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死闘の後

七章終わりです。

 模擬戦……命を懸けるレベルの戦いを模擬戦と呼称してよいのかは甚だ疑問であるが、模擬戦が終わった。


 ふたりのお馬鹿さんが力の限り暴れまくり、周辺は嵐の後のように荒れている。

 森の神がいるのであれば天罰確定。そんな模擬戦が終わったのだ。


 インベントは死んだように眠っている。

 いや、このままでは死ぬかもしなれない状況だ。


 身体中のいたるところに打撲や裂傷。

 その大半が自分自身で、反発制御リジェクションコントロールを使う際に与えた自傷行為が原因である。

 更に、グラビティ装備を付けた状態での高速移動は関節部分に大きく負担をかけ、靭帯損傷も激しい。


 更に更に、一番深刻なのは四肢末端である。

 ただでさえボロボロの状態から、『漢自爆――鬼刃突き』を使ったのが決定的だった。

 身体の負担を考慮せず限界を無視した速さは、足首から爪先にかけて強烈な負担をかけた。


 そして速ければ速いほど、威力は増すが自分自身にも負担は大きい。

 槍を持っていた掌の皮膚は大半が剥がれ、指という指はあらぬ方向に曲がり、爪は剥がれている。



 ロメロもロメロで中々の重症だ。


 事切れたと思ったインベントが、最後の最後に予想外の攻撃。

 見事……いや、なんとかギリギリ、ロメロに攻撃が届いた。


 槍が太陽の盾に溶かされ、柄の部分だけになった棒。

 棒が、ロメロの腹に届き、肉をえぐり、筋肉を突き破り、臓器に届く一歩手前まで到達した。


「ぐ、ぐおお、こ、これは痛い……は、ははは」


 鋭利な武器で斬られるならまだしも、鈍らで腹を抉られる経験は初のロメロ。

 というよりも、何年も傷らしい傷を負ってこなかったロメロ。


 幽結界を覚えた頃から、ほとんどの攻撃はロメロに到達しなくなった。

 そして肉体に到達しかけた攻撃も幽壁で弾ける。


「あ~痛いなあ。くそ……」


 激痛に顔を歪ませるロメロだが、その顔は晴れやかだ。


 重症。それは死に近い怪我である。

 重症が嬉しいのだ。


「くふふ。このままここに居続ければ……死ねるかな?」


 楽しく戦えた後に、そのまま死んでいく未来。

 今いる場所はカイルーンの町からかなり離れている。

 帰ることも叶わず、森の中で朽ちていく二人。


 ロメロはそんな展開も悪くないと思いつつも、そうならない未来が訪れることを確信していた。


 ちらとインベントを見るロメロ。


「死んだように眠りやがって。

 俺は攻撃をほとんど当ててないのに、ボロボロじゃないか。

 俺より重症。まったく……面白い」


 ロメロは青い空を見上げながら――木を斬り倒しまくったせいで妙に広い空を見上げながら――


「はあ~あ、アイナには怒られそうだなあ。

 それにジジイもカンカンに怒りそうだ。

 あ~生きてるってのは、どーしてこう面倒が多いかな」


 ロメロはぼやく。そして最後に――


「死ねるかもって思ったんだけどな。

 ったく……いつまで待たなきゃいけないんだよ。

 クリエさんも酷いもんだ」


 そう言いつつロメロは上体を起こした。

 溢れ出る血液を応急処置しつつ、とある方向を睨みつける。


 そして舌打ちするロメロ。


「無粋だな」


 ロメロの視線の先には、一匹の生物がいた。

 黒く、大きい、狼。ウルフタイプモンスター。

 だが、足を一本欠損している。


 モンスターの足を斬り落としたのは――ロメロである。

 ロメロは覚えていないが、ロメロウォーキング中に遭遇したモンスターであった。


「恨みでも晴らしにきたのか?」


 ロメロを睨みつけるモンスター。


「ハハハ。戦いが終わったのを見計らってノコノコ現れたわけだ。

 みっともない。足を失ったのは己の弱さのせいだろうが」


 足を失ったのは――ふらふら散歩していたロメロさんのせいである。

 テリトリーにずかずか入ってきたので襲い掛かったら、返り討ちにされた可哀そうなモンスター。


「――かかってくるのか?」


 睨みつけるロメロ。


 モンスターはロメロの瞳にたじろいだ。一度負けている相手である。

 だがモンスターも引くに引けない。

 睨み合いが続いた。



 そしてロメロは溜息を吐いた。


「あ~あ。やっぱりつまらん。

 こんな手負いの俺に対して、一歩踏み込む勇気もないのか。

 さっさと死んでしまえ。愚かな犬っころが」


 モンスターはロメロの言葉を理解できずとも、罵倒されていることは理解する。


 勇気を振り絞り――モンスターは飛びかかる!

