみたいですよ。



****


 インベントは翌朝、レイシンガーが作り出したベットのような形の触手の上で眠りながらカイルーンの町まで運ばれている。

 いまだに意識は戻っていない。


 だが外傷はほぼ無くなった。

 ケアの操る【ギルフェ】のルーンは効果絶大である。


 インベントの顔を覗き込むレイシンガー。


「しっかし……やっぱり死んでるように見えるな」


 治療で疲れているケアはテンション低く答える。


「とりあえず出血部分を閉じただけだから。

 致命的な傷が無いのが幸いだけど、致命的じゃない傷が多すぎるのよね」


「ハハハ、そりゃ大変」


「だからまだ揺らしちゃだめよ。丁重にね」


「うい~っす」



 ケアたちの後方を歩く、ロメロとロゼ。

 同じ『宵蛇よいばみ』だが、ふたりの接点はほとんどない。


 ロゼが『宵蛇よいばみ』に入ったタイミングで、ロメロは『宵蛇よいばみ』を一時離脱したからである。

 挨拶程度しかしていないロゼ。


 だがロゼは少し興奮していた。

 なにせ『陽剣』とお話しできるのだから。

 『陽剣』に自分の存在をアピールできるチャンスなのだから。



「おほほ、今はダルディアの町周辺で任務をこなしていますわ。

 夜営は私が対応してますし、基本的にはモンスターの処理も私がやっていますわ!」


「ほお~。そりゃすごい」


 ここぞとばかりにアピールするロゼだが、ロメロはほとんど話を聞いていない。

 考えているのはどうすれば、自分自身の思い通りに事が進むか? どうすれば悪巧みが成功するか?

 そんなことばかりを考えている。


(とりあえずインベントが回復するのを待たなくてはならんな。

 だが……協力者が必要だな。ハア~どうしたもんかなあ。

 本当はレイをとっ捕まえて連行しちゃえばいいんだが……さすがになあ。

 ……まてよ)


 ロメロはロゼを見る。


「な、なんでしょうか?」


 焦るロゼ。微笑むロメロ。

 ロメロは「なんでもないさ」と言う。


(そうか……この子……なるほど。

 ふふふ……悪く無いな。この子のほうが……扱いやすそうだ)


「なあロゼ」


「はい。なんでしょうか?」


「ちょっと……お願いがある」


「え? な、なんでしょう?」


 ロゼからすればロメロからのお願いなんて願ってもない。

 『宵蛇よいばみ』の副隊長、『陽剣のロメロ』からのお願い。

 恩を売れるならいくらでも売りたいのだ。


 ロゼは向上心と野心が強いため、偉い人に弱い。

 そしてロメロが大衆が持つイメージ通り、聖人君子のような男だと思っている。

 悪巧みするような男だとは思っていない。


「ふふん。なあに簡単なことだ、それはなあ――――」




 こうしてロゼはロメロの悪巧みに巻き込まれていく。

 結果的に――彼女の人生を大きく変える悪巧みに。



 そして――――


 カイルーンの町に到着した時、ロメロの姿はそこに無かった。

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