 頑張れ! モンスター!



 バチーン!


 三本足のモンスターは飛び上がった瞬間、大きく吹き飛ばされた。

 クルクルと宙を舞いながらモンスターは飛んでいく。

 周囲の木々は斬り倒されているため、遠くまで飛んでいく。


「あ~あ~あ~、飛んだ飛んだ」


 ガラの悪そうな声の男がロメロに向かって歩いてくる。


「しっかしまあ~、派手にやりましたね~副隊長~。

 大型モンスターでも殺したんですか~?」


 ロメロは腹の傷に響かないように、微笑む。


「なんだ。お前も来たのか。レイ」


 『宵蛇よいばみ』隊員。

 ロゼと同じ孤児院出身の神童、レイシンガー・サグラメント。

 レイシンガーがモンスターをぶっ飛ばしたのだ。


 二つ名『妖狐』と呼ばれるレイシンガーのルーンは【束縛ニイド】。

 一本の巨大な触手を乱暴に振るい、モンスターはバイ〇ンマンのように飛んでいった。


「『なんだ』はねえでしょう。俺はケアの護衛で一緒に来たんですから」


 ケア・ルーガ。

 『宵蛇よいばみ』隊員で、【ギルフェ】のルーン。

 レイシンガーの後ろから少し遅れてやってきた。


「ケアに護衛なんて必要ないだろう。ケアは十分強いしな」


「いやいや……俺みたいな輩ならまだしも、『宵蛇よいばみ』にとって重要なケアをひとりフラフラさせられんでしょうが」


「ははは、ま……そりゃそうだな」


 レイシンガーは不思議に思う。

 ロメロがいつもより元気がないからだ。

 そして気付く――


「あれ? ……副隊長」


 レイシンガーがロメロの怪我を指摘する前に――


「ふ、副隊長!? どうしたんですか! 怪我!?」


 ケアがレイシンガーを押しのけてロメロに近づく。


「ハハハ。ちょっとな」


「す、すぐ治します!」


「い、いや、俺より先にインベントを治してやってくれ」


 ケアとレイシンガーは、ロメロが指差したインベントを見る。

 もちろん、ケアとレイシンガーは少年が転がっていることには気づいていた。

 気付いていたが――死体だと思っていた。


 レイシンガーは「死んでますよね? それ」と言う。

 ケアは「え!? し、死人は治せない!」と言う。


「い、いや……生きてるぞ。

 あれ? 生きてるよな? うん……多分生きてるぞ」


 ケアは混乱した。


 死人にしか見えないインベントと、『宵蛇よいばみ』の重要人物のロメロ。

 どちらの回復を優先するかと言われればロメロである。

 だがロメロはインベントを先に治すように言う。


 ロメロが説明すればいいのだが、そんな元気は無い。


 そんな中、さらに混乱を招く人物が現れた。


「まったく……レイ兄さんは仕事が雑なんですから」


 レイシンガーがぶっ飛ばしたバイ〇ンマンを、きっちり絞め殺してきた女。

 後始末を終えて、合流した三人目。


「まったくもう」


 『宵蛇よいばみ』のニューフェイス。

 ロゼ・サグラメントが現れた。


 そして――見る。


 なぜか地面に座っているロメロ。

 ロメロと死体の間でオロオロしているケア。

 死体の顔をジロジロ見ているレイシンガー。


 ロゼはその死体に見覚えがあった。


(あ、あの頭髪……背格好は――!?)


 駆け寄るロゼ。


 そして顔を見た。


「い、いやですわ!! い、インベントが、死んでますわー!!」



 騒がしくなったことに嫌気がさしたロメロは溜息を吐きながら横たわった。


「――回復は任せたぞ。ケア。ちょっと寝る」


「え!? ふ、副隊長!?」


 説明がめんどくさいのでふて寝するロメロ。


 兎にも角にも模擬戦は終わったのだ。


 もちろん――インベントは死んでません。

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新しようと思ってるんですが、書き直ししてるとちょっと間に合わなかったりしてます( ;∀;)

書く時間は減らす気は無いんですが……いやはや困った困った。


継続的に書いていきますので、是非ブックマークと評価をお願いします!

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感想返信できてなくて申し訳ないです~!

誤字脱字報告ありがとうございます~!


次は八章です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これからは幼馴染系メインヒロインの器ちゃんと会話できるのかそれが気になる [一言] 世界最強に一撃を加えたインベント、これは俺TUEEEEの始まりかも……いやないな
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